事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「がん消滅の罠 暗殺腫瘍」岩木一麻著 宝島社

2021-08-31 | ミステリ

前作「完全寛解の謎」は、がんがどのようなトリックで寛解するのかをめぐるものだった。今回も基本的には同じ構造。特定の皮膚がんにかかった患者が、保険金を受け取るとみごとに快癒していく事例が連続。医師と、団信を扱う保険会社の担当者が組んでこの謎に迫る。

暗殺腫瘍とはぶっそうなタイトルだが、実際にがんを発生させることによる殺人は可能かという魅力的な設定も用意されて読み応えあり。

一作目でがんを消し、今度は意図的にがんを生み出すとはね。超有名な“あれ”をトリックに使うあたり、医師たちが読んだら大喜びだろう。

がん研究のオーソリティである岩木一麻は、実感として「がんと闘うな」とする一部の主張に本気で怒っている様子。そしてそれ以上に、金もうけにしかすぎないエセ治療のことも。

“犯人”の主張も、それはそれで筋が通っているように思え、考えさせられる。今回も、ミステリとしてはもちろん、がんとは何かを知るうえでとてもお勉強になったのでした。

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今月の名言2021年8月号PART5 必死

2021-08-31 | 国際・政治

People In Love

PART4「液体ミルク」はこちら

「党の問題なのでコメントは差し控えたい」

二階幹事長交代について質問された武田良太総務相の発言。いやはや来月に総裁選があるこの段階で幹事長などを変えるという、なんというか……わかりやすすぎる展開。

首相による露骨な岸田つぶし。おれに逆らうなという恫喝。あるいは不安の表出。さすがにコメントも苦渋にみちている。ふつう、恥かしくてこんなことはできないよねえ。

本日の1曲は10ccの「People in Love」学生時代にマクドナルドでバイトしていた頃を思い出します。

PART5「学校連携感染」につづく

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「ヒトコブラクダ層ぜっと 上・下」万城目学著 幻冬舎

2021-08-30 | 本と雑誌

万城目ワールドが地理的にも時代的にも量的にも思いきり広がった超大作。

両親が隕石の落下によって亡くなった(すでに伏線)三つ子の兄弟。梵天(ぼんてん)、梵地(ぼんち)、梵人(ぼんど)の天地人トリオには、それぞれ“三秒”と呼ばれる特殊能力があった。そんな彼らの前に、青いラピスラズリをまとった女が現れ……

およそ意味不明のタイトルだが、まるで三題噺のようにきっちりと伏線が刈り込まれる。これがあの万城目学の作品かと思うほどです(失礼)。

様々なストーリー展開が精緻に組み上げられる。銀行強盗、自衛隊、PKO、恐竜、そして……ああ紹介すればするほどみんなドン引きするのが感じられます(笑)

しかしこれだけは言える。後半の冒険小説的高揚はめったに味わえるものではないと。読後感も爽快。やっぱり、万城目学はやめられない

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今月の名言2021年8月号PART4 液体ミルク

2021-08-30 | 社会・経済

Enya - Orinoco Flow (Official 4K Music Video)

PART3「学校なんて」はこちら

「もし男性が妊娠する側で、男性が今の女性と同じくらい育児をしている社会だったら、液体ミルクはとっくの昔にコンビニで安い値段で売られていただろう」

母乳崇拝こそが女性を子育てにしばりつける元凶と作家の松田青子は主張する。特に日本では2018年まで乳児用液体ミルクを販売することすらできなかったのである。やれやれ。妻がいない夜、粉ミルクを溶くのはめんどくさかったなあ。

本日の1曲はエンヤの「オリノコ・フロウ」。今思えば、彼女がこんなにポップな歌を(笑)。っていうかみんなこの名曲を忘れてないか。

PART5「必死」につづく

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今月の名言2021年8月号PART3 学校なんて。

2021-08-29 | 受験・学校

島津亜矢 (大滝詠一)    風立ちぬ

PART2「日本で一番文章がうまい作家」はこちら

「学校に行かなくても人生はどうにでもなる。大丈夫」

自らも不登校だった過去をもつ全国不登校新聞社の石井志昂編集長の発言。

現在もなお、夏休みの終わりを息苦しく思っている予備軍はたくさんいるはずだ。むずかしいことだろうが(むずかしかったです)、いちばん最初にこうやって肯定してやることがだいじなんだと語っている。

まったくだ、そんなに悩まなくていいよ。学校なんか行かなくてもなんとかなるんだよ。

本日の1曲は島津亜矢の「風立ちぬ」

わたしはこの人のことを全然知らなかったんだけど(妻にさんざんバカにされた)、きのうの大滝詠一トリビュートの番組でびっくり。この歌唱力はなんだあ?!すごい歌い手がいたんだなあ。にしてもきのう(再放送だけど)のバンドメンバーは豪華でしたねえ!

