散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

プーチンの「大祖国戦争」~ロシア的愛国主義とは?

2022年10月05日 | 国際政治

何年か前にソ連映画「大祖国戦争」を見た。それは第二次世界大戦に関するソ連の典型的なプロパガンダ(宣伝)映画であった。この映画を思い出したのは、ロシア侵攻に対するウクライナ反攻が進む中での、ロシアにおける反徴兵騒動、若者たちの海外脱出のニュースに接して考えさせられたからだ。

独ソ不可侵条約を破ってロシアに侵攻した独軍に中核地域を攻撃され、余儀なく後退する。しかし、苦しさを乗り越えて反撃を加える。逆に押し返して独に攻め込み、ナチスを崩壊へと追い込んだ。この大戦でのソ連戦死者は2千5百万人を超えたと言われるほど、凄まじい戦いであった。

戦士たちは見事なパトリオティズム(愛国主義)を発露した。しかし、その愛国心は共産主義イデオロギーのためではなかった。即ち、戦士たちはプロレタリア革命のために死んだわけではない。彼らは家族、その象徴としての母のため、また生きる糧を育む大地を確保するために、死をもいとわずに戦ったのだ。それは将に死を覚悟の戦いだった。

ロシア(露)・プーチンによるウクライナ(宇)侵攻は、現在、宇の反攻によって、後退を余儀なくされている。その反攻はナチス侵略の際に発揮された見事な愛国主義をベースに発揮されたものと考えられる。

一方、露では新たな戦士の徴発に対する反発が報道されている。また、若い人たちの国外脱出も著しく多い。多くのロシア人はプーチンの「大祖国戦争」を、プロパガンダ映画を見るような気持ちで眺めているのであろうか。

 

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ウクライナの国家宣言~キリスト教受容の日の意義

2022年07月30日 | 国際政治

東野敦子教授のツイッターより、

この日は、もともとキーウ・ルーシ=ウクライナのキリスト教受容の日としてそれまで祝われていたところ、ゼレンシキー宇大統領が昨年の独立記念日の際に、新たに7月28日を国家祝日とすると発表していたもの。
その後、大統領令により「ウクライナ国家性の日」が制定された。
また、2022年5月31日には、ウクライナ最高会議(国会)も、7月28日に「ウクライナ国家性の日」という祝日を制定する法律を採択している。
ゼレンスキー大統領の昨日の演説には、なぜウクライナ人達がこれほどまでの犠牲を払っても戦い続けるのかが語られています。

筆者は以下のリツイートを送る。
ウクライナ国家建設の宣言ですね!
かつてハンチントンが言った文明の衝突を乗り超えていけるのか?
ポーランド系のカトリックを含む。一方、クリミア等の東部地域はロシア正教系が多く、その融和も課題となる。
ともあれ、プーチンロシアの逆手を取れるように声援を送る!

註 ゼレンスキー演説は以下参照

https://www.ukrinform.jp/rubric-society/3538566-yuerinihaukuraina-guo-jia-xingno-rizerenshiki-yu-da-tong-linggamesseji.html

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「抑止と同盟」、学ぶべき論稿(2)~露(ロシア)の宇(ウクライナ)侵略

2022年04月03日 | 国際政治

露の侵略に対するNATO諸国の当初の対応は…防衛の義務がないこともあってか、どこか他人事で、もたついていたと筆者には感じられた。

核兵器に関して、露の脅しに有効な反論がなされず、また、宇からポーランドに対するミグ戦闘機譲渡の要望にも、米国を含めて相互連絡にもたつき、結局、ロシアの核兵器使用の脅しに屈した形で出来ず仕舞いに終わる。そのため、宇軍の現場での奮闘で漸く戦線を持ち堪えている状況でいる。
しかし、一般人を含めてその被害は大きく、終結は見通せない。何故?

