散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

知の地域づくりと図書館の役割~片山前総務相の講演(H20/1/27)から

2013年09月30日 | 文化
先ず、講演を聴いた時の筆者の感想を当時のままで書いておく。
『知的立国は地域において自立した市民により支えられる。市民の自立には、質の高い「教育」と「知の拠点」の存在が必要である。その「知の拠点」が図書館である。従って、「義務教育」と「図書館」は無償である。』

図書館についてこれだけ根源的なミッションを与えたのは初耳で、最近稀にみる創造的な提案と感じた。これがショックです!「義務教育」と「図書館」が並置されていることも。「地域の学習拠点」或いは「地域を知る窓口」としての図書館という位置づけは、川崎市ならずとも良く聞かれるが。

筆者自身、今も市立図書館のお世話になり、また、レファレンスに関しては、都立中央図書館を利用し、その有用性は疑う余地はない。ところが話では、市民自治の基盤としての地域図書館、それも地域活動を含めてレファレンス機能の充実がポイントとのことで、途中から自分のことに引きつけて聞いていた。

講演内容も図書館だけでなく、経験に基づいた自治行政のあり方にも時間を割き、有権者の意識改革として、選挙で選び、ダメだったら次の選挙で落とす、直ぐにという場合はリコールする、これが基本、と強調していた。

以下、講演内容の抜粋(レジュメとメモから)になる。

1)「知的立国と知の地域づくり」

「知的立国」とは
科学技術立国…科学技術の力で国民を豊かにし、世界に貢献する
文化芸術大国…質の高い文化芸術が国民を心豊かにし、世界の人々を魅了する
清潔で透明性の高い政府…土建国家、軍事大国、金満国家でなく、教育を重視
自立した市民…良質の政府を形成し、科学技術や文化芸術を支える賢明な市民

「知の地域づくり」とは…自立した市民により知的立国を地域で支える
「市民の自立」とは
自ら考え、自ら判断・決定し、自ら行動する
自己の潜在能力を十分生かして自己実現を図り、社会に貢献する
自立には、質の高い「教育」と「知の拠点」の存在が必要
…「義務教育」と「図書館」が無償の理由

「図書館のミッション」とは
…「誰のために」、「何の目的で」存在するか
…図書館は市民の自立を支えるための「知の拠点」
…現状、図書館は個別に分断され、子どもと高齢者の利用

「地域図書館」とは
…市民が自ら考え、自ら行動するために必要な知識や精報を提供
(例えば以下のような分野)
 ・地球環境問題と地域の取組み
 ・基礎的自治体のあり方と市町村合併への対応
 ・草の根自治を知る…欧米の地方自治に関する情報など
 ・教育…北欧の教育事情に関する情報など
 ・文化芸術…日常的に文化芸術に親しみ、心豊かな生活を送るには
 ・仕事…職業に必要な技術、制度、経済、統計などの情報や知識を提供
 ・生活や子育て…地域や家庭のカの弱体化を補う、的確な情報提供機能が必要
 ・健康と病気…病気や健康に関する情報提供、個人の健康回復や心の平安
  →「闘病者文庫」(知・情報の分類と統合により役立つ存在に)
 ・地域の歴史や文化、伝統などの資料・情報
  …市民主体の「地域の自立」に欠かせない

大学図書館…学生と研究者、それに経営・事務部門に対しても支援
県庁図書室…職員が中央官庁に依存しないで政策立案に必要な資料・情報にアクセス
議会図書室…議員が執行部に依存しないで必要な資料や情報を入手できる
      →中央官庁、執行部は都合の良い情報だけを出す 確かめる・裏をとる必要
学校図書館
 ・子どもが主体的に学ぶ『生活習慣』を育む一将来の地域図書館の良き利用者に
 ・職業・就業観を養う一自立し職に就くイメージを掴み、進路選択に自信を
 ・教職員の教材づくりや様々な仕事のサポート

図書館がミッションを果たす
 …資料・情報と利用者との媒介機能(司書)が不可欠
  ・司書の役割
 …情報を分類、整理、まとめる アドバイス・支援 司書なし→貸本屋
  ・多くの自治体では十分な予算、人員が確保されていない現状…蔵書、司書
  ・図書館行政が「質素」な東京都…3,000億円の財源余剰を国に召し上げられる

