中盤に、今にも倒れそうな様子で植木等が出てくる。息もたえだえ、といった感じでセリフをつぶやき、静かに去っていく。この作品が彼の遺作となり、エンドタイトルに讃辞が大写しになる。
彼の出演に監督の水田伸生(日テレのディレクター。かつて『マジカル頭脳パワー!』などのバラエティも手がけた)がこだわったであろうことは予想できる。
全盛期のクレージーキャッツの主戦場はまさしく日テレ。「およびでない?」で一世を風靡した「シャボン玉ホリデー」が記憶に焼きついている世代の水田にとって、自分の作品に植木を刻印するのは夢だったのだろう。同世代のわたしにはよーくわかるのだ。
「舞妓Haaaan!!!」は、その植木等が平均(たいら・ひとし)を演じた無責任シリーズ、あるいは森繁久彌の社長シリーズの直系に位置している。
そうでもなければ、あの阿部サダヲを主演に(!!!)東宝が邦画番線で作品を封切るものか。いやーしかし時代は変わったなあ。
直系だけに、途中まで舞妓オタクの阿部サダヲが「舞妓さんと野球拳をする夢をかなえる」までのサラリーマン喜劇だったのに、しかし宮藤官九郎の脚本は次第に逸脱していく。
背後に家庭をまったく感じさせない阿部(だから植木のまっとうな後継者なのだ)と、置屋の息子で悲しい過去をもつプロ野球選手の堤真一の意地の張り合いがヒートアップし、彼らの狂気がそれぞれのパートナー(ちょっとネタバレになるので関係は言えない)の柴咲コウと小出早織をまきこんでとんでもないことになっていく……
宮藤のセリフはあいかわらず絶好調。いきなりプロ野球を引退して俳優になる堤に阿部が吐く罵倒が最高なのだ。
「おまえはスポーツ新聞の住人か?ここ(スポーツ欄)からここ(芸能欄)に引っ越しただけか?」
笑ったなあ。
しかし計算違いもある。阿部サダヲのテンションがのべつまくなしに高いため、舞妓とのお座敷遊びに突入するまでが上滑り気味。まあそれでも、次第に着るものが派手になっていくキムラ緑子(「パッチギ!」二作はよかった)とか、グループ魂&柴咲コウのとんでもないテーマソングとか、にやりと笑えるネタは満載。あまり期待しないで、時間つぶしのつもりで観れば納得の一本かも。
東宝のサラリーマン喜劇を観るのって、つまりはそういうことじゃないですか。