散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

批判が表面に出始めたアベノミクス~経済学会・対抗馬によるカオスの生成

2016年08月21日 | 経済
批判が表面に出始めたアベノミクス~経済学会・対抗馬によるカオスの生成

「未来への投資を実現する経済対策」28兆円は2016/8/2に閣議決定された。
しかし、ようやく、と云うべきか!安倍政権の経済運営に対してその周辺から批判が出始めている。
「かき消される進言 経済学界、安倍政権と溝」(日経8/18)は、両者の隙間風と表現しているが、その程度ではなく、その溝は深い感じだ。

記事は、6月開催された日本経済学会のテーマ「エビデンス(証拠)に基づく政策立案・評価と政策研究」において、内閣府の担当者も登壇する中での大竹文雄・大阪大学教授の発言を紹介する。
「政府の側から研究者に数年先までの政策課題をわかりやすく示してほしい」。

専門家によるデータ分析を政策に反映させ、税金の無駄遣い、効果が乏しい政策を回避しようとする考え方が、世界の潮流になりつつある一方で、「日本の政策決定にはエビデンスが欠けている」との危機感を大竹教授らが持っている。

従って、先ずは、政策課題の提示が大切になる。ただ、翻って考えると、「エビデンスに基づく」ということが、改めて問題にされていることだ。
エビデンスに基づかない政策」は特別なものを除いて、本来、あり得ない。

政府の役割は、社会・経済の動向を把握し、その状況に基づいて中長期計画を策定すること。更に、その計画に基づく予算の策定・実行を行うことだ。当然、基本的な統計データ等を基盤にすることになる。
これまでの安倍政権の足跡は、「表向きは意見に耳を傾ける姿勢を示すが、有権者に受けそうな項目をつまみ食いしているだけで一貫性がない」ことを示すことは確かだ。後は、理由づけ、言葉の飾りのために学者を活用している。

その結果は、二度に渡る消費増税の延期に端的に表れる「アベノミクス」の手詰まり感だ。「3本の矢」(金融緩和・財政出動・成長戦略2012/12)は消滅した。
続く、「新3本の矢」(強い経済・子育て支援・社会保障2015/9)が目標と共に出現したが、エビデンスに基づいた実行可能な具体策が必要だ。しかし、華やかな言葉の後には何も続いていないような感がある。従って、政権崩壊のケースだけではなく、日本経済そのものの行方も心配される雰囲気だ。
 『安倍首相は第二の東條英機になるのか~「政策総動員」と「清水の舞台」160806』

記事の中で「ここで諦めるわけにはいかない」と語る土居教授は、政府の税制調査会、社会保障制度改革推進会議などに参加する。そして、「安倍官邸の目が届いていない分野は多く、データを基に議論を積み重ねていけば、経済学者の意見も政策に反映される」とみる。踏ん張りを期待したい。

学会だけでなく、自民党の中からも経済対策にクギを刺す発言が出てきた。次期の党総裁選を狙う石破茂氏だ。
TV番組の収録の中で、安倍政権が打ち出した「28兆円の経済対策」について、「公共投資がどれほど生産性を上げるか検証しないと、未来への負債になりかねない」と、バラマキ政策を批判した。

「総論はみんな賛成…中身はどうだ?補正予算は下手すると財政規律をおかしくする。予算委員会で検証し、政府は正しい、と理解を得ることが大事だ」。
更に、黒田バズーカ砲・異次元金融緩和策について「バズーカは破壊力は強いが、射程は短い。金融緩和もいつまでもできるものではない」という。

先の内閣改造で地方創生相を離れて、安部総裁への対抗馬として実質的に名乗りを挙げたとみられている。従って、政権への批判的言動は、今後の動向を含めて注目に値する。

以上述べた二つの事象は、直接的な関係はないし、その思惑も異なる。
しかし、そろそろアベノミクスにも厭きた人心に広がり、最近の首都圏の天気の様に、所々に雷雲を生成し、それが集まりながら大きな雨雲として流れを創出していくようにも思われる。
カオスの理論が何かを示唆するように。

      
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消費増税先送り後、4つの経済シナリオ~公的債務圧縮への道

2016年07月15日 | 経済
参院選挙が終り、大方の予想通り、自公政権が更に安定化した。消費増税19年10月までの先送りの下、財政出動の段階だ。そこで、今後の経済政策の行方を既に予測した河野龍太郎氏の表題の論考を紹介する。(「 」は筆者のコメント)

<現状認識~遠のく緩和の出口、20年春まで引き締めは不可能>
・安倍政権は既に大規模財政に舵を切った
・日銀のインフレターゲット政策は既にソフト化へ移行済
・株価の下落を回避、円高には政治的に金融緩和へ(マイナス金利の深堀り)
「株価嵩上げは安倍政権の一枚看板になり、後の政策はバラマキに収束…」

