散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

革命の国としてのアメリカ~トランプ、虚の勝利の行方

2016年11月10日 | 先進諸国
米国民は大方の予想を裏切る結果を示した。投票結果の速報をみて、「アメリカは革命の国」だと改めて感じた!しかし、革命そのものは政治的断片に過ぎない。ゴルビーはプーチンを生み出した。オバマ政治なるものが、結果としてトランプを生み出したのかも知れない。しかし、それはアメリカ国民の選択なのだ。

米国の市場が前日までにトランプ勝利の可能性に株価を大幅に下げ、また、日本の市場が開票速報におけるトランプの勢いを受けて崩れるように株価を下げことに象徴されるように、また、米欧日の先進諸国のマスメディアがクリントン対トランプの討論会をみて、クリントンを評価したように、世界を動かす人たちの多くは、トランプを忌避していた。

その根底にあるのは、おそらく、トランプが導くかもしれない“米国内部の混沌”への恐怖の様に思われる。しかし、ドラルド・トランプは大統領選挙の伝統的な方法に則り、クリントン・ヒラリーからの敗北を認める電話を受けて勝利宣言を行い、そのなかでヒラリーの戦いを賞賛すると共に、米国民に団結を呼びかけた。トランプに投票した人たちも含めて多くの人はホッとしたに違いない。

今回の当選で始まるのはトランプ革命なのだろろうか?ヒラリーが指摘するように、先ずは何が始まるか、それをみようというのが関心を持つ人たちの見方だろう。しかし、これまでのトランプ発言を拾いまくっても、それが本気なのか、単なる思い付きなのか、どの方向へ向いて進んでいくのか、はっきりしないことが、本当は大きな問題なのだ。

即ち、革命とは言っても、今あるのは多くの人たちを投票に導いた気分だけであって、実質的政策はなく、トランプ劇場での独演のセリフが残るだけの“虚の革命”なのだ。機会主義者としての資質を持つ性格が独特の雰囲気を出してきたが、それが如何に正の革命に繋がるのか、政治家としての手腕が試される。

      

      
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トランプ現象は克服可能か~『アメリカン・コミュニティ』渡辺靖著

2016年07月24日 | 先進諸国
いわゆるポピュリズムを克服する一つの道は、迂遠であっても「孤独な群衆」がコミュニティの一員として各自の社会的存在感を回復させることにある。ここでコミュニティとは、自発的な参加者が広く社会への働きかけを行っている組織としておこう。トランプ現象だけが目立つ米国に注目する所以である。

表題の主題は筆者の問題意識である…。
一方、本は2013年再刊(新潮社選書)であるが、初出は2005-2007年に同社の『考える人』に連載された「カウンターアメリカ」であり、それを下敷きにしている。従って、時期は約20年前だ。しかし、米国人の生活意識の一端を知り、合わせて紹介されている活動の意義、課題、ひいては位置づけを知ることができる。即ち、著者の学識と広い視野がコラボし、深い知見が展開されている。

更に、再刊に際し、序文『アメリカを見つめて』が書き下ろされる。それが、九つのコミュニティを紹介した後の総括には、終章『アメリカとコミュニティ~国家と個人が交差する場所』に対し、近年の状況を含めた感想が述べられる。

連載の表題は、謂わば、それぞれが「もう一つのアメリカ」であることを示すものだ。そこで、序文にはカウンターディスコース(対抗言説)の最たるものとして2008年、黒人初の大統領・オバマが挙げられるのは当然だ。

更に、オバマのアメリカへの対抗言説として、草の根保守の「ティーパーティ」と「ウォール街を占領せよ」運動を挙げる。ここからトランプ現象及びサンダース現象までは次の一歩である。従って、渡辺氏の描写と論議の中には、筆者の問題意識に何か示唆を与える洞察が含まれているはずだと感じた。

戻って、九つのコミュニティの中で筆者が関心を引いた事項を紹介する。
「アメリカン・サモア/南太平洋」を除いて白人が主体となり、特に
「セレブレーション/フロリダ州オーランド~ディズニーが創った町」、
「ゲーティッド・コミュニティ/カルフォルニア州コト・デ・カサ~資本・恐怖・コミュニティの二つは、
富裕層中心の自治体みたいな構成である。続いて、

「ミドルタウン/インディアナ州マンシー~最も典型的な「アメリカ」」、
「ビッグスカイ・カントリー/モンタナ州~連帯する農牧業」の二つは、
古き良きアメリカを未だ軸にして生活が営まれている感が強い。対して、