「抑止と同盟から考えるロシア・ウクライナ戦争」鶴岡路人(慶應義塾大学准教授)の分析が参考になる。問題のキーワードは<抑止>になる。

以下に引用する。
国際問題研究所 欧州研究会 FY2021-8号 研究レポート 2022-03-29  
https://www.jiia.or.jp/research-report/europe-fy2021-08.html

問題は宇がNATO加盟国ではなく、米国を含めたNATO諸国は宇に対する防衛義務を負っていない。そこで対露「抑止」を如何に捉えるか?これに係っている!
そこで鶴岡准教授は次の考え方を示す。

(1)ウクライナ国境地帯への露軍集結に対し、米国は露の宇侵攻を防ぎたかった、つまり抑止したかったことは確かだろう。
(2)但し、そこには明確な限界が存在した。
それは2021年12月の段階でバイデン米大統領は「(防衛)義務はウクライナには至らない」と述べ、「米軍派遣を選択肢に挙げたことはない」と言い切る。
(3)更に、上記の考え方を、行動しない免罪符として使っていた。
(4)しかし、ここで「思考停止」してはいけなかったのだ。

次の様に考えることは可能だった!
(5)防衛義務が存在しないとしても、集団的自衛権の発動は不可能ではない。
(6)国際連合憲章は集団的自衛権を国家固有の権利として認めている。
(7)他国を軍事的に支援することに対し、安全保障条約は不可欠ではない。
(8)実際、湾岸戦争の際、米国とクウェートの同盟関係はない。
(9)「イスラム国」に対する有志連合による空爆作戦は、イラク政府の要請に基づき、米英仏等がそれぞれ集団的自衛権を発動して対処した。

米国あるいはNATOによる宇への軍事的支援は、米国・NATO側による政治判断である。その判断では、(1)宇の重要性―同国を守る価値―と、(2)対峙する相手だ。
一方、二点を完全に分離して考えることはできない。「宇はNATO加盟国ではない」という主張は(1)に該当するが、バイデン大統領が繰り返す「第三次世界大戦になる可能性」は、(2)に係る。仮に(2)が強調される場合、NATO加盟国の防衛にも疑念が生じる。

「ウクライナにおいて」米国がロシアと戦うことがなくても、そのことは、ロシアの行動を抑止することが米国の国益の一部であることを否定するわけではない。ウクライナを防衛することと、(米国の望まない)ロシアの行動を抑止することは、本質において異なり、前者の意思がなくても、後者の必要性は減少しないのである。

米国・NATOの事情は、露の抑止にも大きな影響を与えた。即ち、露の抑止に失敗すると共に、宇への侵攻後も、「エスカレーション・コントロール」の失敗を続けていると評価せざるを得ない。

露は、NATOによる次の措置を封じるための抑止メッセージを繰り返し発してきた。宇上空の飛行禁止区域設定や、ポーランドなどから宇への戦闘機供与、さらには一部NATO加盟国が保有する旧ソ連製の防空システムS-300の宇への供与などに関し、「戦闘への参加」とみなすと警告してきた。これは、露が主導権を確保し、NATOを一方的に抑止している状況に相当する。これは由々しき事態なのだが、NATOからはその問題意識すら聞こえてこない。これはNATOにおける抑止の発想の不足を示している。

即ち、最後に問われるのは、エスカレーションを覚悟したうえで抑止を構築することであり、政治指導者の判断が問われる。

更に、鶴岡論稿では生物兵器、経済問題と議論は続く…参照して頂きたい。

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ロシアのウクライナ侵略~学ぶべき論稿から

2022年04月01日 | 国際政治

奇妙な始まりだった。
ニュースでは米国・バイデン大統領が、ロシア(露)によるウクライナ(宇)周辺の軍事演習を示し、露による宇への侵略の可能性を示し、警告を発していた。
それがその通りの結果になる。

本来、奇襲のはずではなかったのか?ゼレンスキー大統領が真珠湾攻撃を引き合いに出して露を批判したという。但し、宇は国境に軍隊を集結できない。どちらとも判らない一発の銃声から戦いが始まることも…盧溝橋事件のように!所詮、露が攻め込み、また、「宇から仕掛けた」とプーチンに言われるだろう。
その後は毎日、露の過酷な攻撃がニュースで流される。

