事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「暴論」PART5

2009-03-31 | 本と雑誌

59405595 PART4はこちら

 さあ、丸谷才一以上に文壇で嫌われている作家とは誰か。なんとあのノーベル賞作家なのである。

坪内:大江さんには、とんでもないエピソードがいろいろあるからね。

福田:そのうち連続殺人で挙げられても全然不思議じゃない、みたいな邪悪さ。

坪内:大江さんは25歳の時に、伊丹十三の妹と結婚するんだけど、伊丹は結婚には反対で、妹との結婚を邪魔するために、大江さんの女性スキャンダル……確か有馬稲子だったと思うけど……を女性誌にタレ込んだりするんだ。まあ、そういうことをする伊丹十三もかなり変な人だけど、大江さんが87年に出した自伝的な小説「懐かしい年への手紙」読むと、親友で義理の弟でもある伊丹十三の描き方とか、ちょっとすごいんだよね。

福田:文壇にもいろいろ酒乱がいるけれど、本当に酒乱と言えるのは大江健三郎だけ、というのが定評ですな。

……中上健次がその邪悪さのために、三島賞の選考会でずーっと大江健三郎に「お前死ね。お前死ね。」と言い続けていた挿話など、泣かせる。

【『噂の眞相』編集長・岡留安則をゲストに迎えて】

坪内:「タブーなき雑誌」ということになっている「噂の眞相」にも、タブーはあるでしょ。……つまり、椎名誠とか。

岡留:ははは。よく言われるんだよ。こないだも椎名誠の女遊びがひどすぎるって怪文書が寄せられてきてさ。

坪内:そりゃねぇ岡留さん、その怪文書は一度5年か10年前に流れたヤツで、周知の話ですよ。椎名さんのその手の噂はすごいんだから。

……このパートの何が凄いかというと、坪内祐三は椎名誠の「本の雑誌」に連載をしているということなのだ。「噂の眞相」ですら連載陣のスキャンダルは遠慮していたというのに、坪内の狂犬ぶりは軽くその上を行く。椎名誠は各週刊誌にほとんど連載をもっているため、出版社系だけでなく、新聞社系の週刊誌でもタブーの存在になっている。そのまま掲載した扶桑社もまた、さすが“新しい歴史教科書”の出版社と言っておこう(半分は皮肉ね)。

 現在、売れ行き不振もあってか休刊の噂が絶えない「本の雑誌」は、次第に坪内祐三色を強めていて(資金の提供まで申し出たらしいし)、それはそれでうれしい。でも目黒孝二や、当の椎名誠はどう考えているんでしょう

【暴論・おしまい】
画像は暴論の続編である「正義はどこにも売ってない」(扶桑社)。これも笑えます。

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「暴論」PART4

2009-03-30 | 本と雑誌

4061983784 PART3はこちら

経営者の教養水準】

坪内:ビジネス雑誌『プレジデント』って、うちに送られてくるから一応読むんだけど、「成功した勝ち組社長50人」みたいな特集で、「最近読んで感銘を受けた本」「愛読書」って質問があってさ。

福田:ほーぉ。

坪内:そしたら「本は読まない」って人が結構多いんだよ。ひとりすごい社長がいてさ、「本は読まない。興味を持ったらその人の所に直接行く」だって。そんな人に来られても困るよ。でもさ、今、それこそ谷沢永一先生が著書『本はこうして選ぶ・買う』の中で、「必ずしも本を読む必要はない」と斎藤孝を批判してるんだよね。「斎藤孝は本を読まなきゃダメだと言っているけど、そんなことない」というようなことを。本を読むことと、ビジネスで成功する能力とは全く別だから、さ。

福田:松下電器の創業者の松下幸之助なんて、ロクに字も読めなかった。小学校は4年まで行ったと言ってるけど、それも見栄で、ホントは2年しか行ってないんだから、あの人。

……わたしも斎藤孝のうさんくさい教養主義には辟易している。ましてや声に出して本を読むなど、戦前のファシズムの匂いがプンプンする。「この1冊」ってタイトルでやっといてなんだけど、本なんかなくても全然かまわない。ただ、あった方が少しは楽しいわけで、生活必需品だったらすすめたりするものか。

