事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「ワニの町へ来たスパイ」Louisiana Logshot ジャナ・デリオン著 創元推理文庫

2020-10-24 | ミステリ

任務の途中でやりすぎ、暗殺指令が出てしまったCIA工作員。上司の命令で彼の姪になりすまし、ルイジアナの片田舎でほとぼりをさますことになる。およそフェミニンな要素のない彼女フォーチュンは、姪のキャリアとのギャップに悩むが、途中から開き直る(笑)。

アリゲーターがウヨウヨいるバイユー(これをうまく発音できると南部人に大うけするらしい)から人骨が出て来たことでフォーチュンの偽装はピンチを迎える……

これほどスイスイ読める海外ミステリもめずらしい。ユーモアたっぷり。しかも展開も軽い。そこが不満な人もいるだろうけれどもわたしは好き。ババアたちが味があって笑えます。

「雑貨店ではパックになった肉を売っているだろうか?それとも蛋白質をしっかり摂るには自分で何か殺す必要があるのだろうか?気になったが、いまはまだそれについて悩むのはやめておくことにした。……人間以外は殺したことがないんだけど。」

こんな文章がある小説をおれが好きにならないはずないじゃないですか。もう十数冊このシリーズは出ているのだとか。楽しみだ。あ、よく考えたら邦題はル・カレのパロディだ。

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「死神の棋譜」奥泉光著 新潮社

2020-10-09 | ミステリ

タイトルどおり将棋ミステリ……のはずがどんどんねじれていく。年齢制限があって年に4人しかプロになれない棋界の厳しさに跳ね飛ばされた男たち。それぞれが諦念を抱えて生きていくのだが、そこに宗教じみた将棋や犯罪がからんでくる。

地の文が松本清張的な社会派で、将棋名人が実名でどんどん出てくる。将棋会館のありようも具体的。その将棋会館の近くの神社に、矢文の形で詰将棋が刺さっていて、しかしこの詰将棋は成立しない“不詰め”に見える。

しかしこの謎を解きえた人間だけが別の世界に招待される……ね、伝奇小説みたいになっているし、「八つ墓村」ばりの洞窟シーンまで。この転調は奥泉光の得意技ってところか。

よく考えるとある登場人物の壮絶な邪悪さが核になっている。で、その“よく考えると”な部分にミステリ好きとして納得。キャラたちが将棋用語で語り合うあたりの味もいい。

AIに勝てない将棋というものに未来はあるのか、にこんな解を提示するとは……

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「紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人」 歌田年著 宝島社

2020-10-07 | ミステリ

このミス大賞受賞作。

どんなものでも専門家の話は面白い。でもこの小説の場合はちょっと看板に偽りありで、紙の鑑定はあまり事件の本筋にからまず、ディオラマ(専門家はジオラマとは言わないらしい……ここ、ラストのツイストにつながります)が中心。

わたしはプラモデルすらほとんど作ったことのない人間だけど、プロのモデラーが犯人の意図を模型から読み取っていくあたりに興味津々。

数種類の紙を使っていたり、宝島社の気合いを感じます。電子書籍にはできない芸当。こりゃあシリーズ化確定じゃろ。そうでもなかったら終盤に登場するとんでもない女性の意味がない(笑)。

で、学校事務職員としては紙に無縁ではないわけで、どーれ指で判断してしんぜよう……全然わかりませんでした(^_^;)。135とかケント紙なんてレベルじゃないの。

メヌエットライトCとメヌエットフォルテCの違いがわかる読者っているんですか。まあ、かろうじて表紙のNTラシャの「ラシャ」に反応するぐらい。あ、だからことごとく当てる主人公の凄みがわかるわけか。なるほどー。

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「パリ警視庁迷宮捜査班」 ソフィー・エナフ著 ハヤカワ・ミステリ

2020-09-18 | ミステリ

わけありの捜査官たちがチームを組まされ、迷宮入り事件の捜査を……まあ骨格は「特捜部Q」と確かにいっしょだけれど、肌合いはだいぶ違う。

なにしろあちらの事件は残虐きわまりないし、かならずセックスがからんでいるけれども、こちらおフランスの場合はもっと上品(というわけでもないか)。やりすぎ女性班長をとりまくのが、売れっ子警察小説家が本業の大金持ち、アル中、運転が下手なのにスピード狂、きわめつけは単に縁起が悪いというだけで敬遠されている男(笑)。

コラムニスト出身だけに、この作家は面白く書くということを知っている感じ。シリーズ化は必然。

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「46番目の密室<限定愛蔵版>」有栖川有栖著 講談社

2020-09-16 | ミステリ

有栖川有栖デビュー30周年記念出版。

4290円!買えるわけないので図書館から借りる。根性なしのファン。函入りの豪華な造り。そしておまけとして別冊が付いていて、これがすごいのだ。

戸川安宣(東京創元社の名編集者にして元社長)、綾辻行人(館の人。小野不由美の配偶者)、北村薫(日常の謎の人)というこれ以上は望めない(もしも可能なら天国から講談社の編集者だった宇山日出臣を連れてくるしかない)メンバーのエッセイと、この火村シリーズ1作目のプロトタイプ版まで載っているのだ。

学生時代に書かれたこの作品を読んでから、プロになってからの本編を読むのも一興。にしても、再読なのにストーリーをほとんど忘れていたのには我ながらあきれた。有栖川作品を最初から全部読み直しても大丈夫じゃないかおれは。

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「ミステリアス・ジャム・セッション」 人気作家30人インタヴュー」村上貴史著 早川書房

2020-09-15 | ミステリ

ミステリ評論家の村上貴史が、ほぼ二十年近く前にミステリマガジンに連載したインタヴュー集。当時の人気ミステリ作家30人に(ほとんどの作家と酒を飲んだりしつつ)創作の秘密を聞き出している。予想以上にディープで、量もたっぷり。しかもとても面白い。

