
神田日勝の主要作品が、東京や札幌を巡回する神田日勝展にほとんど出払ってしまっている期間中に開かれた、地元十勝の画家・版画家による展覧会。
これまで何度か書いてきたとおり、十勝地方は美術分野の作家が多いです。今回、57人が前後期にわかれて1点ずつを並べていますが、あくまで現役の画家・版画家だけです。
・物故者
・出身者でいまは十勝に住んでいない人
・彫刻、工芸、書、現代アート、写真などの分野
といった作り手の出品はありません。そして、単に、絵画教室に所属して趣味で描いているようなレベルの人ではなく、継続的に創作を続けている人ばかりです。
筆者が見たのは後期でした。
穴井亜紀子「咆哮」(油彩、帯広)
2012年に新道展を退会してから久しく見ていなかった穴井さんですが、十勝の団体公募展である平原社では現在も会員のようです。重量感あるモティーフを、腰を据えて描写しています。
小笠原洋子「石船「巣ごもりの刻」」(油彩、帯広)
道展と平原社の会員。例年、巨大な石の船が空に浮かぶさまを描いていましたが、今年は船が、葉を落とした木々のてっぺんに着地しています。新型コロナウイルスの影響で石の船も雄々しく空を飛ぶのをやめたのでしょうか。
近藤みどり「閉ざされた世界」(油彩、帯広)
生命の起源のような、あるいは顕微鏡写真のような光景を、明るい色合いで描く近藤さんは、全道展と平原社の会員。見ていると、心音が聞こえてきそう。
さとうえみこ「from ancient」(顔料、和紙、芽室)
赤や茶系を主体に、オールオーバーに荒々しいタッチで全幅を覆った抽象画で、良かったです。全道展、平原社。

中谷有逸「碑・古事記(仏教の伝来)」(版画、帯広)
道内版画界の大ベテラン中谷さん。ステンシルを用いた力強い画面は健在で、以前のようにハトメなどの小道具を用いず、びしっと全体を決めています。道展と平原社の会員。
松久充生「雷電 202W0I04V07」(アクリル、芽室)
黒をベースに、人物や、電子回路のような模様を描く松久さんの画面は現代的かつ平面的で、そのままテクノミュージックのアルバムジャケットなどに用いられそうなシャープさをいつも感じます。今作は、右上に宗達の雷神のような存在が見えており、現代と日本の伝統とが渾然一体になっています。新道展と平原社の会員。
森弘志「毛蟹」(油彩、新得)
風景画の実験シリーズについで、ゼロ年代はもっぱら「ものづくしシリーズ」とでも総称できそうな、にぎり寿司を規則的かつ写実的に整列させて描いた奇妙な絵を描いてきた森さんは、今回新しい領野に足を踏み入れました。写実的であることは従来と同様ですが、大きな画面いっぱいにケガニを描いているのです。
「いや、ふつうこういう絵は描かないっしょ」
とツッコミを入れたくなるのが森さんのすごいところなのですが、ただ、小さいものを巨大に描くというだけでは先行例もあるような気がします。独自なのは、画面が縦に半分に二分されており、左右でカニが数センチずれていること。これは「絵画であること」について自己言及的であるように思うのですが、果たして画家の意図は?