<ゼロインフレ下、マイナス金利による金融抑圧を継続>
・公的債務に対して、税収増加、歳出削減による債務返済財源を確保が必要
・黒田金融緩和以降は、中央銀行のファイナンスを必要とする政策が不可避
・これまで、4つの中長期シナリオを想定
S1)ゼロインフレ、スローな金融抑圧(生起確率39%)
S2)4-5%インフレ、モデレートな金融抑圧(生起確率35%)
S3)10%インフレ、激しい金融抑圧(生起確率25%)
S4)2%インフレ、2%成長、金融抑圧(生起確率1%)

S1)~メインシナリオ(昨夏・年初の国際金融市場の混乱以降)
・中国人民元切り下げ、米国経済減速等グローバル環境がデフレ的
 →円高傾向、当面はインフレ上昇回避、インフレタックス=公的債務圧縮は進まない
 →マイナス金利政策による金融抑圧が継続

S2)~最終的シナリオ(公的債務圧縮はインフレタックス政策へ向かう)
・市場がインフレタックス政策への移行を読み取り、インフレ期待がジャンプ!
 →日銀は物価安定と長期金利安定の二律背反(財政破綻回避、後者選択)
 →マイナス金利政策、長期国債大量購入政策を継続
 →円安進展、現実のインフレも徐々に加速=公的債務圧縮が進む
・グローバル経済が下降局面へ、各国とも金融緩和に踏み切る
 →シナリオ2の実現は先送り、シナリオ1が先行
 (米国・中国が底堅い景気拡大~確率は高くない)
 (米国経済が堅調な拡大=FRBが利上げ→シナリオ2が徐々に実現)

「シナリオ1及び2の順位を変えたことは、河野氏の現実洞察と冷静な判断力を示すものだ。これは、現実の複雑さを再考して自らの理論仮説を修正したもので、将来を予測するかめには必須の資質なのだ。しかし、多くの学者、批評家、評論家に欠けているものだ!(以前のシナリオは下記の記事を参照)」
 『岐路に立つ日本経済~財政規律を喪失した日銀141123』

S3)~破綻シナリオ(インフレ加速、円安とのスパイラル)
・政府は安易にインフレに頼り、財政再建の努力は失われる
 →二桁インフレへと加速
・資源配分を歪め一段と成長率が低下
 →資金は海外と不動産にシフト、株価は低迷
 →高率インフレが成長阻害=最終的に財政調整を人々は選択
S4)~生起確率は事実上ゼロ
・消費増税先送り=アベノミクスが全く機能せず

<英国:高インフレ/金融抑圧から財政調整を選択>
・英国 第2次世界大戦直後の公的債務260%(GDP比)
・「S2→S3→財政調整」の道を進む
 1940年代後半~60年代前半 4-5%インフレ→公的債務圧縮
 1960年代後半~二桁インフレへ
 1979年~サッチャー首相:財政調整開始

<日本:第二次大戦後の英国と同じ経路?>
 *当時は固定レート制→英国の経験が早回しで観察か
・シナリオ3は時間の問題?
 *多くの国が大規模な公的債務を抱え、低成長の状態
  →日本での円安/インフレスパイラルの可能性が低下
  →シナリオ3は避けられ、シナリオ2に止まる
  →世界的なディスインフレ傾向、シナリオ1が長引く
 *マイナス金利政策:ゼロインフレ、デフレと親和的な政策
  →公的債務圧縮:マイナス金利の深堀り=適用範囲が一般預金へ

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「派手な空体語」と「隠せぬ現実」~3年目のアベノミクス

2015年12月22日 | 経済
「異次元金融緩和」と「三本の矢」から始まった。
それが現在、「量的・質的金融緩和(QQE)補完策」と「新三本の矢」に変わっている。これが何を意味するのか。声高に言葉を並べた政策はイザヤ・ベンダサンの云う空体語として機能しているだけのことを示している。
 (「日本教について」(文藝春秋社1972)。

実際、GDPは3年間で実質2.3%増、年平均では0.76%増にしかならない。金融緩和を中心に円安・株高をもたらし、一見は華々しいが、実質的な成果に乏しい。所謂、デフレ心理が和らいだが、それは所詮、気持ちの問題だけだろう。
この間の状況を日経は要領よくまとめている。

最近、言われるのは、働き手の減少や低い生産性など供給面の制約のため成長率は高まらないことだ。完全雇用に近いため、働き手は容易には集まらない。人員不足感はバブル崩壊直後以来、23年ぶりの強さ。団塊世代の退職があり、現役世代(15~64歳)の人口はこの1年で99万人減ったとのことだ。しかし、政権もそれに気づいてはいるが、参院選を控え、痛みを伴う供給面の改革に及び腰だ。

働き手の減少によって、潜在成長率は下がる。内閣府試算では実質0.5%で米国の2%弱を下回る。潜在成長率からみると政府が目指す実質2%成長は、はるかかなた。供給制約が解けて成長期待が高まらない限り賃金上昇も続かない。

「新3本の矢」のうち子育て・介護支援は働き手を増やす狙いがある。経団連に設備投資を要請したのも生産性を高める狙い。新3本の矢は需要重視からの軌道修正になる。しかし、その取組は及び腰だ。
低所得の高齢者らに3万円の給付金を配るのは、選挙にらみの単なるバラマキだ。法人実効税率を下げても、投資機会に乏しい。経団連の「3年後に10兆円増」の投資予測は茶番劇を越えている。