表紙の画像を見てもらえれば、いかにすごいメンツだったかがわかる。で、ほとんどの人たちが元気じゃないですか。

亡くなったのって北森鴻と打海文三ぐらいか。まあ執筆から遠ざかっている人は何人かいるようだけれど(高野和明は「ジェノサイド」からこっち、何をしているんだろう)。

まあ今ではビッグネームになっているけれども、当時はまだ駆け出しの人を積極的にチョイスしたということか。30代とか40代が中心なわけで、だからみんな離職して作家になることに悩んだりしていたのだ。わかるなあ。

駆け出しの代表格のような伊坂幸太郎が、なにしろ案山子がしゃべる「オーデュボンの祈り」でデビューしたときに、設定が設定だけに一発屋で終わるだろうと思われ、その反発から書いたのが「陽気なギャングが地球を回す」だったというエピソードなど、リアルタイムでなければ聞けない話。そんな彼が、いまや押しも押されもせぬベストセラー作家になっているのだから痛快。

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「合唱 岬洋介の帰還」 中山七里著 宝島社

2020-09-12 | ミステリ

タイトルどおり、中山七里のシリーズキャラが全員集合。つまりは出版社の垣根を超えた共演ということだ。

岬洋介は友人を助けるために帰国し、悪徳弁護士御子柴に弁護を依頼。犬養刑事も証人として出廷。検視はヒポクラテスシリーズの光崎教授だし鑑定は氏家……オールスターです。

にしても、いくら優秀でも弁護士資格を持たない洋介と、音楽家となった息子を許せず感動した父親が裁判で一騎打ち。こんな無茶な設定を強引に成立させるあたり、やるなあ。

出版された順番に読んでいないので(時系列どおりに書かれていないので仕方ないのだが)、あれ?洋介のあの病気はいまどうなってるの、ととまどったりする。

そうかもっともっと中山作品を読まなければならないのだなと……ああ罠にはまっていく(笑)

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「ゆるキャラの恐怖 桑潟幸一准教授のスタイリッシュな生活3」奥泉光著 文藝春秋

2020-09-08 | ミステリ

前作の特集はこちら

三川町出身の奥泉光が放つ、実はスタイリッシュでもなんでもないヘタレ准教授のグダグダな日常。

いちおうミステリの体裁は保っていて、でもそれは底辺大学の文芸部員たち、特に構内でなぜかホームレス生活を送っているジンジン(激しく魅力的)が圧倒的な推理力を見せるので桑潟の出番はない。

それどころか、いくらクワガタって名前だからといって、そしていくら貧乏だからといってセミは食べないで(笑)

教育産業が大学にいかに食い込んでいるかとか、教育勅語への批判を低偏差値学生に語らせ、妙に説得力があるあたり、小説としてやっぱり面白いです。

あ、それから作品とは関係ないんですけど、長らくご愛顧しました三川のラーメン屋「いち」は8月末をもって閉店したそうです。なんでなんで(T_T)。ここで「極悪ごんぼ」や「カバチタレ!」を読むことはもうかなわないのか……

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「ノッキンオン・ロックドドア2」青崎有吾著 徳間書店

2020-09-07 | ミステリ

前作の特集はこちら

シリーズ第2弾。いやしかしよくもまあこんなに密室ネタとか考えつくよなあ。ただ、物語に一種の決着をつける最終章には納得しづらいものがある。せっかく育てたキャラだもの、もっと続けてほしい。

今日もまた、彼らは日産のパイクカー、パオの中古に乗って事件をタラタラ解決していると信じたい。

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「流れは、いつか海へと」DOWN THE RIVER UNTO THE SEE ウォルター・モズリー著 ハヤカワミステリ

2020-09-03 | ミステリ

身に覚えのない罪を着せられてニューヨーク市警を追われたジョー・オリヴァー。十数年後、私立探偵となった彼は、警察官を射殺した罪で死刑を宣告された黒人ジャーナリストの無実を証明してほしいと依頼される。時を同じくして、彼自身の冤罪について、真相を告白する手紙が届いた。ふたつの事件を調べはじめたオリヴァーは、奇矯な元凶悪犯メルカルトを相棒としてニューヨークの暗部へとわけいっていくが。心身ともに傷を負った彼は、正義をもって闘いつづける―。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長篇賞受賞作。

……オープニングからしてえぐい。盗難車の捜査の過程で、ある女性を訪れた黒人警官。彼女に誘われて関係を持つ。しかし、その女性がレイプされたと訴えたことで彼、ジョー・オリヴァーは職と妻の愛を失う。

“容疑者とよろしくやったせいで逮捕された警官”が刑務所でどのように扱われるかが壮絶。人間性を徹底的に否定され、暴力にさらされる。友人によって危地を脱し、私立探偵となった今もそのトラウマはぬぐいきれない。

そんな彼のもとに、今は遠くに住む“彼女”から手紙が来る。「あの時、あなたをわたしがはめたと証言してもいい」と。

かくて自らの尊厳をとりもどす闘いが始まる。射殺された警察官の悪徳、組織的な汚職など、事件は次第に広がりを見せていく。だから探偵が徒手空拳で挑んでもはね返されることは必至。そこで彼は、なぜか自分に恩義を感じている極悪人の手を借りることにするが……

通常の“卑しき街を行く孤高の騎士”というディテクティブストーリーとはおおいに趣を異にしている。オリヴァーはやせ我慢をして読者を満足させたりはしない。そのあたりで好き嫌いが分かれるところかも。

わたしは好きです。なんといっても、探偵のプライド回復の過程が、彼の性欲の回復とシンクロするあたりの苦みとおかしみがいい。

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