「おれ、『土曜ワイド劇場』が好きでさ。」
「はぁ?なんでまた」
同級生と東京で飲んでいるとき、高校時代常に成績がトップだったその男は恥ずかしそうにカミングアウトした。なんであんな予定調和な、わかりやすいドラマが好きなんだ。わたしは本当に不思議だった。実はアタマ悪かったんじゃないかお前?
GWのまっただなか、土曜ワイド劇場で放映が開始された「相棒」の劇場版を満員のシネコンで観て認識をあらためた。なめてて悪かった。面白いじゃないの(* ̄▽ ̄*)/
「でしょ?面白いんだよ『相棒』は。」いっしょに観た息子は前からファンだったのだ。
もちろんテレビ朝日~東映(この二社は系列関係にある)制作のドラマらしく、分かりやすすぎるし、浪花節なストーリーであることは確かだ。片桐竜次をはじめとした東映やくざ映画そのまんまの演技も(今となっては)ちとしんどい。鈴木砂羽と高樹沙耶のレギュラー女優陣が、よく考えたらマラソンのスタート地点でしかドラマにからんでいないなどの欠点はある。
でもとにかくミステリとしてよく出来ている。チェス盤と犯行現場をシンクロさせるやり方は映像でしかできない技だし、テロの対象が3万人のマラソンランナーたちなのも、動機からいって納得できる。
そう。この作品における最大の美点は、犯人の動機だ。かつてわたしも特集したことがある某事件がモデルになっていて、だからこそ不特定多数が標的にならざるをえなかったのである。この動機なら何人殺してもオレは納得するぞ。あの当時“彼ら”を非難した大多数の日本人は、犯人の涙に何を感じとっただろう。
苦いエンディングのあと、画面はヘリ撮影で東京上空から警視庁に移動する。桜田門を俯瞰するカメラは、同時に皇居も画面におさめるのだ。これは意図的なものだろう。真に標的となったのは、桜田門や皇居が象徴する「日本」および「日本人」なのだから。
日本テレビのイメージが強かった水谷豊(「傷だらけの天使」「熱中時代」……デビューはフジの「バンパイヤ」だけど)が、こってり味のテレビ朝日で健闘しているのはうれしい。他にも西田敏行(息子は彼の演技に感動していた)や、忘れっぽい官僚(これも日本の暗喩だ)を軽く演じる岸部一徳など、非東映的俳優陣が作品を締めた。もちろん、東映生みの親であるマキノ家の津川雅彦もまた、いい味を出してます。必見。