「ダドリー・ストリート/マサチューセッツ州サウス・ボストン」は、
南部から北部へ移動した黒人が住み、中産階級の白人は郊外へ移動し、下層のアイルランド系中心の白人が残り、更に、南米及びアフリカからの移民が流入し、典型的な都市問題を抱える地域、それを再生したコミュニティの話だ。

白人人口が95%(1950年)から、75%(1970年)を経て、7%(1990年)と激変し、自宅での二つは、英語以外の言語を使う家庭が40%(2000年)にのぼる。NPO組織を立ち上げて住民自治を築き上げた経緯は、日本では出来ないことと感じる。

「刑務所の町/テキサス州ハンツビル~アメリカにおける死の首都」は、その背景及び現実の風景が暗く描かれるのもいたしかたない。米国人口は、白人70%、黒人13%であるが、刑務所内の収監者の50%は黒人、全体の70%が非白人だ。著者は「そこにアメリカはあるのか」との自問となる。

以上の四つのコミュニティでは、今日に至って、最初の二つと後の二つとでは、その数及び質において、更に差が広がっているように思える。
草の根民主主義の米国で、根なし草の人口が多くなり、その人たちのある部分がコミュニティならぬネット中心の疑似コミュニティを構成し、不安を掻き立て、怒りを発散させる断片的で、かつ断定的な情報に頼って自らの考え方を決め、それを互いに拡散・伝搬することで、トランプ現象も生成されるのだろうか。

「メガチャーチ/アリゾナ州サプライズ~「クールな教会」宗教右派の草の根」は、共和党右派の牙城といわれるところだ。ショッピングセンターあるいはイべント広場のような雰囲気でカジュアルな対応をする教会を描く。ターゲットを定めたマーケティング活動を行っている様子が興味深い。これも、世俗を離れた宗教心が基盤にあるからだろうか。

2011年での米国人口は、白人78.1%、黒人13.1%、その他8.8%。都市の中で下層階級が住む地域はコミュニティが欠如しがちだ。白人警官と黒人が対峙する状況は、50年前から報道され、最近は極めて悲惨な事件になっている。
ディズニーの町、ゲート付き集合住宅による自己中心主義をエリート集団が超えない限りは、トランプ現象は形を変えて、拡散しながら現れ、米国社会は常に不安定性に悩まされる様に思われる。

      

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新自由主義時代の終焉、英EU離脱~トランプ現象も含めた経済的視点

2016年07月13日 | 先進諸国
経済的亭受が期待を生み、それが実現しないことによって、失望に変わったときが、政治危機(政治暴力の発生)になる。これをJ曲線理論と呼んでいるが、永井陽之助は「現代社会と政治暴力」(『柔構造社会と暴力』所収)において、更に、“情報空間の拡大”、“新しいユースカルチュアの登場”を視野に入れて、当時(1968年前後)の政治状況を分析している。

日本のおける金融関係の実務家は英国の政治現象を如何に見ているのか?これまで何度か取り上げた河野氏の論説を今回は紹介する(ロイター コラム 2016/07/06)。
以下のまとめを理解するうえで、上記の文献が役に立つと思われる。

『筆者(河野氏)が最も衝撃を受けたのは、1980年前後からグローバリゼーションの恩恵を享受していた英国において、離脱派が過半数を獲得したこと…同様のことは米国にも当てはまる』。従って、『英国、米国などを中心に広がった新自由主義的政策が曲がり角を迎えた可能性がある』との問題意識だ。

<サッチャー・レーガンの新自由主義時代1980~>
・2000年代はグローバリゼーション時代の絶頂期
・各国とも「大いなる安定(Great Moderation)」、マクロ経済は好調
・一方、生産拠点の新興国への移転継続、先進国は製造現場を喪失
・稼ぎ頭:金融、IT、新興国関連→陳腐なスキルはジリ貧
・低所得者層に落ちた人々:実質所得の継続的増加は困難
・ブッシュ政権(父):「アメリカンドリーム」実現=持家推進政策
・サブプライムローン問題→“バブル破裂”へ

 <低成長時代へ>
 ・金融システム崩落回避:米英、金融機関へ資本注入=金融緩和
 ・危機の基本的原因―収益性の高い投資機会減少、潜在成長率低下
 ・中央銀行:現象の囚人(バブル崩壊で低成長)→インフレ醸成で成長率高
 ・量的緩和(QE)時代到来 通貨安/株高、潜在成長率低=実質賃金回復緩慢
 ・原油高・通貨安→輸入物価上昇→実質賃金改善遅延
 ・株価上昇、富裕層・大企業だけ恩恵→苛立つ多くの国民
  (賃金低迷の主因:潜在成長率低下、労働分配率低下)

