事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「相棒-劇場版-」('08 テレビ朝日=東映)

2008-05-06 | 邦画

「おれ、『土曜ワイド劇場』が好きでさ。」
「はぁ?なんでまた」
同級生と東京で飲んでいるとき、高校時代常に成績がトップだったその男は恥ずかしそうにカミングアウトした。なんであんな予定調和な、わかりやすいドラマが好きなんだ。わたしは本当に不思議だった。実はアタマ悪かったんじゃないかお前?

GWのまっただなか、土曜ワイド劇場で放映が開始された「相棒」の劇場版を満員のシネコンで観て認識をあらためた。なめてて悪かった。面白いじゃないの(* ̄▽ ̄*)/
「でしょ?面白いんだよ『相棒』は。」いっしょに観た息子は前からファンだったのだ。

もちろんテレビ朝日~東映(この二社は系列関係にある)制作のドラマらしく、分かりやすすぎるし、浪花節なストーリーであることは確かだ。片桐竜次をはじめとした東映やくざ映画そのまんまの演技も(今となっては)ちとしんどい。鈴木砂羽と高樹沙耶のレギュラー女優陣が、よく考えたらマラソンのスタート地点でしかドラマにからんでいないなどの欠点はある。

でもとにかくミステリとしてよく出来ている。チェス盤と犯行現場をシンクロさせるやり方は映像でしかできない技だし、テロの対象が3万人のマラソンランナーたちなのも、動機からいって納得できる。

そう。この作品における最大の美点は、犯人の動機だ。かつてわたしも特集したことがある某事件がモデルになっていて、だからこそ不特定多数が標的にならざるをえなかったのである。この動機なら何人殺してもオレは納得するぞ。あの当時“彼ら”を非難した大多数の日本人は、犯人の涙に何を感じとっただろう。

苦いエンディングのあと、画面はヘリ撮影で東京上空から警視庁に移動する。桜田門を俯瞰するカメラは、同時に皇居も画面におさめるのだ。これは意図的なものだろう。真に標的となったのは、桜田門や皇居が象徴する「日本」および「日本人」なのだから。

日本テレビのイメージが強かった水谷豊(「傷だらけの天使」「熱中時代」……デビューはフジの「バンパイヤ」だけど)が、こってり味のテレビ朝日で健闘しているのはうれしい。他にも西田敏行(息子は彼の演技に感動していた)や、忘れっぽい官僚(これも日本の暗喩だ)を軽く演じる岸部一徳など、非東映的俳優陣が作品を締めた。もちろん、東映生みの親であるマキノ家の津川雅彦もまた、いい味を出してます。必見。

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「野村ノート」野村克也著 小学館刊

2008-05-06 | スポーツ

Nomuranote  こういう分析を、わたしは待っていたのだ。

走者一、三塁で打者が下位打線。ダメ押し点がほしい場面でのギャンブルダブルスティール(※これは野村が命名したものだと彼は強調している。本来一、三塁での重盗では、一塁走者はおとりである。まず捕手に二塁へ投げさせることから始まるのだが、セオリーは捕手の送球が投手の頭上を越え、「投手が捕らない」「高い」と判断したら三塁走者がスタートする。ただこれでは二塁ベースカバーに入った二塁手、遊撃手から本塁に転送され、9割方アウトとなる。そこで私は三塁走者に、送球が投手の頭上を越えたときではなく、捕手の手からボールが離れた瞬間にスタートを切りなさいと指示した。もし投手が送球をカットし本塁に送球してしまえば、三塁走者は刺されてしまう。だからギャンブルなのである。この場合、捕手が二塁へ送球するかしないかの「読み」が重要で、もっとよいのは捕手の出すサインの解読ができればいうことなしである。
       
……さらに、野村は続ける。

 もう少し厳密にいえば、三塁走者は通常三塁線の外でリードをとっているのだが、捕手が捕ったと同時にラインの内側へ入る。外側にいると三塁手との位置関係で、捕手が横目で三塁走者を見たとき、走者がどれぐらいリードしているかわかってしまう。「あっ、ホームに突っこんでくるな」と捕手に悟られる可能性があるが、内側に入って三塁手と重なることで距離感がなくなるのだ。

