第2627号 28.03.10(木)
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天道は是か非か。(文章軌範 司馬遷「伯夷伝」)
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世間には操行の正しくない人で、幸福を得ているものもあるし、反対に立派な行動をしてかえって逆境に苦しんでいる人もある。してみるといわゆる天道なるものも、果たして正しいか正しくないか、疑わざるをえない。520
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【コメント】上の言葉は、律儀とされるな伯夷叔斉のことを指しているのでしょうか。
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一般的には、操行・品行によって幸不幸があるわけですが、如何なる時も全てを受け止め、自らの努力によって人生を開拓して行く気概と行動力があればいいのではないでしょうか。
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野球賭博の関連で26歳のプロ野球選手が逮捕されました。会見をお聞きして、奥様と両親にお話して告白することにしたと弁明しました。この種の人はまだまだいると思います。会見をした青年の勇気に喝采を送りました。高木投手の今回の事は道を誤ったことのひとつですが、いろいろ聞いて真面目なのだな、と思うことでした。このような真面目な方にはやがて天が味方することでしょう。
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プロ野球界も芸能界同様、脚色された世界ですから、金と名誉を追い求め、折角の人生を踏み誤る人もいないではないでしょう。そういった意味では、漢籍の世界は、人間の移ろいと生き方を書いているので、半人前の私には大変参考になります。
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世の中、良いことはあまり噂になりませんが、悪い噂が多すぎるような気が致します。だから、『教の国 荘内』等々をご紹介しているつもりです。
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『臥牛菅実秀』(第163回)
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こうして鶴ケ岡城では抗戦論と降服論をめぐって数日、烈しい論戦がくりかえされたが決定がつかず、ついに老公忠発の裁決を仰ぐことになった。それは酒井吉之亟が刈和野から兵を返した日と同じ九月十六日のことであった。
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忠発は重臣一同を呼んで懇篤に喩した。
「わが藩は朝廷に対して、いささかの罪もないものを、奥羽鎮撫使は突然、逆賊の名をもって征討軍を差し向けてきたのは、薩長の参謀が私怨を抱いて朝旨をまげたものと、我も人も思ったからこそ抗戦したのである。それが今となって朝旨であることが明らかになったうえは、抗戦の罪を謝するのが道理ではないか。自分は一家の存亡、一身の栄辱などを考える心は、いささかもない。ただ道理にしたがって進退したいだけである。この戦争は降服謝罪することに決定するが、これは以上の心から出たものであることを一同もよく考えてほしい。」
このとき、実秀は長い沈黙のすえ、一番最後に
「仰せ謹んで畏まりました。」
と、深く顔を伏せた----。
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『教の国 荘内』(第54回)
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偶々明治廿三年南洲の銅像が建立せらるるに當り、其の形骸のみ伝わるを以て快れり4せず、永く翁の精神を遺さんとして敢行せるものが實に南洲翁遺訓なのである。当時荘内の士太夫は、此の遺訓の編集に当っては真に刻苦研鑚、一言隻句の末に至るまで翁の真意を傷けざらんとして夙夜幾十日此事に精励して、然る後始めて世に公にせしものなりといふ。かくて此の南洲翁遺訓の出版は、荘内士人に取っては決して世の所謂何々記念事業図書出版といふが如き月並的のものではあり得ないのである。南洲の為には-----然り荘内唯一の知己南洲の為には、已に明治十年に其の死を與にすべかりしものであったのである。然もそれを果さず廿三年に至り南洲の暗雲晴れて世に出づるに遇ひ、其の嘗て膝下に聴きし魂の記録を刊行して世に南洲の真精神を公にせんとするのである。荘内人士の當時の心境に想到して、「死に代へての出版」であると謂うことは此所以である。輿に死すべかりしを死せず、先生の教を百世の後に傳えて生前の恩義に報ぜん!