<経済統合の論理と実際>
・分業/自由貿易の利益 国全体の経済厚生改善
・実質所得増加―安価な財・サービスを購入可能
・配分の分極化「享受―高いスキル」、「被害―低いスキル」
・全体のパイ増加=国内の分配構造が分極化
・主流派経済学~分配問題には触れないでトリクルダウン理論を発案
 →自由貿易推進(GDP水準高)→ランプサム(一括)型の所得再分配政策
  (現実には、ランプサム型の所得移転は実行が難しい)
・サッチャー・レーガン革命 資源配分 小政府、民営化、規制撤廃、自由貿易
          所得分配 稼ぐ人が更に働く 最高税率引下げ

<ポピュリズム政治としての英国民投票>
・残留支持  :年齢―若者 、階層―中高所得者層
・EU離脱支持:年齢―中高年、階層―低所得者層
 *低所得者層=低い人的資本、経済統合・移民流入で更に収入目減り
・米国:トランプ現象…保護主義的、排外的、反グローバリゼーション的
 英国:ブレア、第3の道…社会政策充実の修正
    →トランプ現象と似ている

<「ヘリマネ」の危険性>
・ばら撒き政治:常習性が強く、抜け出すことは難しい
  →ポピュリズム政治に取り込まれる可能性高い

筆者コメント
「冒頭の政治暴力理論に戻る。
J曲線理論に永井が追加修正した二つの事象の中で、“新しいユースカルチュアの台頭”とは、学生運動・大学紛争の関連であり、“情報空間の拡大”とは、暴力行為をメディアに晒す露出の政治といわれる手法である。」

「トランプ現象に関して、後者は更にSNS等に拡大が進んでおり、顕著になっている。一方、若者はその現象の主体ではないようだが、サンダース現象において、ウォール街占拠運動の主体が雪崩れ込んでいるかのようである。」

「従って、永井が指摘したことは、今の時代からみても息の長い、重要な事項に感じる。現代的視野からの考察が必要となる所以である。」

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世界人口のメガトレンド~先進国の衰退と途上国の台頭

2015年03月17日 | 先進諸国
超高齢化・少子化のなかで、日本の人口は著しく衰退し、中でも地方の一部は消滅するとのレポートが、地方創生のバラマキ予算の発想に繋がって、来年度予算に反映することになった。しかし、それは先進諸国共通の危機でもある。

世界人口の動向も、表題の報告が「フォーリン・アフェアーズ・リポート 2010/11号」『世界を変える四つの人口メガトレンズ』に一部が掲載されている。
 (ジャック・A・ゴールドストーン(ジョージ・メイソン大学・政治学教授)

「概要」は以下である。これが世界の成行きなのだ。
21世紀の新しい現実は、世界のどの地域で人口が減少し、どこで増大するのか、どの国で高齢者が多くなり、どの国で若者が多くなるか、世界の人口動態の変化が、国境を越えた人の移動に与える影響で左右される。

欧米を中心とする先進国は人口面でも経済面でも衰退し、世界経済の拡大はブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、トルコ等の新興途上国の経済成長によって刺激される。

しかも、若者の多い途上国から労働力不足の先進国へと大きな人の流れが必然的に起きるし、一方で、経済基盤の脆弱な途上国の若年人口が世界で大きな混乱を作り出す恐れもある。必要なのは、こうした21世紀の新しい現実に備えたグローバル構造の構築を今から始めることだ。

次に部分公開された「世界経済に占める欧米の比重は低下」を紹介する。
18世紀初頭、世界人口の20%は(ロシアを含む)欧州で暮らしていた。産業革命の到来とともに欧州人口は増大し、一方で、欧州からアメリカ大陸への移民の流れも生じた。第一次世界大戦前夜までには、欧州人口は4倍以上に増えていた。1913年当時の欧州人口は中国よりも大きく、欧州および北米の旧欧州植民地国に世界の総人口の33%が暮らしていた。

だが、このトレンドも第一次世界大戦後に医療技術と公衆衛生概念が貧困国へと広がりをみせ、変化する。アジア、アフリカ、ラテンアメリカの人々の寿命が延び、出生率も基本的に上昇し、低下した場合でも、穏やかに止まった。2003年までに、欧米加の総人口が世界人口に占める比率は17%へと低下した。

2050年までに、この比率は、1700年当時よりも少ない世界人口の12%規模へと低下する(この予測は、途上国の出生率は低下、先進国では上昇と仮定する国連の「中位推計」を基にしているが、現実を過小評価している。先進国の出生率が上昇する根拠はない)。

