ステッキを片手に、ゆったりとした足取りでピアノのもとに進み、深々と一礼。鍵盤に向き合うと、もうそこにはただ、音楽があるのみ。派手なパフォーマンスや自己顕示からは最も遠い場所にあります。前半、後半共に、一時たりとも休憩をとらず、観客はひたすらその音楽に身をゆだねるという幸福に預かりました。
今回は、シューマンの「子供の情景」、ショパンのタランテラOp.43と幻想ポロネーズ、後半にドビュッシーの前奏曲集第1巻というプログラム。柔らかいタッチでありながら、音楽の構成に曖昧模糊としたところが一切なく、各声部の役割も明瞭です。そしてあの色彩感、特に後半のドビュッシーは、連作の絵画か短い劇を見ているようでした。
87歳という年齢で現役ピアニストというだけでも驚きですが、もはやそういう話のレベルではありません。ひたすら音楽に仕える者というその佇まい、鳴り止まぬ拍手への穏やかな表情、手を振り、来た時と変わらぬしっかりとした足取りで袖に退場する姿。。。。すべてが美しい。こんな風に年を重ねられるのは、やはり積み重ねでしょうね。そんな単語はありませんが、「絶対音楽家」とでも呼びたい、真の芸術家の姿を見た思いが致しました。素晴らしい夜をありがとうございました!
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