是れ実に荘内に於ける南洲翁遺訓出版の動機である。死に代えての出版----南洲翁遺訓こそ誠に其の書である。27
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南洲翁遺訓を改竄しようとする人間と、野球賭博をした青年とどちらが性質が悪いと思いますか。人間には過ちはあるのです。悪かった場合はお詫びをするのが、当然だと思います。
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荘内の先生方へ
この素晴らしい『教の国 荘内』を現代文に書き換えて多くの人々に読んで貰うことは如何でしょう。
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『農士道』(第439回)
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手下げ鞄一つを軽く抱えて電車で出勤する都会の勤人(サラリーマン)の生活に比べれば、戴星踏月、或は重い肥桶を擔ひ、或は米俵を背負い、或は鎌を振い、或は鍬を振う農耕者の生活は、確かに重い袋を擔って八十神の後から従いて行く様なものである。それは一見愚かに見えよう。つまらぬことに見えよう。然しその愚かさ、そのつまらなさの中に又安けさと、定かさと、而して「森林の自由」とが存する。一見しての此の愚かさ、此のつまらなさに徹したものでなければ、農村に真に安住することが出来ず、又農道生活を真に成就することも出来ぬ。
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天道は是か非か。(文章軌範 司馬遷「伯夷伝」)
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世間には操行の正しくない人で、幸福を得ているものもあるし、反対に立派な行動をしてかえって逆境に苦しんでいる人もある。してみるといわゆる天道なるものも、果たして正しいか正しくないか、疑わざるをえない。520
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【コメント】上の言葉は、律儀とされるな伯夷叔斉のことを指しているのでしょうか。
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一般的には、操行・品行によって幸不幸があるわけですが、如何なる時も全てを受け止め、自らの努力によって人生を開拓して行く気概と行動力があればいいのではないでしょうか。
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野球賭博の関連で26歳のプロ野球選手が逮捕されました。会見をお聞きして、奥様と両親にお話して告白することにしたと弁明しました。この種の人はまだまだいると思います。会見をした青年の勇気に喝采を送りました。高木投手の今回の事は道を誤ったことのひとつですが、いろいろ聞いて真面目なのだな、と思うことでした。このような真面目な方にはやがて天が味方することでしょう。
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プロ野球界も芸能界同様、脚色された世界ですから、金と名誉を追い求め、折角の人生を踏み誤る人もいないではないでしょう。そういった意味では、漢籍の世界は、人間の移ろいと生き方を書いているので、半人前の私には大変参考になります。
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世の中、良いことはあまり噂になりませんが、悪い噂が多すぎるような気が致します。だから、『教の国 荘内』等々をご紹介しているつもりです。
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『臥牛菅実秀』(第163回)
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こうして鶴ケ岡城では抗戦論と降服論をめぐって数日、烈しい論戦がくりかえされたが決定がつかず、ついに老公忠発の裁決を仰ぐことになった。それは酒井吉之亟が刈和野から兵を返した日と同じ九月十六日のことであった。
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忠発は重臣一同を呼んで懇篤に喩した。
「わが藩は朝廷に対して、いささかの罪もないものを、奥羽鎮撫使は突然、逆賊の名をもって征討軍を差し向けてきたのは、薩長の参謀が私怨を抱いて朝旨をまげたものと、我も人も思ったからこそ抗戦したのである。それが今となって朝旨であることが明らかになったうえは、抗戦の罪を謝するのが道理ではないか。自分は一家の存亡、一身の栄辱などを考える心は、いささかもない。ただ道理にしたがって進退したいだけである。この戦争は降服謝罪することに決定するが、これは以上の心から出たものであることを一同もよく考えてほしい。」
このとき、実秀は長い沈黙のすえ、一番最後に
「仰せ謹んで畏まりました。」
と、深く顔を伏せた----。
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『教の国 荘内』(第54回)
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偶々明治廿三年南洲の銅像が建立せらるるに當り、其の形骸のみ伝わるを以て快れり4せず、永く翁の精神を遺さんとして敢行せるものが實に南洲翁遺訓なのである。当時荘内の士太夫は、此の遺訓の編集に当っては真に刻苦研鑚、一言隻句の末に至るまで翁の真意を傷けざらんとして夙夜幾十日此事に精励して、然る後始めて世に公にせしものなりといふ。かくて此の南洲翁遺訓の出版は、荘内士人に取っては決して世の所謂何々記念事業図書出版といふが如き月並的のものではあり得ないのである。南洲の為には-----然り荘内唯一の知己南洲の為には、已に明治十年に其の死を與にすべかりしものであったのである。然もそれを果さず廿三年に至り南洲の暗雲晴れて世に出づるに遇ひ、其の嘗て膝下に聴きし魂の記録を刊行して世に南洲の真精神を公にせんとするのである。荘内人士の當時の心境に想到して、「死に代へての出版」であると謂うことは此所以である。輿に死すべかりしを死せず、先生の教を百世の後に傳えて生前の恩義に報ぜん!
是れ実に荘内に於ける南洲翁遺訓出版の動機である。死に代えての出版----南洲翁遺訓こそ誠に其の書である。27
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南洲翁遺訓を改竄しようとする人間と、野球賭博をした青年とどちらが性質が悪いと思いますか。人間には過ちはあるのです。悪かった場合はお詫びをするのが、当然だと思います。
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荘内の先生方へ
この素晴らしい『教の国 荘内』を現代文に書き換えて多くの人々に読んで貰うことは如何でしょう。
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『農士道』(第439回)
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手下げ鞄一つを軽く抱えて電車で出勤する都会の勤人(サラリーマン)の生活に比べれば、戴星踏月、或は重い肥桶を擔ひ、或は米俵を背負い、或は鎌を振い、或は鍬を振う農耕者の生活は、確かに重い袋を擔って八十神の後から従いて行く様なものである。それは一見愚かに見えよう。つまらぬことに見えよう。然しその愚かさ、そのつまらなさの中に又安けさと、定かさと、而して「森林の自由」とが存する。一見しての此の愚かさ、此のつまらなさに徹したものでなければ、農村に真に安住することが出来ず、又農道生活を真に成就することも出来ぬ。
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