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■第71回全道展・続き (2016年6月15~26日、札幌)

2016年06月20日 20時34分51秒 | 展覧会の紹介-団体公募展
承前。敬称略)

 会場でなんだか筆者の目に付いたイメージ。それはカラスだった。

 版画の会員、重岡静世の「瓦解」は、上半分にカラスの群れ、下半分に枯れたヒマワリを、オレンジと灰色を主体に描き、暗鬱とした雰囲気に満ちている。
 この作品自体はなんら政治的な主張をしているわけではないのに、いままさに全体主義に舵を切ろうとしている日本社会を予知しているようでもあり、静かな力でこちらに迫ってくる。
 そういえばと思って、もう一度会場を見回してみると、カラスや黒い鳥が登場する作品があるはあるは。

 まずは道新賞の佐々木剛「札幌・冬・カラス」。
 背景の空をカラスの群れが横切っていなかったら、もっと凡庸な絵になっていたかもしれない。中央の女性がリアルに描かれているのに、周囲のタッチがラフなのも、むしろこの作品の魅力になっているし、空気感を出していると思う。

 絵画の会員、佐藤仁敬「都市とヒトと黒い鳥」。
 縦位置で、しかも中心線附近に主要モチーフが集まっているというやや破調ぎみの構図だが、それがむしろ不安定さを強調している。画面上部の白いワンピース姿の女性は顔が黒い霧で隠され、下部の男は両手で顔を覆っている。そして、微妙に高さが異なる左右の都市(右側は手前に川のような水路がある)、画面を横切る2羽の大きな黒い鳥など、なぜか不吉な感じが強い。

 ほかにも黒い鳥が、笠原悦子、やまだ乃理子、佐藤艶子の絵に登場していた。


 …と、これまでおもに絵画について述べてきたが、全体として絵画には、あっと驚くような作品は少なかったような印象がある。
 会員では、黒木孝子、近藤みどり、斎藤矢寸子、佐々木俊二といった人々に目がいったが、全体として、昨年までの画風を引き継いでいる人がほとんどといってよい。
 その中で、童画のようでも夢の一場面のようでもある絵を描いてきた土井義範が、人間の頭部と、その脳にさまざまな人物の顔を散りばめた不思議なモチーフに転換していた。




 以下、一言ずつ。

 絵画会員。

 宮地明人「そこに在るということ」 あいかわらず高い描写力だが、どうしてラズベリーなんだろう。
 森弘志「さしみ」 こんなモチーフ、100号の油絵にするやつおるんかシリーズ(といま勝手に名づけました)、今年は、シメサバ、イカ、サーモン…でした。しかも45度ずつ角度を変えて14×16=224個。ご苦労さまです。
 石本久美子「舞踏手」 シンプル。人物を少し上に位置させたのが、勝因。
 矢元正行「解体客船」 巨大な船のドックという、矢元さんにしてはわかりやすい現場を描いているのだが、人がまったく描かれていない。あちこちから噴出する蒸気のみが目立つ。スチームパンクだ(違
 輪島進一「ファシーレ」 バレリーナは以前からのモチーフなのだが、手前に描かれた、縦に積まれた黒い照明装置が、絵の具の飛沫をちらばして、大きな異化効果をもたらしている。バレリーナの周囲には、極細でさまざまな線が走り、1枚のタブローで時間の経過を示すという難題をこの画家があきらめていないことがうかがえる。
 米谷哲夫「エレガントフィーバー」 ここ最近はモノクロだったが、今回は色が戻ってきた。
 渡辺貞之「占いごっこ」中央の少女占い師が、ナカジテクスによく出品している橘内美貴子さんに似ていると思う。

 会友。

 伊藤幸子「地への邂逅」 逆さづりになった人物? は見上げると相当に力が入っている。小谷博貞「立棺」シリーズの跡を継ぐ精神性を底部にたたえた作品。

 会友は数が多いが、105人いて62点しか出していない。
 時々、一発で師匠が誰なのかわかる絵があるのが悲しい。

 一般。

 末次弘明「Newsong」 末次さんが全道展に出しているとは知らなかった。ペンの走り書きのような、心電図の記録のような、ふしぎな絵で、ほんとうに引き出しの多い人だ。佳作賞。

 桔梗智恵美「Pandora」 佳作賞。正面を向くふたりの少女、西洋の墓地、巨大な時計、傘をさす女、家の置物など、よくわからないのになにかストーリーがあるように感じさせ、それらの配置も巧み。お得感のある絵といったらいいのか。

