羽を痛めたお客
先日、大名クロスガーデンに羽を痛めたお客がやってきた。彼は真っ黒で、いつもごみをあさっては嫌がられる存在だが、この時は痛々しい姿で現れた。大きな漆黒の羽を元の位置に戻せないまま引きずり、モミの木の下で雨を避けながら、しょげているように見えた。猫にでもやられたのだろうか。初めて見かけてから1週間は経過している。
あまりにもその姿を頻繁に見るのでさすがに憐れに思い、豆系のお菓子を彼の周りに差し出した。しかし、彼は受け取らない。彼の近くに投げても、一瞥するだけである。近づこうとすると彼は逃げる。人間がいかに大きな恐ろしい存在に見えるのだろうか。
助けたいという熱意や意志は彼には全く関係がない。彼は逃げるように大名の街角へ出て行った。大名一丁目界隈はビルが密集している。彼が隠れることが出来るところはあるのだろうか………ところで神が人間を救おうとする腹がちぎれるほどの憐みの気持ちは人間には伝わるのだろうか。
恐らく、その試みは旧約時代には上手くいかなかったが、新約の時代を通して神の子を人間の中に送り込むことによって、救いの意志をイエスに示した。私は、ひと時、カラスになりたかった。
森 師