PART3はこちら。
「結婚しないでお父さんのそばにいるわ」 と泣くしずかちゃんに、父親は 「きみはたくさんの思い出をのこしてくれた」 と諭し、
「のび太くんを選んだ君の選択は正しかったと思うよ」
と憎いセリフで決めてくれる。
そうなのだ。あの憧れの源静香と結婚することが不自然ではないと観客に思わせるくらい、野比のび太は《いい大人》に成長してしまっているのである。
同時にジャイアン(※)やスネ夫、出木杉たちも、生活感をまとった社会人として登場し、いい味を見せる。 彼らに、もうドラえもんの道具は必要ないと感じるほどに。
※ジャイアン ちゃんと剛田剛という名があるのに、なんで妹はジャイ子なんだ、というのが飲み屋でのドラえもん話の定番。
わたしが一番好きなシーンは、ラスト近く、なぜかあのロボットのことに大人になった彼らがふれないなあぁ、と思ったあたりで、のび太が小さな声で「ドラえもぉん」と子どものときのようにつぶやき、楽しかったあのころを大過去として決別するところである。
どんな人間も“成長しなければならない”業を背負い、そこに機械であるロボットが入りこむ余地はなかったというオチに、泣けないはずがないではないですか。幸福な物語は、こうして終わってしまうのですから。
今年もまた、多くののび太たちが卒業していく。礼服をクリーニングに出しながら自問する。わたしはあの哀しいロボットのように、なにごとかを彼らに与えることができたのかと。タケコプターは、ちょっと無理なんだけれど……。
PART2はこちら。
「のび太の結婚前夜」は、そのタブーに敢然と挑み、そして成功した希有な例となっている。実はドラえもんにはタイムワープものがけっこうあり、というよりドラえもん自身がのび太の子孫を救うために現代にやってきたという設定なので、成長したのび太の姿は随分と見かけている。
しかし、ここまで本気で彼らに「大人の物語」を演じさせたのは今回が初めてだし、小津安二郎を意識した演出(花嫁衣装の試着室の前で、やけに丁寧に揃えられる靴、とか)を考えても、作り手は明らかに確信犯としてアニメで「麦秋」(※)をつくろうとしたのだ。その志は高い。
※「麦秋」
小津安二郎監督。笠智衆・原節子主演とくれば、どんな映画か想像していただけると思う。
ストーリーは、単なるしずかちゃんのマリッジ・ブルーのお話。と言ってしまってはミもフタもないが、どうしてこんなに泣けたのだろう。
なにしろ、数多くのドラえもんを観ているとはいっても、わたしはこのシリーズにそんなに好意的な観客ではない。
特に近年の作品は環境保護を前面に訴えるメッセージ色が強すぎて楽しめないし、これなら原恵一が作る「クレヨンしんちゃん」の方が活劇として素晴らしいと思っている。
数年前、子どもたちの間で「ドラえもんの最終回は、すべてが植物人間だったのび太の夢にすぎなかった、というオチで終わる」こんな噂が流布されたときも、逆にそんな哀しい発想をするほどドラえもんをマジに見ているのか、と驚いたくらいだ。
秘密は、先に述べた「成長しないことの幸福感」にあるようだ。以下次号。
PART1はこちら。
少年マンガの王道を歩んだ「ドカベン」や「スラムダンク」(※)の(少女コミックにも「ガラスの仮面」のような“異様な”王道作品があることは承知しています)最大の美点は、明訓の連中はとにかくいつも野球をしているし、桜木や流川はのべつまくなしにバスケットボール(とほんの少し女の子)のことしか考えていないところにあったように思う。
※「スラムダンク」井上雄彦著 集英社
最盛期の少年ジャンプを支え、男子バスケ部員の数を増やした強力作品。コミックスの第一巻は手にとってはいけない。最終巻まで絶対にやめられなくなるから。
連載は6年続いたが、ドラマの上では4ヶ月しか経過していなかった。井上は今、吉川英治の「宮本武蔵」を原作にした「バガボンド」を連載しているが、一年以上経っているのに、まだ宝蔵院の槍勝負なんかやっている。巌流島まで、あと百年ぐらいかかるのであろう。
この幸福な物語を、知るかぎりもっとも上手に語り続けたのは「サザエさん」と「ドラえもん」だと思う。
「サザエさん」はすでに【歴史】だから別格としても、ドラえもんの場合、この三十年間、のび太はあの不格好な猫型ロボットに甘え続け、ロボットは(多少いやみは言うが)惜しみなく、この不器用で出来の悪い少年にすべてを与え続けている。この変化のなさ、意地悪く言えば成長しないところこそ、マンガにおける幸福感というものではないか。
この幸福感は本来不可侵のものであるはずで、下手に主人公を大人にしてしまうと、読者は戸惑い、悪くするとその作品から離れていってしまう恐れすらある。三谷幸喜(※)が無名時代、サザエさんの脚本を依頼され、タラちゃんが大人になった挿話を書いて、プロデューサーに「お前はサザエさんの“心”がわかっていない!」と一喝されたのは有名な話だ。以下次号。
※三谷幸喜
ご存じ「王様のレストラン」(あれ?山口智子がやった役もしずかじゃなかったっけ)「古畑任三郎」の脚本家。
「STAND BY ME ドラえもん」特集はこちら。
ということで昔の事務職員部報から転載します。2000年3月7日付の第315号より。最終回が近いのでちょっとシリアススペシャルとして長めになっております(笑)。当時からバカだったなあ。
《アニメのお話です。部屋を明るくしてお読みください》
先日、テレビでドラえもんスペシャルが放映されていた。
「あ、『結婚前夜』か。これ観てなかったんだよな」
女子高生である姪に、息子をドラえもん映画に連れて行く係をお願いできるようになり(しっかりお小遣いはとられる)、唯一観ていなかった短篇がこれだった。
長篇はすべて、もう何度も何度もビデオや映画館で見せられている。ひょっとしたら私は日本で一番ドラえもんを観ている40才ではないかと思うくらいだ。
子どもたちとそのテレビを眺めていると、十数年後、のび太と結婚するしずかちゃん(※)……期待に違わず綺麗になっている……が、お父さんに「私、結婚するのやめるわ」と告白するシーンで
「あ、やばい」
と二階の自分の部屋に駆け上った。
……ほぼ同時に涙が噴き出してきた。
※しずかちゃん
必然性のない入浴シーンは、「水戸黄門」の由美かおるとともに、すでに名物になっている。
プロとして学校に勤めていながら何を甘いことを、と言われそうだが、卒業式の季節になると無闇にせつない気持ちになる。
別れがつらいのはもちろんだが、晴れ晴れとした彼らの顔を見ると、こいつらも大人になってしまうのか、と何やら『物語が終わってしまう』ような気がしてしまうのだ。
【PART2につづく】
この週末はどこへ行っていたかというと、
こういうところです。花巻で行われた日教組東北ブロック事務研。
いやはや面白かった。っていうかなんでオレあんなに酒飲んでんだ。
実行委員がつぶやいていた。
「怒られちゃったんですよー。こんなに酒を用意して、二日目に研修させないつもりかって(笑)」
どうやら確信犯のようでした。
そんな挑発にのって、全力で飲みきるオレもオレだけど。