2)図書館の整備充実など「知の地域づくり」から見た自治体改革のあり方

教育委員会(5人の教育委員)は自立し、住民・保護者から信頼されているか
 学校経営者の自覚とマネジメント能カ…現場の課題を解決する気概と力量
 独自の財政権ない、関係予算・議案について首長から意見を聴かれる法的権利

首長の「知」に対するリテラシーは高いか…図書館のミッションを理解?
 一般に政策選択がハード事業などに偏る、文化や芸術、教育への関心は低い
 財政難に陥った原因一過去多くの自治体は『非知」の事業で大量の借金

議会のリテラシーはどうか
 教育委員の選任に同意し、ハード事業中心の予算を承認してきたのは議会
 市民全体の視点でのシステム改革ではなく、個別案件を口利きで処理する傾向
 多くの自治体議会は、「知の地域づくり」でリーダーシップがとれない
 有権者の意識改革と議会制度(選び方、選ばれ方)の改革が求められる

自治体の行政改革と知の地域づくり
…指定管理など自治体業務の外部化をどう考えるか
 利用者に提供するサービスの質の向上につながるか
 『知の拠点」が質の高い組織・集団として持続可能か
 単にコスト縮減のためのツールに堕している、非知性的行政改革の典型例

自治体の予算は、全体について広い視点から優先劣後が論じられているか
 予算編成過程の透明化一主権者である住民に対し十分な情報公開
 ・議会は予算・決算を十分に審議・審査しているか
  …根回し・談合、八百長と学芸会はないか

行政改革は総務省主導でなく、現場の必要に基づき行うべき
 総務省主導の行革、質を問わず量(定数・予算削減)のみに関心
 …安かろう、悪かろう
 行政改革は本来役所・議会と市民との対話で決められるべきもの

     
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家計から見た経済学~GDPを巡る政策と生活空間との間に

2013年09月29日 | 経済
経済学は政府のための政策学であって、個人の自己認識に資する学には至っていない。アベノミクスが出現して以降、このことが経済について考える際につきまとう筆者の疑問であり、問題意識の一端である。

経済に関する記事を読んで、国の経済に対する判断基準がGDPに有ることが良く判る。数値表現ができ、集計が可能、即ち、統計を使うと言う意味において、政府が使う経済学は極めて単純なように見える。逆に言えば、使われる経済学は学問ではなく、統計をベースとした技術のように見える。

現代政治学では既に「権力の師傅」「ドクトリン」の他に「自己認識の学」としての政治学という考えが定着している。それは、「社会学は事実の記述に関わるが、政治理論は真理に関わる。…政治的真理とは、政治的自由に関する。」との認識が得られていることによると思われる。
 (『政治学とは何か』「現代政治学入門」所収,永井陽之助(有斐閣)1965)

これまでも用語について気になっていたが、野口悠紀雄教授の議論を咀嚼した9/26及び9/28の記事に関し、このなかで使われる「名目、実質」を改めて考えてみた。すると教授も気にしているかの様な表現、「実質が先か名目が先か?」にぶつかり、これを手掛かりにした。
『この10年間は物価下落による実質成長130926』
『悪性インフラ状態のアベノミクス130928』

それによれば、伝統的な経済学は「実質」を中心に考え、「名目」はベールに包まれたものとする。しかし、現実の消費行動が上記の考え方で説明される分けではない。そこで消費(支出)を「実質」と「名目」でそれぞれ決定されるものに分けて、「基礎的支出」、「任意的支出」とする。

「実質」―「基礎的支出」―食料・動力費等(一定量の必需項目)
「名目」―「任意的支出」―教養・レジャー・娯楽費等(可処分で必需項目の残り)
以上の区分けで、名目で決定される任意的支出について、「マネーイルージョン」があるとする。本来、実質で決めるとの経済学の考え方に基づいて、である。

ここから教授は「実質GDPの成長を求めるのであれば、これら(娯楽等、家事サービス等)の支出の成長と物価下落に期待すべきだ。」とする。しかし、この結論はどこか可笑しい。何故なら、個人の生活にとって、何を求めるのかは各人が決めることであって、実質GDPの成長のために、娯楽等の活動をするわけではない。逆立ちした結論に中に経済学(者)の基本発想を読み取れる。

