散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

「啓蒙思想」と「段階的発展理論」~進歩的知識人の基盤

2015年10月01日 | 政治理論
安保法制に関する反対派知識人の言動のベースは依然として丸山眞男なのか?丸山は政治思想史の研究家だ。しかし、彼の学問では無く、日本社会を認識する発想の起点には、思想として知識人特有の啓蒙主義と共に、発展段階説、即ち、『日本が資本主義であるが故に将来は社会(共産)主義に至る』があると思う。

発展段階説は開発途上国に対する近代化理論が先進欧米諸国において、ロストウ、ライシャワー等によって主張され、もてはやされた時期があった。一方、階級史観に基づく共産主義も発展段階説をまとい、『資本主義体制からの歴史的必然による移行』が新たに生まれた労働者階級のイデオロギーとなった。

一方、資本主義によって近代化に突入した国では、資本蓄積のときからダイナミックに変動をする社会に変貌を余儀なくされ、また、貧富の差も意識されるようになって、社会不安も、また増大していく。

近代日本もこの状態を免れず、知識人集団に共産主義イデオロギーが広まると共に共産主義的発展段階説も支持が拡がる。戦後、米国民主主義の影響は広く大衆に広まる一方、戦前からのロシア革命だけでなく、中国革命の影響も革新勢力に浸透してゆく。

ここで、進歩的文化人という言葉で代表される革新派が知識人集団の中で主導的役割を果たすようになる。その基盤が「啓蒙思想」と「共産主義的な段階的発展理論」が結び付いた考え方になる。終戦直後、『超国家主義の論理と心理』(1946)で論壇にデビューした丸山は、日本思想に対する洞察とシャープな論説によって、忽ち、その集団の若きリーダーとして押し出される。

しかし、余りにも強烈な影響により象徴的な位置に置かれたことは、逆に云えば、丸山をその集団に拘束させるようになる。その後の丸山の社会評論的な論考では、『ある自由主義者への手紙』(1950)に書かれる様に、「日本の社会の現状の情況」においては「共産党が社会党と共に西欧的民主化に果たす役割」を認める、従って「反共自由主義者の言論は、日本の強靱な旧社会関係とその上に蟠居する反動勢力の強化に奉仕」するとの立場を堅持する。

共産党は中国に亡命した徳田球一による指導で、1951年の四全協において武装闘争の方針を決定し、「山村工作隊」などの非公然組織を作って活動した。1952年7月に制定された破壊活動防止法は、直接的には共産党の武装闘争を取り締まるためのものである。しかし、世論からの批判もあり、共産党は武装闘争を“極左冒険主義”として自己批判し、1956年の六全協で武装闘争を放棄した。

この間、丸山が共産党に対する基本的見方を変えたとは思えない。しかし、それはあくまでも相対的に保守反動派の勢力が増加するのを防ぐ役割を共産党、社会党の左翼陣営に期待する以外になかったからであろう。それは啓蒙主義の精神を持ち、発展段階説の道筋を歴史は進んでいると考える立場に経てば、当然の成行きとも云える。

しかし、それは一面で反「保守反動」主義であって、反「共産」主義との対立となり、主体的なイデオロギーを持ち得ない対立に導くことになる。「保守反動」と「共産」が共に劣化していけば、双方に肩入れする知識人も共に、本来の知識人としての自立の道から外れることになる。

丸山ほどの学問的知識、深い識見を有する知識人であれば、そのような状況にも自らの論理を構築し続けることは可能であろうが、無知な大衆に自ら信じる真理を語れば良いとの単なる啓蒙主義に支配される単なる知識人は、丸山が敷いた路線に自らを同一化し、自らの信じる進歩主義的イデオロギーから抜け出ることができない。

しかし、「啓蒙主義」も色あせ、ソ連は消滅し、中国の毛沢東神話も崩れ、「共産主義的発展段階説」は過去の言葉に属することになり、進歩主義そのものも方向性を失ってしまい、単なる反「保守反動」主義の中で、今回の安保法制の騒ぎを掻き立てることになる。

おそらく、啓蒙主義と発展段階説が西欧的市民社会像と結びついて日本に投射された丸山の進歩主義的認識は、丸山の視野の中にはなかった日本の「高度経済成長」によって突き崩され、共産主義の終焉と共に、崩壊したように感じる。
おそらく、成熟国家として、新たな社会主義の発想とそれに基づく世界観を構築することが、その再生に必要な作業になると考える。


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