事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

日本の警察 その119「新宿鮫11 暗約領域」 大沢在昌著 光文社

2020-09-05 | 日本の警察

その118「風間教場」はこちら

シリーズ8年ぶりの新作。信頼する上司、桃井が殉職し、恋人の晶とも別れ、ほとんど孤立無援の鮫島が、次第に別のチームを形成していく過程が静かに描かれる。

そのなかでも、警察の正義を信じ、女性が低く見られる風潮に逆らい続ける女性課長が渋い。

鮫島のセリフも、これまでになく礼儀正しく(まあ、ヤクザ相手だとちょっと違うが)、あるべき公務員像、あるべき社会人像というものを大沢在昌は鮫島を通じて描きたかったのかなと。

義理人情に厚いヤクザが瞬時に豹変するあたりの凄みも同時に。ラストで、チャンドラーの某有名作品が引用されておしゃれな後味も。"

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日本の警察 その118 「風間教場」 長岡弘樹著  小学館

2020-07-27 | 日本の警察

その117「抵抗都市」はこちら

地元作家、長岡弘樹の教場シリーズ4作目。初の長篇、ということになっているけれどもエピソード集のような形になっているのでシリーズの基調音は守られている。

わたしはよく小説を勝手にキャスティングして楽しむ能天気野郎だが、まさかほんとに主人公の風間を木村拓哉が演じてくれるとは思わなかった。的中して得意得意。

で、そのフジテレビ版は見ていないのでそのうちにDVD化されたら特集します。

さて「風間教場」。

「君には(警察学校を)やめてもらう」

が風間の決まり文句。しかしこの作品ではこの言葉が風間に向けて発せられるのだ。正式に入校した生徒が一人でも辞めたらその時点で退職だと校長は告げる。

シリーズを追うごとに風間がやさしくなっているのは誰でも感じたと思う。しかし天使と悪魔が共存するような彼に「やめろ」と言わせないのはきついのではないか……

そうきたかあ。長篇にしなければならないことがラストで判明。しかしこのままの幕引きは小学館が許さないだろう(笑)

その119「新宿鮫11 暗約領域」はこちら

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日本の警察 その117 「抵抗都市」佐々木譲著 集英社

2020-06-26 | 日本の警察

その116「政治的に正しい警察小説」はこちら

佐々木譲といえば、いまではすっかり警察小説の専門家扱いだが(彼は少なからずそのことが不満らしい)、わたしにとってはまず「ベルリン飛行指令」「エトロフ発緊急電」「ストックホルムの密使」の、いわゆる新潮ミステリー倶楽部の人。広義の冒険小説の書き手としてすばらしかった。

以降、出身の北海道を舞台にした歴史もの、道警ものでキャリアを積み上げ、到達点は(わたしにとっては)「代官山コールドケース」ではないかと思う。

この「抵抗都市」は、その「代官山コールドケース」に肌合いがとてもよく似ている。冷静な若手と手練れのベテランがコンビを組んで静かに事実を探って行く。

でもおおいに違っているのは、これは大正時代であり、それどころか

“日露戦争に日本が負けていた”

世界における警察小説なのだ。無理にジャンル分けをすれば、歴史改変SF警察小説だろうか。

冒頭はあの有名な大津事件。明治24年、訪日中のロシア皇太子をあろうことか警備中の巡査がサーベルで切りかかって負傷させるという、当時の日本を震え上がらせた一大事。

話は一気に大正に飛ぶ。その間に日露戦争があり、ポーツマス条約によって二帝同盟が日露で結ばれるが、その内容はロシアへの属国化だった。第一次世界大戦で苦戦するロシアのために日本からも派兵されることになるが、世論は割れている……