 モリケンイチ「燃える木」 人物描写には東郷青児の影響が感じられなくもないが、単なる人物画の域をはるかに超えた、独自の世界を作り出している。今回は、ピンクと青のドレスを身に着けた少女ふたりを手前に配し、奥で木が炎上しているという絵で、なにかを警告するような、神話的な絵である。

 以下、賞には漏れたけど個人的にはおもしろかった作品。

 浅井菫「DINA」 若手。SF的な世界を破綻なく描き切る力量に注目。
 大塚真奈「絶対バカにしているから」 たぶん若手。ころせんせーあるいはスマイルマークのような顔をした人物4人がまじった、若者17人の群像。ばらけた感じがいまふう。
 下川二三枝「工事中」 雪の降る寒い中での電話工事を題材にした作。ふつうの絵画なのだが、農漁業以外で労働の現場を描いた絵は驚くほど少ないから、こういう視線は好きだ。
 宮下淳「歯車」 巨大な歯車がデーン。これはシュールだ。
 酒森夏海「secret bace」 樹上のツリーハウスを上から見た、通常はありえない視点が良い。ZONEの歌みたいですね。


 版画。

 ここはプロやベテラン会員の多い部門なので安心してみていられる。

 会友。

 浅川良美「まほろば」 カエルが卵を産んでいる情景なのだろうが、よく見ると水底には空き缶などが沈んでいるのが暗い色で描かれている。考えさせられる作品。
 坂みち代「春(雪どけの頃)」 自転車2台が水たまりのある街路をゆく場面を、モノクロームの銅版画で描写した。水たまりに雲が反射し、鮮やかなスナップショットのような1枚になった。新会員。

 松浦進が新会友になったが、後に続く道都大中島ゼミの若手がいないのはさびしい。
 一般は全体として、写実的な木版画が多い。だめだとは言わないが…。


 彫刻。

 1階の大部屋に良い作品が集中している。
 十勝の埋もれ木から作品を作る岡沼淳一は、依然として衰えぬパワーで、会場を見晴かすような大作を持ってきた。
 橋本諭「蘇莫者」は片足で立つ、両腕のないトルソ。ごつごつした表面に、生命がみなぎっている。
 水野智吉「風に向かう」 かなり前につんのめったような姿勢になっている。
 二部黎、川上勉、伊藤隆弘は例年同様さえているが、川名義美の首「黒の肖像」に、中原悌二郎へのオマージュを感じた。

 会友。

 櫻井淳「Home」 おそらくテラコッタによる胸像。右目がつぶれているのはなぜか、胸の部分がそぎおとされているように見えるのは―など、いろいろ考えさせられる。
 森戸春樹「間然塔」 置き場所がこれだけ離れているので、なんだか調度品みたいに見える。ちょっと気の毒な展示場所だ。

 一般。

 佐藤邦子「往にし方」 裸婦像。腰に右手を当てて、上体をひねったポーズが実に自然。動感も力もある。新会友。

 石橋周子「自由にあるき鯛」 ふざけた題がついているが、魚が脚を得て歩く姿を、不自然さなく表現できている力量は買いたい。

 宮下真理子「想ー青の振り子」、田原英昭「時の行方」 いずれも、異素材の組み合わせを、難なくやってのけているところがすばらしい。


 工芸会員。
 馬場雅己「流雅」 驚異的な表面処理で細かい文様が付けられたガラスのオブジェ。

 新会友の阿部綾子が2点出品。これは全道展工芸部門では史上初だと思われる。面の付け方がおもしろい。

 ガラス、染織、陶芸で美しい作品が多いが、一時期出品のあった、オタクっぽい立体など、あまり全道展らしくない作品がことしは1点もないのが残念。
 


2016年6月15日(水)~26日(日)午前10時~午後6時(最終日~午後4時30分)、月曜休み
札幌市民ギャラリー(中央区南2東6)




・地下鉄東西線「バスセンター前」9番出口から約300メートル、徒歩4分

・ジェイアール北海道バス、中央バス「サッポロファクトリー前」から約510メートル、徒歩7分=札幌駅前、時計台前から現金のみ100円で乗れます

・東西線「菊水駅」1番出口から約650メートル、徒歩9分
・中央バス「豊平橋」から約850メートル、徒歩11分
(市民ギャラリーに駐車場はありませんが、周辺にコインパーキングはいくつかあります)


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