
いまから数年前のこと。半世紀にわたって道内の美術を見続けている某氏の口から、「北海道画壇の本流」というような語句が漏れたとき、まだまだヒヨッコである筆者は思わず、それは誰ですかと、問い返したものだった。
彼が挙げた名は小川原脩、国松登、野本醇、伏木田光夫…といったあたりだったと記憶している。
筆者は野本氏については、近年の抽象的な作品しか見ていなかったので、もちろん戦後の北海道を代表する画家であることは知識としては知っていたけれど、体感的にはいまひとつピンとこなかった。
昨年夏、伊達に行って「野本醇展-心象表現の軌跡-」を見た。1951年から近作にいたる画業を振り返り、ようやく某氏の称賛の意味がわかったように思った。
1970-80年代、野本氏は、雪原に動物が登場する絵などをしきりに制作している。国松登などと共通する北方的な抒情を展開していたのだ。そしてそれは、フリードリヒに代表されるドイツロマン派に淵源を持つのだろう。
その深い精神性は、90年代以降、抽象に転じてからも、基本は変わっていないと思う。
重い扉のスリットから光が漏れてくるような図柄の絵をよく描いている野本氏だが、今回はこれまでになく、球体が多く登場しているように感じた。それは、あからさまに地球の比喩になっているわけではないのだが、やはり何か精神的なものを感じさせる。
「黒い太陽」「予兆」といった作品には、水平線を思わせる線が引かれている。暗い色彩に覆われ、世界の終わりのようでありながら、どこかやすらぎを漂わせる不思議な風景。そこでは、生と死、瞬間と永遠が、自然と同居しているようですらある。
2009年10月12日(月)-17日(土)10:00-6:00(最終日-5:00ぐらい)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
2008年8月10日(日)-20日(水)
だて歴史の杜カルチャーセンター大ホール(伊達市梅本町57)
※伊達での出品作は次の通り。
坂のある街 1951年 72.8×60.6 (伊達市寄託)
灰色の裸 1953年 72.8×60.6 (京極町蔵)
黒い炎から 1957年 156.8×116.7 (伊達市寄託)
黒い炎 1957年 144.8×91.0(京極町蔵)
褐色地帯 1962年 125.0×173.2(京極町蔵)
褐色地図 1962年 156.0×118.0(京極町蔵)
円のある風土 1963年 137.0×117.0(京極町蔵)
風土のなかのうし 1965年 145.5×112.2 (伊達市寄託)
風土のなかのうま 1966年 116.7×91.0(京極町蔵)
丘の上の寺院(モスクワ) 1966年 31.9×41.0
馬に乗る人 1966年 45.5×37.9
北の部屋 1968年 162.1×130.3(伊達市寄託)
とりのある静物 1969年 45.5×53.0(伊達市寄託)
山羊のある静物 1969年 162.1×130.3(伊達市寄託)
山羊の頭 1970年 60.6×72.8(京極町蔵)
摩周湖 1972年 53.0×45.5(伊達市寄託)
羊の星座 1972年 91.0×72.8(伊達市寄託)
仮面と羊 1972年 72.8×91.0(伊達市寄託)
追憶の裸 1972年 116.2×162.1(伊達市寄託)
トロイの馬 1972年 130.3×162.1(伊達市寄託)
星餐図人羊座 1972年 193.9×130.3(京極町蔵)
シャルトル寺院 1973年 31.9×41.0(伊達市寄託)
裏街(モンマルトル) 1973年 61.0×96.0(伊達市寄託)
三美神 1973年 73.0×39.6(3枚組)(京極町蔵)
サクレクール 1973年 41.0×31.9
コンピュニュ 1973年 53.0×65.2
イカルス 1974年 193.9×130.3(京極町蔵)
森の食卓 1974年 61.0×162.1(伊達市寄託)
北の海 1975年 130.3×162.1(伊達市寄託)
北の箱舟-1 1975年 193.9×130.3(伊達市寄託)
冬の旅(春を待つ) 1975年 130.3×193.9(伊達市寄託)
北の箱舟-2 1975年 91.0×116.7(京極町蔵)
白い壁のある風景 1975年 53.0×65.2
冬の膳 1976年 97.0×130.3(京極町蔵)
貝のある静物 1976年 65.2×80.4
北の箱舟(春を待つ) 1976年 72.8×91.0
天変地異 1977年 130.3×162.1(京極町蔵)
昭和新山 1977年 45.5×37.9
羊のいる風景 1977年 53.0×65.2
樹下羊群 1978年 60.6×72.8(伊達市寄託)
早春有珠 1978年 91.0×116.7
新生有珠-1 1979年 60.6×72.8(伊達市寄託)
燦 1979年 53.0×65.2