成長力向上のために必要な労働市場の改革。
「職業訓練を拡充する」
「金銭支払いで社員を解雇する際のルールを作る」
「同一労働、同一賃金を徹底し女性や高齢者の労働参加を促す」

設備投資拡大のカギは規制改革。
「豊かな高齢者に多額のサービスを買ってもらうのは介護労働者の賃金増と事業者の採算性向上にプラス」
「あらゆるものをネットにつなぐ「IoT」構築でも規制改革が不可欠」

日銀の身の振り方はどうなるか。
緩和の効果が弱い一方でその副作用が懸念され、財政規律を緩めてもいる。見直し論が出るのは当然だ。

成長率の低迷は財政健全化計画の見直しをも迫る。
政府は実質2%、名目3%の成長を前提に5年後、財政再建の第一歩となる基礎的収支均衡を目指す。だが成長力を高める改革には何年もかかる。2%より低い成長でも財政が改善し、社会保障も回るよう改革を急ぐしかない。成長に向け企業の投資資金を確保するためにも国債発行額を早く減らすべきだ。

安倍首相の頭を支配するのは来夏の選挙。人々の関心事はずっと先までの生活。それに影響する成長力や財政・金融の健全性に、もっと気を配るべきだ。

      
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経済状況の認識から政策の転換へ~アスノミクスへ向けて(3)

2015年08月29日 | 経済
GDP統計(8/17発表)によれば、2015年4-6月期の実質GDP成長率は、対前期比「-0.4%」(年率-1.6%)となった。
一方、経済財政白書(8/14閣議提出)の副題は「四半世紀ぶりの成果と再生する日本経済」と、第1章のタイトルは「景気動向と好循環の進展」だ。ここで、「企業の収益改善が雇用の増加や賃金上昇につながり、それが消費や投資の増加に結び付く『経済の好循環』が着実に回り始める」とする。

これに対して、野口悠紀雄氏は「マイナス成長に陥っている状態を「四半世紀ぶりの成果」と言えるのか、理解に苦しむ。経済財政白書に内閣の方針に左右されない客観的で冷静な分析が求められる。近年の白書は内閣の方針を正当化する印象を与える」と批判し、データも示しながら経済政策の誤りを指摘する。

   
上記の図に示される様に、これまでも、14/4-6, 7-9は対前期比マイナス成長、また、14年度は13年度に対してマイナス成長だった。15/4-6実質GDPは13/4-6の水準と同じである。後者は、異次元金融緩和発動の直後だ。経済成長に対して効果はなかったのだ。

日本経済は、依然として停滞の罠から脱出できていない。日本経済を長期的に停滞させている原因は、消費税の増税ではない。今回のマイナス成長をもたらした原因は、消費停滞と輸出の落ち込みである。

氏は続けて、実質雇用者報酬が4-6月期に落ち込んだことを示し、消費税増税とは異なる要因によるものとする。更に、この状況を理解するため、に雇用者報酬の名目伸び率と実質伸び率を比較する。ここから、円安による消費者物価の上昇が諸要因と指摘する。一方、家計調査報告からも消費の低迷を裏付ける。実質賃金の減少が消費低迷の原因であり、インフレ目標が誤りであると主張する。

また、異次元金融緩和をその当時、否定的に評価した齋藤誠・一橋大教授は「実質家計最終消費/実質GNI」を示し、以下の三点を“呟く”。
 『黒田バズーカ砲は華麗なる空砲か(4)~「雀を羆にすり替え」齋藤誠130429』

交易条件が改善し、海外所得が拡大した結果、実質GNIが成長した。しかし、その所得が恒常所得として家計消費増加に寄与していない。それは、実質所得を労働所得として配分するチャンネルが細っている可能性を示す。

実質家計消費の13年度上昇は消費税増税前倒し、14年第2四半期の下落は消費税増税の直接効果。一方、最近の低下は円安、実質賃金低下のデメリットを受け、エネルギー価格低下のメリットは享受できない家計部門を象徴する。

また、通貨減価で購買力が失われる環境では、平均的実質賃金の低迷は低所得者層で一層深刻になる。途上国の暴動の要因は食料品高騰が常に引き金なのもそれを示す。

いずれにしても、日本は、この二年間、自らの首をアベノミクスという真綿で絞めているようなものだ。短期的には金融緩和政策を収束させ、円安政策を転換する。原油価格の低下を徹底的に利用する。更に、中長期的意味での私たちの経済学、アスノミクスを導くことが必要だ。

      
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投機の時代の終焉ー野口悠紀雄~アスノミクスへ向けて(2)

2015年08月28日 | 経済
半年前、原油価格がこれまでの100$/バレルから半値の50$/バレルに落ち込んだ時、米国の金融緩和への動きを含めながら、野口悠紀雄・早大顧問は連載の「新しい経済秩序を求めて」において「この10年間続いた“投機の時代”の終わりを象徴する」と述べた。

