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ブッシュの8年

2009-01-15 23:45:16 | 国際・政治

いよいよオバマ新大統領の就任式が来週に迫った。既にブッシュ現大統領は過去形で語られるようになった。ブッシュの8年は、今後歴史家に限らず多くの分野で、転換点として引用されることの多い時代と見做されるであろう。

私個人としても、ウォーターゲート事件の最中のニクソン大統領時代以来、ブッシュは最も注目して見続けた米国大統領だった。ニクソン時代は30年以上経っても強く印象に残り、私自身そこから教わったことは、米国のメディアの事実を追求する健全な精神を感じたことだ。その精神に基づくロジックはその後米国で仕事をする時、ビジネスの世界でも私を助けてくれた。メインストリームに、良貨が悪貨を駆逐する健全さが力強く脈打っていた。

後世の歴史家はブッシュの時代を二つの点で特徴付けるだろう。

一つは9.11からアフガン・イラク戦争までのテロとの戦いであり、今後も文明の衝突、冷戦後の世界から新たなパラダイムへの移行期の摩擦、米国一極主義・超大国米国の没落の始まりなどの文脈で語られることになるだろう。

二つ目がサブプライムから始まりリーマンショックが引鉄を引いた世界同時不況であり、市場経済の失敗と政府の失敗、グローバリゼーションの光と影、金融資本主義経済と実体経済の乖離、世界的規模での格差の拡大などの文脈で語られるだろう。

現実に目覚めたクリーンなタカを期待したが

ブッシュ大統領が誕生した時、クリーンなタカ派が徐々に現実に目覚め、偉大な業績を残す大統領になる可能性があると私は期待した。だが、2期目の初め頃まで良く意見交換した米国の友人達は、シニカルで全く期待していなかった。私はその後も期待していたが、ブッシュ大統領は最後までリアリストではなかった。私の見る目が無かったということだ。

ブッシュ大統領自身が事実を無視し、或いは捻じ曲げて戦争を始め、経済政策を誤ったとは言い切れないだろう。しかし、彼の醸し出す何かが結果として側近を含めた政権全体の振る舞いを決定付けたとは言えるだろうと思う。

ニクソン元大統領がウォーターゲート事件の泥沼に入り、それを隠蔽しようとして却って政権を窮地に追い詰めることになった。彼が直接手を下さずとも彼の言外の意思を感じた周りのものが違法行為をやらせた、正に不徳の致す所であった。ブッシュ大統領はニクソンと並び称される最悪の大統領と酷評されることになるだろう。

「信じる人」だったブッシュ大統領

イラク戦争は、ラムズフェルドやチェイニーが推したのは明らかだが、ブッシュ大統領その人が強力にプッシュしたという記事を読んだことがある。その時のブッシュはネオコンでも好戦的タカ派というわけではなく、「信じる人(ビリーバー)」だったという説が状況を良く説明していると私は思う。

彼は最後まで現実主義者になれず、現実を見て政治判断することが出来なかった。民主主義や自由経済という信仰に基づく厳格な原理主義者であったように感じる。「信仰が強くて目の前で起こっていることが見えなくなる者」はリーダーになってはいけなかった。

起こったこと全てが、ブッシュの責任ではない

やり方を間違い、世界を誤らせた言訳にはならないが、9.11をきっかけにブッシュ大統領が無理押ししたイラク戦争がなくとも、イスラム原理主義が地域紛争から規模を広げグローバルテロに拡大していくのは時間の問題だった。それが米国だけの責任でもない。

9.11は冷戦時代に種が蒔かれ、クリントン時代にその土壌が出来上がった。市場経済も同様に、ブッシュ大統領が発明した訳でもない。だが、ブッシュでなければ、こんなことにはならなかった、という思いがあるのは間違いない。

昨年、田原総一郎氏が日本のメディアとして初めてブッシュ大統領をインタビューしたテレビ番組を見た。驚いたことに毒舌で鳴らす田原氏が「ブッシュは個人的には気さくで飾ることなくとても良いやつだ。会った人は誰でも好きになる。」と述べた。そうかもしれないが、米国のメディアはそれほど甘くない。そこで終らない。

結局、最後まで現実主義者になれなかった

そのブッシュがテロとの戦いでは極めて好戦的と取られるような政治決定をした。又、リーマン破綻の決定による金融不安が世界を震撼させた上に、GMを破綻の瀬戸際に追い詰め世界株式市場を2段底に暴落させるまで支援を躊躇した。

目の前に起こっていることを理解して対応するのではなく、自らが信じる原理原則に引っ張られて政策決定しようとした。最後には側近から大恐慌の引き金を引いた大統領といわれたいのかと迫られ判断した。しかし時機を失した決定は、著しく効果を減じた。

ブッシュ大統領最大の貢献と今後

私風の皮肉で天邪鬼な言い方で記事を終りたい。ブッシュ大統領の最大の成果はその酷さゆえに、平時では考えられなかった黒人初の、かつてなく世界中から望まれた、偉大な大統領になる(かもしれない)オバマ大統領の誕生に決定的な役割を果たしたことだ。

そのオバマ新大統領に不安があるとすれば、それは彼が現実主義者ではなく、「超現実主義者」かもしれないことだ。既に彼はリベラリストから現実主義に転換した。彼を大統領にするために貢献した人々は新政権のスタッフに殆ど採用されず、熱く語られた政策と矛盾すると思われる人材が登用されたのは、もしかしたらその最初の兆しかもしれない。■

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