人口に加えて所得の変化を考慮すれば、欧米の相対的衰退はもっと際だってくる。産業革命はヨーロッパの人口を増大させただけでなく、経済的に豊かにし、一人当たり所得も大幅に上昇した。

経済史家のアンガス・マディソンによれば、19世紀初頭には米欧加経済が世界の国内総生産(GDP)合計の32%を生産するようになり、1950年までには、その比率は(購買力平価でみると)実に68%に達していた。

だが、いまやこのトレンドは大きく覆されつつある。
1950年には68%だった米欧加経済が世界の経済生産に占める比率は2003年には47%へと低下し、今後さらに急速に低下していくだろう。

2003-2050年の米欧加における一人当たり所得の伸び率が1973-2003年と同様に、年1.68%で推移するとしても、世界の他の地域の所得における伸び率が年平均で2.47%だとすればどうなるだろうか。

米欧加経済のGDPは2倍に増えるだけだが、世界の他の地域のGDPは5倍に拡大する。この場合、2050年の米欧加経済が世界のGDPに占める比率は30%を下回ることになり、1820年当時以下の比率へと落ち込む。

つまり、2030-2050年におけるGDP成長の約80%は、欧米加の外側の世界で起きることになる。21世紀の半ばまでには、車、家電などの耐久消費財の多くを購入するのは、現在の途上国の中産階級層になるはずだ。

世界銀行の予測によれば、途上国の中産階級の規模は2030年までに対2005年比で200%増の12億人規模に達する。これは、途上国の中産階級層の人口が、アメリカ、ヨーロッパ、日本を合わせた総人口よりも大きくなることを意味する。

当然、今後の世界経済の拡大は、ブラジル、中国、インド、インドネシア、メキシコ、トルコ等の新興国家の経済成長によって刺激されると考えるべきだろう。

      
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西欧帝国主義が背負う「罪と罰」~時間の遅れを伴ったデモ

2015年01月30日 | 先進諸国
「西欧人にとって、公海の外の世界は「免責」に値する道徳外の領域であった」、「かつて、旧世界では、パスカルが『子午線が真理を決定する』といったとき、そこでは、秩序づけられた「市民社会」(文明の領域)と混沌と無法の自然状態(野蛮の領域)の深淵を彼は垣間見ていた…」(永井陽之助「冷戦の起源」P32)。

先の記事で述べた「赤道のかなたに罪業なし」との言葉も同じ意味を持ち、欧州に内在している暴力性は帝国主義と共にアフリカへ向かった。それは、ハンナ・アーレントが指摘した様に、資本主義の発展の中で景気の波が恐慌となり、失業者として吐き出された一群の階層から生じたモブが担った役割であった。
 『中東の聖戦へ参加する西側の若者150110』
 http://blog.goo.ne.jp/goalhunter_1948/e/da258a4ef4c006e1c09417321e3a52ff
帝国主義を具体的に担ったヨーロッパ人の暴力性が、それに対抗する現地人のゲリラ・テロを生み出したのだ。それと共に現地人においても、宗教各派での抗争が、権力を巡って激化し、多数派対少数派の宗派戦争の様相を示す。

先ず、1979年2月に起こったイラン革命は、世界史的な転換であった。ホメイニを指導者とするイスラム教シーア派の法学者たちを支柱とする革命勢力が、国王の専制に反対して、政権を奪取した。

その後は、米国大使館人質事件、イラン・イラク戦争…アルカイダの活動、イスラム国の出現に至っている。その中で、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件は、「市民社会」(文明の領域)へのテロを象徴している。

今回のシャルリー・エブド襲撃テロ事件は、「市民社会」に巣くうテロリストの犯行であり、抵抗主義の時代において、「赤道のかなた」での暴力を容認し、市民社会から体よく追放していた西欧社会が、ブーメランの如く蘇った内部での暴力に対応せざるを得なくなった状況を示している。

これが西欧帝国主義の「罪」が、時間の遅れを伴って招いた「罰」なのだ。

しかし、時間の遅れを少し元に戻すと、
アルジェリアでアルジェリア人独立運動家の捕虜を診療する内にフランスの植民地支配へ反対を始め、アルジェリア民族解放戦線(FLN)に参加、アルジェリア戦争を戦い、FLNのスポークスマンとして活動したフランツ・ファノンがいる。

その著作、「地に呪われたる者」の序文は哲学者・ジャン・ポール・サルトルが書いたものだが、その中で、「地に呪われたる者が人間になるのは、凶暴な激怒を通してである」と書いている。更に、「ひとりのヨーロッパ人を殺すのは一石二鳥である。後には、死んだ人間と解放された人間が残る」と云う。

