
ふだん、展覧会の格付けや点数付けをしたり、「必見!」とあおったりすることの嫌いな筆者であるが、この個展だけは、ぜひ見てほしい-と言っておく。
作者の技術がどうこうということではない。この個展を見ての最大の収穫は、要するにアートは、手先ではなくて、魂というか精神というか全身というか、そういう部分が大事なのだ-ということが、非常によくわかったことだ。
案内状を手にしたり、2009年4月7日の北海道新聞札幌圏版の「街のうた」をごらんになった方は、すでに事情をご存じだろうが、佐藤さんは2008年の正月、自宅アトリエで油絵を制作中、突然の脳梗塞で倒れた。
佐藤さんは新道展会員で、北方の風土を濃縮したような美しい絵画を描く方である。
1995年から2004年まではグループ展「NORD」のメンバーとして毎年展覧会を開催。
2007年の個展は、北海道の四季を、時計台ギャラリーのA室全体を使って表現し、佐藤さんの画業でもひとつの頂点となるすばらしいものだった。
会場で配布されていた紙によると、「絵画への想いは捨てきれず、1週間目からベッド上で左手を使って絵を描き始めた」という。
絵描き魂。そうとしか言いようがない。
会場には、このころのスケッチもある。さすがにタッチはたどたどしい。

ご家族の方によると、佐藤さんはそれらの作品を描いた当時の記憶がほとんどないという。
まもなく、色鉛筆を使った制作が始まる。
A、Cの両室には、それらの作品が69枚飾られている。題はついていない。
このほか「スクラッチドローイング」と称する作品が2点と、病に倒れる前の小品23点も展示されている。
最初期の8点は「左手によるドローイング」とくくられ、つづく№9から24までは
「風景・家並・静物による(2008年2月~)」
というカテゴリーで一括されている。
札幌山の上病院での必死なリハビリで、ドローイングがたまっていく。
心底からおどろいたのは、たとえタッチは以前のような流麗さは欠いていたとしても、そこにある世界は、間違いなく佐藤さんのものだということだ。
とくに、疎林を題材にした4点組み(すぐ下の画像)は、まさに一昨年の時計台ギャラリーで展開した世界を凝縮したエッセンスのようで、見ていて涙が出そうになった。

これは、佐藤さんの魂が還っていく世界なのだ。
それまでの作品は「左手」と、サインの横に記されているが、№24にいたって初めて「右手」と明記された作品になる(次の画像、左端)。

不自由な右手による絵のできに、佐藤さんは不満だったようだ。
しかし、その後、左手と右手をすこしずつ用いながら制作にたずさわるようになり、№28以降は「右左手」と記されるようになる。
題材としては、№25以降は「クレー風による(2008年5月-)」となっている。
小さな水彩画ながら宇宙のようなスケールの大きさを感じさせる、20世紀を代表する画家のひとりパウル・クレーに倣って、色面をつなげた半抽象の作品が多く並んでいる。
なかには、ユダヤ系思想家ベンヤミンが所有していたことで名高い「天使」を思わせる作品もある。
額装されていない、ファイルに入っている絵には、クレー「さわぎく」を模写したとおぼしき絵もあった。
あるいは、クレーに倣って小さな世界を展開するにあたって佐藤さんは、近代西洋絵画史をもう一度なぞっていたのではないかと思われるふしがある。
大小、色とりどりの長方形をいくつも重ねた作品を見ていると、もしかしたらキュビスムはこういうふうになった可能性だってあったかもしれない-などと考えてしまうのだ。

同病院の理事長が芸術好きで、院内には有名な画家の絵もあったらしい。
さまざまな方面の人の励ましもあって、普通なら不可能と思われる個展の開催にこぎ着けるに至った。
筆者が言いたいことは、繰り返しになるが、佐藤さんの絵に対する姿勢のものすごさと、たとえ利き手が使えなくてもそこに出現する世界はまぎれもなく佐藤さんのものだということだ。
とにかく、できるだけ多くの人に足を運んでもらいたい個展だ。
2009年4月6日(月)-11日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
■企画展「07-08展」
■佐藤萬寿夫展(2007年)
■06年の「順子・真知子・萬寿夫展」 (画像なし)
■NORD展 X(04年)
■NORD IX (03年)
■02年の個展
■NORD VIII (01年)
作者の技術がどうこうということではない。この個展を見ての最大の収穫は、要するにアートは、手先ではなくて、魂というか精神というか全身というか、そういう部分が大事なのだ-ということが、非常によくわかったことだ。
案内状を手にしたり、2009年4月7日の北海道新聞札幌圏版の「街のうた」をごらんになった方は、すでに事情をご存じだろうが、佐藤さんは2008年の正月、自宅アトリエで油絵を制作中、突然の脳梗塞で倒れた。
佐藤さんは新道展会員で、北方の風土を濃縮したような美しい絵画を描く方である。
1995年から2004年まではグループ展「NORD」のメンバーとして毎年展覧会を開催。
2007年の個展は、北海道の四季を、時計台ギャラリーのA室全体を使って表現し、佐藤さんの画業でもひとつの頂点となるすばらしいものだった。
会場で配布されていた紙によると、「絵画への想いは捨てきれず、1週間目からベッド上で左手を使って絵を描き始めた」という。
絵描き魂。そうとしか言いようがない。
会場には、このころのスケッチもある。さすがにタッチはたどたどしい。