吉川孝「GHOST BRIDGE」(油彩、帯広)
全道展を辞して10年以上、国展でも活躍し現在は準会員。
これまで何度か書いてきたとおり、十勝地方は美術分野の作家が多いです。今回、57人が前後期にわかれて1点ずつを並べていますが、あくまで現役の画家・版画家だけです。
・物故者
・出身者でいまは十勝に住んでいない人
・彫刻、工芸、書、現代アート、写真などの分野
といった作り手の出品はありません。そして、単に、絵画教室に所属して趣味で描いているようなレベルの人ではなく、継続的に創作を続けている人ばかりです。
筆者が見たのは後期でした。
穴井亜紀子「咆哮」(油彩、帯広)
2012年に新道展を退会してから久しく見ていなかった穴井さんですが、十勝の団体公募展である平原社では現在も会員のようです。重量感あるモティーフを、腰を据えて描写しています。
小笠原洋子「石船「巣ごもりの刻」」(油彩、帯広)
道展と平原社の会員。例年、巨大な石の船が空に浮かぶさまを描いていましたが、今年は船が、葉を落とした木々のてっぺんに着地しています。新型コロナウイルスの影響で石の船も雄々しく空を飛ぶのをやめたのでしょうか。
近藤みどり「閉ざされた世界」(油彩、帯広)
生命の起源のような、あるいは顕微鏡写真のような光景を、明るい色合いで描く近藤さんは、全道展と平原社の会員。見ていると、心音が聞こえてきそう。
さとうえみこ「from ancient」(顔料、和紙、芽室)
赤や茶系を主体に、オールオーバーに荒々しいタッチで全幅を覆った抽象画で、良かったです。全道展、平原社。

中谷有逸「碑・古事記(仏教の伝来)」(版画、帯広)
道内版画界の大ベテラン中谷さん。ステンシルを用いた力強い画面は健在で、以前のようにハトメなどの小道具を用いず、びしっと全体を決めています。道展と平原社の会員。
松久充生「雷電 202W0I04V07」(アクリル、芽室)
黒をベースに、人物や、電子回路のような模様を描く松久さんの画面は現代的かつ平面的で、そのままテクノミュージックのアルバムジャケットなどに用いられそうなシャープさをいつも感じます。今作は、右上に宗達の雷神のような存在が見えており、現代と日本の伝統とが渾然一体になっています。新道展と平原社の会員。
森弘志「毛蟹」(油彩、新得)
風景画の実験シリーズについで、ゼロ年代はもっぱら「ものづくしシリーズ」とでも総称できそうな、にぎり寿司を規則的かつ写実的に整列させて描いた奇妙な絵を描いてきた森さんは、今回新しい領野に足を踏み入れました。写実的であることは従来と同様ですが、大きな画面いっぱいにケガニを描いているのです。
「いや、ふつうこういう絵は描かないっしょ」
とツッコミを入れたくなるのが森さんのすごいところなのですが、ただ、小さいものを巨大に描くというだけでは先行例もあるような気がします。独自なのは、画面が縦に半分に二分されており、左右でカニが数センチずれていること。これは「絵画であること」について自己言及的であるように思うのですが、果たして画家の意図は?
吉川孝「GHOST BRIDGE」(油彩、帯広)
全道展を辞して10年以上、国展でも活躍し現在は準会員。
(上のセンテンス、誤りがあり、手直ししました)
道内あちこちを転居していることもあり、作品を見るのはほんとうに久しぶりで、作風の変わりように驚きました。「油彩」とありますが、着彩した板を縦横さまざまに組み合わせており、背後の壁が見えている空白の部分のほうが広いくらいです。板が実際に前後して打ち付けられているので、空間の奥行き感が出ていますが、素材が長短・大小の板ということもあり、シャープでクリアというよりは、制作途上のような荒い雰囲気もあります。
渡邊禎祥「追想-013」(油彩、帯広)
神田日勝の友人だった渡辺禎祥さんは全道展会員。ベネチアの思い出なのでしょうか。一見、普通の奥行きある風景画のように見えながら、複数の要素を自在に組み合わせています。
池田緑「1本の木に始まるストーリー」(版画、帯広)
新型コロナウイルスの感染拡大で一気に日常のシーンで当たり前の存在になったマスク。これを使ってもう20年以上も前からパフォーマンスや写真制作を手がけているのが池田さんです。世界各国・各都市で置いたりつるしたりしたマスクを撮影した写真を、大きなパネルの中に並べています。時代が池田さんに追いついたのか?
