全道規模の団体公募展が主催する学生向けの展覧会といえば、道展の「U21」と、全道展の「学生美術全道展」が知られている。
後発の「U21」が30号を上限とし、たくさんの作品が市民ギャラリーに飾られるのに対し、学生美術全道展は高校生が100号あるいはそれ以上の大作をがんがん描いて出品するという大きな違いがある。
ちなみに、いずれも高校生が主軸で、短大生や専門学校生、大学生の出品はあまり多くない。それらの学生は、大人と同じ展覧会で競い合えるからだろう。
「撮影OK」という貼り紙があったので、写真を撮ってきた。
ことしは、おといねっぷ美術工芸高(上川管内音威子府村)の生徒が6年ぶりに、最高賞の「全道美術協会賞・北海道美術館協力会賞」を受賞した。
冒頭画像の3点は、いずれも同高校の生徒の作品で、中央が「私を規定しないで」(橋本幸奈さん、2年)。
乱雑に机が置かれた教室とおぼしき部屋の窓際で、裸にカーテンをまとった少女がこちらに脚を投げ出して視線を向けている。
こちらが射すくめられたように感じる目の強さ。自画像だろうか。裸婦だが、いやらしさは感じない。
青春時代にしか描けない一枚だと思う。
右は、第2席にあたる「北海道新聞社賞」を受けた同校3年吉田萌々子さん「嫉妬」。
しゃがむ少女が地面の花に水鉄砲で水を噴射している。その近くには、チョウの羽根がばらばらに引き裂かれて散らばっている。
物語性を感じさせる巧みな構成と題もさることながら、人物や背後の壁を描写する力の確かさが評価されたのだと思う。
左は、優秀賞の同校3年越智柊太さん「顕」。
ライオンや老人の顔などが一斉に右を向いているなかで、ひとり左側を向き、まっさらな空間に鉛筆を向けるひとりの少年。
デッサン力の高さを見せつける鉛筆画だ。独立心の高さのようなものもうかがえる。
画像はないが、この並びにあった同校3年櫻井風土さん「静穏」は、小川の流れる牧場で草を食む乳牛の群れを描いた風景画で、しっかりと地に足の着いた描写力が印象に残った。
背後の、縦に長い2点組は「昼の森」(札幌デザイナー学院3年、長谷川真子さん)。奨励賞。
ことし1月の卒展で見たような気がする…。
手前は「天仰ぐ」(札幌厚別高3年、横山弥音さん)。
彫刻では唯一の優秀賞。
つぎの2点も、おといねっぷ美術工芸高の生徒さんの作品。
個人的には賞を受けても良い出来だと感じた。
左は「故郷」(3年村田遼太郎さん)。
高校生とは思えない迫真の描写で、カワセミとおぼしき野鳥と、森とを描いている。
右は「鶏群一鶴」(3年高山紀久恵さん)。
まるで日本画のような構図で、金色に光る満月をバックに、岩の上に堂々と立つ雄鳥を描く。
あまりに構図が決まっているので、筆者が知らないだけで、どこかに参考にした絵があるのではないかと思ってしまったほどだ。
右は「ニホン エモイ カワイイ」(北海高3年、結城凜さん)。奨励賞。
北斎をパロディー化したような波が便器から登場したり、そこをさまざまな魚が泳いだり、巨大なカップヌードルがあったりして、ライトな感覚が楽しい。
大画面を破綻なくまとめる力もある。
右は、これまたおといねっぷ美術工芸高で「ニコラ・テスラと濡れた街」(2年松木七夕花)。
ごわごわしたような独特のマチエールで、雨がふる夜の歓楽街を描いて印象に残る。
賞に漏れたのは、右側の黒い部分が何なのかよくわからないのと、題の意味が不明なことが原因ではないかと思う。
左端は「そこにある核心」(札幌デザイナー学院2年、神谷麻友さん)。
オーカー系を主体とした抽象画。構図といい、色の配分といい、実に巧みな絵だと思う。
