平和1丁目 ~牧師室より~

福岡市南区平和にあるキリスト教の平尾バプテスト教会の週報に載せている牧師の雑感

2013年12月8日 あるクリスマスの出来事 ~詩 佐久間 彪~

2013年12月15日 13時37分19秒 | Weblog
あるクリスマスの出来事 ~詩 佐久間 彪~

老いた ひとりの農夫が
ゆりの椅子に 身をゆだねて
暖炉の火を 見つめていた。
 
遠く 教会の鐘が鳴っている。
クリスマス・イブ。
 
かれは もう長いこと
教会に背を向けて生きてきた。
「神が人間になった、だと?
ばかばかしい。
だれが そんなことを信じるものか。」
 
眼を閉じ、薪のはじける音を聞きながら
かれは まどろみかけていた。
 
突然
窓ガラスに 何かがぶつかる烈しい物音。
それも次々に、さらにさらに烈しく。
何事かと、かれは身を起こした。
 
窓際に立って 見たものは
音も無く雪の降りつもる
夜闇の中に
この家をめざして押し寄せてくる
おびただしい小鳥の群れだった。
 
雪闇に
渡りの途(みち)を誤ったのだろうか
小鳥たちは ともしびを求めて
ガラス窓に次々と打ち当たっては
むなしく軒下に落ちていく。
 
かれは しばし呆然と
その有様を眺めていたが
外に出るや 雪の降り積もるなか
一目散に納屋へと走った。
 
扉を大きく左右に開け放ち、
電灯を明々と灯して
干し草をゆたかに蓄えた暗い納屋へ
小鳥たちを呼び入れようとした。
かれは叫んでいた。
「こっちだ、こっちだ、こっちへ来い!」
 
しかし はばたく小さい
命たちは
かれの必死な叫び声に応えず
なおも
ガラス窓に突き当たっては死んでいった。
 
農夫は 心のうちに思った。
「ああ、わたしが小鳥になって、かれらの言葉で
話しかけることが出来たなら!」
 
一瞬 かれは息を飲んだ!
かれは
瞬時にして悟ったのだ。
「神が人になられた」ということの意味を。
かれは思わず その場にひざまずいた。
 
今や、人となり給うた神の神秘にみちた愛が
ひざまずく老いた農夫を静かに被い包んでいた。
かれの上に降りかかり降り積もる雪は
そのしるしとなっていた。


L・ハンキンス 師