そんな状況の中、一人の個人としてマスメディア、有識者たちが流す様々な情報を処理せざるを得ない。そこで、参考になった論稿を紹介してみよう。

先ず、筑波大・東野篤子准教授「露と欧州 意思疎通欠く…」(読売新聞22/3/9)
氏は「ロシアのどのような言い分を取り上げても、今回のウクライナへの軍事侵攻は正当化できるものではない」と言い切り、歴史的背景を手際よく記載する。

1991年 プーチン発言…
 米国が「北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大はしない」との口約束をした
 ドイツの再統一交渉時、米国のベーカー国務長官らが語った内容を根拠
  →NATOの一部政治指導者の発言、NATOの総意ではない
   口頭での話を理由にした主権国家侵攻は許されない
1997年 ロシア、NATOの基本議定書を結び、互いに敵と見ないこと確認。
  →NATOの東方拡大を事実上黙認。
2002年 「NATOロシア理事会」新設に関するローマ宣言にプーチン署名   →バルト3国のNATO加盟に繋がる
  →ロシアとNATOが二度にわたって文書を交わして協力に合意
  →「欧州の秩序からはじかれた」とのロシアの主張は一方的
2008年 「NATO首脳会議」ジョージアとウクライナの将来加盟が約束
 →ロシアの欧米敵視!
2014年 ロシアは94年のブダペスト覚書(ウクライナ主権を認める)を破棄
 →クリミア併合
 →先進7か国の経済制裁→ロシアの孤立感
 →クリミア併合以降、ウクライナはロシアの脅威に
 →宇・ゼレンスキー大統領が欧米への傾斜を強める(同盟を自由に選ぶ権利)
 →宇、市場経済への移行、司法制度改革等

これまでの露とNATOとの交渉、その結果としての文書への署名、調印等を示す。今回の露の行動が、国際的に認められないことが簡潔に示されている。

 

 

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「国家と体制」と「軍事的脅威」~北朝鮮をめぐって

2018年03月08日 | 国際政治
国家と体制とは区別される。また、脅威とはモノのように存在するのではなく、相手に対して感じる心理的な状況だ。従って、以下の韓国・北朝鮮会談は内容のないもと感じる。

報道によれば、北朝鮮・金正恩主席は「体制の安全が保障され、軍事脅威がないなら核保有の理由はない」と韓国側に話したとのこと。
韓国側はこれを北朝鮮の「非核化への意思」を確認できたとして、米朝対話をトランプ大統領へ要請するとのこと。

体制という言葉が日成から正恩に至るいわゆる「金王朝体制」を示すならば、米国は何も保障はできない。王朝が自壊することもあり得るからだ。また、反乱が起きて混沌とした状況にもなり得る。だから、金正恩体制後に粛清があり、兄弟の不審死が起きた。独裁政権においては“権力継承のルール”が確立されておらず、本質的な不確実性があるからだ。
一方、国家としての北朝鮮は国連にも加盟しており、政変があっても政権が確立すれば、その政権は承認されうる。

朝鮮戦争は北朝鮮の韓国への侵略から始まり、今、朝鮮半島は休戦状態だ。休戦協定は「最終的な平和解決が成立するまで朝鮮における戦争行為とあらゆる武力行使の完全な停止を保証する」と規定している。しかし、休戦協定によって朝鮮半島に軍事境界線ができ、軍隊が対峙している状態だ。韓国側の国連軍は実質的には米軍だ。双方とも軍事的脅威を感じるから軍隊が対峙し、対峙することによって更に感じる脅威は大きくなる。

以上のことから何に向かって米国・北朝鮮会談を推進するのか、韓国の意図が不明なのだ。現政権の対北宥和作戦という国内向けの政治活動にも思える。一方、北朝鮮は核兵器開発は進んだが、国の威信が上がったわけでもなく、経済制裁の重荷を背負って一時逃れが必要になっている。その意味では南北共に政権側の思惑が一致したように見える。

