北海道美術ネット別館

アート、写真、書など展覧会の情報や紹介、批評、日記etc。毎日更新しています

美幌博物館へ行ってきた

2009年05月05日 21時49分10秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 筆者もぜんぜん知らなかったのだが、網走管内美幌町の美幌博物館・農業館には、かなりの量の絵画が常設展示されている。
 これは、鵡川出身(現日高管内日高町)、美幌在住の画家横森政明さんや、美幌出身の美術商三木崇生さんをはじめ多くの人から寄贈されたコレクションで、三木さんは十数年にわたって毎年数点ずつ寄贈を続けているという。

 明治期の洋画家鹿子木孟郎や、昭和期の洋画壇の大御所で二科の鶴田吾郎、独立美術の林武、さらに、道内ゆかりの画家では木田金次郎、田中忠雄、居串佳一、久保守、田辺三重松といった顔ぶれがそろう。
 松樹路人は4点あり、そのうち1956年の題不詳は、公園や教会、斜面などが配されたメルヘン調の作品で、印象に残る。すくなくとも後年の写実的な人物画とはまったく異なる画風である。

 大半が物故者だが、現在も活躍中の画家としては、松樹のほか、札幌在住の行動美術会員、岸本裕躬がいる。

 もう1点、興味深く感じたのは、戦時の作品がけっこうあること。
 といっても、露骨な戦意高揚ではないのだが、大陸の戦線や風土を題材にしたとおぼしきものが多い。
 月あかりに照らされた建物を描いた居串「熱河(普陀宗乗廟)」もそうだし、住谷磐根「江湾鎮風景」の画面には「上海市政府地」と但し書きがしるされている。
 瀬俊雄「陣中無聊を慰む」は、地面に腰を降ろしてやすむ兵士4人の、つかの間の休息を描く。ひとりが横笛をふくと、もうひとりは握り飯を食べ、さらにひとりはたばこをのむ。やすらぎの一場面である。

 おなじ画家の「恩寵」は、いすに座って本を読む母親と、寄り添う娘の像。娘の青いワンピース、母のスリッパなどを見ていると、4年前に戦争が終わったばかりとは思えない、豊かさとゆとりを感じさせる。あるいは「こうあってほしい」という願望なのかもしれない。

 最も点数が多いのは横森政明。
 ペンやエッチングの「樹シリーズ」など、木々を執拗に描いた作品群が印象に残る。


 なお、「農業館」は来年度まで改装工事中で公開していない。

 ただ、作者名と作品名、年号しか書いていないので、画家全員でなくていいから、一部の出品者について簡単な略歴などがあると、見る人の理解を助けてくれるのではないかと思った。
 北見、網走方面へ行かれる美術ファンは、足を延ばしてはいかがだろうか。


 展示されていた作品は次のとおり。
小島善太郎「おもいで(コローによる)」M50
中村研一 「川奈にて」F10
中山巍  「満州風景」F10
居串佳一 「熱河(普陀宗乗廟)」P15 1944年
鹿子木孟郎「糺ノ森ノ早春」P10
林 武  「海」P5
田辺三重松「山湖」F10、「海」F8
木村忠太 「百合」F6
鶴田吾郎 「河津川の新緑」F6
中谷龍一 「白壁の家(トレド)」F6 1985年
上野春香 「富士(白糸村の春)」F10
住吉磐根 「江湾鎮風景」P8 1938年
鈴木亜夫 「ロシアの女」P5、「風景」F12 1954
田中忠雄 「イスラエルの芸術家村」M10
飯田実雄 「バラ」F8
木田金次郎「静物」P5 1961年
久保守  題不詳 F10
木村捷司 「秋鮭」F12 1961年
松樹路人 「黒い花」F6 1966年、「梅咲く」P8 1962年、「雌阿寒岳」F6 1955年、「題不詳」P10 1956年
斎藤紅一 「卓上の果物」F4 1970年
伊藤彪  「花」F6 1956年

瀬俊雄 「恩寵」M80 1949年、「幕間少憩」F80 1966年、「翔る」F80 1972年、「旋転」F80 1961年、「自画像」P30 1930年、「アトリエA」M60 1954年、「裸婦によるコンポジション」F100 1955年、「樹陰」F100 1976年、「陣中無聊を慰む」F100 1941年
瀬俊泰 「BLUE IN GREEN -神の子池-」変形120 2004年
瀬緑  「裸婦」F50 1962年
(以上、「」は「柳」の外字)

岸本裕躬 「亡き父の像」F100 1986年
山根博  「大雪連峰」F30 1952年
横森政明 「馬方」M50 1955年、「人々」M50 1954年、「野の花」F20 1956年、「アイロンを押す」F30 1960年、「靴屋」F30 1956年、「母子(C)」F80 1966年、「抱く(B)」1966年(このほか、ペン、パステル、エッチング、水彩などのシリーズ多数)
納直次  「暮れゆく斜里岳」P40 1961-66年、「石狩初秋」P40 1990年
鷲見憲治 「春氷知床」F10
小竹義夫 「美幌峠」M25
大江啓二 「夏」F12 1955年、「秋の阿寒湖」F12 1964年、「シクラメン」F12 1966年


http://www.town.bihoro.hokkaido.jp/museum/



・一般300円、高校生以下無料
9:30-17:00、月曜休み(祝日は開館)
網走管内美幌町美禽(みどり)253-4

・JR美幌駅から徒歩30分
・北見バス「美幌・津別線」の「美禽入口」から徒歩20分


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。