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その3■イコロの森 ミーツ・アート2019 ー森の野外美術展ー(9月21~29日、苫小牧) 2019年秋の旅(5)

2019年09月29日 08時42分19秒 | 展覧会の紹介-現代美術
(承前)

 最後は末次弘明さんである。

 末次さんはもっぱら絵画を制作しており、それを知る人には意外な作品かもしれないが、もともと北海道に来る前は、インスタレーションがメインだったそうだ。

 設置場所は、他の4人の作品から5分以上歩いたところにある。

 旗が連なっているようなものが木と木の間に渡してある。
「ここから異世界」
といっているような目印であるけれど、ここからかなりの奥だ。

 逆に言えば、末次さんの作品が森の奥に設置されていることで、今回の野外展の鑑賞の「森感」がアップしたことは間違いない。

 また、作品そのものよりも、そこに至る道づくりのほうが一苦労だったことも想像に難くない。



 下草が少なく、湿ってもおらず、傾斜もないーという、少なくとも作品が展示されているエリアは、他の森よりも歩きやすいはずだが、それでも、立ち枯れた草を排除して、落ちている枯れ枝をそれとなく並べることで、歩行ルートをつくりだす作業は、相当のものだっただろう。

 そうやって、かなり親切に、しかし森の雰囲気を壊さずに順路を示しているにもかかわらず、現地にたどり着けない人がいたらしく、あちこちに写真のような案内板が掲示してあった。

 ちなみに順路は、スプーンのような形状をしていて、作品からの帰路は、途中から、往路と同じ道を通ることになる。



 末次さんがこんなに奥に作品を設置したのは、冒頭や、すぐ前の画像からわかるように、倒木が決め手らしい。

 3本の太い木がおなじ角度で傾き、ドアの位置から天へと昇っていく階段のようでもある。
 もちろん、この木が何で、ドアがなんなのかは、見る人が自由に決めればいいことだ。

 ただ、深い森の中に突然人間の産物が登場することの異化効果は大きいと思う。

 ドアは、既製品を運び込むのではなく、末次さんが自作したもの。
 環境とのバランスなどを考え、少し光沢のある塗料を施してあるので、周囲の風景がうつり込む。



 もうひとつ特徴を挙げるとすれば、反対側にドアノブがついていないこと。
 このドアを開けて、向こう側に通り過ぎて、後ろ手でドアを閉めてしまったら、ドアをくぐり抜けるかたちではもう戻れないことになる。

 末次さんは
「根の白さが際だって見える。夕方は光が美しく、森の暗さと空の明るさの対比が大きい」
と話す。
 倒木があるからこそ、上から光が差し込む場所になっているのだ。

 澁谷さんではないが、末次さんのドアも、作品そのものがどうこうというよりも、森の奥へと人々をさそう装置であるという言い方もできるだろう。

 ドアそのものについては、見る人がその意味を、自由に考えればいいと思う。

 異界への入り口でもいいし、タイムマシンのとびらでもいいだろう。
 天へと昇っていく斜めの道(=倒木)へのドアとも解釈できる。なんでもかまわないのだ。


 筆者は、これは「山猫軒」の戸口ではないかと想像してみた。
 宮澤賢治の代表作「注文の多い料理店」に出てくるレストランだ。



 作品にたどり着くすこし前にも、似たような感じの倒木がある。



 道の境界を指し示していた木の枝は、森の入り口側で、幾筋かに分かれて、それぞれ異なるもののところで終わっている。それが何であるかは、作者はあえて説明はしていないが、それぞれ象徴するものがあるらしい。


 ところで、アーティストトークで澁谷俊彦さんは、来年以降についてもさらに参加者を増やして継続していく意向を示していた。これは楽しみだ。



2019年9月14日(土)~20日(金)公開制作 / 9月21日(土)~29日(日)午前10時~午後4時半
イコロの森「森の学校」周辺 雑木林エリア(苫小牧市植苗565-1 www.ikor-no-mori.com )

9月22日(日)午後1時半からアーティストトーク

□公式Facebook ページ https://www.facebook.com › ikor.meetsart


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2019年秋の旅(0) さくいん


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (h-art_2005)
2019-10-21 06:49:17
いつもありがとうございます。
あいにく道内の展示にほとんど行けないため、しばらくこのシリーズが続きそうです。ご了承ください。
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イコロの森 野外美術館 (怜な)
2019-10-20 19:22:37
こんばんは。

苫小牧 植苗方面での野外作品をご紹介していただきありがとうございました。春香山で歩き回ったのを思い出します。
道外の作品も、その地域に触れながら読ませていただきました。これから東京ということで一息し、また次の作品巡りを楽しみにしております。
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