問題はこのうまさが、いまどれほど求められているのだろうかということかもしれない。
ユニークな絵画を出していると思うのに、審査を担当した全道展会員の好みではなかったのか、入賞を果たせなかったのが札幌啓成高。
おもしろいと思うんだけどなあ。
画像は3年本多優希さん「思考漏洩」。
漫画的な人物画と、勢いのある筆遣いの抽象とが、無理なく一つの画面にまとめられている。
むろん、もっとうまい構図になるだろうとか、いろいろ思うのだけど、こういう絵が出てくることじたい、2018年っぽいなあと感じるのだ。
版画は昨年まで、北海高や札幌平岸高の銅版画が半数以上を占めていたので、モノクロームの壁面だったが、ことしは札幌旭丘勢が新たに参入し、コーナーが一気に華やかさを増した。
左は北海道新聞社賞を受けた「水辺」(2年、中原遥さん)。
水面に浮かぶカモの姿。
そのとなりは、北海道芸術デザイン専門学校2年、広瀬菜乃花さん「逃げ出した羊」。
魔女、がいこつ、羊という面々ながら、いかにも既成のゲームやイラストを模倣したという感じがあまりないのがおもしろい。
最後の画像、右端は「焼かれた思いで」。
もしかして、小中学校で受けた教育に大きなルサンチマンを抱いている人だったら困るので、あえて作者名は記さないでおく。
じっさいにカンバスの右上は、焼け焦げたように穴があいている。なかなかにつらい感情のこもった絵である。
毎年思うのだが、この会場にみなぎるエネルギーは、静かだがものすごいと思う。
へたな大人の絵よりも、はるかに力がこもっているのだ。
2018年10月6日(土)~9日(火)午前10時~午後5時(最終日~午後4時半)
札幌市民ギャラリー(札幌市中央区南2東6)
□全道展の公式ページ http://www.zendouten.jp/gakusei/
■第55回学生美術全道展 (2013)
■第50回学生美術全道展
後発の「U21」が30号を上限とし、たくさんの作品が市民ギャラリーに飾られるのに対し、学生美術全道展は高校生が100号あるいはそれ以上の大作をがんがん描いて出品するという大きな違いがある。
ちなみに、いずれも高校生が主軸で、短大生や専門学校生、大学生の出品はあまり多くない。それらの学生は、大人と同じ展覧会で競い合えるからだろう。
「撮影OK」という貼り紙があったので、写真を撮ってきた。
ことしは、おといねっぷ美術工芸高(上川管内音威子府村)の生徒が6年ぶりに、最高賞の「全道美術協会賞・北海道美術館協力会賞」を受賞した。
冒頭画像の3点は、いずれも同高校の生徒の作品で、中央が「私を規定しないで」(橋本幸奈さん、2年)。
乱雑に机が置かれた教室とおぼしき部屋の窓際で、裸にカーテンをまとった少女がこちらに脚を投げ出して視線を向けている。
こちらが射すくめられたように感じる目の強さ。自画像だろうか。裸婦だが、いやらしさは感じない。
青春時代にしか描けない一枚だと思う。
右は、第2席にあたる「北海道新聞社賞」を受けた同校3年吉田萌々子さん「嫉妬」。
しゃがむ少女が地面の花に水鉄砲で水を噴射している。その近くには、チョウの羽根がばらばらに引き裂かれて散らばっている。
物語性を感じさせる巧みな構成と題もさることながら、人物や背後の壁を描写する力の確かさが評価されたのだと思う。
左は、優秀賞の同校3年越智柊太さん「顕」。
ライオンや老人の顔などが一斉に右を向いているなかで、ひとり左側を向き、まっさらな空間に鉛筆を向けるひとりの少年。
デッサン力の高さを見せつける鉛筆画だ。独立心の高さのようなものもうかがえる。
