ああレンタルDVD屋に行っても食指が動く作品はあまりない。とすれば、むかし観た映画をもう一度観ればいいんじゃないの?それなら驚きはないかわりにハズレもないだろうし。
ということで「ラストサムライ」。トム・クルーズ演ずるアメリカ人オールグレンが、軍事顧問として明治日本にやってきて……なお話。
この作品が歴史に残るのは、渡辺謙という存在を、ハリウッドに、そして世界に知らしめたことだ。おそらくは西郷隆盛がモデルとなっているカツモトを、時にユーモアをまじえながら、貫禄たっぷりに渡辺は演じてみせた。
それだけではなく、いま見直したからこそ味わえる魅力がこの映画にはたっぷりとつまっている。
まず、子役が池松壮亮なのがうれしい。彼は先日、来日したトム・クルーズと旧交を温め合っていた。いいツーショットだったなあ。池松がほとんど顔が変わっていないのもいい。
そして今や「SHOGUN」で飛ぶ鳥を落とす勢いの真田広之が、キレキレのアクションを見せてくれる。斬られ役専門だった福本清三さんは、この作品でほとんど初めてセリフを与えられ、しかし2020年に亡くなっている。
最後の侍であるオールグレンとカツモトと対比させる意味で、農民たちを近代軍にしたてようとするオオムラを、これ以降も映画監督として活躍する原田眞人の役は大きい。彼は日本版の演出も担当している。キューブリックの「フルメタル・ジャケット」の字幕も担当した人だから適役。
それより、怒られそうだがトムも小雪も現在よりはるかに若く、(くどいようだけれども今も魅力的なのだが)とても美しい。もう一度観て、本当によかった。
2023年篇はこちら。
さあそれでは北米興行成績篇。2024年の結果は……
1 Inside Out 2 $652,980,194 4,440 $652,980,194 Walt Disney Studios Motion Pictures
2 Deadpool & Wolverine $636,745,858 4,330 $636,745,858 Walt Disney Studios Motion Pictures
3 Wicked $432,943,285 3,888 $473,231,120 Universal Pictures
4 Moana 2 $404,017,489 4,200 $460,233,062 Walt Disney Studios Motion Pictures
5 Despicable Me 4 $361,004,205 4,449 $361,004,205 Universal Pictures
6 Beetlejuice Beetlejuice $294,100,435 4,575 $294,100,435 Warner Bros.
7 Dune: Part Two $282,144,358 4,074 $282,144,358 Warner Bros.
8 Twisters $267,762,265 4,170 $267,762,265 Universal Pictures
9 Godzilla x Kong: The New Empire $196,350,016 3,948 $196,350,016 Warner Bros.
10 Kung Fu Panda 4 $193,590,620 4,067 $193,590,620 Universal Pictures
……おそるべきことに気づいてしまいました。わたし、この10本のなかで、デューンの2作目しか見ていない。興行成績ランキングのなかでですよ。
理由はさまざまだろうけれど、やはり今、ハリウッドは勢いを失っている。マーベルやDCのコミックもので稼ぎまくったのはいいが、どうやら客も少し飽きてきているし(今年に入ってからキャプテンアメリカの新作はヒットしていますけれども)、脚本家のストライキの影響からも脱せていない。そして、地殻変動としての“配信”がなんといっても大きい。
期待できるのはトム・クルーズだけなのか。彼のミッション:インポッシブルの新作はまだか。やっぱりわたしはハリウッド映画が大好きなのである。好きなの。
世界興行成績篇につづく。
日本映画篇はこちら。
つづいてはキネマ旬報ベストテン外国映画篇を。
