夏になると書店も「夏の文庫本フェア」などで賑やかになるからか、はたまたは子供の頃の読書感想文の習慣か、「ちょっとしっかりした文学を読んでみるか」という気分になります(私だけですか?)。
というわけで、今回帰省のお供に持って行ったのが夏目漱石の『草枕』。実はこの本、有名な冒頭の文章がとても好きなのですが、そこで終わっておりまして、ちゃんと読んだことがなかったんですね。大学受験の頃、予備校で「この文章を見たら草枕、と答えられるように」とか「智とか情の部分が空白でも埋められるように」みたいなことを言われたと思うのですが、「こんなことを覚えるより、作品を一つでもちゃんと読んでもらった方が有意義なんだけどね。。。。」という先生のつぶやきが忘れられません。
さて、草枕です。この作品、漱石文学の中でどうのような立ち位置を占めているのかよくわかりませんが、筋は大して重要じゃないな、というのがまず感じたことです。正直、作品名を伏せてあらすじを説明され、「是非読んでみたい」と思う人はほとんどいないんじゃないかというくらいです(あくまでも個人的感想です)。
ただ、端々に出てくる漱石の人生観や美意識のようなものがとても面白い。特にこの作品は、絵描きが主人公なので、人や物の描写になるほどと思わせられるものがあります。漱石自身も、小説、俳句にとどまらず、絵もかなり上手かったということですから、観察眼も優れていたのでしょう。因みに私が好きだった場面の一つに、宿の女主人に羊羹を振舞われるところがあるのですが、その羊羹の描写が実に美しいのです。これは単に私が甘いもの好きだからかと思ったりもしたのですが、実はこの作品を説明するときに、よくあげられるシーンのようでした。和菓子屋に買いに行きたくなること請け合いの名描写だと思います。漱石の審美眼を覗いてみたい方、必読の書です。