更に最近の世界同時株安の現象についても野口は、上記の同じ連載の中で、中国経済の減速と株価の下落との一般的な見方を皮相的と批判し、長期的展望の中で「リーマンショック後に続く金融市場での“世界的バブル”の終わり」と捉えるべきであって、「新たな均衡を求める動き」とポジティブに見る。

この半年の主要な動き、米国の金融緩和への志向、原油価格の大幅下落、中国経済の減速、上海市場での株価下落、そして世界同時株安を同一の視野の中に収めた野口の立脚点「投機の時代の終わり」は、筆者に対して深い洞察との印象を与えてくれた。

80年代頃まで、原油は実需だったと指摘しながら、野口は次の様に云う。
今ではヘッジファンド等が商品市場で投資するリスクの高い投機対象だ。2000年頃以降の原油価格の高騰は投資資金の動きを考えなければ説明できない。

この10年程度、世界的な規模で投機が発生した。米国住宅価格バブルから、欧州住宅価格バブル、南欧国債のバブルへと対象は次々に変わる。先進諸国、特に米国の金融緩和のため、投資資金の調達が容易なことに起因していた。

一方、米金融政策の縮小で投機資金の調達が困難になり、投機サイクルが終わった。リスクの高い投機先から資金を回収する「リスク回避」現象が発生する。原油価格の先行き不透明もあって、原油価格が急激に下落した。OPEC総会での減産見送りは、価格低下に歯止めは掛からず、減産すれば収入減少になるからだ。

以上の見方によれば、低い原油価格は、一時的な現象ではなく、低位安定が続く。それは、約10年続いた「投機の時代」が終わり、世界経済が新しい秩序に向かう動きの象徴だ。この時代に即した経済政策が求められる。原油価格の下落は、原材料価格を引き下げ、企業と個人に恩恵をもたらす。消費が増え、企業利益が増える。原油輸入額の減少は4ー5兆円程度と考えられるからだ。

政府は14年末、消費増税による景気低迷をカバーするため、3.5兆円の緊急経済対策を行なった。しかし、原油価格下落による経済効果はこれを上回る。しかも、その効果は今後も継続するから大変なメリットだ。勿論、原油価格低下による経済回復はアベノミクスの効果ではない。日銀は追加の金融緩和によって、原油価格下落の効果を打ち消そうとするからだ。

以下が野口の結論になる。
インフレ目標による物価上昇が誤りであることが明白になり、今後の経済政策の方向付けとして180度の転換が必要だ。新しい秩序の時代では金融緩和は不要だ。原油価格下落の効果を享受するため、円安を止める必要がある。必要なのは、為替相場に影響されない新たな産業がリードする経済の構築だ。

つい最近、野口が予測していたように、バブルが弾けて世界同時株安現象が起きた。勿論、それなりに回復するだろうが、世界にショックを与えたことは紛れもない事実だ。

冒頭に記した様に野口は、「リーマンショック後続いてきた金融市場での世界的なバブルの終了」と捉え、次の様に述べる。
重要な変化は、リスクオフ方向へのポートフォリオの組み換えだ。すでに数年前から、新興国への投資や商品市場では、変化が生じていた。最初に金価格が下落、次に対新興国投資、原油、新興国株価へと影響が広がっていた。それが今、日本を含む先進国株価に及んでいる。

更に、現在起きていることの基本的な背景は、アメリカの金融正常化である。すなわち、量的緩和策は、正統的な金融政策ではない。このため、量的緩和策からの脱却が求められていた。09年以降の金融緩和策の最大の効果は、レバレッジ投資を容易にしたこと。経済活動に必要なマネー供給よりは、投機資金の調達が容易になった。これが投機を煽った。

そこで、米連邦公開市場委員会が金融緩和第3弾の終了を示唆して以降、長期債利回りはすでに上昇している。その影響として、これまで述べた様に、実体経済よりは投機に与える影響のほうが重要だ。リスクオフの影響は、さまざまな面にすでに現れている。金価格、新興国、原油、そして先進国株式へと進む。

だが「新しい均衡」までには、まだ投機の要素が残る。それを克服しないと新しい均衡には到達できないだろう。

      
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自然消滅する「アベノミクス」~「アスノミクス」へ向けて(1)

2015年08月27日 | 経済
二年半前の記事で「私たちの経済学」と書いた。アベノミクスではないエコノミクスが必要との趣旨だ。「円安」で何が起こるのか?国民的負担を招き、大企業・資産者が得をすると!結果は実質GDPが増えない中での格差拡大だ。
 『円安と株高に関する「私たちの経済学」~アベノミクスとは異なる目線から130303』

輸出企業に利益が集中し、その利益は大企業中心の配分に止まる。一方、石油等の輸入品は値上がりし、最終消費者の家計はその打撃を一身に受け、国民全体に広く浅く影響を与える。「株高」は資産を有する人たちに利するだけだ。