50年前のサルトルならば、原罪を表現できるが、現代人にそれを望むのは難しいのだろう。報道によれば、1月11日、フランス各地で犠牲者を悼むための大行進が実施され、その数は全国合計で少なくとも370万人に達したと推計される。ちパリの行進に加わったのは160万人超とみられ、キャメロン英首相やドイツのメルケル首相ら欧州主要国を中心とする40人超の各国首脳も参加した。また、ブリュッセルやロンドンなど周辺国の都市でも追悼行進やデモが行われた。

これは、ヨーロッパ社会として見えない敵に宣戦布告したようなものだ。逆に言えば、敵を明確にすることで、結束を高めようとする狙いもあるのだろう。やはり、強靱な精神と云うべきなのだ。欧州主要国を中心とする40人超の各国首脳が参加したことも眼を見晴らす様だ。

安倍首相は参加せず、また、中東訪問時の2億ドルの援助金も人道的支援と述べ、中立性を強調した。これがどの様に受け取られるのかは、また別の話であるが。今後の人質事件の成行で明らかになるであろう。

      

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中東の聖戦へ参加する西側の若者~暴力性の問題

2015年01月10日 | 先進諸国
報道によれば、パリでの仏週刊紙銃撃事件は、更に別のテロ事件を伴い、仏特殊部隊が現場ですべての容疑者3名を殺害した。テロの犠牲者は計17名だ。容疑者2名はアルジェリア系フランス人で、イスラム過激派と関係があるという。

最近のイスラム国に関する報道の中で、英エコノミスト誌が「中東の聖戦に向かう西側の若者達」(2014/8/30 and 9/4)において、その理由とイスラム国の兵士として参加する方法、その後に母国へ帰る難しさを述べた後、最後に「今日のジハード主義者がロンドン、パリの殺人者になる恐れ」があることを警告した。図らずも、その予測は不幸なことに、今回、ほぼ的中した。
 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/41633
さて、エコノミスト誌によれば、「西側出身の戦闘員の多くは、戦いに加わったり、新しいイスラム国家の建国に力を寄せたりする機会に自ら飛びついた者たち…。ニューヨークを拠点とする安全保障情報企業ソウファンの推計によると、5月末までに81カ国から1万2000人が戦闘に加わり、そのうち約3000人は西側出身だという(図参照)。



「欧米など西側出身の戦闘員が聖戦に引きつけられた理由を、貧困で説明することはできない。戦闘員の多くは中流階級だ。周りの社会に溶け込めなかったからという説明も当たらない。敬虔な宗教心だけでも説明がつかない。戦闘員の中にはこれまで宗教に関心を持ってこなかった者もいるという。」

「より説得力のある説明は、彼らは母国の退屈さから逃れ、自分のアイデンティティを見つける欲求から聖戦に参加…。図の参加人数第一位のベルギーの戦闘員の多くは、最も退屈な町の出身だ。過激派はそのような町で集中的に、新たな聖戦戦士を募る努力を費やしてきた」。

しかし、この説明、アイデンティティ探しだけでは説明は付かない。即ち、戦闘に魅力を感じる理由があるはずだ。

ハンナ・アーレントは浩瀚な三部作「全体主義の起源」(1951年)において、第二部を『帝国主義』として、19世紀末から20世紀の大戦を迎えるまでの、西欧国民国家の没落の過程と全体主義の勃興を素描した。

その第3章において「帝国主義的性格」を描いている。
資本主義の発展と共に余った富が資本として蓄積され、それと共に景気の波が恐慌に向かった時に、労働者群が失業者として吐き出された。そのような一群の社会階層の人間をアーレントは“モブ”と呼んだ。

そのモブと余剰資本とが結びついて、海外植民地を形成していったのが、帝国主義であった。「赤道の彼方に罪業無し」との言葉に表されるように、モブに付随した暴力はアフリカで開放され、暴力的人間はアフリカへ送り込まれた。

逆に、西欧諸国の各国内においては、秩序を維持するのに好都合であった。しかし、植民地がなくなると、暴力的人間は国内に止まり、暴徒と化すケースが増えてくる。そこで、現在では、「母国の退屈さから逃れ、自分のアイデンティティを見つける欲求から聖戦に参加」する人間が多く出てくるのだ。

米・西欧・日において経済格差が広がり、階層が固定化される状況が、宗教イデオロギーと結びつくと…極めて不気味である。

      
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