 さて、この「暴論」においてやはり真骨頂は作家への罵倒である。文芸関係のからみがすくない扶桑社だからこそできる芸当だろうが。いやはやすごいのだ。

まずは郷土の偉人(笑)丸谷才一は……

福田:最近は雑誌なんかで「女子アナ行きつけ」だの「有名人がプライベートで行く」みたいな店ばっかり紹介されてるけど、あれは結局、会うとうれしいからですよねえ。わたくし、丸谷才一さん(=作家・福田和也が常々とても手厳しく評論している大御所作家)と寿司屋が重なってたけど、丸谷さんと会って、うれしい人っていないから。

坪内:いないね。

……そこまで嫌わなくても。でも文壇で政治力を発揮しまくりの丸谷才一は、確かに嫌われ作家№1なのかも。いや、上には上がいる。以下次号

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「暴論」PART3

2009-03-29 | 本と雑誌

1972 PART2はこちら

【海辺のカフカ】
福田:村上春樹がとんでもないのは、「家族」というのを近親相姦を通して性的にしか見れないところですね。村上春樹の家族のリアリティってたぶんそこにしかないんでしょう。だから今まで、家族関係ってほとんど書いてこなかったでしょ。(略)村上春樹のオヤジっていうと……

坪内:京大の法学部を出て、戦争で中国に行ってるんだよね。それで村上春樹がインタビューに答えて言うには「わたしの父親はほとんど戦争に行ったことを語りたがらなかった。一度あるとき、食事中に『俺は中国でひどいものを見た。おまえには話せないけど、中国でひどいものを見た……』と言ったことがあったが、しかし私にはそのわずかな言葉ですべてわかった感じがする」というようなことを言ってて。「父親は生涯中国料理を食べようとしなかったし、私も、だから中国料理を食べたことはなかった……」と。

福田:村上春樹は両親のことに触れられるのをすごいいやがるんですよね。これまでもそれで揉めたことがある。

……「ねじまき鳥クロニクル」において、ほとんど唐突といえる形でノモンハンが物語をゆすぶったのは、こんな背景があったのだろうか。

【午後2時に焼酎を飲みながら】
坪内:昔はさ、日本のプロ野球がスポーツの中心で、そうすると夜9時か10時前に試合が終わって、それ以降の夜のニュースで結果を見て、翌日の朝刊で活字的に結果を確認して……という流れがあった、でも、メジャーリーグは時差の関係で、昼のニュースで結果が分かって、夕刊で確認でしょ。それによって、なんていうか、一日の中でスポーツ情報をどう取り入れていくか、というサイクルが完全に壊れたよね、スポーツニュースを受け付ける体内時計が常に時差ボケ状態というかさ。

福田:サッカーのコンフェデレーションカップのニュースなんかは、朝イチでしたからね。

……完全に同意する。朝のニュースはサラリーマン向けにやけにハイテンションなものだから、かえってメジャーリーグの報道はスポーツの祝祭性を削いでしまっている。もっとも、夜のニュースも次第にその影響を受けつつあるのが哀しい。次号もつづきます

画像は連合赤軍の非政治性を描いた「一九七二」。保守派の側からの苦い思い。

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「暴論」PART2

2009-03-28 | 本と雑誌

050519_02 PART1はこちら

 福田和也と坪内祐三のもうひとつの共通点。それはふたりの博覧強記ぶりである。同世代でありながら、その時代認識や教養の豊かさに舌をまく。福田は慶応、坪内は早稲田で教鞭をとっているが(坪内はもう辞めたとか)、彼らに教わる学生はしあわせだ(一青窈は福田ゼミの出身者)。その狷介な性格さえ我慢すれば(笑)、あふれるほどの知識を伝授してもらえるのだから。

 こんなふたりを対談させて面白くないわけがない。しかも毎回必ず酒を飲ませて語らせる「SPA!」のやり口もうまい。行司役はライターの石丸元章(覚醒剤で逮捕されたこの人のジャンキー本「SPEED」や北朝鮮関係の著作も面白いのでぜひ)。
 以下、この本で笑える部分をいくつか紹介します。