筆者の経済に対する見方は今も変わらない。
語呂合わせになるが、“アスノミクス”のアスは「US(私たち)」と「明日(将来を含めて)」を掛けた表現だ。

政府側及びマスメディア側からの経済情報の中で、最近になって顕著に感じられるのはアベノミクスとの表現が消えていることだ。それは、低調なGDP成長率・円安物価値上げ・株価乱高下のパンチによるものなのだろうか。

我が国の実質GDP成長率(2015/8/17発表)は、今年の第2四半期において、対前期比マイナス0.4%(年率マイナス1.6%)となった。それに呼応するかのように、中国経済に関して、上海市場の変調をキッカケに、成長率の鈍化に注目が集まるようになった。更に、中国政府の強引な元切り下げ政策、天津市の大爆発事故に世界中が不気味さを感じたのか、世界の株式市場での株安連鎖が続く。

ところが、アベノミクスの提灯持ち役を務める日経新聞は、つい最近、次の記事を掲載している。
「高収益の日本株、独歩高の可能性も」(前田昌孝編集委員2015/8/12)との表題で株買いを煽る記事を掲載する。株価を巡って楽観、悲観の情報を並記しながら、楽観の内容を比較上位に置き、少しずつ株買いに誘導する典型的なマスメディア記事の手法を用いる。以下だ。

先ずは、輸出企業株の売りを過剰反応と示唆する。
「8/11の東京市場では輸出関連のトヨタ、日産から食品株まで最近の人気銘柄が幅広く下げた。元切り下げの動きに中国経済の深刻さを感じたせいかもしれない。…過剰反応ではないのか。何しろ日本企業の4~6月期決算は絶好調だ。」

続いて企業の体質改善による高収益化を示唆する。
「日本企業が単なる循環を超えて構造的に強くなった可能性もある。企業統治の強化を背景に、資本コストを意識した経営に乗り出している企業も多く、外部環境に振り回されない高収益の確保を目指している。売上高損益分岐点比率は長年の経営努力で着実に低下してきた。これまでの技術開発が実り、製品の国際競争力が高まっているかもしれない。

最後に、株価の高値維持を示唆する。
「日経平均が年初来高値圏で推移しても、不思議ではない。週足チャートを見ると「比較的幅広いセクターで新たな上昇波動が期待できる銘柄が増えつつある」(大和証券・木野内栄治)という。東証1部の平均株価収益率は17.8倍とNY市場の19.5倍を下回る。利益の上方修正が見込めるのならば、買いどころだ。」

この語り口は、マスメディア側が、現政権へ向かって行うリップサービスの典型版がある。

アベノミクスの政策失敗を指摘する論考も、特に政治的思惑に支配されたわけではなく、学的業績を認められた経済学者の間からも多く提出されているのが、現状だ。

しかし、政府の政策は、統計等をしっかりと読み込んだ経済学徒(官庁エコノミストを含めて)によって、それらの資料を駆使し、構成されているとは見えない処に重大な問題がある。

今更、言うまでもないが、高度経済成長を牽引した当時の池田首相は経済学者とも論争した。それを支えたのが下村氏を始めとしたエコノミストであった。そこで、佐藤内閣時代に経済企画庁で活躍した金森久雄氏が経済学者・吉川洋氏の著作「高度経済成長」にコメントを付けられるのだ。
 『経済成長の過程と帰結、社会変動の視点~「高度成長」吉川洋140529』

安倍内閣を支える学者は、リフレ派と呼ばれるグループらしいが、説得力のある議論にぶち当たったことがない。また、批判に正面から論争をしたようにも見えない。これで確かな国策が実施されているとは思えない。

      
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2020年代に日本経済の風景が変わる~異次元緩和の行く末

2015年04月24日 | 経済
日経新聞のインタビューに池尾和人・慶大教授が「国家25年の計」が必要と答えている。教授は現状の金融緩和が続き、財政出動で借金を積み重ねると、人口動態から2020年代にインフレは避けられないと警告する。それを回避するためには、先ず、2020年での基礎的財政収支の均衡は不可欠という。

以下、その内容を紹介する。

「「国家100年の計」は絵空事かもしれないが、少なくとも四半世紀の時間的スパンをもつことは不可欠だ。2010年代の残された後半の5年と、2020年代+2030年代の計25年間は日本の人口動態から重要な時期だ」。

「今は、国債←(日銀)←準備預金←(民間銀行)←預金、という資金の流れ。国債を消化する資金は私たちや企業の預金、財政赤字を賄っているのは、民間の貯蓄だ。これまでも、国債←(銀行)←預金、という流れで、国民が間接的に国債を保有していたが、異次元緩和の結果、間々接的な国債保有構造に変わった」。

「日本の場合、多くの人が貯蓄を取り崩し、預金が純減を始めるのが2020年代の早くて前半、遅くとも後半と推計される。いずれにせよ中期的には減り始める。その時に、どんなことが起きるのか」。

「日本の人口動態を考えれば、それ以降、景色は急激に変わっていく…連続的にゆっくりとリニアに変化していけば、変化に気づきやすいが…急に様子が変わっていくと想定される」。

