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北海道美術ネット別館

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鈴木麻衣子 絵本原画展 (2015年9月1~26日、札幌)

2015年09月26日 05時21分44秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
 札幌の出版社「かりん舎」から出版された絵本「ぼく生きたかったよ…~くまのおやこニコーとリコー」(本体1000円)の原画展が、琴似の「ギャラリー北のモンパルナス」で開かれています。

 この絵本は、札幌の鈴木麻衣子さんが、「すずきまいこ」名義で、絵と文を書いたもの。三上右近さんが解説を担当しています。


 70年前の戦争で犠牲になったのは人間ばかりではありません。
 もし空襲でおりが破壊され、猛獣が動物園から街に飛び出したらたいへんだ、という懸念から、軍部が日本各地の動物園に対策を指示しました。クマやライオン、ヒョウなどが、銃殺されたり、餌を与えられなかったりして、殺されていったのです。食糧事情の悪化も背景にあったのでしょう。

 鈴木さんは、京都市の動物園でくまの親子の命が奪われた史実をもとに、この絵本をかき上げました。

 なによりすごいのは、ふつうのボールペンでこれらの絵を描いていること。
 モノクロームの、精緻な、しかし単にリアリスティックというわけではない筆致が、クマの親子に、迫真の生命の感覚をあたえています。




 会場には、鈴木さんの高校時代の絵も飾られています。それらは、「ゆるキャラ」を表現するのにふさわしいような丸っこい登場人物が多数描かれているカラフルでにぎやかな作品で、近年の画風とはまるで異なります。
 彼女は東京・池袋の専門学校で美術を学んだあと、札幌に帰郷しました。
 それからは、近くの林で、ボールペンで植物をスケッチすると時間をたつのも忘れて没頭するようになりました。それで、そのスケッチをもとに油彩などを描くのではなく、ボールペン画そのものを制作・発表するようになったとのことです。

 近年、札幌時計台ギャラリーやカフェエスキスで開いた個展に出品されたボールペン画は、シダやフキなどの植物や、クマがびっしりと描かれています(今回も何点か並んでいます)。それらは、現実の植物相を描写しているというよりは、鈴木さんが見て描いた植物が、実際の大きさや配置とかかわりなくランダムに配置されているような絵です。クマも、どこか人間のようで、ユーモラスな感じが漂います。

 しかし、今回の絵本のクマや、祖父と少年は、題材の深刻さも手伝ってか、やや画風が異なり、シリアスな感じが前面に出てきているように思いました。

 冒頭に登場する祖父や少年と、主人公であるクマ親子とでは、描き方がやや異なるという印象を抱きましたが、鈴木さんによると、意図的に絵柄を変えたつもりはないとのこと。
 最初の少年の出てくる1枚を描いて、これでいこう、という手ごたえを得た、という意味のことを話していました。
「子どもたちに伝わるように、ということを、何よりも考えました」

 あえて背景を白く残し、クマの存在感を強調した絵の数々が、悲しい歴史を物語ります。


 なお、巻末のみかみさんの解説は、各地の動物園でどれだけの猛獣が殺されたか、たくさんの資料にあたって跡付けた労作です。


 この原画展は、10月2日(金)~11月9日(月)、ちいさなえほんや ひだまり(札幌市手稲区新発寒3の4)に巡回します。平日の火、水、木曜は休みです(午前10時~午後7時)。


 最後に、私事にわたりますが、筆者はこの史実を、小さいころに「ドラえもん」の漫画で知りました。コミックスではなく、学年誌だったと思います。定期購読はしていなかったので、偶然手に取った雑誌だったのでしょう。
 ドラえもんとのび太がタイムマシンで昭和20年(1945年)の上野動物園に行き、ライオンなどと言葉を交わし、助け出そうという話でした。結末はおぼえていません。
 こういう話は、教科書などの「正史」からはこぼれ落ちてしまいがちです。だから、漫画でも絵本でも、いろいろなかたちで、後世に語り継いでいくことが、大事なのだとあらためて思います。

 みかみさんの解説には、「動物園は平和そのものである」という初代上野動物園園長・古賀忠道の言葉が引用されています。
 二度と戦争を繰り返してはならないために…。


2015年9月1日(火)~26日(土)11am~6pm、日月祝休み
ギャラリー北のモンパルナス(西区二十四軒4の3)

参考リンク
□かりん舎 http://kwarinsha.cart.fc2.com/ca2/27/

□Cafe Esquise のアーカイブ http://www.cafe-esquisse.net/gallery/archiveGallery.php?volNo=173




・地下鉄東西線「琴似駅」5番出口から約390メートル、徒歩5分
・同「二十四軒駅」から約790メートル、徒歩10分
・JR琴似駅から約900メートル、徒歩12分

・ジェイアール北海道バス「山の手1の1」から約890メートル、徒歩10分
(札幌駅バスターミナル、北1西4から、手稲方面行きに乗車。快速、都市間高速バスは通過)


※ カフェギャラリー北都館から歩いて2分ほどです


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