新生有珠-2 1979年 45.5×53.0
冬の蜃気楼 1980年 130.3×193.9(伊達市寄託)
新生有珠-3 1981年 72.8×60.6(伊達市寄託)
北の座標-2 1983年 130.3×193.9(伊達市寄託)
冬の残像 1983年 130.3×193.9(伊達市寄託)
北の座標-1 1983年 162.1×227.3(京極町蔵)
冬帝の道 1984年 162.1×227.3(京極町蔵)
ピカソ昇天 1986年 41.0×31.9
いのちのかたち 1987年 53.0×65.2
白い遊態 1990年 91.0×72.8(伊達市寄託)
再生する形態 B 1990年 130.3×97.0(伊達市寄託)
翼のある遊態 1990年 193.9×130.3(伊達市寄託)
聖なるかたち 1990年 130.0×49.8(2枚組)(京極町蔵)
生成の形姿 1992年 91.0×72.8(伊達市寄託)
変容する形姿 1992年 130.3×162.1(伊達市寄託)
形姿の誘惑 1993年 91.0×116.7(伊達市寄託)
北の形相 1993年 130.3×162.1(伊達市寄託)
北に座するもの 1993年 162.1×130.3(京極町蔵)
北の季節 1995年 72.8×91.0(伊達市寄託)
内なる形姿 1995年 91.0×72.8(伊達市寄託)
森の光-1 1997年 194.0×162.0(伊達市寄託)
再生の季節 1997年 194.0×162.0(伊達市寄託)
白いテーブル 1997年 72.8×60.6
夜のPatos 1998年 116.7×91.0(伊達市寄託)
森の春 1998年 72.8×91.0
木霊(こだま) 1999年 193.9×130.3(伊達市寄託)
黒い森 1999年 91.0×72.8
黒い箱舟 2000年 130.3×162.1(伊達市寄託)
天と地の光景 2001年 130.3×162.1(伊達市寄託)
北の季節 2001年 162.1×130.3(伊達市寄託)
休息の森 2002年 162.1×130.3(伊達市寄託)
天北に立つ 2003年 116.7×91.0(伊達市寄託)
森の光-2 2004年 193.9×130.3(伊達市寄託)
季節の光 2005年 193.9×130.3(伊達市寄託)
光の記憶 2005年 116.7×91.0
季節の扉-06 2006年 193.9×130.3
季節の扉-07 2007年 193.9×130.3
・・・記載のないものは作者蔵
彼が挙げた名は小川原脩、国松登、野本醇、伏木田光夫…といったあたりだったと記憶している。
筆者は野本氏については、近年の抽象的な作品しか見ていなかったので、もちろん戦後の北海道を代表する画家であることは知識としては知っていたけれど、体感的にはいまひとつピンとこなかった。
昨年夏、伊達に行って「野本醇展-心象表現の軌跡-」を見た。1951年から近作にいたる画業を振り返り、ようやく某氏の称賛の意味がわかったように思った。
1970-80年代、野本氏は、雪原に動物が登場する絵などをしきりに制作している。国松登などと共通する北方的な抒情を展開していたのだ。そしてそれは、フリードリヒに代表されるドイツロマン派に淵源を持つのだろう。
その深い精神性は、90年代以降、抽象に転じてからも、基本は変わっていないと思う。
重い扉のスリットから光が漏れてくるような図柄の絵をよく描いている野本氏だが、今回はこれまでになく、球体が多く登場しているように感じた。それは、あからさまに地球の比喩になっているわけではないのだが、やはり何か精神的なものを感じさせる。
「黒い太陽」「予兆」といった作品には、水平線を思わせる線が引かれている。暗い色彩に覆われ、世界の終わりのようでありながら、どこかやすらぎを漂わせる不思議な風景。そこでは、生と死、瞬間と永遠が、自然と同居しているようですらある。
2009年10月12日(月)-17日(土)10:00-6:00(最終日-5:00ぐらい)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
2008年8月10日(日)-20日(水)
だて歴史の杜カルチャーセンター大ホール(伊達市梅本町57)
※伊達での出品作は次の通り。
坂のある街 1951年 72.8×60.6 (伊達市寄託)
灰色の裸 1953年 72.8×60.6 (京極町蔵)
黒い炎から 1957年 156.8×116.7 (伊達市寄託)
黒い炎 1957年 144.8×91.0(京極町蔵)
褐色地帯 1962年 125.0×173.2(京極町蔵)
褐色地図 1962年 156.0×118.0(京極町蔵)
円のある風土 1963年 137.0×117.0(京極町蔵)
風土のなかのうし 1965年 145.5×112.2 (伊達市寄託)
