展覧会の名称は
札幌大谷大学短期大学部美術科第44回卒業制作展・第42回修了制作展 同時開催:専攻科1年展・美術科1年展
最初の大きな展示室にはいると、半数以上の学生(ここはほとんど2年生)が、100号以上の大作を複数並べており、その意欲には感服させられる。
しかも、技術的にもなかなかの水準に達した作品が少なくない。
ただ、ちょっとひねくれた見方をすれば、「若い女性の姿 プラスアルファ」という絵が多く、ややバリエーションに乏しい。それが、本人たちにとっていちばんリアルな絵のあり方であるのだろうけど…。
うまい人はこれから専攻科で2年間学ぶのだろうから、抽象でも風景でもいいので、いろいろな絵に挑戦してほしいと思う。
以下、順不同で、気になった作品。
佐藤綾香「ELECTRIC ORGAN」
大作を3点出していて、いずれも、女性像のバックに、光のチューブが縦横に走り、さまざまな色の光がにじみ出るような効果をあげているのがおもしろい。輪郭がはっきりせず、色がぼんやりと絡み合うさまは、サイケデリックでポップな感じとは異なる、油絵ならではの表現だと思う。
宮村麻未「ぼんやりと」「ゆっくりと」
いずれも、ピンク色のカバと、それに寄り添う女性がモティーフ。
この脱力感というか、力の抜けたメルヘン調が、なんともいまの時代っぽい。
森谷有沙「循環」
昨年の「法邑ギャラリー大賞」で優秀賞。
2年生とは思えない高い筆力。
ただ、よしあしは別として、「どうしてもこれを描きたい!」という肉声の強さみたいのは感じられない。
「あなたに」よりは、少女の出てくる映画「ピクニック・アット・ハンギングロック」的な世界観が根底にある「循環」の方が好きだなあ。
古田萌「meaninguful」
左手にがけのある風の強い草原で、頭部にまきつく布に視界をさえぎられながら立つ裸婦。
ドラマティックな道具立てのなかで、さまよう青春の姿を描いているように感じられた。
吉田希「朝餉」
技術力を売りにしている絵ではないと思うが、すごくなつかしい。狭い家の台所-洗面所が一緒になっているような-で、朝ご飯のしたくをしている女性2人を、ぼやーっとしたタッチで描いている。ぴかぴかしたシステムキッチンよりも、こういう古びた台所にこそ、「生活がある」という気がするのは、筆者だけだろうか。
専攻科1年も、なかなかおもしろい絵が多い。
笹崎綾香「Fake」
これは写真をつかった立体。
コダックのモノクロフィルムで、何の変哲もない街角をとらえており、コマ番号やパーフォレーションも焼き付けられている。
単なるスナップではなく、風景をおおうように頻出する黒い影が、明暗を強調した焼きとあいまって、不安な調子を感じさせる。
川嶋みゆき「暗いところで待ち合わせ」
昨年の卒展の「風の旅」が印象的だった川嶋さん。ことしは、なんと4点も出品。「風の旅」に通じる、しっかりと大地に脚を踏みしめて立つ女性像もあるけれど、表題作はまったくちがう画風。暗くて、一見なにを描いているのかわからないのだが、どうやらクジラと小さな魚が顔を寄せ合っている場面のよう。ところが、クジラは腹を傷つけ、かなりの血を流しているのだ。いったいなにがあったのか、とても気になってしまう。
岩佐麻由「スミス家の人々」「T紳士の日常」
昨年の全道展で、階段のそばに奇妙な人物画が展示されていたことを、ふいに思い出した。今回も、その延長線上にある作品。とくに、大きすぎる目が、忘れがたい印象を残す。イラスト的といえば、いえるのだが、感覚がふつうの人とちょっと異なるように思う。
修了制作展。全体としては明度が低め。
大場優子「象」
図録には「像」になっているが、象の群れを後ろから描いた絵に見える。
林由希菜「きのこマンション」
複数の版画からなる作品。個々の作品にそれほど共通性はなく、カバが入浴したり、ウサギが絵を描いたりしているが、どの絵にもキノコがにょきにょきと生え、モティーフと無関係な色が散っている。
森輝江「春夏秋冬」
やはり版画。脚部だけが人間になっているカエルや虫が点在する組作品。バックが白く抜けていて、奇妙な余韻が漂う。
(09年2月7日一部修正しました)
戸田遥「生命線」
昨年の法邑ギャラリー大賞で大賞を得た作品と同傾向。もじゃもじゃした人物2人が、電線の上(?)の高いところに乗っている。
荒谷真優子「瞳」
おとなしい人物画が特徴の荒谷さんは3点出品。そのなかでは、女性2人が床に腹ばいになっているこの作品が、ちょっとヘンなのが良い。
この学年は、中田絵美さんとか山木尚美さんとか知っている方が多いなあ。
近くSTV北2条ビルのエントランスアートで個展が始まる松田奈那子さんもこの学年。彼女については、個展のときに書くつもり。
マチエールのつくりかたが丁寧で、そのぶん構図の中に空白をうまく生かした、とぼけた味わいの絵が並んでいる。この「抜き方」は、若手らしくない巧妙さだと思う。
(2月11日、訂正しました。「松田」ちがいでどうもすいません)
今回名前を挙げなかった人も、すなわち作品が悪いという意味ではないので、これからもなんらかのかたちで創作にたずさわり続けていってほしいと願う。
1月27日(火)-2月1日(日)10:00-18:00(最終日-16:00)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