「日本の家計が保有する金融資産規模は約1600―1700兆円。…そのうち家計も住宅ローンなどの負債を抱えている…それら引くと純資産は1300兆円。…政府が抱える債務のうち、公的年金などが保有する国債は資産…それらを差し引くとネットの債務は650兆円。…家計純金融資産の半分は国債消化に充当。…あと10年で家計金融資産の取り崩しが始まる」。

「最初は2007年に団塊世代が60歳の定年を迎えると、企業の根幹業務を支える人材がいなくなり、業務に重大な影響を及ぼす2007年問題が懸念された。定年を65歳まで延長する措置が広範に取られたことから、実際には2012年以降、大量の退職者が発生している。今がまさにそのタイミング」。

「退職者の増加は、中長期的には潜在成長率を低下させる…財政負担能力も低下させ、望ましくない。将来の財政負担能力の低下が見込まれるときに、将来に負担を先送りするような政策をとることが賢明か」。

「生産能力も落ちてくる中で、預金を取り崩した購買力が加わると、生産を上回る需要が生じる…物価が上がらないと辻褄が合わない…インフレが始まる頃には恐らく急速に風景が変わっていく…物価が1.5倍になると、1ケタといった生半可なインフレ率ではすまない…2ケタのインフレは避けられない恐れ…』。

「過度のインフレを阻止には、日銀が金融引き締めを行えばよい。しかし、金融引き締めをすると、日銀が国債購入による量的緩和によって供給してきたお金(準備預金)を回収することになる。貨幣発行益で財政赤字を賄えるといった話が成り立たなくなる」。

「換言すると、2020年代に日本の財政が貨幣発行益に頼らないでもやっていけるようになっていたら、物価安定を優先できる。ところが、貨幣発行益に頼らなければ財政運営が成り立たないような状態のままだと、日銀はジレンマに陥ることになってしまう」。

「それを回避するためには、2020年までに財政規律を回復させる必要がある。これは「適当な目標」ではない。人口動態から2020年は最終リミット…サバを読んだ締め切りではない。財政健全化の目途がつけば、中央銀行が出口政策を追求できる可能性は残る」。

「実体経済に目を向けると、安倍政権発足後の2年間の実質経済成長率の平均は0.5%程度でしかありません。それでも国民は将来が不安…黙ってお金を貯め込んでいる。そのために、問題が顕在化していない」。

「問われているのは、「今さえよければ」と考えるのか、「将来」を見据えるか…現在と将来にどういうウエイトづけをするのか…将来にまで高いウエイトをかけないで政策が選択されてしまいがち…そのことを自覚し、近視眼的にならないように努力する必要がある」。

「過度のインフレを阻止には、日銀が金融引き締めを行えばよい。しかし、金融引き締めをすると、日銀が国債購入による量的緩和によって供給してきたお金(準備預金)を回収することになる。貨幣発行益で財政赤字を賄えるといった話が成り立たなくなる」。

「換言すると、2020年代に日本の財政が貨幣発行益に頼らないでもやっていけるようになっていたら、物価安定を優先できる。ところが、貨幣発行益に頼らなければ財政運営が成り立たないような状態のままだと、日銀はジレンマに陥ることになってしまいます」。

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近づくギリシャの「Xデー」~田中理 第一生命経済研究所

2015年04月19日 | 経済
ギリシャの「Xデー」で一体何が国際経済において起きるのか?
存外に、ギリシャとその周囲の国だけの問題かもしれない。それについての論点は何も提示されていないが、状況だけはロイターが以下に示している。

財政資金の枯渇や支援提供国との改革案をめぐる合意期限が刻一刻と迫るなか、ギリシャ情勢が再び緊迫の度合いを増している。13日付けの英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は、「我々の命運は尽きた。(4月末までに)欧州諸国が救済資金を拠出しなければ、ギリシャはデフォルト(債務不履行)を宣言する以外にない」とする与党・政府関係者の発言を伝えた。

こうした発言は、月内合意に向けた交渉が大詰めを迎えるなか、支援提供国から最大限の譲歩を勝ち取ることを狙ったギリシャのお決まりの交渉戦術と見る向きもある。だが、これまでの交渉過程で、ギリシャの新政権と支援提供国との関係は、かつてないほどに冷え込んでしまっている。デフォルトの可能性をちらつかせたところで、支援提供国側の態度が一変する望みは薄い。

ギリシャの改革案はすでに二度にわたって支援提供国から突き返されており、15日に再開したユーロ圏の財務次官級会合では、再修正案の協議が続けられている模様だ。24日のユーロ圏財務相会合での合意を目指すならば、今週中にも妥協点を見出す必要がある。

だが、最低賃金の引上げ、団体賃金交渉の導入、貧困層への年金支給増額、税捕捉強化に依存した代替財源の捻出方法などをめぐり、両者の主張は平行線だ。報道によれば、ドイツのショイブレ財務相は15日、「来週中に改革合意が実現すると考える者は誰もいない」と発言した。月内合意のハードルは高い。