そんなときに、ある人物が殺される。刑事事件なのにロシアの将校や高等警察まで出てくる。刑事たちは考える。被害者はロシアとつながっていた人物なのではと。

旅順の戦闘で身体と心に深く傷を負った主人公が、ロシアへの苦い思いを抱きながら、しかし警察官として真相究明にひた走る熱意が泣かせる。

ロシアの圧倒的な影響を受けた東京の描写が細かい。ひょっとしたらこうであったかもしれない東京であると同時に、アメリカの属国として生きながらえる現実の東京ももちろん二重写しになる。

佐々木譲の文句なく代表作だと思います。年末のミステリランキングが楽しみです。続編切望

その118「風間教場」につづく

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日本の警察 その116 「政治的に正しい警察小説」葉真中顕著 小学館文庫

2020-06-03 | 日本の警察

その115「コールドケース2&警部補矢部謙三」はこちら

W県警の悲劇」につづいて苦い苦い(笑)。このブラックさがこの人の本領なんでしょう。その黒さに少し照れが加わると表題作になるわけだ。絶対にこの編集者にはモデルがいると爆笑。

ある理由でこの短編集は日本の警察シリーズに入れたいの。そうだよな、警察小説であるだけで商品価値が生ずるってのが間違ってる。って話じゃないの。

日本の警察ってカテゴリーまで用意しといてなんだけど、みんなそんなに警察が好き?あるいはそんなに嫌い?

その117「抵抗都市」につづく

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日本の警察 その115 コールドケース2&警部補 矢部謙三

2020-03-19 | 日本の警察

その114「祈りの幕が下りる時」はこちら

正月から、ディスカスでふたつのテレビシリーズを交互にレンタル。

コールドケース2 真実の扉」

「警部補 矢部謙三」

いやはや両極端。かたや例によって刑事たちの私生活も含めて絶望的なまでに陰惨で、なおかつ意外な犯人がラストで明らかになるハードなミステリ(メインライターはなんと「菊とギロチン」の瀬々敬久)。

もう一方は犯人が最初からまるわかりで、生瀬勝久のヅラの行方のほうがはるかにわかりにくいコメディ(メインディレクターはなんと「屍人荘の殺人」の木村ひさし)。

おそらく、警察を描くドラマのなかで、これ以上ハードにはできないし、これ以上お笑いに走れない限界に双方が位置している。これを交互に見るのはなかなか得難い経験でした(笑)。

共通しているのはキャストの豪華さ。

コールドケース2の方は、レギュラーが不動で吉田羊、三浦友和、永山絢斗、滝藤賢一、光石研。そこにゲストとして、大好きな奥貫薫、宮藤官九郎、吉岡秀隆、佐藤浩市、田中圭、奥田瑛二、石橋蓮司、北村有起哉、片岡礼子、成海璃子、竜雷太、山本圭水野久美村上淳

矢部謙三のほうは、生瀬勝久になぜか心酔している助手に池田鉄洋、茫洋とした総務係に貫地谷しほりと鈴木浩介に、仲間由紀恵、阿部寛(写真だけ)、野際陽子などのTRICK組が友情出演。ゲストもむかしのウルトラシリーズや角川映画出演者をとりそろえてギャグにもっていくあたり、しぶとい。団時朗が出れば「帰ってきたウルトラマン」、、大和田伸也がでれば「水戸黄門」になるわけね。

この役者いいなあと思えたのは池田鉄洋と“結果的に名探偵になってしまう”鈴木浩介。このふたりを見ているだけで幸福な気分になれたのでした。いい正月だった。

その116「政治的に正しい警察小説」につづく

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日本の警察 その114「祈りの幕が下りる時」(2018 東宝)

2020-03-17 | 日本の警察

その113「W県警の悲劇」はこちら

東野圭吾&阿部寛の新参者シリーズ最終作。ということになっているけれども、加賀恭一郎ものはもっといっぱいあるのにもったいないなあ。

まあ、阿部寛バージョンの最終作として、この原作は確かにぴったりだ。なにしろ事件のキーポイントが加賀自身なのだから。そしてある人物の怒涛の過去が描かれ、泣かせる展開に……いやしかしこれってどこまで「砂の器」なんですか。

