らんかみち

童話から老話まで

その男、なぜ死んだ

2007年06月22日 | 男と女
 母のしゃべったことを日記のネタにし、投稿して小遣いまで稼いでいながら言うのもなんだけど、母は本当の事を話しているのか疑問に思わないわけではありません。なぜなら同じ話を2回目に聞こうとしたら「そんな話をした憶えはない」と突っぱねられるからです。呆けたんだなあと思いつつ、こればっかりは人知の及ばないところなので、親不孝なぼくのせいじゃないよなと、いつも自分に言い聞かせながら田舎の母に電話するのです。
 
 心配するといけないからという理由で、母には入院していたことをひた隠しにしていたんですが、生命保険とかの関係で書類が必要になりました。そこでやむなく今回の電話で白状しましたんですが、母はぼくが何で入院していたかは問い詰めませんでした。というのも、田舎で何やら知る人ぞ知る事件があったらしく、その一部始終をぼくに語って聞かせることのほうに心血を注いだからです。その話とはざっとこんな風でした。
 
 一昨年の初めのころ、あるおじいさんが蜜柑山で亡くなったのに話は始まります。今にして思うと、おじいさんの死因には不審なところはあったにもかかわらず、転落死で済ませられたといいます。そして残されたのはぼくと同級生の男と、年のずいぶん下の妹さんらしいですが、いったいぼくの同級生は何人事件にかかわっているのか、いやたぶん母のでまかせというより思い込みなんでしょう。
 
 聞いたこともない名前の同級生は元やくざだったらしいのですが、このところの不況のせいか、属していた組がつぶれると数年前に田舎に帰り、魚を盗って(獲ってではない)口に糊していたといいます。早い話が密漁というやつで、モーターボートのようにスピードの出る漁船を操っては他府県の漁場を荒らしていると噂されていました。
 
 金回りは良かったらしいのですが酒癖が悪く、しょっちゅう酔って飲み屋で喧嘩していたといいます。そんな兄の無頼に迷惑をこうむっていたのは彼の妹さんで、30も半ばを過ぎ、良い縁談がきても、やくざな兄の所業を理由にことごとく流れていたのです。
「お前みたいなやくざもんがおるけん娘が結婚できんのじゃ、バカたれが!」
 酔ったお父さんが、これまた酔った息子をなじる声が夜毎のように響いていたと、近所の人の噂でした。
 
 長くなるので、つづく

最新の画像もっと見る

コメントを投稿