PART4「液体ミルク」につづく

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今月の名言2021年8月号PART2 「日本で一番文章がうまい作家」

2021-08-28 | 本と雑誌

PART1「追悼チャーリー・ワッツ」はこちら

「戦後の日本文学で一番文章的にうまいと思うのは、安岡章太郎と藤沢周平なんですが、あの二人は寄りかかってないんだよね」

字面の美しさに酔ったり、音の響きに寄りかかりがちな、日本語の寄りかかり性を嫌う村上春樹の発言。そういえば、藤沢周平も海外のミステリを好んだ人だった。

ということで本日の1冊は藤沢周平の「本所しぐれ町物語」。ここまで来るとむしろ訳しやすいんじゃないか。すばらしい語り口。

PART3「学校なんて」につづく

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「兇人邸の殺人」 今村昌弘著 東京創元社

2021-08-28 | ミステリ

屍人荘の殺人」「魔眼の匣の殺人」につづく、美少女ホームズと純情ワトソンのコンビ第三作。

うーん、紹介がむずかしいな。なにしろこれまでの二作のタイトルには、事件のヒントになる要素がきっちり入っていて、実は今回も思いっきり仕込まれています(笑)。

増築に増築を重ねた(それには理由がある)邸宅における密室殺人。登場人物すべてが犯行不可能であるかに見えて……

いやーそこまでアリバイを細かくチェックしなくても、とめんどくさがりのわたしなどは思ったけれども、今村のことだから例によって最後の最後にうっちゃりをかましてくるに違いない、と身構えていると……

うわああああ、また来たあ。今回もおみごとでございます。デビューから三作連続して会心の出来。今村おそるべし。

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日本の警察 その125 「教場」「教場Ⅱ」(フジテレビ)

2021-08-27 | 日本の警察

その124「暴虎の牙」はこちら

 長岡弘樹(山形出身ですよ)の原作を特集したとき、映像化するなら主演は木村拓哉で、と提案したら、なんとフジテレビが実現してくれました。

「風間公親(かざまきみちか)だ」

義眼を不気味に光らせ、警察学校の生徒たちを一瞬にして精神的に制圧する鬼教官。ⅠとⅡを連続して見て、このキャスティングは大正解だと感じ入った。キムタク、すげえよ。

そして、木村にとって風間という役柄を経過したうえで、さまざまな役をこれから演じることができるのだし、こちらも風間を演じた(そしておそらくこれからも演じ続ける)キムタクを堪能することができるのだ。それほどの出来。

Ⅰにおける生徒たちは工藤阿須加(彼もいい)、大島優子、川口春奈(近ごろはなんにでも出ている印象)、葵わかな、林遣都。

Ⅱの生徒は上白石萌歌、矢本悠馬(なんにでも出ていますアゲイン)。

教場の職員は校長に小日向文世、教官にわたしの大好きな佐藤仁美

原作もそうだったけれど、ここまでわけありの生徒がそろうって風間教場ってどんなとこ(笑)。しかしわたしが好きだった卒業アルバムのエピソードが描かれなかったのはなぜだろう。まあ、あれがなくても盛大に泣かせてはくれたのですが。

脚本は君塚良一。彼の作品の中でも、「踊る大捜査線」にテイストは近い。笑いの要素はほとんど排除されてはいるけれども。

すばらしいドラマ。木村拓哉を応援してきてよかった。「教場Ⅲ」期待してます。

「警視庁科学捜査官」につづく

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今月の名言2021年8月号PART1 追悼チャーリー・ワッツ

2021-08-27 | 音楽

Charlie Watts / Jumpin' Jack Flash

2021年7月号PART6「重かったもの」はこちら

「(ストーンズに参加して)その後、何十年もステージでミックのケツが目の前を走り回るのを見る羽目になった」

先日亡くなったローリングストーンズの名ドラマー、チャーリー・ワッツの発言。ジャズに傾倒する自分をおさえて、やんちゃなミック・ジャガーやキース・リチャーズをバックアップした。でも単に冷静なリズムを刻む人だったかといえば、どうも違うようだ。

泥酔したミック・ジャガーが「おれのタイコはどこにいる?」とチャーリー・ワッツに。

翌朝、“正装した”ワッツはミックの部屋を訪れ「おれの歌い手はどこだ」と言いながらミックを殴りつけ「二度とそんなクチをきくな」と吐き捨てたという。いい味。

PART2「日本で一番文章がうまい作家」につづく

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「指差す標識の事例(上・下)」An Instance of the Fingerpost イーアン・ペアーズ著 創元推理文庫

2021-08-26 | ミステリ

意味不明なタイトルだけど、これはフランシス・ベーコンの箴言に由来する。

何であれ、自然の探究において、理解が保留されているとなれば、指差す標識とも言える事例が正当にして等閑にすべからざる設問のあり方を提示する。事例はいずれも眩い光を投げかけるゆえ、探索の過程は時として、その事例をもって終結する。それのみならず、すでに記述されている証拠の中にそうした事例が顕現することもある。

フランシス・ベーコン「ノウム・オルガヌム」

もっとわけわかんないですか(笑)。実は、この長大なミステリの核となる部分が仕込んであります。

文庫本上下2冊で千ページを超す大作。舞台はオックスフォード。時代はクロムウェルが没して王政復古された17世紀後半。ヴェネチアからひとりの若者が“二流国”だったイングランドにやって来る。彼の目的とはなにか。そして、彼は大学教師の毒殺事件に遭遇する……

四つの章から成り、それぞれ違う語り手の手記という体裁。そして、次の章が前の章をひっくり返す展開になっている。つまり、読者にとって四人とも“信用できない語り手”だし、みんな鼻持ちならない野郎で、そのユーモアの質は小憎らしいくらいだ。

歴史知らずなので読み通すのがきつい部分もあったけれど、実在の人物が多数登場するので、世界史、特に英国史に通じた人にはたまらないだろう。少なくとも国教会の成り立ちぐらいは学んでおいた方が楽しめると思います。

各章を池央耿、東江一紀、宮脇孝雄、日暮雅通がそれぞれ訳している。翻訳家オールスターズ。特に東江さんにとって、これが最後の作品となっています。

読み終えて満足。歯ごたえありすぎだけど、それだけに、読書した!という手応えが。「薔薇の名前×クリスティ」ってかまされたら読まないわけにはいかないしね。

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