ここで筆者の感想を述べてみよう。

経済に対する政府・学者の最終判断はGDP成長にあるのか。それであるなら、すべての事象を数値に置き換え、その大小を比較すれば良い。しかし、それは人々の生活をすべて数値化し、統計的データによって判断することになる。すると、数値化できない他の社会現象あるいは人間の感情等は無意識に排除され、世の中を実用と効率だけで判断する方向へ導くことになる。危険な判断へ、である。

経済学の「実質」とは現在の「名目」と過去の「名目」、例えば10年前、との比較である。しかし、人々の生活は日々のキャッシュの積み重ね、経済学で言う現在の「名目」が、過ぎ去った過去と不明な未来の間にある現在の「実質」なのだ。この専門用語の中に、例え定義は明確であっても、経済学者・専門家を錯覚させる何かが潜在的にあるように思える。

更に、私たちの過去はそれぞれ異なり、特に年代的に大きく違うであろう。そして10年前についての感覚を直ぐに思い起こせるとは限らない。記憶の中味は鮮やかな場合であっても、時系列はあやふやになりがちだ。政策決定に有効な情報であっても、一般の人がそれを理解するのは簡単ではない。

高度経済成長の時代には、現在のグローバル化と比べて国際的にも閉鎖的な環境であり、情報空間も小さかった。その中で単調な成長を幾年も続け、従って、比較も容易だったかも知れない。しかし、現状は違う。経済学も複雑化しているのであろうが、政策的判断は50年前と変わらない様に見える。

現状をざっくりと見れば次の様に感じる。
 実 態―変化なし (生活空間―支出内容/物価の変動)
 気持ち―明るくなる(情報空間―マスコミからの報道シャワー)

拡大された生活空間と情報空間に住む人々に、経済学は何を提供しようとするのだろうか。


      
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悪性インフラ状態のアベノミクス;8月物価指数~経済統計を読む(2)

2013年09月28日 | 経済
8月の消費者物価指数が「統計メールニュースNo.597(H250927)」で配布された。先の記事で述べたように、自分で出来るだけ統計数字に接することは、マスメディアによる固定観念から発する情報に疑問を持つ手掛かりになる。
 『数字から実態が暴露されるアベノミクス20130727』

総合指数は2010年を100として100.3、前月比0.3%上昇、前年同月比0.9%上昇で「黒田異次元金融緩和」の2年後のインフレ目標2%に沿っているかもしれない。しかし、内実は食料及びエネルギーを除く総合指数は前月比0.2%上昇、前年同月比は0.1%下落になる。

前年同月比での指数0.9%上昇と食料及びエネルギーを除く指数(経済学者が呼ぶ「コアコアCPI」)0.1%下落との1.0%の落差はエネルギーに由来する。即ち、その寄与が大きい項目、品目の比(寄与度)は以下である。
 光熱・水道電気代 8.9%(0.31)
 交通・通信自動車等関係費 5.5%(0.46);ガソリン 13.2%(0.33)等
 食料生鮮野菜 6.3%(0.10);トマト 10.3%(0.02)等

最大の原因は電気代とガソリン代が10%前後値上がりだ。エネルギー構成品目の前年同月比及び寄与度は以下の様になっている。
         比(%) 寄与度差
 エネルギー    9.2   0.78
  電気代     8.9   0.31
  都市ガス代   5.0   0.55
 石油製品    10.5   0.41
  プロパン    1.8   0.22
  灯油     11.8   0.07
  ガソリン   13.2   0.33

円安による石油高と原発停止による代替の火力発電利用が国民生活への悪影響を広めている。先の記事で述べたように、企業収益改善―勤労者所得上昇-物価指数上昇のサイクルに乗る「良性インフレ」は未だ起こらず、悪性インフラの状態で継続している。
対策としては当然、原発稼働再開になるが、その審査に半年以上の期間が必要となり、当面の見通しは、立っていない。結局、政治問題だ。

      
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この10年間は物価下落による実質成長~「デフレータの怪」野口悠紀雄

2013年09月26日 | 経済
GDPを介した経済成長の見方は必ずしも一様ではない。8月に四半期の結果が第一次として公表された(成長率0.4%(年率2.6%))。これを受けての報道論調は、株価上昇によって消費者の財布のひもは緩み、特に高額消費が増えたとの解釈であった。テレビでデパートの様子が映し出されていたりした。

しかし、テレビに映し出された事象が事実であるにしても、それがGDPの成長率を説明するほどのものか?常識のある人なら考えるだろう。野口悠紀雄・早大教授の論考によれば、前期からの増加額は3.3兆円、そのうち民間最終消費支出2.4兆円が大きい。デパートの売上げは○○兆円規模なのだろうか?