どうにか改革合意にたどり着いたとしても、支援提供国のギリシャへの不信感はすでに相当なものだ。もはや口約束では不十分として、ギリシャが改革関連の法案を議会で可決するまでは融資を再開しない姿勢を強めている。新政権が緊縮見直し路線を軌道修正するとなれば、与党の分裂や連立政権の崩壊など、政治リスクが噴出する恐れが高い。昨夏以来中断している総額72億ユーロの次回融資分の早期実行は難しい情勢だ。

政府の財政資金は枯渇寸前と言われて久しいが、社会保障基金や政府関係機関からの一時的な借り入れ、一部の納入業者への支払い延期などで、これまで何とか資金をやり繰りしてきた。5月の対外債務の支払いは、国内銀行による借り換えが見込まれる総額28億ユーロの政府短期証券の償還を除けば、12日に国際通貨基金向けに7.7億ユーロの融資返済を控えているだけだ。このまま月内に改革合意ができなくても、さらなる埋蔵金の捻出などで財政破綻を回避できる可能性も残されている。

だが、危機再燃による経済活動の停滞や税滞納の増加などを受け、年明け以降、税収の下振れが続いている。このままでは昨年ようやく黒字化した基礎的財政収支が再び赤字に転落する可能性がある。国債利回りの再上昇で市場調達に復帰する道も完全に閉ざされており、追加の資金支援を受けない限り、財政資金が枯渇するのは時間の問題と言える。

このまま支援融資が再開されないまま、埋蔵金を含めた財政資金が枯渇した場合、ギリシャ政府は月々の税収など限られた財政資金の使い道を取捨選択する必要に迫られる。この時、国内向けの支払いを優先し、対外債務の支払いを停止すれば、30日間の猶予期間を経て、ギリシャは2012年の債務交換時以来のデフォルトに陥ることになる。支援提供国の通例として、返済が滞っている間は財政支援を再開することはない。次回融資の再開どころか、7月以降の新たな支援プログラムの策定も暗礁に乗り上げる。

また、デフォルトと認定された場合、欧州中銀がギリシャの銀行に供給している緊急流動性支援を打ち切ることが予想される。これは返済能力のある銀行への一時的な流動性供給策であり、デフォルトした国債を大量に保有するギリシャの銀行はもはや健全な銀行と見なすことができなくなるためだ。欧州中銀の資金供給に資金繰りを完全に依存するギリシャの銀行破綻は避けられない。

ギリシャの銀行監督の一端を担う欧州中銀としては、流動性供給策を打ち切るのと同時に、銀行の預金封鎖、海外送金の停止などの資本規制の導入、銀行の資本増強などを行う必要がある。ここで問題となるのは、日々の財政資金に窮するギリシャ政府がどのように銀行の資本増強資金を捻出するかだ。

      
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「円安・株高定着」対「持続的成長の展望なし」2~異次元緩和検証

2015年04月07日 | 経済
基本的な問題提起になっているのは、翁氏の「持続的成長」に関する指摘だ。それは昨日の記事の冒頭に引用した実質GDP成長率のデータにおいて、1991―2013年の平均が0.9%、2014年の速報値が-0.0%であるからだ。
 『「円安・株高定着」対「持続的成長の展望なし」Ⅱ150404』

成長戦略による持続的成長と云っても、その成長率は1±1%であって、マイナスにならないことを目標にするだけだ。また、潜在成長率は0.4%以下で最近は下がっている(下図)。


 
〈翁氏のポイント〉
○潜在成長率の向上への寄与は期待できず
○超高齢化社会に対応した成長戦略が必要
○財政への副作用は「高橋財政」より大きく

翁氏が指摘する様に、アベノミクスの成長戦略は、空気を振動させるだけの“空体語”であったのは確かだ。しかし、最近のGDP成長率と潜在成長率のデータ、両者は一体のデータになるが、これが示すものは成長戦略という概念に無理があるということだ。
 『亀の歩みの成長戦略~低迷する潜在成長率150307』

その意味でアベノミクスは経済成長という見地からは、政治的なイメージ戦略なのだ。従って、金融緩和の功罪を論じる際に、成長戦略まで踏み込むことは、実は無理がある。従って、本格的に論じる必要があるのは、北阪氏が成果として記した円安・株高と翁氏の指摘する「財政への副作用」になる。

貿易収支が赤字に転換したのは2011/2からだ。以降、トントンの月はあったが、赤字は続いている。一時は3兆円/月(2014/1)にまで達したが、最近は原油の大幅な値下げによって、赤字幅は縮小し、1.2兆円程度までになっている。しかし、円安が120円までになり、自動車中心に輸出も増えているにも関わらず、大幅輸入超であることに変わりはない。

単純に考えれば、日本全体として円安は損失になっているはずだ。それでも、北阪氏は輸出による企業業績の改善が成果だと云う。論理的に云えば、逆に主として、中小企業、最終消費者になる国民全般の損失は遙かにそれを上回るものになるはずだ。それは損失を転化できないで抱え込んでいる企業にも云える。

北阪氏を始めとして、安倍首相は勿論のこと、円安・株高を成果として主張する政治家・評論家は、円安による損失について、著しく感受性を欠いている。知っていて、無視しているのだろうが、これは尚更、フェアーではない。

