散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

ロシア革命におけるレーニンと古儀式派~下斗米伸夫教授のトークショー~

2013年05月12日 | 政治理論
渋谷の小さな映画館でロシア特集と共に下斗米伸夫・法大教授のトークショーがあることを知って出掛けた。一年半前(2011/9/21)の台風による大雨の日であった。映画「大祖国戦争」は典型的なプロパガンダ映画で、ときたまウツラウツラしながら観ていた。しかし、(筆者にとって)肝心のトークショーでは眠気も覚めて、現金なものだ。

前半は「映画のタイトル、『大祖国戦争』です。『第二次世界大戦』ではない、この差異に先ず注目!」から入り、第二次世界大戦におけるスターリンを中心としたソ連の状況を生々しく描写した。歴史的事実とその解釈に引き込まれた。

続いて後半が(筆者にとって)白眉であった。
レーニン主義というのを私自身は別な角度から見るようになっています。」「ロシア帝国とソ連帝国という二つの帝国が終わって初めてよく見えたことのひとつに、宗教、とくに古儀式派という異端の潮流があります。」に引き込まれる。

聴いているときは“コギシキハ?”であり、聴き取り概要がネットに掲載され、始めて“古儀式派”とわかった。「ロシア帝国以前の古いロシアの人々は別の儀式で信仰を維持してきた。」

「彼らから見るとロシア帝国は宗教的な裏切り者、サンクトペテルブルグは反キリストの街である。自分たちの本当の信仰はモスクワである。モスクワは第3のローマだ、という考え方を持つ非常に原理主義の流れが二百数十年間生き残り続けます。これが20世紀に再生したのです。日露戦争での帝国ロシアの動揺、そしてロシア革命です。ロシア革命もこの流れを見ないとわからない。」

これにはビックリだ!ロシア革命がロシア正教以前の旧い原理主義、宗教シンボリズムの匂いを漂わせ反ロシア帝国の“コギシキハ”と密接に関わっているとは!「これが20世紀に再生した」との言葉からな永井陽之助のいう“グノーシス主義”が想い浮かんだ(『二十世紀と共に生きて』「「二十世紀」の遺産」(文藝春秋社1985) P32)。

ここから「スターリン体制の“全体主義”的性格の思想的根源にレーニン主義がある。」(『戦争と革命』「現代と戦略」(文藝春秋社1985) P284)までは頭の中で繋がっている。アジアから中南米、アフリカへと伝搬する“現代の革命”の根源!本日の日経の書評に下斗米氏の新著「ロシアとソ連 歴史に消された者たち」(河出書房新社)が紹介され、「ロシア政治史」にパラダイムチェンジを図ると書かれている。

      
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10 コメント

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Unknown (三國博貴)
2013-05-13 10:11:42
日本でいえば、明治維新=南朝正閏論みたいなものか。
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Unknown (三國博貴)
2013-05-13 10:17:08
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%A4%E5%84%80%E5%BC%8F%E6%B4%BE

 しかし、このウィキ「古儀式派」ではソ連成立後も弾圧されたとあります。

 レーニン夫人は、「富裕階級との闘いは即ち古儀式派との闘いである」とまでアジっているし。
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コメントに感謝! (Goal Hunter)
2013-05-13 21:28:54
三國さん、Wikiを紹介して頂きありがとうございます。古儀式派がソ連時代に迫害されとこと、クルプスカヤの発言は特に不思議ではないと思います。直ぐ右側の絵は、下斗米教授がトークショーで指摘した有名な絵なんですね。
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はじめまして (Bleach)
2013-05-20 07:20:38
失礼いたします。
クルプスカヤは古儀式派の家系ではないと考えられています。
また、レーニンの死去以降、レーニンの遺体の火葬を主張し、古儀式派出身だったり古儀式派と関係が深い政治家ら(ルイコフ、クラーシンなど)により主導されたレーニン遺体の保存の動きに強く反対するも押しきられてしまいます。
その後も、ユダヤ系のジノヴィエフやカーメネフを支持するなど、古儀式派系列の政治家とは一線を隠した動きをしています。
クルプスカヤの古儀式派に対する峻厳な態度の原因を断定するのは難しいですが、このような状況もその一員だったと思われます。
また、集団化を進めていく中で、富農分子には古儀式派信徒が多数いたという状況も有ったと思われます。教派別の統計がないので確定的なことはいえないのですが、古儀式派信徒はそのようなイメージを持たれていた事はあります。
「ロシアとソ連 歴史に消された者たち」は大変おもしろいのでお勧めいたします。
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コメントに感謝! (Goalhunter)
2013-05-20 23:08:34
Bleachさん、初めまして!この情報、専門家とお見受けしました。今後も宜しくお願いします。
「富農分子には古儀式派信徒が多数」とのことですが、スターリンのクラーク粛清と深く関係しそうですね。永井陽之助氏のいうレーニンのグノーシス的性格は、古儀式派から引継、スターリンによる古儀式派排除によって「スターリン独裁」として完成された?
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専門家というほどでもありませんが (Bleach)
2013-05-22 06:30:53
どうもありがとうございます。
グノーシス主義は私もよくわからないのですが、今慌てて勉強しました。
少なくとも、古儀式派はあくまでキリスト教なので、狭義のグノーシス主義とは違うものです。
しかし、永井氏のおっしゃっている意味には、けっこう当てはまるような気もします。いずれにせよ、古儀式派はさまざまな教派の総称なので、個別に見ていく必要があるのですが。