野口氏は上記の論考「実質成長を支えてきたのは、物価下落による実質消費増」の中で、図表4に示す様に、デフレータの年次推移において、各項目間の違いに注目、“怪挙動”を見出した。



デフレータは、生産を時価で表示した名目値を物価水準の変動を入れて調整し、物価変動の影響を受けない実質値を示す際に用いられ、物価上昇時は「名目>実質」で100%以上、物価下落時は逆に「名目<実質」で100%以下、となる。

表では各項目で示され、家計消費全体では、2011年は過去と比較してデフレ状態(86.9%及び90.8%)を示す。その中で“怪”なのは、項目で大きな違いがあり、「9.娯楽・レジャー・文化」「5.家具・家庭用機器・家事サービス」は大きく下回り、物価下落が顕著なことだ。では、これが家計支出にどのように反映し、消費者の挙動が変わっているのだろうか。開示されている表の中から2012/2001年に関して主要項目を抜粋する。

 消費支出項目     家計全体  4.住居 9.娯楽 1.食料 
 名目2011(兆円)     279.5   70.3   26.8   38.7 
 名目2011/2001(%)   99.3   117.1   84.2   93.6 
 名目2011-2001(兆円)   -1.8    4.7   -4.9   -2.7 
 消費支出項目     家計全体  4.住居 9.娯楽 1.食料 
 実質2011(兆円)     311.9   73.3   52.2   38.4 
 実質2011/2001(%)   114.3   115.3  187.9   94.7 
 実質2011-2001(兆円)   39.0    5.5   24.4   -2.2 
 注)4.住居、9.娯楽、1.食料の内訳は図表4を参照(上位3項目)

先ず、家計消費支出全体から見ると、名目では11年間で僅かに減少、要は成長せずに横這いだ。しかし、実質では11年間で14%の伸びを見せる。なかでも娯楽は名目で約5億円の減少を示しながらも、実質では24.4兆円もの大幅な伸長を示す。実質における家計全体の支出の増加、39兆円の6割強を占める。

PC、テレビ、カメラ等、家電、情報個人端末機器の技術革新とコモディティ化の相乗効果である。この10年、私たちの情報空間は濃密になり、量の増大、応答時間の短縮による生活の変貌を経済的に示すデータなのだ。

最後にGDP2012/2001をみておく。名目GDP=94.1%、実質GDP=109%であり、年率1%弱の実質成長を示す。実質GDP2012-2001=42.8兆円、その中で家計支出は28.0兆円、約65%を占める(2012年であることに注意!)。従って、家計支出(=民間支出)の実質増加が実質成長を支える構造になっている。

更に、これまでの議論から、物価の下落、特に娯楽・レジャー・文化関係の大幅な下落が実質成長をもたらしたと言える。では、物価下落の原因は何か、アジア諸国の経済的台頭とそれによる激しい価格競争が大きいと考えられる。

先にも述べたように、特に個人端末機器では、技術革新は新製品に直結し、それが短期間でコモディティ化する世界なのだ。アベノミクスの成長戦略は何を描いて策定されたのだろうか。

      
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日銀のマネータリベースが異次元蓄積~市中では金融緩和せず

2013年09月24日 | 経済
最近は消費税増税の話題で聞かれなくなった言葉だが、4月に突如、開始された「異次元金融緩和政策」は本来の効果が発揮されているだろうか。その時の日経新聞(13/4/4)の解説(図)によれば、市中銀行は債権から貸出に資金移動し、企業は設備投資を増やし、得られた利益が賃金増加へ回り、家計の消費が増える。それがバラ色の結果をもたらすというものであった。

筆者は、その政策を充分に理解できなかったが、国民を実験台にするような論調に極めて危うさを感じたので、十分には判らないなりにも生活者の立場から経済・金融を考える際のスタンスを考えて記事にした。
 『市民が「異次元緩和」を評価するには? 130407』

更に、日経「経済教室」での肯定的意見(本多佑三・関大教授4/12)及び否定的意見(齋藤誠・一橋大教授4/16)を読み、異次元緩和に否定的評価の齋藤教授の論説に説得力を感じ、その説を紹介しながら、本多教授に対する疑問点を提起した。
 『黒田バズーカ砲は華麗なる空砲か(4)~「雀を羆にすり替え」齋藤誠 20130429』

