
(長文です。また、会期中に間に合わなかったことをおわびします)
いやー、悪いことしちゃいました。
「連檣展」は、1989年の北海道書道展で、大賞と準大賞を得た、安喰のり子、安藤小芳、石田壱城、君庸子、國澤翠風の書家5氏による展覧会。
10年ぶりの開催です。
10年前のときには見た記憶がないんですよ-という話をしていて、あとで調べてみたら、ちゃんと1999年の北海道新聞に、筆者が書いた「連檣展」の記事が出ていたんです。
じぶんの、あまりの忘れっぽさに、われながらあきれております。
ほんとうに、申し訳ありません。
道展の同期として、いっしょに酒を飲むなど、もともと仲が良かった5人。
ただ会って話してるだけじゃなく、書展を開こうと10年前に初めての5人展を開催しました。
連檣展の名付け親は美術評論家の佐藤庫之助さん。肩書は美術評論家ですが、実情は書道専業という、書壇からの信頼厚いベテランです。「檣」は、「帆柱」の意。
ちなみに、石田さんだけが男性で、北広島在住。ほかの4人は、いずれも女性で札幌在住です。
安藤小芳さん。
墨象も漢字も手がける幅広い方です。
左端は、「逆風満帆」(182×182)。「順風満帆」ではありません。
35年前に「女流書作家集団」の創立に参画して以来の思いをこめた-とのことです。
当初はまだ書壇は圧倒的に男性優位であり、社中の代表なども大半が男性。「女性ばかりで続くわけがない」などと言われ、悔しい思いもしたそうです。
「でも、何年か過ぎたらなにも言われなくなりました。男性のみなさんは、うらやましくなったのかもしれないですね」
と笑顔の安藤さん。
そのとなりは「舵」(140×140)。
中央に見える「生々流転」(180×62)も、この書家の思いがこめられている文言でしょう。
女流書作家集団の仲間たちと四国八十八カ所のうちの寺院数カ所を旅したとき、普通よりもかなり長い筆を土産に買い求めて、それで書いた作品。硬そうで、やわらかい、ふしぎな線質になっています。また、墨をあまり吸い込まない紙を使っているのも、おもしろい効果をあげています。
ほかに「衆妙之門」(133×62×2)「玄之又玄」(133×62×2)。いずれも老子から。
安喰のり子さんはかな書家です。道内のかな書を代表する松本春子さんに師事し、1989年に毎日書道展会員推挙。現在は、さわらび会副会長、北海道書道連盟参事などを務めています。
右は
「のちの月 葡萄に核のくもりかな」(115×54)
という、江戸期の俳人夏目成美の一句。
この作だけではないのですが、あまり連綿になっていません。そのことを尋ねたら
「葡萄が、ぽつぽつなっている感じを出したかったんですよ。月の位置も、月光がさし込んでいるように、と思って」
とのこと。なるほど、字の配置にも、いろいろな思いがこめられているのですね。この「月」の配置は、かなりの破調で、おもしろいですね。さらに、下に数センチだけ紙を継いでいます(図録の写真では省略)。
中央は
「葛の花踏みしだかれて色あたらし この山道をゆきし人あり」(60×134)
という、釈迢空の代表作。安喰さんの好きな一首だそうです。
お気に入りの紙に書いたら「山道を」のところで紙がなくなり、別の紙に「ゆきし人あり」を書き継いだ異色の構成ですが、額装を工夫したことで、これが独特のリズムを生んでいます。
左は「のどかさや白帆過ぎ行く垣の外」(151×40、151×21)」。
正岡子規の句で、やはり2枚の紙にまたがって書かれています。
ほかに
「冬ごもり春さり来れば鳴かざりし鳥も 来鳴きぬ咲かざりし 花も咲けれど 山も茂み 入りても取らず草深み 取りても見ず秋山の 木の葉を見ては 黄葉をば 取りてそしのぶ 青きをば 置きてそ嘆く そこし恨めし 秋山そ我は」(額田王、180×60×3)
「冬の日のよくあたる縁やおもちゃ箱」(子規 43×30)
「君が家につづく河原のなでしこに うす月さして夕となりぬ」(与謝野晶子 36×25)
石田壱城さん。
北広島市文化連盟などで中心的な役割を果たしつつ、2006年には読売書法会で理事・審査会員に推挙されています。