■2008年
■5er展 札幌大谷大学短期大学部専攻科美術1年 5人による展示(2008年2月)
札幌大谷大学短期大学部美術科第44回卒業制作展・第42回修了制作展 同時開催:専攻科1年展・美術科1年展
最初の大きな展示室にはいると、半数以上の学生(ここはほとんど2年生)が、100号以上の大作を複数並べており、その意欲には感服させられる。
しかも、技術的にもなかなかの水準に達した作品が少なくない。
ただ、ちょっとひねくれた見方をすれば、「若い女性の姿 プラスアルファ」という絵が多く、ややバリエーションに乏しい。それが、本人たちにとっていちばんリアルな絵のあり方であるのだろうけど…。
うまい人はこれから専攻科で2年間学ぶのだろうから、抽象でも風景でもいいので、いろいろな絵に挑戦してほしいと思う。
以下、順不同で、気になった作品。
佐藤綾香「ELECTRIC ORGAN」
大作を3点出していて、いずれも、女性像のバックに、光のチューブが縦横に走り、さまざまな色の光がにじみ出るような効果をあげているのがおもしろい。輪郭がはっきりせず、色がぼんやりと絡み合うさまは、サイケデリックでポップな感じとは異なる、油絵ならではの表現だと思う。
宮村麻未「ぼんやりと」「ゆっくりと」
いずれも、ピンク色のカバと、それに寄り添う女性がモティーフ。
この脱力感というか、力の抜けたメルヘン調が、なんともいまの時代っぽい。
森谷有沙「循環」
昨年の「法邑ギャラリー大賞」で優秀賞。
2年生とは思えない高い筆力。
ただ、よしあしは別として、「どうしてもこれを描きたい!」という肉声の強さみたいのは感じられない。
「あなたに」よりは、少女の出てくる映画「ピクニック・アット・ハンギングロック」的な世界観が根底にある「循環」の方が好きだなあ。
古田萌「meaninguful」
左手にがけのある風の強い草原で、頭部にまきつく布に視界をさえぎられながら立つ裸婦。
ドラマティックな道具立てのなかで、さまよう青春の姿を描いているように感じられた。
吉田希「朝餉」
技術力を売りにしている絵ではないと思うが、すごくなつかしい。狭い家の台所-洗面所が一緒になっているような-で、朝ご飯のしたくをしている女性2人を、ぼやーっとしたタッチで描いている。ぴかぴかしたシステムキッチンよりも、こういう古びた台所にこそ、「生活がある」という気がするのは、筆者だけだろうか。
専攻科1年も、なかなかおもしろい絵が多い。
笹崎綾香「Fake」
これは写真をつかった立体。
コダックのモノクロフィルムで、何の変哲もない街角をとらえており、コマ番号やパーフォレーションも焼き付けられている。
単なるスナップではなく、風景をおおうように頻出する黒い影が、明暗を強調した焼きとあいまって、不安な調子を感じさせる。
川嶋みゆき「暗いところで待ち合わせ」
昨年の卒展の「風の旅」が印象的だった川嶋さん。ことしは、なんと4点も出品。「風の旅」に通じる、しっかりと大地に脚を踏みしめて立つ女性像もあるけれど、表題作はまったくちがう画風。暗くて、一見なにを描いているのかわからないのだが、どうやらクジラと小さな魚が顔を寄せ合っている場面のよう。ところが、クジラは腹を傷つけ、かなりの血を流しているのだ。いったいなにがあったのか、とても気になってしまう。
岩佐麻由「スミス家の人々」「T紳士の日常」
昨年の全道展で、階段のそばに奇妙な人物画が展示されていたことを、ふいに思い出した。今回も、その延長線上にある作品。とくに、大きすぎる目が、忘れがたい印象を残す。イラスト的といえば、いえるのだが、感覚がふつうの人とちょっと異なるように思う。
修了制作展。全体としては明度が低め。
大場優子「象」
図録には「像」になっているが、象の群れを後ろから描いた絵に見える。
林由希菜「きのこマンション」
複数の版画からなる作品。個々の作品にそれほど共通性はなく、カバが入浴したり、ウサギが絵を描いたりしているが、どの絵にもキノコがにょきにょきと生え、モティーフと無関係な色が散っている。
森輝江「春夏秋冬」
(09年2月7日一部修正しました)
戸田遥「生命線」
昨年の法邑ギャラリー大賞で大賞を得た作品と同傾向。もじゃもじゃした人物2人が、電線の上(?)の高いところに乗っている。
荒谷真優子「瞳」
おとなしい人物画が特徴の荒谷さんは3点出品。そのなかでは、女性2人が床に腹ばいになっているこの作品が、ちょっとヘンなのが良い。
この学年は、中田絵美さんとか山木尚美さんとか知っている方が多いなあ。
マチエールのつくりかたが丁寧で、そのぶん構図の中に空白をうまく生かした、とぼけた味わいの絵が並んでいる。この「抜き方」は、若手らしくない巧妙さだと思う。
(2月11日、訂正しました。「松田」ちがいでどうもすいません)
今回名前を挙げなかった人も、すなわち作品が悪いという意味ではないので、これからもなんらかのかたちで創作にたずさわり続けていってほしいと願う。
1月27日(火)-2月1日(日)10:00-18:00(最終日-16:00)
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)
■2008年
■5er展 札幌大谷大学短期大学部専攻科美術1年 5人による展示(2008年2月)
鉛筆画です。