齋藤氏は「民間銀行が政府から買入れた長期国債を日銀は買取る。民間銀行はそれを日銀当座預金に預け、資金は家計・企業→民間銀行→日銀へと一方通行で流れるだけ」「資金が全体に行き渡り、経済活動を刺激するわけではない」と指摘した。

一方、安倍政権のアドバイザーである本多氏は単にデフレ対策の一点張りで論理的な説明はなかった。現在、消費税増税の可否の問題で「否」側の急先鋒のようだが、そこでも「景気減衰」の一点張りらしい。

また、最初に感じた“危うさ”は真珠湾攻撃の歴史に感じた感覚と似ているのに気が付いた。安部首相は「デフレで淀んでいた空気を追い払った」と選挙演説をしたが、そのときも日本国民の気分は解放され、盛り上がったようなのだ。
 『異次元緩和と真珠湾攻撃~短期決戦・気分は晴れた・戦略なし130707』

そこで、「異次元金融緩和政策」の本質は、
 1)日銀が買い取った国債(あるいはその他の資産)の行方
 2)市中銀行から民間企業への金の流れの程度
ということであって、円安・株高などではないと理解した。

従って、その後は特に2)に注目してニュース等を見守っている。しかし、8月の報道では「金融緩和は銀行融資への波及見えず、預貸率は最低を更新」していた。それでも、マネタリーベースが大きく増えているから、率は最低であっても分母は増え、分子の銀行融資は多少増えているかもしれないと感じた。
『日銀の当座預金への単なる積上げ~異次元金融緩和の結果130823』

最近、年次を追ったデータを分析した論考が経済誌に掲載され、以下のデータ等が開示されている。それによれば、マネタリーベースは金融緩和に対応して推移しているが、マネーストックは顕著な反応はしていない。上記にように、多少増えている程度なのだ。

   野口悠紀雄「金融緩和政策の空回りは続いている」から転載

 ここで、マネタリーベース=現金通貨+日銀当座預金
     マネーストック =現金通貨+預金通貨
であり、マネタリーベースの増加が銀行の貸出を増加させ、それが信用創造過程を通じて預金通貨を増加させる処に政策の効果があると野口は論じる。従って、「異次元金融緩和政策」は単に空回りし、日銀マネタリーベースの異次元蓄積に終始しているだけだ。

しかし、更に大きな問題は金融緩和の出口戦略と、日銀が買い取った国債などの行方である。この大きなツケはいつ、どのように浮上するのであろうか。

      
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「川崎市議会」は「多摩市議会」に学ぶべし~予算案修正可決

2013年09月23日 | 地方自治
川崎市議会改革は遅々として進んでいる。全般的に政令指定都市は横並びでドングリの背比べと言った処だ。近隣で比較的改革が進んでいる議会として多摩市議会があり、過去になるが2009年3月に翌年度の予算案を修正可決した。
以下はそのときに書いたものである。
 (メルマガ『探検!地方自治体へ』(第84号 09/04/03)から転載)

ステップは以下である。
1.「共産党、ゆいの会、民主TAMAの三会派」で予算組替案を作成
2.これを提示して予算編制替えを求める動議を提出
3.議会で可決、市長は予算案を撤回
4.市長は三会派の予算組替案の一部を取込み、新予算案を提案
5.「三会派」は新予算案に対して、予算組替案とほぼ同じ修正案を提案
6.議会で修正案を可決

組替案の内容は主として福祉予算で見直しの対象となった部分を復活し、建設予算削減と不急と判断した用地買収の取りやめ等である。実質的な組替えと基金からの繰入も減額している。

短時間で議会としてのミッションを基本的に果たしたものであり、今の地方自治体議会としては賞賛に値すると考える。
『…最優先事項を把握している場合、決断には法則がある。もっともやっかいで、もっとも難しく、もっとも面倒な選択肢が正解ということだ。…』という村上龍の言葉を想起させる(無趣味のすすめ(幻冬社 2009))。

多摩市民のなかには固唾を呑んで結果を待っていた方もおられたであろう。筆者も注目して結果をみていたが、そのホットな感じが消えないうちに何を学びとれるか、考えておこうという気になった。情報は十分ではなく、数値も確かめることができないのであるが、感じていたときに書いておくことも大切である。そこで簡単に3項目について以下に述べる。