1位「オッペンハイマー」(クリストファー・ノーラン)ビターズエンド、ユニバーサル
2位「瞳をとじて」(ビクトル・エリセ)ギャガ
3位「関心領域」(ジョナサン・グレイザー)ハピネットファントム
4位「哀れなるものたち」(ヨルゴス・ランティモス)ウォルトディズニージャパン
5位「ファースト・カウ」(ケリー・ライカート)東京テアトル=ロングライド
6位「ホールドオーバーズ」(アレクサンダー・ペイン)ビターズエンド、ユニバーサル
7位「シビル・ウォー」(アレックス・ガーランド)ハピネットファントム
8位「夜の外側」(マルコ・ベロッキオ)ザジフィルムズ
8位「落下の解剖学」(ジュスティーヌ・トリエ)ギャガ
10位「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」(グレッグ・バーランティ)SONY
つくづく、オッペンハイマーを観ていてよかった。そうでもなければベストテンを1作も観ない一年になるところだった。
にしてもやはりクリストファー・ノーランはすごいと思う。強烈な作家性を発揮しながら、娯楽大作としてまとめあげるその手腕。オッペンハイマーは彼の最上作ではないかもしれないが、わたしはひたすらに堪能した。
2位の監督名を見てびっくり。ビクトル・エリセってまだ現役だったの?あの名作「ミツバチのささやき」の人だよ。わたしレーザーディスク買いました。そして「瞳をとじて」は彼の40年ぶりの長篇劇映画なんだとか。しかもこの人、80何年も生きてきて、わずか4本しか撮っていないのである。キューブリックもびっくりの寡作っぷり。
わたしが残念だったのは、「シビル・ウォー」を見逃したこと。わたしの信頼する評論家が例外なく絶讃しているし。
個人賞は、主演女優賞は文句なく河合優実。主演男優賞は「夜明けのすべて」の松村北斗。助演女優賞は「ぼくが生きてる、ふたつの世界」の忍足亜希子。助演男優賞はもはや演技賞のレギュラーのような池松壮亮。監督賞は三宅唱、そして脚本賞は「ラストマイル」の野木亜紀子さんでした。納得。
マイベスト2024映画篇につづく。
ディスカスユーザーとなって長いわたしでさえ、どうしてこの映画をレンタルしたのかさっぱり。はて、どんな映画からこちらへジャンプしたのだろう。
主演のラッセル・クロウやライアン・ゴズリング目当て?それとも大好きな私立探偵ものだから?
いやー借りてよかったです。すごく(わたしにとっては)面白い作品だった。1977年のロサンゼルスという設定がなんとも泣かせる。
音楽もかなり考えてセレクトしてある。キャプテン&テニール、キッス、アース・ウィンド&ファイヤー、ビージーズ、クール&ザ・ギャング、テイスト・オブ・ハニー、ザ・バンド、アメリカ(曲はもちろん「名前のない馬」)、ルパート・ホルムス、アル・グリーン……わかってるなあ。
あるポルノ女優の死に、示談屋(ラッセル・クロウ)と私立探偵(ライアン・ゴズリング)が、どつき合いながら(というか一方的にクロウがライアンをボコボコにするだけだが)からんでいく。暗躍する殺し屋、そして黒幕は……ああ定型とはいえ、だからこそうれしい。
とにかくシェーン・ブラック(「アイアンマン3」)の脚本がおみごとで、残虐な展開とギャグの配分がいい。
ラッセル・クロウは思いきり体重オーバーだし、ライアン・ゴズリングは大泉洋に見えてくるんだけど、それも味。
同じようなタイプの映画で思い出されるのはレニー・ハーリンが「ダイ・ハード2」の直前に撮った「フォード・フェアレーンの冒険」。やはり私立探偵のお話。評価は圧倒的に低く、ゴールデンラズベリー賞で最低作品賞をゲットしているくらいなのだが、わたしは大好きだった。今度はそっちにジャンプしてみようかな。
一直線のストーリー。息子を殺した男を追いつめ、復讐を果たす。それだけ。それだけではあるけれど、自然光での撮影に徹底的にこだわった画面がとにかく美しい。しかし役者たちはたまらなかっただろう。美しいからこそ、アメリカ北西部の寒さが際立つ。
どうしてこの映画をこれまで見ていなかったかといえば、監督がアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ(「バベル」「バードマン」)で、主演がレオナルド・ディカプリオとくれば、どんな映画か“読める”じゃないですか。もはやイニャリトウは名画しか撮れず、ディカプリオは力演しているに違いない……