画像はないが、この並びにあった同校3年櫻井風土さん「静穏」は、小川の流れる牧場で草を食む乳牛の群れを描いた風景画で、しっかりと地に足の着いた描写力が印象に残った。
背後の、縦に長い2点組は「昼の森」(札幌デザイナー学院3年、長谷川真子さん)。奨励賞。
ことし1月の卒展で見たような気がする…。
手前は「天仰ぐ」(札幌厚別高3年、横山弥音さん)。
彫刻では唯一の優秀賞。
つぎの2点も、おといねっぷ美術工芸高の生徒さんの作品。
個人的には賞を受けても良い出来だと感じた。
左は「故郷」(3年村田遼太郎さん)。
高校生とは思えない迫真の描写で、カワセミとおぼしき野鳥と、森とを描いている。
右は「鶏群一鶴」(3年高山紀久恵さん)。
まるで日本画のような構図で、金色に光る満月をバックに、岩の上に堂々と立つ雄鳥を描く。
あまりに構図が決まっているので、筆者が知らないだけで、どこかに参考にした絵があるのではないかと思ってしまったほどだ。
右は「ニホン エモイ カワイイ」(北海高3年、結城凜さん)。奨励賞。
北斎をパロディー化したような波が便器から登場したり、そこをさまざまな魚が泳いだり、巨大なカップヌードルがあったりして、ライトな感覚が楽しい。
大画面を破綻なくまとめる力もある。
右は、これまたおといねっぷ美術工芸高で「ニコラ・テスラと濡れた街」(2年松木七夕花)。
ごわごわしたような独特のマチエールで、雨がふる夜の歓楽街を描いて印象に残る。
賞に漏れたのは、右側の黒い部分が何なのかよくわからないのと、題の意味が不明なことが原因ではないかと思う。
左端は「そこにある核心」(札幌デザイナー学院2年、神谷麻友さん)。
オーカー系を主体とした抽象画。構図といい、色の配分といい、実に巧みな絵だと思う。
問題はこのうまさが、いまどれほど求められているのだろうかということかもしれない。
ユニークな絵画を出していると思うのに、審査を担当した全道展会員の好みではなかったのか、入賞を果たせなかったのが札幌啓成高。
おもしろいと思うんだけどなあ。
画像は3年本多優希さん「思考漏洩」。
漫画的な人物画と、勢いのある筆遣いの抽象とが、無理なく一つの画面にまとめられている。
むろん、もっとうまい構図になるだろうとか、いろいろ思うのだけど、こういう絵が出てくることじたい、2018年っぽいなあと感じるのだ。
版画は昨年まで、北海高や札幌平岸高の銅版画が半数以上を占めていたので、モノクロームの壁面だったが、ことしは札幌旭丘勢が新たに参入し、コーナーが一気に華やかさを増した。
左は北海道新聞社賞を受けた「水辺」(2年、中原遥さん)。
水面に浮かぶカモの姿。
そのとなりは、北海道芸術デザイン専門学校2年、広瀬菜乃花さん「逃げ出した羊」。
魔女、がいこつ、羊という面々ながら、いかにも既成のゲームやイラストを模倣したという感じがあまりないのがおもしろい。
最後の画像、右端は「焼かれた思いで」。
もしかして、小中学校で受けた教育に大きなルサンチマンを抱いている人だったら困るので、あえて作者名は記さないでおく。
じっさいにカンバスの右上は、焼け焦げたように穴があいている。なかなかにつらい感情のこもった絵である。
毎年思うのだが、この会場にみなぎるエネルギーは、静かだがものすごいと思う。
へたな大人の絵よりも、はるかに力がこもっているのだ。
2018年10月6日(土)~9日(火)午前10時~午後5時(最終日~午後4時半)
札幌市民ギャラリー(札幌市中央区南2東6)
□全道展の公式ページ http://www.zendouten.jp/gakusei/
■第55回学生美術全道展 (2013)
■第50回学生美術全道展