……おーみごとだ。これだけ緻密なことを野村克也はやっていたのか。こりゃー阪神には合わなかったわけだな(^o^)。豪速球をもっているわけでもない巨人の上原を「球界一のエース」と評価するのはなぜか、元木大介が「くせ者」として野村を徹底的に考え込ませた事情など、プロ野球を深く味わうには必須の一冊。

 しかし、だ。“照れ”とか“謙遜”などというものを初手から持ち合わせていない野村の評価軸は、やはりどこかずれている。この本の中でも「自分を崇拝しないタイプ」には徹底して厳しい。清原、井川、石井一……彼らへの悪罵は、単なる因業オヤジの繰り言にしかわたしには聞こえない。自分にとって最高の生徒であり、最高の作品であるはずの古田が「年賀状も寄こさない」と嘆くあたりは、正直なじいさんだよなあと苦笑。はたしてこの臭味に、東北の楽天ファンは耐えきれるだろうか。ちょっと心配。

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「THE 有頂天ホテル」('05 東宝=フジテレビ)

2008-05-06 | 邦画

大ヒット。

三谷幸喜が監督した映画は今までに2本。「ラヂオの時間」と「みんなのいえ」。「ラヂオ~」は放送業界の内幕を笑い飛ばして快調だったけれど、2作目は空回り。他にも脚本が映画化された「12人の優しい日本人」「笑の大学」などがある。共通していたのは“大コケしたわけでもないが、たいしたヒットでもない”ことだった。このあたり、「古畑任三郎」(まもなく特集します)以外は視聴率的に苦戦しているテレビと同じ傾向。

それがなぜここまでの大ヒットになったか。おそらく(06年)正月の「古畑任三郎ファイナル」三夜連続オンエアが効いたことと、脚本家や映画監督としてより記者会見でのコメンテーターとしての才能の方がはるかに大きい(笑)三谷が八面六臂で露出しまくったことによるのだろう。今回も彼はかましまくったのでちょっと紹介。

「郵政民営化法案も廃案になり、政局も混迷を極める中……現場はつつがなく進んでいます。唯一のアクシデントと言えば、リハーサル中に麻生久美子さんのスカートが落ちたくらいです。」

「(お正月映画でライバル視しているものは?)嫌なことを思い出させてくれましたね。すっかり忘れてましたが、取りあえずは『SAYURI』かな?」
→となりにはもちろん役所広司がすわっている。

「なんでこんなに集まってくださったんだろうと思うと…僕の人望だろうな。僕に感謝したい」

結果的に劇場に多数の観客が訪れたことは、この映画にとって本当にしあわせなことだったと思う。だって、たくさんの客がいることでなお面白い映画だったからだ。かつて、故郷に帰れずにいる都市生活者たちが「男はつらいよ」でつかの間の帰省気分を味わったように、お正月の映画館には喜劇がよく似合う。そしてこの映画は、あたたかい気持ちで劇場を出たいという観客の期待にみごとにこたえている。最後の長回しだけでも観る価値あり。エンドタイトルが終わったとき、後ろにすわった中年女性は「どうしてみんな拍手しないのかしら」とつぶやいていた。賛成。

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「物のかたちのバラッド」片岡義男

2008-05-06 | 本と雑誌

1923461638_2   バイリンガルであるがゆえに日本語の現状を激しく憂う片岡が「日本人が美しい言葉づかいをしている日本」という虚構を創り上げている作品。現代日本への痛烈な皮肉であることは「影の外にでる」以上かもしれない。

同時に、美人しか登場しないいびつなポルノ小説でもある。だいたいポルノとして機能しているかも疑問。「挿入」だの「抜去」だの「処女膜」なんて言葉がゴロリと投げ出されている。これはこれで趣深いけどね。「東京青年」同様、セックスにもたしなみがあった時代への憧憬と言えるかもしれない。

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「ふたり道三(一)~(四)」宮本昌孝著 新潮社刊

2008-05-06 | 本と雑誌

10121251 時代小説の書き手は有力新人が続々登場している。そのなかでは(もう中堅だけれど)宮本がわたしのごひいき。デビューがジュブナイルだけに、ちょいとほのぼのした“おとぎ話としての時代小説”がこの人の持ち味……だったはずなのにその宮本が渾身の力を込めて放ったのが「ふたり道三」。意外な展開です。