読みどおりの作品ではあったけれども、突き抜けた感動があったことは確かだった。ノミネートどまりだったディカプリオはこの作品でアカデミー賞主演男優賞を獲得。イニャリトウはバードマンにつづいて監督賞をゲットしている。
「テルマ&ルイーズ」で注目され、ロバート・レッドフォード監督作「リバー・ランズ・スルー・イット」でスターになったブラッド・ピット。この作品はその演技力が認められた作品。
監督は「ラストサムライ」のエドワード・ズウィック。大自然のなかで、ちょっとすねている息子、という設定は「リバー・ランズ・スルー・イット」とほぼ同様だ。父親役はアンソニー・ホプキンス。兄はあの「E.T.」の少年、ヘンリー・トーマスです。どう考えても「エデンの東」への返歌。
よく考えれば(考えなくても)暗いお話ではあるのだが、ブラピのキャラのおかげでしみじみといい気分で見終えることができる。
「私は神と人間のルールに従ってきた。お前は何事にも従わなかったが、皆はお前を愛した」
という兄の言葉を完全に体現しています。やっぱりブラッド・ピットはいい。
いろんなことがあったようで、エドワード・ズウィックとブラッド・ピットは二度とコンビを組むことはありませんでした。
タイトルからしてミッション:インポッシブルをおちょくっているガイ・リッチーの作品。おなじみのジェイソン・ステイサム、ヒュー・グラント、ジョシュ・ハートネットが出演。
クールでスノッブなスパイにはステイサムはおよそ見えないのだが、だからこそ笑わせてくれます。ガイ・リッチーはいい。まあ、興行的には大失敗だったようですが。
日本においてこの作品はとても不幸な公開のされ方だった。
米国では原爆の開発者を描いた「オッペンハイマー」と同日の公開だったのがことの始まり。オッペンハイマーの監督クリストファー・ノーランは、ワーナーが配信に軸足を移したことを批判して、ワーナーからユニバーサルに配給を変更した。その意趣返しとしてワーナーはこのバービーを同日に公開することにした……まあ、真相はよくわかりませんけど。
ということでバービーとオッペンハイマーは組み合わされてバーベンハイマーという造語まででき、結果的に両方とも大ヒットした。特にバービーは女性監督の作品として「ワンダーウーマン」を抜いて首位に立つほどだ。
ところが、そのバーベンハイマーについてのSNSの投稿で、バービーと原爆のキノコ雲が合成された写真が登場するなどしたせいで、被爆国である日本では両方とも批判されることになったのである。
オッペンハイマーは本来であればユニバーサル作品なので、日本では東宝東和が配給するはずなのにビターズ・エンドに変更。しかし作品のチカラで高評価を得る。
さてバービーは?予想よりもはるかに弱い興行になってしまった。日本ではバービーはあまり一般的ではないとか後付けの理屈も散見されたけれど……
さあ見てみました。
とにかく映画として面白いのは確かよね。その意味でとても満足できる。しかし日本で受けなかったのは、現実世界が(バービーの住む世界とは逆に)男尊女卑がはびこっているのを皮肉ったその姿勢にあると思う。作り手も(それは製作者をかねた主演のマーゴット・ロビーを筆頭に)驚くほどむき出しにフェミニズムを前面に押し出している。そんな作品がうけないあたり(なかには公開中止になった国もあるが)日本の後進性を現わしていると考えるのはうがちすぎ?
直訳すれば「小惑星の町」。この町は劇作家が舞台のためにつくった架空の町。劇中劇の製作過程が描かれるという複雑な設定。まあ、監督が「グランド・ブダペスト・ホテル」「犬ヶ島」などのウェス・アンダーソンですから(笑)。
彼の映画には、その才能への信頼と、きっと現場が楽しいだろうこともあって豪華なキャストが集合します。今回もすごいですよ。
トム・ハンクス、スカーレット・ヨハンソン、ティルダ・スウィントン、エドワード・ノートン、エイドリアン・ブロディ、ウィリアム・デフォー、そしてマーゴット・ロビー(わたしは今年、彼女の映画を何本見たのだろう)。
わけわからん、と敬遠する人もいるだろうけれども、俳優たちが気持ちよさそうに演じているのを見るだけでも楽しめます。