事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「隠し砦の三悪人」('08 東宝)樋口真嗣監督 松本潤主演

2008-05-24 | 邦画

 世にお姫さま女優ということばがある。文句なく美人で、所属する映画会社に愛され続ける人たちしか受けることができない称号。しかし演技力に難がある(笑)という共通点もある。高田美和とか、丘さとみとか。若い読者は知らないですか。そうですか。

 東宝という会社は、いまは若い観客向けに恋愛映画を連発しているが、構えの大きな作品が多かったので、専属女優は添えもの扱いの傾向にあった。で、彼女たちはおおむね(山口百恵をのぞいて)セックスを感じさせないのだ。近年でいえば沢口靖子や古手川祐子、昔なら司葉子とか星由里子とかね。黒澤明が大映で京マチ子を使って「羅生門」を撮り、古巣の東宝でも彼女を切望したのにかなえられなかった事例は、東宝に京マチ子のような妖艶な女優に枯渇していたことを物語っている。

 オリジナル「隠し砦の三悪人」(黒澤明監督)のお姫さま、上原美佐はその典型のような女優だった。それはもうびっくりするような美貌と、デビュー作(まだ短大生だった)なものだからセリフは棒読み。黒澤が女優を描くのが苦手なこともあってセクシーさはかけらもなかった。でも自分の才能に見切りをつけてさっさと引退してしまったのは残念だったなあ(ってリアルタイムでは知らないわけですけど)。

 さて、リメイク版の長澤まさみはどうだろう。「世界の中心で、愛をさけぶ」を見ていないのでうかつなことは言えないけれど、彼女を絶世の美女だと思う人はまずいないと思う。巨乳であることは確かだが、セクシーかどうかも微妙。でも、観客自身に「この子は美しいんだ」と誤解させたくなるような雰囲気があるので、女優としてのはあるんだと思う。東宝が掌中の玉として大事にするわけだ。

 さて、「椿三十郎」につづいて黒澤明の名作をリメイクした第二弾。「椿~」のときも感じたけれど、オリジナルを見ていない人はつくづく幸せだと思う。徹底的に練りあげられた脚本と豪快な殺陣。「裏切り御免!」という名セリフ(クレヨンしんちゃんでも引用されていましたね)に代表される後味のよさ。あれをこれから楽しむことができるのだから。今回はあの名作をかなりひねってつくってあり、それはそれで成功している。戦国時代にそんな民主国家と某独裁国家の激突がありえたのか、とつっこまれることは承知のファンタジー。「スター・ウォーズ」のC-3POとR2-D2コンビがオリジナルの藤原釜足と千秋実をモデルにしたのは有名。その返歌として、リメイクでは椎名桔平が某キャラをモデルに気持ちよさそうに演じています。

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「笛吹川」('60 松竹) 木下恵介監督 高峰秀子 田村高廣主演

2008-05-24 | 邦画

俳優の田村高廣さんが死去2006年05月18日09時26分

Takahiroportrait「兵隊やくざ」「泥の河」などの映画や、テレビ、舞台で渋く知的な演技をみせた俳優の田村高廣(たむら・たかひろ)さんが16日、脳こうそくのため都内の病院で死去した。77歳だった。葬儀は親族などで済ませた。「お別れの会」は未定。
時代劇スター阪東妻三郎の長男として生まれる。同志社大卒業後、商社に勤めたが、53年に父が急逝、周囲に推され映画界に転身した。54年、木下恵介監督の「女の園」でデビュー。「二十四の瞳」では教え子の一人で、戦争で視力を失う磯吉を熱演、高い評価を得た。 65年の「兵隊やくざ」で社会に背を向けたインテリ上等兵を演じ、勝新太郎の荒くれ兵との名コンビが人気を集め、シリーズ化された。81年の「泥の河」では、川べりで小さな食堂を営む主人をきめ細かで人情味たっぷりに演じた。
NHK大河ドラマ「太閤記」「花神」、NHK朝の連続テレビ小説「ファイト」の老調教師役など、テレビの出演も多く、名脇役として活躍した。来年公開予定の映画「The焼肉ムービー プルコギ」に出演したのが最後の仕事となった。 俳優の田村正和さん、田村亮さんは実弟。

田村高廣が自分のことを不器用な俳優と規定していたのは衒いでも謙遜でもなく、本当にそう思っていたのだろう。彼は確かにどんな役を演じても「田村高廣」だったから。晩年は怖いぐらいに父親の阪東妻三郎に似てきて、その味わいは深いものがあった。芸能人としての才能は阪妻が予言したように弟の田村正和の方が上だったかもしれないが、こと映画界に残した足跡は正和のそれをはるかに上回る。

言わずとしれた「二十四の瞳」、「白い巨塔」での唯一の良心派だった里見医師、「泥の河」「愛の亡霊」……わたしが好きだったのは「本陣殺人事件」の新郎役と、テレビの「春の坂道」で演じた沢庵和尚。あれはよかったなあ。

16_fuefukigawa 今回とりあげるのは「笛吹川」。知らないでしょう?木下恵介監督の最高傑作ではないかと言われながら、今では誰も語らなくなってしまった映画である。それには三つの要因がある。