1)提案内容
今回の提案は具体的な項目と金額が提示されている。多摩市の予算は約465億円、組替えられた額は約4億円程度である。額としては1%である。各論に入っていけば不要、不急のお金はもっとでてくるように思われる。

その作業は膨大になろうが、予算が逼迫するときに、避けることはできない。事業の精査には3月議会の僅かな時間だけでなく、予算の精度が上がるごとにチェックするシステムが必要だ。更に事業評価の実行も課題となる。

また、時間的にも切迫したなかで具体的な修正案を作成する必要があり、よくできたな、という感想をもつ。行政の関連する部門からのヒアリングも含めて協力が必要であり、議会をバックアップする機構もこのような具体的問題のなかで考えるのが適当ではないか。今後、予算委員会をどのように運営するのか、これも含めて自治体議会改革の良き手本を講じてもらいたいものだ。

2)意思決定
市議会議員が26名、13名で過半数になる。そのなかで、ひとり会派も含めて7会派あるのだから、票読みも簡単ではなく、説得によって変わる要素が大きい。当然、市長からの働きかけもあるだろう。そのなかで三会派12名という微妙な数が政治的な駆け引きを招いたことは事実であろう。

しかし、今回の三会派12名の意思決定は変わることがなかった。原則的な考え方はどのようなものであったか。それがどのような議論のなかで維持されていったのか。次年度以降のことも考えたのか。判断基準は検証されるべきであろう。一方、このことについては市長側も同様である。

3)説明責任
提出された予算案を再度、議会が修正可決したことに対し、市はHPの市長メッセージで速報している。「2010年度一般会計予算が修正可決(2010年3月)」
『当初案は予算委での「編成替え動議」が可決されたことを受け止め、特に低所得層への配慮を厚くする内容で再提案しました。しかし、3月27日予算委、30日議会に、先の動議を提出した3会派から、先の動議と概ね同じ修正案が提出され、僅差で可決されました。』

一方、市議会のHPには何もかれていない。議員のHPで論じられているだけである。これは、おかしいではないか!!市にとって最大のニュース、当事者が市民に対して速報で報告をしないのは!二元代表制の緊張関係を主張するためには情報開示、説明責任は欠かせない。これを市長だけに任せるのは片手落ちである。このことは、依然として「議員」あって「議会」なしを象徴するものであろう。

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消費税増税の還元対策の矛盾~トレードオフが目立つアベノミクス

2013年09月22日 | 経済
来年4月の消費税3%アップのうち、2%分を経済対策で還元するという。おかしいではないか。増税分は社会福祉へ回すとのことで国民的合意を得たはずである。それなら、2%分の還元を得た人(法人を含む)は、大いに得をして、何も還元を受けない一般の国民はバカをみる。それも5兆円規模での話だ。

報道によれば、閣僚懇談会において、安倍首相、麻生財務相、甘利経済財政相が「経済政策パッケージ」策定に関し話し合ったが、総花的な経済対策のようであった。即ち、「消費税率を引き上げる場合は景気を腰折れさせてはならない」「成長の果実を全国津々浦々に届けるため、成長戦略を含める」の二つの施策を9月末までにまとめるのだ。

しかし、2%分を還元するなら、素直に消費税を1%アップにすれば良い。そうせずに「景気を腰折れさせない」と言いながら「成長の果実」を求める政策を実施することが、今回の安倍戦略のように見える。

一見、景気対策を行ったように見せ、しかし、内実は成長戦略へ補正予算をできるだけ使おうとの構えだ。その景気対策も利権の絡む公共事業、見せかけの低所得者対策などの旧態依然としたメニューが並んでいる。また、成長戦略には、法人税減税もテーマとして含まれている。

元来、社会保障・税一体改革は、「官の肥大化に使わない、全額を国民に社会保障として還元する、そのため社会保障目的税にする」と閣議決定されている。そうであるなら、財政再建と社会保障の充実をどのようにマッチさせるのか、その方向の議論を必要とする。

上記の「そもそも」の議論からは、法人税減税には要注意である。財源の問題を含むからである。財源として、課税ベースを拡大し、その分税率を引き下げることであれば、問題ないが、財源がないままの法人税減税は、消費税増税を無意味化することになる。

こう考えてくると、景気対策と成長戦略、社会保障改革と財政再建、金融政策と財政再建などのトレードオフが目立ってきた。更に雇用問題、規制緩和などが加わる。そして異次元金融緩和の出口戦略が控える。アベノミクスも正念場だ。