斎藤道三の過去を思い切って脚色(といっても道三は初手から謎の多い人物なのでやりたい放題)。綿密な政治小説でもある。司馬遼太郎の「国盗り物語」と続けて読むと面白いかも。

わたしは道三といえば、その大河ドラマ「国盗り物語」において平幹二朗が油売りをやりながら(「とぉとぉたぁらり・とぉたらり」こんな掛け声だったかな)、しかしその実やっているのは女をたらすことばっかりなので、視聴者から苦情が殺到したのをおぼえている。だから、この主人公がどうひんまがるとあの女たらしになるのかなーと思いながら読んでいました。

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「戦力外ポーク」「直感サバンナ」「板谷バカ三代」ゲッツ板谷

2008-05-06 | 本と雑誌

4576006150 もしもあなたが何らかの理由できつい思いをしているのなら(わたしはこの当時とてつもなくしんどかった)、ゲッツ板谷の諸作をおすすめします。とにかく笑える。ひたすら笑える。悩みなんか飛んでいく(読んでいる間だけはね)。西原理恵子とのコンビネーションも抜群。

でぶで無職でヤンキーでも、とりあえず様々な経験をしていると(ついでにとんでもない家族をもっていると)印税で食っていけるんだなあ。
            ま、もちろん筆力ってこってす☆☆☆☆

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声優俳優~コープスブライド

2008-05-06 | アニメ・コミック・ゲーム

Corpsebride こんな意見が。

Mail01j 娘は「ナイトメア・ビフォー・クリスマス」のほうがよかったと言っていましたが、私はこっちのほうがよかったと思います。感動的だったし、何より、ビクターはジョニー・デップそのものですよね。ジョニー・デップが演技しているような錯覚に陥ったのは私だけですか?声だけなのに、恐るべし、ですね。でも、娘にすればそういう観方はしてほしくない、純粋にアニメーションとして観るべきだ、とのこと。よくわからないけど、とにかく満足して帰ってきました。

……母と娘、どちらの意見もわたしにはよくわかる。オタッキーなアニメファンでなくとも、主人公のキャラの向こうにデップの魅力を“加味”するのは一種の邪道ではないか、と思う人は娘だけではないはず。でも映画ファンとしては「それもまた映画だ」と開き直ってしまおう。

 逆のことを考えてみればいいと思う。声優として著名なタレントを起用するのは、話題作りの意味もあって日本でもよくあること。そして、それはなかなか成功していないのだ。宮崎駿はプロパーな声優の起用を嫌い、すでに完成された俳優を使うことで知られている。その理由には諸説あるようだが、ちょっと俳優ごとに成績表をつけてみよう。

初井言栄(天空の城ラピュタ)☆☆☆☆★
夏木マリ(千と千尋の神隠し)☆☆☆☆
石田ゆり子(もののけ姫)☆☆☆★★★
松田洋司(風の谷のナウシカ)☆☆☆★★★
寺田農(天空の城ラピュタ)☆☆☆★★★
森繁久彌(もののけ姫)☆☆☆★★★
北林谷栄(となりのトトロ)☆☆☆★★★
木村拓哉(ハウルの動く城)☆☆☆★★
糸井重里(となりのトトロ)☆☆☆★★
倍賞千恵子(ハウルの動く城)☆☆☆
美輪明宏(ハウルの動く城)☆☆★★★
美輪明宏(もののけ姫)☆☆☆★★★
田中裕子(もののけ姫)☆☆☆★★
菅原文太(千と千尋の神隠し)☆☆★★
加藤登紀子(紅の豚)☆☆
森光子(もののけ姫)★

……異論がおありだろうと思います(笑)。世評高い倍賞千恵子や菅原文太が低すぎるとお怒りの方も多いはず。でもわたしはこう思ったのだ。確かに彼らは達者だったけれど、その“キャラ自身”にはなりえていなかったと。宮崎アニメ声優陣のなかで最高峰だとわたしが思っているのは、まったく無色の存在だった神木(マルクル)隆之介だが、それと同じくらいのレベルで初井言栄を評価するのは、彼女の演技こそが文句なく女海賊ドーラの性格を形づくっていたからだ。