今回は行書や隷書、淡墨の少字数書など幅広い漢字作品を出品しています。
右は「空」(70×170)。かんむりに、古拙的な味わいと勢いとが同居して、おもしろい構成になっています。
そのとなりは「無心」(125×70)。余白の取り方に、澄み切った境地のようなものを感じました。
ほかに
「寂心」(140×35)
「冨貴」(160×53)
「波沸岬」(235×53)
「萬雷春」(182×35)
「晩径黄花」(235×53)
「幽貞」(70×35)
「心」(24.5×27.5)
国澤翠風さんも漢字です。
旭川生まれで中川清風に師事。1992年に毎日展毎日賞を得て、会員に推挙されています。
筆者ごときがあまり大それたことは言えないのですが、全体として、墨の潤滑が変化に富んでいておもしろいのと、直線の力をいかした書風になっていると感じました。左から二つ目の「連」(104×133)は、まさにその特徴の生きた作でしょう。
左は「天地秋」(236×55)。
右から二つ目は「禮尚往来」(138×208)。「礼は往来をたっとぶ」と読むそうです。
右端は「燿」(152×83.5)。飛沫がパワフルです。
ほかに
「光風霽月」(110×55.5×2)
「連」(35×70)
「この道より我を生かす道なしこの道を歩く」(武者小路實篤、70×35)
君庸子さんは近代詩文書です。
十勝管内浦幌町に生まれ、我妻緑巣氏に師事。2007年に毎日書道展の会員に推挙されています。
右から2番目の「環状列石 太陽の軌道と季節の変化を見守る」(180×97)の力強さにひかれますが、右端の作が個人的には好みです。
ちょっと長いですが全文を引きます。
註釈には
(大友堀の水路を探るより 97×306)
とあるだけで、もとになる文書がいまのところわからないのですが、この大友堀が注ぐところ、というのは、東区本町の大友公園ではないかと思われます。
■大友公園
ほかに
「木を植える それは祈ること いのちに宿る 太古からの 精霊に」(谷川俊太郎 178×57)
「知床の岬を回り込むと何條もの流氷の帯が白い龍のように曲りくねり根室海峡に流れこんでいる」(175×70)
「埴輪の目深く開きおり 古代から虚空なるとも未来を見つむ」(三ツ谷重次うた 135×138)
「幽貞」(35×69)
「さくら さくら 野山も 里も」(68×18)
書展といえば、社中展が大半で、このようなバラエティに富んだ展覧会はとてもめずらしいです。
興味深い書展でした。
10月20日(火)-25日(日)午前10時-午後6時(最終日-午後5時)
スカイホール(中央区南1西3 大丸藤井セントラル7階 地図B)
■恵風会書展(2007年)
■第33回女流書作家集団展
■第50回記念 札幌墨象会展(2006年)
■第29回女流書作家集団展 (2003年)
■第28回女流書作家集団展
■第27回女流書作家集団展
=安藤さん
■第25回読売書法展北海道展(2008年)
■第6回石田壱城と信子の書と表装展(2006年)
いやー、悪いことしちゃいました。
「連檣展」は、1989年の北海道書道展で、大賞と準大賞を得た、安喰のり子、安藤小芳、石田壱城、君庸子、國澤翠風の書家5氏による展覧会。
10年ぶりの開催です。
10年前のときには見た記憶がないんですよ-という話をしていて、あとで調べてみたら、ちゃんと1999年の北海道新聞に、筆者が書いた「連檣展」の記事が出ていたんです。
じぶんの、あまりの忘れっぽさに、われながらあきれております。
ほんとうに、申し訳ありません。
道展の同期として、いっしょに酒を飲むなど、もともと仲が良かった5人。
ただ会って話してるだけじゃなく、書展を開こうと10年前に初めての5人展を開催しました。
連檣展の名付け親は美術評論家の佐藤庫之助さん。肩書は美術評論家ですが、実情は書道専業という、書壇からの信頼厚いベテランです。「檣」は、「帆柱」の意。
ちなみに、石田さんだけが男性で、北広島在住。ほかの4人は、いずれも女性で札幌在住です。