【神宮球場にて】
坪内:そういえば、1978年の4月にフォリナーが後楽園ホールで(コンサートを)やってるよ。

福田:出ましたな。坪内アルヒーフ(アーカイブ)。

坪内:フォリナーが会場に近づいてきたら、ものすごい数の客。「俺たちは日本ですごい人気者だ」と思ったら、実は後楽園スタジアムでやるキャンディーズの解散コンサートの客だった(笑)。

9.11
福田:「ナイン・イレブン」と発音するあの感じっていうのは、アメリカ人にとって今までのメモリアルデイとは全然意味が違うんだよな。多分、それ以外の名前がまだつけられないんだよ、
きっと。

坪内:世界貿易センタービルというのは1973年にできたのね、1931年にできたエンパイアステートビルなんかと比べてずっと最近なんだよ。歴史なんか全くないの。しかも、ああいう形の超高層ビルというのは、できた時からすでにして廃墟みたいな感じがあったんだよね。それが、ああいう形でほんとに廃墟、というかなんにもなくなっちゃって、逆にテロという出来事によって世界貿易センタービルが歴史性を帯びちゃった。

【ちゃんこ料理屋にて】
福田:相撲取りは一般社会とまったく感覚が違うところがいいんだ。琴錦さんなんか、二重婚約騒動起こしたときに「え、結婚って2人としちゃいけないんですか?初めて知りました」みたいな。

坪内:若貴で言うと、若はそのタイプだね。

福田:それに比べて貴乃花というのは、明らかに違うでしょ。“近代的自我”を持ってる。

坪内:ああ!それなのに相撲的世界にさらされているから、かわいそうに見えるんだ。

……異論もあるけど(^o^)、次号につづきます。画像は2005年のわたしのベストワン「私の体を通り過ぎていった雑誌たち」(新潮社)必読。今は新潮文庫で読めるみたい。

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「暴論」 坪内祐三+福田和也著 扶桑社刊

2009-03-26 | 本と雑誌

Boron01  坪内祐三(’58年~)と福田和也(’60年~)。わたしと同世代のこのふたりの評論家には、意外に共通点が多い。東京の東と西に生まれ、規模は違えどどちらも会社経営者(福田は福田製麺所。坪内の父はなんと元ダイヤモンド社社長である)の子弟であり、“保守”を標榜しながらマニアックな嗜好を隠そうともしない。なにより、その著作でどちらも各方面にケンカを売りまくっている。

 福田が「作家の値うち」(飛鳥新社)で現役作家(!)100人の作品を百点満点で評価してひんしゅくをかったのは記憶に新しい。石原慎太郎の著作の点数が高かったのは納得できなかったけど。

 坪内のエッセイを雑誌連載時に読んでいたときは、まさか同世代とは思いもよらなかった。古書店通いの日常は隠居老人のそれだし、購入する書籍も明治大正、そして昭和初期のものが多かったから。自作タイトル「古くさいぞ私は」(晶文社)そのまんま。ところが、同じ人間が神田帰りに渋谷のHMVに寄り、スプリングスティーンや佐野元春のCDを買っていたりするのである。

坪内がまだ無名だったころ、何度もその名を聞くことになったのは「噂の眞相」にて。当時の奥さんは写真家の神蔵美子。彼女はしかし編集者の末井昭との不倫に走り、その“セックスばかりやっていた”日常を写真集として発表してしまったのである。加えて、筑摩書房の編集者の(「王様のブランチ」にまだ出ているかな?)松田哲夫と新宿の路上を歩いているとき、ヤクザにからまれて重傷を負った事件もあった。「噂の眞相」にとって、まことにおいしい人物だったのである。坪内に、もう怖いものなどあるまい。

話は横道にそれるけれど、「写真時代」で有名な末井昭にもふれておこう。西原理恵子の著作で、女装趣味+先物取引で何億もの借金をかかえる危ないオヤジとして描かれる、この白夜書房の伝説の編集者のことは、彼の自伝的作品「素敵なダイナマイトスキャンダル」(ちくま文庫)に詳しい。母親が不倫相手とダイナマイトで爆死心中するシーンから始まるこのエッセイ集は、確か就職したばかりのころに読んでショックをうけたおぼえがある。世の中には、変わった人がいるものだと。