事前の情報をまったく入れずに見たので、はてこの似顔絵は誰のものかしらと本気で迷う。ミステリとして丁寧な運びだけれど、映画になるとキャスティングでいろいろとばれてしまうのはいたしかたないかな。

にしても、このシリーズがまたつくられるとして、加賀恭一郎を演じるのはしんどいことだろう。それほどに、阿部寛はこの役にはまっていた。原作にはないユーモアが加味され、なお味わい深くなっている。この最終作で加賀は日本橋から捜査一課に戻ることになるので、次もやっぱり彼でいってほしい。

くどいようだけど原作はいっぱいあるし、読者に解決をしめさないあれとかあれをドラマ化するのって楽しそうじゃないですか。違った展開に持っていきたければ、東野はサービス精神旺盛だからきっと書いてくれますよ。ガリレオのときみたいに(笑)。

その115「コールドケース2&警部補矢部謙三」につづく

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日本の警察 その113「W県警の悲劇」葉真中顕著 徳間書店

2020-01-25 | 日本の警察

その112「罪の轍」はこちら

いやはやどうしてこの県警にはこんなに嫌な女がそろったんだ(笑)……と嘆きたくなるほど、“女性たち”(ひっかけもありますが)のキャラが立っています。

・幹部たちの秘密の会合である円卓会議に参加するために出世を急ぐ警視

・尊敬する父親のあとを追って警察官となり、そのファザコンぶりが爆発する交番勤務巡査

・愛妻家の先輩を愛してしまい、そして最後には……な刑事

・痴漢被害にあった過去を払しょくするために警察官となり……な生活安全課勤務

・警視とライバル視されながら、夫のためにキャリアを捨てた所轄刑事

……みんな濃い濃い。しかし、彼女たちの異様さは、女性蔑視はびこるW県警の体質が生んだものだというくくりなので、女性が読んでも気持ちのいいミステリになっている。テレビ東京がドラマ化していて、主役の警視は芦名星が演じているみたい。うん、ぴったりだ。

葉真中顕(はまなかあき)の作品を読むのは初めてだけど、他のもおもしろそうだなあ。

その114「祈りの幕が下りる時」につづく

 

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日本の警察 その112「罪の轍」 奥田英朗著 新潮社

2019-11-23 | 日本の警察

その111「スワロウテイルの消失点」はこちら

奥田英朗の「オリンピックの身代金」は傑作だった。わたしは2009年のマイベストに選んでいます。あれから十年、奥田はまたしても超弩級のホームランをかっ飛ばした。

東京オリンピックを翌年に控えた1963年、礼文島で昆布漁に明け暮れる宇野は、みんなに莫迦(ばか)と呼ばれるなど、悪意に囲まれていた。先輩漁師にだまされ、ほとんど殺されるような扱いで島を出た宇野は、空き巣をくり返しながら東京に出る。あこがれの都が宇野に与えたもの、奪ったものとは……

わたしにとっては泉谷しげる主演のTVムービーが印象深い「吉展ちゃん誘拐事件」がモデルになっている。警察が営利誘拐の捜査にまだ慣れていない時代。逆探知が認められず、家庭に電話がまだあまり普及せずにいたために、捜査陣(なんと「オリンピックの身代金」と同じ連中)は右往左往する。

奥田英朗は、当時の風俗をこれでもかと描ききる。うまいなあ、と何度もうなった。わたしと同じ学年だから、まだ3才か4才だったはずなのに、しかも岐阜の田舎に住んでいたはずなのに(笑)、どうして1963年の東京をこれだけ活写できるのだろう。

奥田がうまいのはその描写だけではなく、“描かない”ことでドラマに余韻をもたせているのだ。思えば「オリンピックの身代金」のラストで、ある人物の慟哭が淡々と描かれてむしろ悲劇性が増していた。今回も、罪の轍をつける“最初の悪”を、実は一度も登場させないのだ。あ、ネタバレに近いか。もうしわけない。