      
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消費税増税の中の賃上げ法人減税~増収企業の更なる優遇

2013年09月21日 | 経済
報道によれば、安倍首相は消費税増税の実施を決断したらしい。一方で、法人減税を実施するとも言う。その法人減税のなかに賃上げ促進税制というものがある。即ち、賃上げした企業にその賃上げ分に対して、税金を控除するものだ。それを始めるのかと思ったら、既にあるのだ。二重の驚きである。


日経新聞によれば、2015年度までの時限措置で設けた減税期間を17年度まで2年延長。上記の表に示すように、基準の12年度に比べ「給与総額を5%以上増やした企業」としている適用条件も緩和、15年度までに3%以上増やした企業を加える。政府の経済対策で、企業減税の柱にする。

首相は企業の賃金引き上げに意欲を示し、20日午後、経営者と労働界の代表による「政労使会議」の初会合に出席し、デフレからの脱却には賃上げによる個人消費の拡大が欠かせないと主張した。

経営者側の米倉経団連会長は「賃金は労使間の問題だ」との正論は言えずに「経済の回復に伴って報酬の改善に取組む」とタテマエの回答をした。しかし、企業のホンネは「賃上げをすれば業績悪化のときに元に戻せない」との懸念にある。この「正論―ホンネータテマエ」の中に日本の企業風土の特質が潜んである。

企業風土は別途に議論するとして、賃上げできるほど健全な経営をしている企業に対して、減税をするというのは変ではないか。円安のなかで輸出企業は増収であり、一方、原材料、部品、を輸入し、国内生産をする企業は減収である。

儲けた企業が更に減税され、減収企業が消費増税で苦しむことになる。政府にとって経済とは何であるのか。それは広く国民福祉の向上のはずである。それには、国民経済の安定・進展、社会的公平性の維持、長期・公共的な施策の実施が必要であり、税金はこのために使われる。

それでなくても、福祉の向上の柱となる社会保障費はうなぎ登りに嵩み、そのために、消費税増税が必要になるのだ。先に、異次元金融緩和を論じて「円安・株高を引き出したとはいえ、輸出企業の従業員でもなく、株の持合わせも無い一般住民にとっては、将に単なる空砲なのだ」と指摘した。
 『黒田バズーカ砲は華麗なる空砲か(1)~株と無縁の住民の眼130424』

これでは、輸出企業の従業員でもなく、株の持合わせも無い一般住民は、更に、消費税増税を食らい、踏んだり、蹴ったりである。賃上げ減税という奇妙奇天烈な政策は廃止して公正な企業競争を推進すべきである。

      
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リニア新幹線は「戦艦大和」の二の舞か~グローバル化・人口減の中の大計画

2013年09月19日 | 現代社会
リニア中央新幹線計画では、2027年に開通(品川ー名古屋)し、2045年に新大阪まで延伸する。32年後、何だか遠い先の話で確率的には生きているかどうか怪しいものだ。この時の日本の人口はなどと直ぐに考えてしまう。

ところが、少し経って一昨日の記事のことを想い出した。
『20年後、3人にひとりは高齢者~国の政策は人口動向を考えているか?』である。平成25年9月の総人口は1億2726万人、高齢者は3186万人となり、総人口の25%を占めるに至っている。

更に、約20年後の平成47年(西暦2035年)には、高齢者(65歳以上)は3人にひとり、3741万人にまで増加する見込みだ、と書いた。逆算すると総人口は9564万人になる。1億を割るのだ!品川―名古屋開通後約8年のことだ。

その十年後、人口は更に減っているはずだ。9千万は割っているだろう。ネット機能の向上も考えると、大量の人間が東京―大阪間を往来する必要も無くなるかもしれない。それよりも国際間の往来は社会・文化の違いを考えれば、更に増える方向かもしれない。

逆に時間として注目されるのは、鉄道で言えば基幹駅間よりも、そこと往復する出発あるいは到着の場所との時間である。航空では、それに加えて、空港での待ち時間などである。筆者が最近、成田発―韓国・釜山行で約2時間半であったが、朝8時に自宅出発、目的地に着いたのは午後6時であった。

グローバル資本主義はアジアからアフリカを巻き込んで競争の激化をもたらし、それに対する日本は人口減少・高齢化を向かえる。その中での長期・大計画は本当に見通しが立つのか?誰しも判断の付かない状況のはずだ。