あー話が前に進まない。福田と坪内には、もうひとつ大きな共通点があるのだ。以下次号

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古畑任三郎を全部観る Vol.40「フェアな殺人者」

2009-03-25 | テレビ番組

Ichro01 第39話「今、甦る死」はこちら。今日はWBC優勝記念にイチローを特集しましょう。

現役のメジャーリーガーであるイチローを起用し、2時間半出ずっぱりの犯人役をやらせる……いかにオフシーズンの撮影で、イチローが古畑任三郎ファンだといっても、この企画よく成立したよなー。っていうか、まず企画会議で「犯人はイチローでいきましょう」と提案した人間の無謀さがえらい(笑)。

しかしアスリートが自身に扮して主演するのって、映画界ではよくあることなのだ。映画会社が球団をもってたりしましたから。あの堅物の川上哲治しかり(「川上哲治物語」)、鉄腕稲尾しかり(「鉄腕投手稲尾物語」)。でもまさか殺人まではやらせないだろうって?いやいや、阪神の藤村富美男が「必殺!仕置人」の元締め役で毎週……

それはともかく、CMに出ているイチローを見ると、他のスポーツ選手よりもはるかに見事に演技している。松井あたりのぎこちなさと比べるとよくわかるじゃないですか。「フェアな殺人者」でも、絶対に嘘をつかない殺人者(最後にひとつだけ嘘をつくのが残念)を達者に演じている。こりゃ、天性のものだな。

三谷幸喜がこの回でやりたかったのは、ハリウッドの野球映画の再現だろう。濡れたマッチ、加湿器といういかにもホテルで考えたトリックを用いながら、兄をかばうために恐喝者を殺してしまうイチローが、なぜそこまでかばうのかの理由がハリウッドっぽい。

サインボールの指紋について、もうちょっと気を配ってほしかったうらみはあるけれど、最高の肩を持ち、盗塁が得意な男しかできない犯罪という設定はいい。

セリフも笑わせる。

西園寺:まさかイチロー選手でヒットするとは思いませんでした。

今泉:イチロー選手は盗塁はするけど人の命までは盗ったりしないからね。

西園寺:今泉さん、しゃれたことを言うのはいいですけど、言ったあとに得意そうな顔をするのはやめてください。

フェアな殺人者イチローと、フェアな追跡者である古畑とのラストも気がきいている。

第41話「ラスト・ダンス」につづく。

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「アフタースクール」(2008 クロックワークス)

2009-03-24 | 邦画

Afterschool02_2  脚本、監督:内田けんじ
出演:大泉洋、堺雅人常盤貴子、佐々木蔵之介

そう来たかあっ!

思えば「公務員なめんじゃないって感じすか」というセリフなど、最初から伏線はりまくり。ホームドラマや探偵ものなど、観客が「こんな展開に違いない」という思いこみを利用した内田けんじの脚本と演出が(うわさどおり)周到。そしてこれまた観客をミスリードするキャスティングがうまい。だよなあ、山本圭があんな感じで現れれば誰だって……あわわネタバレになってしまう。

たいしてお金をかけなくても(登場するポルシェはプロデューサーの私物だとか)ここまで面白い作品が作れるというお手本。うれしいのは、面白い脚本にきちんと投資する人間が日本映画界にまだまだ存在するという事実だ。

妻はいきなり最初から見直してました☆☆☆☆

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古畑任三郎を全部観る Vol.39「今、甦る死」

2009-03-23 | テレビ番組

「すべて閣下の仕業」から2年、ファイナルと銘打ってフジテレビはお正月に3本のスペシャルをならべた。まさしく、最後の三本(のはずだったが……)。

Akumanotemariutap 最初の一本「今、甦る死」は、ミステリ好きにはこたえられない回になった。“探偵小説”らしいギミックが盛りだくさんなのである。

舞台は、ここが東京都(=警視庁管轄)かと思えるほどにひなびた村。パン会社の社長が熊に襲われて死亡。まもなく、後を継いだ社長の甥も屋内で“事故死”する。古畑は、現場にこぼれた水が甘いことに不審をいだく……