ご家族の方によると、佐藤さんはそれらの作品を描いた当時の記憶がほとんどないという。
まもなく、色鉛筆を使った制作が始まる。
A、Cの両室には、それらの作品が69枚飾られている。題はついていない。
このほか「スクラッチドローイング」と称する作品が2点と、病に倒れる前の小品23点も展示されている。
最初期の8点は「左手によるドローイング」とくくられ、つづく№9から24までは
「風景・家並・静物による(2008年2月~)」
というカテゴリーで一括されている。
札幌山の上病院での必死なリハビリで、ドローイングがたまっていく。
心底からおどろいたのは、たとえタッチは以前のような流麗さは欠いていたとしても、そこにある世界は、間違いなく佐藤さんのものだということだ。
とくに、疎林を題材にした4点組み(すぐ下の画像)は、まさに一昨年の時計台ギャラリーで展開した世界を凝縮したエッセンスのようで、見ていて涙が出そうになった。

これは、佐藤さんの魂が還っていく世界なのだ。
それまでの作品は「左手」と、サインの横に記されているが、№24にいたって初めて「右手」と明記された作品になる(次の画像、左端)。

不自由な右手による絵のできに、佐藤さんは不満だったようだ。
しかし、その後、左手と右手をすこしずつ用いながら制作にたずさわるようになり、№28以降は「右左手」と記されるようになる。
題材としては、№25以降は「クレー風による(2008年5月-)」となっている。
小さな水彩画ながら宇宙のようなスケールの大きさを感じさせる、20世紀を代表する画家のひとりパウル・クレーに倣って、色面をつなげた半抽象の作品が多く並んでいる。
なかには、ユダヤ系思想家ベンヤミンが所有していたことで名高い「天使」を思わせる作品もある。
額装されていない、ファイルに入っている絵には、クレー「さわぎく」を模写したとおぼしき絵もあった。
あるいは、クレーに倣って小さな世界を展開するにあたって佐藤さんは、近代西洋絵画史をもう一度なぞっていたのではないかと思われるふしがある。
大小、色とりどりの長方形をいくつも重ねた作品を見ていると、もしかしたらキュビスムはこういうふうになった可能性だってあったかもしれない-などと考えてしまうのだ。

同病院の理事長が芸術好きで、院内には有名な画家の絵もあったらしい。
さまざまな方面の人の励ましもあって、普通なら不可能と思われる個展の開催にこぎ着けるに至った。
筆者が言いたいことは、繰り返しになるが、佐藤さんの絵に対する姿勢のものすごさと、たとえ利き手が使えなくてもそこに出現する世界はまぎれもなく佐藤さんのものだということだ。
とにかく、できるだけ多くの人に足を運んでもらいたい個展だ。
2009年4月6日(月)-11日(土)10:00-18:00(最終日-17:00)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3 地図A)
■企画展「07-08展」
■佐藤萬寿夫展(2007年)
■06年の「順子・真知子・萬寿夫展」 (画像なし)
■NORD展 X(04年)
■NORD IX (03年)
■02年の個展
■NORD VIII (01年)
この展覧会良かったです。
色彩と形のセンスということなんでしょうか。
技術を超える何かがあるということが、本当に良く分かる展覧会でした。
絵って、手先じゃないんですね。
ほんとに。
佐藤さんには1日も早く回復していただければと願っています。
駆け込みで観に来るお客さんも
多く込み入ってました。
丁度佐藤さん本人もいらして、
観に来た方々に、絵の説明を
されている最中です。
ちゃっかり一緒に聞いてると
「これはリハビリの部屋から
みえた風景、、、、」と、
どうやら観に来た方々は、
病院にお世話になった様です。
作品の隅に「右」「左」と、
記載されているのが印象的。
佐藤さんの作品を見ながら、
ある方を思い出しました。
その方も、利き腕が不自由と
なった後、反対の腕で絵を
かく練習をされ、後に個展を
開くまでになりました。
自らのペンネームを
レフティ
と名乗り、活動を続けました。
確か、トンボ鉛筆のロゴを
デザインされていたと、記憶
しています。
こっちも、がんばんなきゃっ
時計台ギャラリーは、ほかにくらべて来場者の数が多いので、応対も大変だと思いますが、佐藤さん、お疲れ様でしたと言いたいです。
今回の個展はほんとうに良かったです。