世界が激しく変化し、一方、世界各国は財政問題で頭を悩ませる。ここで必要なのはフレキシブルな計画である。太平洋戦争敗北の象徴である戦艦大和は、航空機の技術的発達の中で、依然として艦隊決戦思想が維持され、戦艦は主力部隊と位置づけられていた。その結果、図体がデカイだけが取り柄で、機動性に全く欠け、結局、戦闘に参加したときも機能しなかった。

リニアは筆者が学生であった60年代から注目されていたが、既に50年以上が経過して技術的には発展しているが、他の競争技術も発展していることは確かだ。実用化には安全、コスト、エネルギーなどの技術的問題を抱えている。更に、「速さだけが夢なのか」(カナロコ2013/9/19)との批判もある。

千葉商科大・橋山各員教授は言う。「超音速旅客機コンコルドのたどった末路を想い出す。音速の2倍を誇り、1976年に実用化。だが、燃費が悪く、飛行距離が短い上に料金は4倍、ひどい騒音も快適な空の旅とは程遠かった。2000年、パリ郊外の空港で墜落事故を起こし、終焉を迎えた。」

更に、「スローライフという言葉があるように、遅い方がいいという人もいれば、速ければいいという人もいる。両方、正しい。ただ、リニアの売りは速さだけだ。ルートの8割がトンネルで、車窓から富士山の風景も楽しめない。利用者のニーズを理解し、ほかの価値よりも高速性が求められているのだから、リニアを選択したという哲学が感じられない」

リニア導入ありき。そこに破綻の芽は生まれる。甘い需要見込みだ。JR東海の計画によれば、開業により需要は1.5倍に増え、リニアと並走する東海道新幹線と分け合うとしている。つまり両者は競合する。たとえ需要が増えても、客を奪い合っては、コスト回収は思うように進まない、とみる。

結局、鉄道事業は公益事業だ。政令指定都市の地下鉄と同じく、「失敗したからといって終わらない。国が支援し、赤字の穴埋めに税金がつぎ込まれる」。そこまで行かなくても、同じ金を道路、橋等の補修に使えば、との議論は恐らく付いて回るはずだ。

      
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20年後、3人にひとりは高齢者~統計を読む(2)・人口動向

2013年09月17日 | 現代社会
総務省統計局の人口推計によれば、日本における平成25年9月の総人口は1億2726万人、前年同月と比較し、24万人の減少、その中で高齢者(65歳以上)は112万人増加、3186万人となり、総人口の25%を占めるに至った。

昭和22-24年の第一次ベビーブーム時代に出生した団塊の世代のうち、昭和23年生まれが新たに65歳に到達したことによる。当然、来年も同じ様に高齢者人口は大きく増加することが見込まれる。

また、男女別にみると、男性1369万人、女性1818万人、その差は449万人であり、全体の57%が女性である。それが更に高齢になると共に女性の割合は高くなり、85歳以上では人口454万人のうち、女性322万人(71%)となる。

歴史的に見ると、高齢者人口の推移は下図に示される。



 統計局「高齢者の人口」より転載

高齢者人口の総人口に占める割合は、昭和60年に10%を超え、その20年後の平成17年には20%を超え、その8年後の25年に25%となり、4人にひとりが65歳以上になった。
更に、グラフの右側に示される様に、約20年後の平成47年(西暦2035年)には、高齢者は3人にひとり、3741万人にまで増加する見込みだ。

一方、15-64歳人口は今年7900万人、前年比較で121万人の減少、労働人口が減少する中での若者の就職難という基本的に矛盾した社会構造が続くことになる。更に0-14歳人口は1640万人、前年比較で15万人の減少、少子化傾向も続く。

0-14歳人口が15-64歳人口の15/50=30%程度であれば、大雑把には人口は徐々に横這いになると考えられるが、1640/7900=20%であり、平均的に15-64歳人口のうち2370万人が高齢者になり、1640万人が入ってくる計算だ。すると、15年後の平成40年には15-64歳人口は730万人減少して7170万人に減少することになる。その15年間に何人の子どもが誕生するのか?少子超高齢化は免れない。

国の政策の第一はこの基本的な人口動向を踏まえたものでなくてはならない。東京オリンピックで「お・も・て・な・し」などと浮かれている場合ではない。

     
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