Depp  初井とまったく同じ意味で今回のデップはすごいと思う。やっぱり天才。まあ、もっとすごいのは、昼は「チャーリーとチョコレート工場」、夜は「コープスブライド」と、二作品をまったく同時期に撮ろうなんて考えたティム・バートンの狂気の方だが。

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「顔」「看守眼」そして再読「半落ち」横山秀夫著

2008-05-06 | ミステリ

Kannshugan 相変わらず書いてます横山。「半落ち」は、例の林真理子発言について文庫になってどんな解説が載っているかと興味津々だったのに、あとがきも何もなし。講談社としても彼女にケンカを売るようなマネはできなかったか。

映画との最大の差は、主人公が妻を絞め殺す場面をどう省略するかだろう。映画の場合はそのことが欠点になるわけだが、小説はまったく気づかせない。メディアの違いという以上に、映画は原作をいじくりすぎたんだと思う。「」「看守眼」は作為が目立って目立って。名探偵がまったく評価されないあたり、苦くていいけれど。

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「キングコング」King Kong ('05)

2008-05-06 | 洋画

この映画で何が意外だったか。“”と呼ばれるこの巨猿、体長はわずか7㍍しかないのである。いや、もちろん巨大であることは間違いないけれど、そんなにちっちゃかったのかぁ、という印象。

この誤解の根本には日本製ジャンク映画「キングコング対ゴジラ」(’62)の刷り込みがあったのだと思う。50㍍はあろうかという怪獣と闘わせるために、東宝はほぼ同程度の大きさをコングに与えたので。しかしそれ以上にわたしの頭にあったのは、76年版のコング(失われた世界貿易センタービルが舞台だった)が、手のひらにのせたジェシカ・ラングの濡れた身体に息を吹きかけて乾かしてやる(笑)というエッチな場面があったからかも。

今回のリメイクも、エッチ度はかなり高い。コマ撮りやぬいぐるみだった今までと違い、モーションキャプチャー(ぬいぐるみCGと思っていただければ)のおかげでかなりリアルな「美女と野獣」の物語が達成できている。恐竜とのチェイスシーンの迫力もすごい。ラストは「タイタニック」そのまんまだが、こっちの方が素直に泣けたと告白しておきます。はっきり言ってディカプリオよりは感情移入しやすいぞ。

しかしどうも読者の間でも評判が良くないようだし、興行収入もいまひとつなので擁護させてもらおう。多くの人が指摘する「髑髏島(スカルアイランド)に着くまでが長すぎる」点だが、ここまでがいいんだけどなあ。愛と狂躁のアメリカンジャズエイジを、ニュージーランド人のピーター・ジャクソン監督がここまできっちり描いたことをむしろ評価してくれなくちゃ。ボードビルショーの合間に、不況の世相のカットをちりばめるオープニングなど、わくわくする。

Main 今回のスクリーミングアクトレス(絶叫女優)ナオミ・ワッツは大健闘。この人が美人かどうかは意見の分かれるところだろうが(わたしは好みだけどね)、「マルホランド・ドライブ」のときの邪悪な表情を考えると、間口の広い女優だなあと感服。でも、トリオを組んだエイドリアン・ブロディ(素敵!)とジャック・ブラック(やっぱり適役!)のなかで、実は彼女がいちばん年上(38才)。猿と恋愛してる場合か。

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「真夜中へもう一歩」「リンゴォ・キッドの休日」矢作俊彦著

2008-05-06 | ミステリ

Ringokid 「The Wrong Good-bye」で19年ぶりに復活した矢作俊彦の二村永爾シリーズ。リフォームのために本棚を整理していたら第一作がちゃんとありましたーっ!ほんとうに久しぶりに耽溺。昔読んだときもそう思ったけれど、矢作の描く横浜や横須賀って、やっぱり日本じゃない(笑)。

もちろん「マンハッタン・オプ」におけるニューヨークもまた、現実のものではないのだけれど。

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