リメイク版「犬神家の一族」で、オリジナルでは横溝正史が演じた宿屋の主人役をもらって舞いあがった三谷幸喜らしく、横溝へのオマージュにあふれている。わらべ唄を使った見立て殺人とくれば「悪魔の手毬唄」だし、登場人物の名前がオトヤやタマヨなのも横溝っぽい。なにより、今回のキーパーソンは石坂(金田一耕助)浩二なのだ。

退職した校長である彼は、割烹着を身につけて発掘した石器の展示に熱中するなど、いかにもな人物造型に成功している。そしてこのドラマの枠内での彼の行動は、犯罪として指弾されることがありえないのだ。全シリーズを通じて最も巧妙な殺人。

もしも実際にわたしが人を殺すとすれば、今回の方法(未必の故意)を絶対に選択する。もちろん、現代の金田一耕助である古畑任三郎に『今、甦る死』を暴かれてしまうわけだが、犯罪であるか自分でも判然としないあたり、これこそ完全犯罪だろう。

長鼻のバスが走り、98才の老婆(吉田日出子!)がわらべ唄を披露するなど、横溝ムードいっぱいの演出もうれしい。自信たっぷりでありながら、しかしそれが虚勢であることを見抜かれてしまう実行犯……藤原竜也はこんな役ばっかりです(笑)。

第40話「フェアな殺人者」につづく。

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「歩いても 歩いても」(2007 シネカノン)

2009-03-22 | 邦画

Aruitemoaruitemo04 監督・原作・脚本・編集 : 是枝裕和
出演 : 阿部寛 、 夏川結衣 、 YOU 、 高橋和也 、  樹木希林 、 原田芳雄

長男の命日に集まる家族たち。彼の死の事情が薄皮をはぐように判明していく。次男(阿部寛)は子連れの未亡人(夏川結衣)と再婚し、失業中。医者である父(原田芳雄)の跡を継げなかった負い目は隠しおおせない。衝突し合う父と息子だが、足の悪い父親のために、散歩の途中で携帯に連絡があったように装ったりする……。

一家の中心をなす母親役の樹木希林の凄み。ほとんどニュアンスの化け物である。姉役のYOUの部屋が物置のように使われていて、ジョイ・ディビジョン(いまのニュー・オーダーですよ)のポスターが貼ってあるなど、是枝の真骨頂である自然さが過剰であるために、観客は息苦しいくらいだ。タイトルが“あの名曲”に由来していたとは気づかなかったなあ。

夏野菜を調理する音、親戚の家のピアノ、大人のサンダルを履いて冒険に出かけるこどもたち……誰もが、どこかで経験したことのある画面の連続。そんななか、明るく無邪気で、であるがゆえに残酷な主婦を演じた樹木希林の演技には圧倒される。次男と同じような境遇であるわたしは、はたして兄が死んでいなかったら……なんてことまで夢想させた傑作。

阿部寛と夏川結衣の「結婚できない男」コンビがこの映画につながると考えることもできる☆☆☆☆

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「黒部の太陽~ミフネと裕次郎」熊井啓著

2009-03-21 | 映画

Photo 64年当時、五社協定に苦しめられた三船敏郎石原裕次郎の意地の作品。シナリオを読んでびっくり。これ、いろいろな意味で今じゃ再映画化は無理だろう。熊谷組と関西電力が全面協力し(オフィシャルな製作費よりも、企業の無償のバックアップの方がどう考えても大きい)、動員もかけたからこそ実現できた奇跡。

裕次郎は事故で親指を痛め、製作を日活が邪魔するものだから三船は激昂し、監督の熊井は辞表をしたため……劇団民藝の宇野重吉をはじめ、新劇人が大挙して出演したのも大きかった。記録的な大ヒットはめでたい。

当時の映画界の旧弊さは、ビジネスとして成立しないようにしないようにがんばっていたとしか思えない。旧体制に抗うことでのし上がった日活なのに、堀久作はそのアンシャン・レジームを守ることに汲々としていたわけだ。

え?フジテレビが香取慎吾でテレビドラマ化?ほー。でもCGでどれだけの迫力がだせるかなあ。脚本が「クライマーズ・ハイ」の大森寿美男だから期待しようか。それにしても、映画はなぜDVD化されないのだろう。裕次郎の遺言?

ゼネコン社員のモチベーションアップのためにもぜひ☆☆☆★★★

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