①原作の深沢哲郎との著作権をめぐるトラブルで、「楢山節考」とともに近年までビデオ化、あるいはTV放映もされなかったこと。
②モノクロフィルムに色を焼き付けるという凝った技法が災いしたか(それにしてもアヴァンギャルドだ。こんな実験が許されるほど、松竹は木下恵介を信頼し、甘やかしていたわけだ)、この映画がヒットしなかったこと。
③同時代において木下恵介は名監督、ヒット量産監督として称揚されすぎ、ために今では逆に誰も語ることすらしなくなってしまった……

こんなところだろうか。木下のむきだしの反戦意識が、領民を使い捨てにする武田信玄への憎悪の形で描かれている。一度は観ておくべき映画だと思う。好き嫌いは極端に分かれるだろうけれども。

主演の田村高廣は、それでも子どもたち(市川染五郎ら)が武士となるためにいくさへ出て行く寂寥を激しく演じていて泣かせる。そして、その演技はやはりいつもの田村高廣なのだった。合掌。

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年度末年度始 17日目「私こと」

2008-05-24 | 学校事務職員

1109 16日目「実測」はこちら。

始まりは例によって何気ないレスからスタートした。

Mail04a 転勤して挨拶状ってみんな出すんでしょうかね?前の職場の教職員とPTAの代表の方に出せばOKかな、なんて思ってます。

……こんなレスに、無責任に

>そういえばあるなそんなシステム(笑)。わたしは一度も出したことがないので思いもつかない。退職したときも出すもんだか……。あれが笑えるのは、どんな礼儀だか知らないけど、二行目に「私こと」ってあって、それが一番下にあることなんだよな。どんな理屈があの書式にはあるんでしょう。誰か教えて。

……なーんて答えたわたしが馬鹿だった。あれ、意味があるらしい。

Mail01j あれは、自分をへり下っているんだね。普通の手紙でも相手の名前とかは、なるべく上に書くように改行する。自分は下に。できるだけ、そうなるようにしてるけどね。メールだと、どうなんだろう。

……これ、ビジネスの常識らしいです。まあ、現在はあまり拘泥しないことにはなっているらしい。ちょっとへりくだり過ぎじゃないかとさすがに思う。

Mail04c 私も「私こと」は不思議に思ってました。
それに「私こと」はなぜかフォントが小さくなってるんです。

……そう。これもへりくだりのパターンだ。あの挨拶状は、相手への感謝の気持ちをあらわす手法であると同時に、『(退職者も含めて)これからのわたしもよろしく』という意思表示でもある。これが転勤ならまだしも、転職だったりすると名刺交換などよりもはるかにディープな意味を持ってくる。どれだけ礼を尽くしてもバチはあたらないわけだ。へりくだる意義がここにある。しかしそれ以上に実用上の意味があるのだった。これは18日目「お餞別」で。

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「ノー・カントリー」('07) No Country for Old Men

2008-05-24 | 洋画

20080321nocountryforoldmen 「『ノー・カントリー』?どんな映画?」
「うーん………………殺し屋の映画、かな」
ボイラー室での同僚とのやりとり。その日の学校帰りにわたしが観る予定の映画を説明するのは骨が折れる。今年度アカデミー賞作品賞をゲットし、ごひいきコーエン兄弟が製作、監督。事前に得ていた情報はそれだけ。あ、助演男優賞をとったハビエル・バルデム(まさかと思われるだろうが『海を飛ぶ夢』の、あのダンナである)がとてつもない、という評判も。

 たしかに、とてつもなかった。彼が演じた殺し屋は圧搾空気を使った特殊な武器を使用する。その、圧縮された空気を体現するかのようにバルデムの存在感は観客を圧倒する。

「初めて見たときにすぐわかったわ。(あなたが)正気じゃないって。」

 この映画における最後の被害者は、殺される寸前にこう語る。しかし、彼はそんなことばに動揺する気配を見せない。

「みんな言うんだ。『殺しても無駄だ』って。オレにはそれがわからない。」

なぜ殺すのかではなく、なぜ殺すのが無駄なのかが彼には心底理解できない。道徳や宗教を超えて、自分のルールだけに執着する男。これは強い。オープニングからラストまで、常に負傷している設定は、逆に彼の強さを際立たせる。伏線は序盤にある。保安官を扼殺し、逃亡するためにパトカーを奪い、乗りかえるクルマが必要だからと殺人をくりかえす彼は、途中でガソリンスタンドに寄る。その店主との会話は、かみ合っていないだけに怖い。

「このコインで賭けをしよう」
「……し、したくないね。」
「さあ、やるぞ」
「何を賭けるんだ。」
すべてを

その賭けに店主は勝つ。はたして、彼が負けていたらどんな結末が待っていたかを観客に想像させる緊張感がすばらしい。

 コーエン兄弟の映画は出来不出来が激しい。しかしデビュー作「ブラッドシンプル」や出世作「ファーゴ」系列に相当するこの作品は本領発揮だ。ちゃんと今回もヒッチコックへのオマージュ的シーンもあります。こんな不道徳なストーリーにオスカーを与えたハリウッドもたいしたものだが。

Nocountryredband ラストで、主人公のトミー・リー・ジョーンズは「オレには若いヤツのことがもうわからない(原題は『年寄りに住む国はない』)」と嘆く。彼が見た夢の中で、“たき火を焚いて待っている父親”とは、若い世代への絶望の吐露なのか。それとも……

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