冒頭から宇野という人物の視点で話が進むので、いくつか登場する犯罪が彼によるものだろうと読者が確信したあたりで宇野をひっこめる呼吸もすばらしい。

組織的な捜査が必要だと痛感する大学出の刑事が家庭的であるために、宇野という人物の不幸と、そして圧倒的な魅力が浮き彫りになる。ミステリとして、そして昭和を描いた小説として極上。

その113「W県警の悲劇」につづく

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日本の警察 その111「スワロウテイルの消失点 法医昆虫学捜査官」川瀬七緖著 講談社

2019-11-14 | 日本の警察

その110「我らが少女A」はこちら

おなじみ、法医昆虫学捜査官シリーズ最新作。で、これまでのベストだと思います。

というのも、天真爛漫(かつ暗い過去を持つ)な赤堀と、彼女を認めながらも冷静冷徹な岩楯刑事のコンビは例によってつかず離れずの関係。そこに、無礼で生意気でうるさい(しかし有能な)深水という若手を混入させたことが効いている。

遠慮のない深水のおかげで、赤堀と岩楯が警視庁においていかに特異な存在なのかがあらためて露わになるわけ。だいたい、この若造がからむと会話がはずみます。川瀬七緖の腕が上がっているのが理解できる。

それにね、この作品では捜査官たちがある虫のせいでずーっっっと痒がっているという設定が泣かせます!

その112「罪の轍」につづく

 

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日本の警察 その110「我らが少女A」 髙村薫著 毎日新聞出版

2019-10-30 | 日本の警察

その109「百舌落とし」はこちら

マークスの山」「照柿」「レディ・ジョーカー」「太陽を曳く馬」「冷血」とつづいた髙村薫の合田(ごうだ)雄一郎シリーズ最新作。読者としては、どう考えても名刑事なのに自己評価が低く、常に悩んでいる合田は愛さずにいられない存在だ。

徹底してドストエフスキー的でハードルが高い髙村作品を、しかし手に取ってしまうのは、合田はいまどうしているだろう、という愛着があるからに他ならない(笑)。

別れた妻が9.11で亡くなり、その兄にして親友の(別の意味合いの関係もあってドキドキ)加納は心臓を病んでいる。57才の定年近い警察官の、苦い日常。そんな合田に、迷宮入りした12年前の老女殺人事件に新たな展開があったと連絡が入る……

合田は警察大学校の教授になっている。初めて知る存在なので調べてみると、要するに幹部養成校であり、常に考え込んでいる合田に似合いの職かもしれない。

主な登場人物は12名。被害者の老女とその家族、孫娘の同級生たちとその親、そして合田と加納だ。彼ら(少女Aをのぞく)の心理がこれでもかと書き込まれており、特にADHDの少年に髙村がチカラを入れて描写していることが理解できる。

この小説の特徴は、これら12名以外のキャラクターの心理はまったく描かれないということなのだ。事件の捜査を行うのは特命班だが、彼らの行動はあくまで背景の位置にいる。結果的にこの殺人事件については、宮部みゆきの「模倣犯」における“いちばん最初の殺人”のような描写にとどまる。それ自体をほとんど描かないというアクロバット。

しかし、だからこそ心に残る。夜更けに読み終えて粛然。傑作だ。

作中で合田が自問自答することが、犯罪と警察の関係を描いていて秀逸。

「世のなかには、目撃者がいるか、もしくはホシが自首するかしなければ誰も真相を知りようがない事件というのがある。(略)もちろん、どんなに悪条件が重なろうと、どこかに犯人がいる以上、それを追わないという選択肢は警察にはないが、どんなに細大洩らさず捜査を尽くしても、神でもAIでもない警察の捜査はときに限界に突き当たることはある。良いも悪いもない、世界はそんなふうに出来ているということなのだ。」

そのことに意識的であってしまうのが合田という男。結末でそんな彼は捜査一課に復帰する。新作が待ち遠しい。

その111「スワロウテイルの消失点」につづく

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