神田日勝も、唯一巡回展に行かなかった「「若者の素顔」のための背景画」と、小品の風景画8点が、前後期通じて展示されていました。
そのほかの作品は次の通り。
飯田和幸「虚構」(ミクストメディア、帯広)新道展
上田 薫「手毬花」(水彩、幕別)平原社
大崎和男「オロッコの詩」(油彩、新得)道展
神田絵里子「森に暮らすもの」(油彩、鹿追)
斉藤啓子「おもい・おもい」(油彩、新得)道展、平原社
匂坂敏郎「ある情念(1-A)」(版画、帯広)道展、平原社
佐々木武信「北の樹林」(パステル、帯広)新道展、平原社
佐藤真康「想う」(アクリル、帯広)全道展、平原社
白土 薫「朝の光」(版画、帯広)道展、平原社
高橋幸男「静物画」(水彩、鹿追)
瀧川秀敏「奏でる」(油彩、帯広)平原社
田之島篤子「明日の行方」(油彩、音更)道展、平原社
中西千尋「北国の詩(白馬)」(油彩、中札内)平原社
中村富志男「春耕を待つ美生の丘」(油彩、清水)白日会、平原社
東原こずえ「蠢く細胞」(油彩、帯広)平原社
細木るみ子「深界の自由律<森で光を解いて>」(鉛筆画、帯広)平原社
村上俊彦「雪林」(油彩、清水)
山平博子「北の大地の痕跡」(水彩、士幌)平原社
山元 明「幾年月」(油彩、芽室)
前期 : 2020年9月11日(金)~10月11日(日)
後期 : 10月13日(火)~11月15日(日)
午前10時~午後5時
月曜と9月13日、23日、11月4日休み。9月21日は開館
神田日勝記念美術館(河東郡鹿追町東町3 kandanissho.com )
□【告知】神田日勝没後50年 躍動する十勝の美術作家展
・帯広駅前から北海道拓殖バスに乗り「神田日勝記念美術館前」で降車すぐ(新得駅前からも乗れますが、本数は少ないです)
渡邊禎祥「追想-013」(油彩、帯広)
神田日勝の友人だった渡辺禎祥さんは全道展会員。ベネチアの思い出なのでしょうか。一見、普通の奥行きある風景画のように見えながら、複数の要素を自在に組み合わせています。
池田緑「1本の木に始まるストーリー」(版画、帯広)
新型コロナウイルスの感染拡大で一気に日常のシーンで当たり前の存在になったマスク。これを使ってもう20年以上も前からパフォーマンスや写真制作を手がけているのが池田さんです。世界各国・各都市で置いたりつるしたりしたマスクを撮影した写真を、大きなパネルの中に並べています。時代が池田さんに追いついたのか?
神田日勝も、唯一巡回展に行かなかった「「若者の素顔」のための背景画」と、小品の風景画8点が、前後期通じて展示されていました。
そのほかの作品は次の通り。
飯田和幸「虚構」(ミクストメディア、帯広)新道展
上田 薫「手毬花」(水彩、幕別)平原社
大崎和男「オロッコの詩」(油彩、新得)道展
神田絵里子「森に暮らすもの」(油彩、鹿追)
斉藤啓子「おもい・おもい」(油彩、新得)道展、平原社
匂坂敏郎「ある情念(1-A)」(版画、帯広)道展、平原社
佐々木武信「北の樹林」(パステル、帯広)新道展、平原社
佐藤真康「想う」(アクリル、帯広)全道展、平原社
白土 薫「朝の光」(版画、帯広)道展、平原社
高橋幸男「静物画」(水彩、鹿追)
瀧川秀敏「奏でる」(油彩、帯広)平原社
田之島篤子「明日の行方」(油彩、音更)道展、平原社
中西千尋「北国の詩(白馬)」(油彩、中札内)平原社
中村富志男「春耕を待つ美生の丘」(油彩、清水)白日会、平原社
東原こずえ「蠢く細胞」(油彩、帯広)平原社
細木るみ子「深界の自由律<森で光を解いて>」(鉛筆画、帯広)平原社
村上俊彦「雪林」(油彩、清水)
山平博子「北の大地の痕跡」(水彩、士幌)平原社
山元 明「幾年月」(油彩、芽室)
前期 : 2020年9月11日(金)~10月11日(日)
後期 : 10月13日(火)~11月15日(日)
午前10時~午後5時
月曜と9月13日、23日、11月4日休み。9月21日は開館
神田日勝記念美術館(河東郡鹿追町東町3 kandanissho.com )
□【告知】神田日勝没後50年 躍動する十勝の美術作家展
・帯広駅前から北海道拓殖バスに乗り「神田日勝記念美術館前」で降車すぐ(新得駅前からも乗れますが、本数は少ないです)