昨日は久々のお休みなるも、山形Q定期間近の私は一日練習、、、するべきだったのかもしれませんが、実ははるばる岩手県は平泉、中尊寺まで行って参りました。ヴァイオリニスト五嶋みどり氏がデビュー30周年を記念して、全国各地の神社仏閣や教会でバッハの無伴奏曲を演奏するツアーを行っており、なんと私は高倍率の中から抽選で見事、中尊寺でのコンサート当選を射止めたのでした。(中尊寺でのコンサートは、チケットは販売されず抽選のみだったのです。)やったー!!
五嶋みどり氏の生演奏には、これまでにも何度かふれる機会がありましたが、常に並々ならぬ集中力をもって、期待を決して裏切らないハイレベルな演奏を聞かせて下さいます。どれも印象深い演奏ばかりですが、一つ忘れられないのが、阪神大震災の後のチャリティーだったと思いますが、NHK交響楽団の演奏会にソリストとして参加し、メンデルスゾーンのコンチェルトを弾いたときのこと。そのコンチェルトも素晴らしかったのですが、彼女はなんと、アンコールでバッハのシャコンヌを弾いたのです。バッハのシャコンヌといえば、無伴奏曲集の中でも最高峰に位置する難度と深い内容をもつもので、それ一曲でも15分ほどかかる大曲です。普通アンコールで弾くようなものではないのですが、彼女はそれを見事、大変な気迫で弾ききったのでした。ただの一ヶ所も弛緩することなく、まるで太い墨痕で一息に書き上げた書の様な演奏で、私はしばらく呆然としていたのを覚えています。
私が当選した日の演目は、ソナタの一番、三番、そしてシャコンヌを含むパルティータの二番。いうまでもなく、大変なテクニックと集中力を要求されるわけですが、懸念が一つ。それは場所がお堂ゆえ、境内から演奏が覗ける状況、つまり湿度、気温は外と同じ(除湿器や冷房の類は一切なし)で、外部の音を遮断するものは何もないということ。勿論音響効果など望むべくもありません。マスコミの報道などで、彼女自身は学校の体育館でもどこでも愛器を持って演奏しにいくということを聞いたことがあるので、当然この状況は認識していたでしょうが、私としては、この真夏日、この状況で、周囲が静かに最後まで聞いてくれるかということに少し不安を感じていました。
しかしそんな心配は杞憂でした。ひとたび演奏が始まると、畳に座った聴衆は一気に彼女の世界に引き込まれて行き、扇などを使うことも殆どなく、ごくたまに控えめに風を送る程度にあおぐくらいで、皆熱心に耳を傾けております。蝉の声はそのまま聞こえてきますが、自然の音ゆえか、それほど演奏の邪魔になるものではなく、むしろ演奏する人間の営みとなにか調和する部分も感じられました。ただ一つ残念だったのは、ときおり投げ込まれるお賽銭の金属音はちょっと。。。。まあ演奏会などと知らず参詣にいらした方もいらっしゃいますから、文句はいえませんが。
演奏は実に感動的なものでした。言葉足らずでうまく言えませんが、骨太というよりは純度の高い精神的な演奏で、なにか冴えかえった月の光を連想させられました。各曲の間に入退場はありましたが、トイレなどの休憩は一切なし。にも関わらず彼女の集中力は一時も途切れる事がありません。そして何と、最後のパルティータ二番は、全部アタッカ。いや、思い返せば、ソナタ二曲だって殆ど切れ目なしだったのではないでしょうか。楽器をおろして汗を拭ったりした姿を見た記憶がありません。前回一息に奏でられたシャコンヌに呆然とした私でしたが、今度は一曲丸ごと一息に演奏する姿を目の当たりにし、なんだかこの世のものではないものに対面してきたような心持ちがしました。
演奏会が終わってもこれでさようならということではなく、聴衆と握手をしたり、言葉を交わしたりの交流の場を持つみどりさん。しかも立ったままですよ。。。私は帰りの電車とバスの時間があるため並びませんでしたが、このパワー、本当に握手でもしてあやかって来たかったです。デビュー30周年ということですが、まだ今年で41歳。お体を大切にして、これからも益々の充実した活動を続けて頂きたいと思います。30周年、心からおめでとうございます!とりあえず頂いてきたエネルギー、このまま山形Qの定期演奏会に向けて頑張ります!