レーニン自身は古儀式派についてはもともとよくわかっていなかったためか、古儀式派や霊的キリスト教の人々についての調査及び彼らとの折衝を、クラーシンやボンチ-ブルエビッチらにさせます。ボリシェビキは一部の古儀式派から膨大な資金をはじめとするさまざまな援助を得ます。
一方で、レーニン本人はとことんまで無神論者で、古儀式派との関係を積極的に構築・利用する一方で、、古儀式派とかかわりの深いボリシェビキ党員やゴーリキーやルナチャルスキーらを中心とするボリシェビキ右派が進めた所謂建神論の動きを再三制止してもいます。建神論はグノーシス主義に似てるのかもしれません。
レーニン死後のルイコフ政権時代の方が古儀式派出身のボリシェビキ政治家の影響が強まっていたと思います。レーニンの葬儀や遺体保存などは古儀式派の雰囲気に包まれていたと言えるでしょう。
スターリンが実権を掌握していく中で多くの政治家が失脚していきますが、モロトフやカリーニンのように古儀式派出身の幹部で影響力を維持した人々もいます。
スターリンは、トロツキーに近いユダヤ系の党員を徹底的に排除したように思えますが、古儀式派出身の政治家に対しては必ずしも根絶していないので、古儀式派系政治家排除ということではないのです。
これは半分以上が「ロシアとソ連 歴史に消された者たち」からの受け売りです。
いつかGoalhunter様の同書のご感想を伺ってみたいです。
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コメントに感謝! (Goalhunter)
2013-05-24 00:11:06
本を入手しました!早速、読んでみます。
もう一つ本を思い出して手元に置きました。それは井筒俊彦「ロシア的人間」です。19世紀ロシア文学を論じていますが、「永遠のロシア」から始まります。これを合わせて読もうと思うようになるのか?先ずは、「目次」「あとがき」「引用・参考文献」から…
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ありがとうございます (Bleach)
2013-05-24 04:12:40
私は「ロシア的人間」は未読なので、これから注文してみます。
「ロシアとソ連 歴史に消された者たち」は刊行からまだ日が浅く、読者からの本格的な反応はまだほとんどありません。これから発表される書評も多いと思われます。既に読んだ私としては楽しみです。
日本では、古儀式派という観点は(満州経営以外では)かなり無視されてきました。「分離派」「ラスコーリニキ」のような国家正教会側の用語が無批判に使われていることも多かったです。
この本を通じてロシア・ソ連史に関して見方がかなり変わる人も結構いると思います。
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追伸 (Bleach)
2013-05-24 04:17:29
この本で合っていますでしょうか?
よろしくお願いいたします。

ロシア的人間 (中公文庫) [文庫]
井筒 俊彦 (著)
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コメントに感謝! (Goalhunter)
2013-05-24 20:30:10
早朝の、それも朝まだきにありがとうございます。でも…もしや…モスクワ辺りからでは?
ロシア的人間 (中公文庫) 井筒 俊彦 (著)で合っています。丁寧に書かず、申し訳ありません。中公新書版は、あるとは知りませんでした。手元にあるのは、北洋社1978年初版です。そのときの著者のあとがきによれば、1953年に先ず出版されたとのことです。after sixty years ですか。
読書の感想は途中でも書ければ、ブログに書き込むようにします。

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