風土のなかのうま 1966年 116.7×91.0(京極町蔵)
丘の上の寺院(モスクワ) 1966年 31.9×41.0
馬に乗る人 1966年 45.5×37.9
北の部屋 1968年 162.1×130.3(伊達市寄託)
とりのある静物 1969年 45.5×53.0(伊達市寄託)
山羊のある静物 1969年 162.1×130.3(伊達市寄託)
山羊の頭 1970年 60.6×72.8(京極町蔵)
摩周湖 1972年 53.0×45.5(伊達市寄託)
羊の星座 1972年 91.0×72.8(伊達市寄託)
仮面と羊 1972年 72.8×91.0(伊達市寄託)
追憶の裸 1972年 116.2×162.1(伊達市寄託)
トロイの馬 1972年 130.3×162.1(伊達市寄託)
星餐図人羊座 1972年 193.9×130.3(京極町蔵)
シャルトル寺院 1973年 31.9×41.0(伊達市寄託)
裏街(モンマルトル) 1973年 61.0×96.0(伊達市寄託)
三美神 1973年 73.0×39.6(3枚組)(京極町蔵)
サクレクール 1973年 41.0×31.9
コンピュニュ 1973年 53.0×65.2
イカルス 1974年 193.9×130.3(京極町蔵)
森の食卓 1974年 61.0×162.1(伊達市寄託)
北の海 1975年 130.3×162.1(伊達市寄託)
北の箱舟-1 1975年 193.9×130.3(伊達市寄託)
冬の旅(春を待つ) 1975年 130.3×193.9(伊達市寄託)
北の箱舟-2 1975年 91.0×116.7(京極町蔵)
白い壁のある風景 1975年 53.0×65.2
冬の膳 1976年 97.0×130.3(京極町蔵)
貝のある静物 1976年 65.2×80.4
北の箱舟(春を待つ) 1976年 72.8×91.0
天変地異 1977年 130.3×162.1(京極町蔵)
昭和新山 1977年 45.5×37.9
羊のいる風景 1977年 53.0×65.2
樹下羊群 1978年 60.6×72.8(伊達市寄託)
早春有珠 1978年 91.0×116.7
新生有珠-1 1979年 60.6×72.8(伊達市寄託)
燦 1979年 53.0×65.2
新生有珠-2 1979年 45.5×53.0
冬の蜃気楼 1980年 130.3×193.9(伊達市寄託)
新生有珠-3 1981年 72.8×60.6(伊達市寄託)
北の座標-2 1983年 130.3×193.9(伊達市寄託)
冬の残像 1983年 130.3×193.9(伊達市寄託)
北の座標-1 1983年 162.1×227.3(京極町蔵)
冬帝の道 1984年 162.1×227.3(京極町蔵)
ピカソ昇天 1986年 41.0×31.9
いのちのかたち 1987年 53.0×65.2
白い遊態 1990年 91.0×72.8(伊達市寄託)
再生する形態 B 1990年 130.3×97.0(伊達市寄託)
翼のある遊態 1990年 193.9×130.3(伊達市寄託)
聖なるかたち 1990年 130.0×49.8(2枚組)(京極町蔵)
生成の形姿 1992年 91.0×72.8(伊達市寄託)
変容する形姿 1992年 130.3×162.1(伊達市寄託)
形姿の誘惑 1993年 91.0×116.7(伊達市寄託)
北の形相 1993年 130.3×162.1(伊達市寄託)
北に座するもの 1993年 162.1×130.3(京極町蔵)
北の季節 1995年 72.8×91.0(伊達市寄託)
内なる形姿 1995年 91.0×72.8(伊達市寄託)
森の光-1 1997年 194.0×162.0(伊達市寄託)
再生の季節 1997年 194.0×162.0(伊達市寄託)
白いテーブル 1997年 72.8×60.6
夜のPatos 1998年 116.7×91.0(伊達市寄託)
森の春 1998年 72.8×91.0
木霊(こだま) 1999年 193.9×130.3(伊達市寄託)
黒い森 1999年 91.0×72.8
黒い箱舟 2000年 130.3×162.1(伊達市寄託)
天と地の光景 2001年 130.3×162.1(伊達市寄託)
北の季節 2001年 162.1×130.3(伊達市寄託)
休息の森 2002年 162.1×130.3(伊達市寄託)
天北に立つ 2003年 116.7×91.0(伊達市寄託)
森の光-2 2004年 193.9×130.3(伊達市寄託)
季節の光 2005年 193.9×130.3(伊達市寄託)
光の記憶 2005年 116.7×91.0
季節の扉-06 2006年 193.9×130.3
季節の扉-07 2007年 193.9×130.3
・・・記載のないものは作者蔵