また、株高が成果であることに関して、筆者は半分認めるが、これの副作用も考える必要がある。株価が一層、マネーゲームの様相を示していることだ。企業の業績と将来像の見通しから株価が決まるという基本的な姿が、短期の経済情報によって、攪乱され、コンピュータを操るファンドに主導権が握られるのだ。

財政ファイナンスと出口戦略の不安定性に関しては、河野龍太郎氏の議論を何回か、取り上げている。
『金融抑圧政策の歴史的展開と現在~大衆民主主義下の公的債務圧縮131113』

翁氏も戦前の高橋財政との比較から、次の様に財政ファイナンスは始まっていると指摘する。以下だ。
量的・質的緩和は財政への資金提供は目的ではない。しかし、「副作用」としてすでに巨額の財政支出をファイナンスしている。銀行が買った国債はワンタッチで日銀に転売され、最終的に日銀資金が財政支出を賄っている。これは高橋財政当時とは正反対の資金の流れであり、出口のかじ取りの困難さに直結する。

 しかし「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない」とする憲法83条(財政民主主義)の理念は、日銀による巨額損失の裁量的配分とは両立しないはずである。許容されるなら、日銀の独立性という建前で財政民主主義を迂回するルートが開ける。金融正常化プロセスでのリスクとコストは、民主主義社会の日銀のあるべき姿を再考する契機にもなるだろう。

      
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「円安・株高定着」対「持続的成長の展望なし」~異次元緩和検証

2015年04月04日 | 経済
内閣府から3/9に公表された第二次GDP速報の暦年データ(対前年比)を示す。各値は%で表示されている。
       2011 2012 2013 2014
 GDP   -0.5  1.8  1.6 -0.0
 GNI    1.3  1.5  1.8 -0.2
 雇用者報酬  1.4  0.9  0.6 -1.0
 
また、これらの値を評価する際に、長期的な「GDP成長率」の推移を以下の様にまとめておくのが便利である。その年度間の平均成長率は以下になる。
 1956―73;9.1% 1974―90;4.2% 1991―2013;0.9%

控訴成長期から安定成長期を経て、現在まで20年井以上に渡って低成長(停滞)期になっており、マイナス成長の年は5回ほどを数える。それでも、リーマンショックを乗り越え、2010年以降はプラス成長を維持し、2013年の実質GDPは過去最高の529兆円を示した。

しかし、1)年金世代が増え、それと共に、2)超高齢化世代の介護、医療の需要も急激に増加する。一方、少子化による3)労働人口の減少も著しく、この“三重苦社会化”は想像の域を超えているかにみられる。

この状況の中で、成長戦略とは何か?との厳しい問いかけもなく、あいまいなままに、言葉だけがアベノミクスという空気の中を漂っているままだ。従って、異次元金融緩和も趣旨も、目的も、この2年間で曖昧模糊となったのも不思議ではない。今では、「地方創生」が話題の中心をなすようになった。

表題の対決は、日経・経済教室(3/30,31)において展開された。
「円安・株高定着 大きな成果 企業収益・雇用が改善」北坂・同志社大教授

「持続的な成長 展望描けず 円安、人手不足に無策」翁・京大教授
それぞれ図が一つ掲載されており、両者の論点を主張するための様である。

〈北阪氏のポイント…図1参照〉
○日銀緩和は市場や投資家行動の変化促す
○物価目標年限を2年に区切る必要は薄れる
○マイナス金利追求や政府との距離が焦点

  
   
 図1 株価と円相場(北阪) 図2 潜在成長率推移(翁)
〈翁氏のポイント…図2参照〉
○潜在成長率の向上への寄与は期待できず
○超高齢化社会に対応した成長戦略が必要
○財政への副作用は「高橋財政」より大きく

図1の説明は奇妙だ。マネタリーベースを2年で2倍に拡大する金融緩和以前、衆院解散の少し前の2012年秋から円安・株高が始まる。緩和が契機ではない、としている。その通りで、円・ドル相場は、金融緩和以降、ほぼ一定を保持し、追加緩和の前から更に円安に動いている。

そこで、北阪氏は、安倍政権の主張に沿っての金融緩和であり、それを下支えしたのが、黒田金融緩和であったと述べる。しかし、それなら特に異次元というほどのことは不要であったとも云える。問題は、この後始末にあるからだ。

その当時にも指摘した様に、円安によって、一部の輸出企業が巨額の利益を得て、また、株高によって一部の富裕層の資産を増加させた。しかし、それは既に指摘するように、一部の企業・人に冨を偏在させ、格差の拡大にも寄与しているのだ。
 『円安と株高に関する「私たちの経済学」130303』

結局、冒頭のデータに戻れば、実質GDPは前年比において、2013年は1.3%伸びているが、2013年度は横這いであり、雇用者報酬は、実質で2014年は-1.0%に下がっている。マクロの数値からは、金融緩和の効果は認められず、見え隠れする財政ファイナンスと出口戦略の不安定性が目立つ結果になっている。
なお、翁氏の議論については次回報告する。

      
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