墨象も漢字も手がける幅広い方です。
左端は、「逆風満帆」(182×182)。「順風満帆」ではありません。
35年前に「女流書作家集団」の創立に参画して以来の思いをこめた-とのことです。
当初はまだ書壇は圧倒的に男性優位であり、社中の代表なども大半が男性。「女性ばかりで続くわけがない」などと言われ、悔しい思いもしたそうです。
「でも、何年か過ぎたらなにも言われなくなりました。男性のみなさんは、うらやましくなったのかもしれないですね」
と笑顔の安藤さん。
そのとなりは「舵」(140×140)。
中央に見える「生々流転」(180×62)も、この書家の思いがこめられている文言でしょう。
女流書作家集団の仲間たちと四国八十八カ所のうちの寺院数カ所を旅したとき、普通よりもかなり長い筆を土産に買い求めて、それで書いた作品。硬そうで、やわらかい、ふしぎな線質になっています。また、墨をあまり吸い込まない紙を使っているのも、おもしろい効果をあげています。
ほかに「衆妙之門」(133×62×2)「玄之又玄」(133×62×2)。いずれも老子から。

右は
「のちの月 葡萄に核のくもりかな」(115×54)
という、江戸期の俳人夏目成美の一句。
この作だけではないのですが、あまり連綿になっていません。そのことを尋ねたら
「葡萄が、ぽつぽつなっている感じを出したかったんですよ。月の位置も、月光がさし込んでいるように、と思って」
とのこと。なるほど、字の配置にも、いろいろな思いがこめられているのですね。この「月」の配置は、かなりの破調で、おもしろいですね。さらに、下に数センチだけ紙を継いでいます(図録の写真では省略)。
中央は
「葛の花踏みしだかれて色あたらし この山道をゆきし人あり」(60×134)
という、釈迢空の代表作。安喰さんの好きな一首だそうです。
お気に入りの紙に書いたら「山道を」のところで紙がなくなり、別の紙に「ゆきし人あり」を書き継いだ異色の構成ですが、額装を工夫したことで、これが独特のリズムを生んでいます。
左は「のどかさや白帆過ぎ行く垣の外」(151×40、151×21)」。
正岡子規の句で、やはり2枚の紙にまたがって書かれています。
ほかに
「冬ごもり春さり来れば鳴かざりし鳥も 来鳴きぬ咲かざりし 花も咲けれど 山も茂み 入りても取らず草深み 取りても見ず秋山の 木の葉を見ては 黄葉をば 取りてそしのぶ 青きをば 置きてそ嘆く そこし恨めし 秋山そ我は」(額田王、180×60×3)
「冬の日のよくあたる縁やおもちゃ箱」(子規 43×30)
「君が家につづく河原のなでしこに うす月さして夕となりぬ」(与謝野晶子 36×25)

北広島市文化連盟などで中心的な役割を果たしつつ、2006年には読売書法会で理事・審査会員に推挙されています。
今回は行書や隷書、淡墨の少字数書など幅広い漢字作品を出品しています。
右は「空」(70×170)。かんむりに、古拙的な味わいと勢いとが同居して、おもしろい構成になっています。
そのとなりは「無心」(125×70)。余白の取り方に、澄み切った境地のようなものを感じました。
ほかに
「寂心」(140×35)
「冨貴」(160×53)
「波沸岬」(235×53)
「萬雷春」(182×35)
「晩径黄花」(235×53)
「幽貞」(70×35)
「心」(24.5×27.5)

旭川生まれで中川清風に師事。1992年に毎日展毎日賞を得て、会員に推挙されています。
筆者ごときがあまり大それたことは言えないのですが、全体として、墨の潤滑が変化に富んでいておもしろいのと、直線の力をいかした書風になっていると感じました。左から二つ目の「連」(104×133)は、まさにその特徴の生きた作でしょう。
左は「天地秋」(236×55)。
右から二つ目は「禮尚往来」(138×208)。「礼は往来をたっとぶ」と読むそうです。
右端は「燿」(152×83.5)。飛沫がパワフルです。
ほかに
「光風霽月」(110×55.5×2)
「連」(35×70)
「この道より我を生かす道なしこの道を歩く」(武者小路實篤、70×35)

十勝管内浦幌町に生まれ、我妻緑巣氏に師事。2007年に毎日書道展の会員に推挙されています。
右から2番目の「環状列石 太陽の軌道と季節の変化を見守る」(180×97)の力強さにひかれますが、右端の作が個人的には好みです。
ちょっと長いですが全文を引きます。
一筋の川を流れ終えた水は河口で海に注ぎ旅を終えるが その河口こそ人間の生活舞台として文化をはぐくむ拠点となった 奥地の開拓は河口を基地として始まる 大友堀もしかり 堀の水が伏古川に注ぐところこそサッポロ仕法の原点である
註釈には
(大友堀の水路を探るより 97×306)
とあるだけで、もとになる文書がいまのところわからないのですが、この大友堀が注ぐところ、というのは、東区本町の大友公園ではないかと思われます。
■大友公園
ほかに
「木を植える それは祈ること いのちに宿る 太古からの 精霊に」(谷川俊太郎 178×57)
「知床の岬を回り込むと何條もの流氷の帯が白い龍のように曲りくねり根室海峡に流れこんでいる」(175×70)
「埴輪の目深く開きおり 古代から虚空なるとも未来を見つむ」(三ツ谷重次うた 135×138)
「幽貞」(35×69)
「さくら さくら 野山も 里も」(68×18)
書展といえば、社中展が大半で、このようなバラエティに富んだ展覧会はとてもめずらしいです。
興味深い書展でした。
10月20日(火)-25日(日)午前10時-午後6時(最終日-午後5時)
スカイホール(中央区南1西3 大丸藤井セントラル7階 地図B)
■恵風会書展(2007年)
■第33回女流書作家集団展
■第50回記念 札幌墨象会展(2006年)
■第29回女流書作家集団展 (2003年)
■第28回女流書作家集団展
■第27回女流書作家集団展
=安藤さん
■第25回読売書法展北海道展(2008年)
■第6回石田壱城と信子の書と表装展(2006年)