さて、日本は、北朝鮮に振り上げたこぶしを簡単にはおろせないだろう。


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禁油は“真珠湾”を導くか~日本の位置と戦略

2017年08月31日 | 国際政治
日本の上空を越える北朝鮮のミサイル発射に対して国連安保理は議長声明で北鮮を非難した。しかし、日米は北鮮に対する禁油を提起するとのことだ。この言葉から「(1)真珠湾攻撃(2)朝鮮戦争」の二つの事例を想い起こした。

1941年米国は日本への禁油措置を行った。しかし、米国は日本の窮鼠猫を噛む真珠湾攻撃を予測できなかった。その歴史を踏まえて、永井陽之助は朝鮮戦争の発端、北朝鮮の韓国侵攻(1950)を「冷戦の真珠湾」と呼んだ(『冷戦の起源』中央公論社1978)。

北朝鮮に対する禁油措置の提起は、石油を提供しているのは中露であるから、その両国への圧力であることは確かだ。当然、中露も含めた駆け引きになる。ここで注目するのは、この提案が日本主導型にも見えることだ。それはミサイルが日本を横断して太平洋に落ちたこともあるが、安倍政権が日本の存在を世界へアピールする意図もあるように思える。

今回の事案は日米韓の環の脆弱な部分である日本も標的する可能性を北朝鮮が提示したとも云える。北朝鮮がその主張を維持し、米国の奇襲(金正恩を標的)を避けながら中露の支援を得る方法として、実際のミサイル演習は米韓を外して日本を対象としたとも考えられるからだ。

教宣活動としてはグァムを提示しておき、実弾は日本に近づけることによって米国世論の軟化を図る。一方、韓国は暗に聖域化して韓国民と中露を宥める。日本が経済封じ込めの先頭に立つことを過去の侵略と同一視する視点から批判してそれを抑制する。そんな実質的戦略も可能なのではないか。
即ち、顕教「核開発・南北統一」は維持しながら、密教「日米韓の弱点」を突くと共に「中露を手放さない」やり方だ。

今、迫っている危機は相互の演習がエスカレートして手詰まりになり、武力による“真珠湾”に至ることだ。「禁油」はそのトリガーにもなることは“歴史の教訓”だが、日米が自らの過去をどのように学び、歴的状況が異なる現在へ臨むのか?米韓とは異なり、日本は北朝鮮の直接的対決の位置にはない。その中で、日本が北朝鮮の矢面に立つことを覚悟しての戦略か?


      
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英国ショック、歴史的循環の始まり~E・トッド・歴史人口学

2016年07月05日 | 国際政治
政治学的視点から「政策の循環」が途絶えたと見るブレマーに対して、更に歴史的視点から大きな流れを読み取るドットへのインタビュー記事(日経7/3朝刊)。その発想はトインビーに似た循環的歴史観である。(「 」内は筆者のコメント)
 『英EU離脱、国民の支配層への拒絶~イアン・ブレマー160702』

質問 英国のEU離脱の意味は?
・歴史的な循環が始まる転換点
・前回の循環は1980年代、サッチャー、レーガンの新自由主義が出現した頃
・グローバル化により国家、社会の境界を超える夢が語られた
・米国ではトランプが保護主義を打出し、移民問題を普遍化、循環は終わった

「“夢”ではなく、天上の問題・グローバル化が地上に降りたのが混乱を導いた!」

質問 離脱の背景をどう分析するか
・離脱賛成が多数なのは、英国民主主義の力強さ、しかし、解釈は難しい
・1)権力をEUから取り戻す、2)移民問題の次元が変わった
・先進国主導の政策勧告、新自由主義は移民流入を増やし、自国を不安定化
・英国が移民を止め、管理するのは当然、地域の安全を守る権利は必要
・英国は格差が最も広がり、新自由主義が最も蔓延
・離脱に投票した社会階層は中間層の下位グループ、年齢層の高い人々
・しかし、英、仏でグローバル化の痛みを受けているのは若者

「新自由主義により不安定化した客体が民主主義の力強さを示す?議論が混乱!」

質問 英離脱後のEUはどうなるか
・EU崩壊のプロセスが始まった
・英国中心の緩やかな連合とドイツを頂点とする体系に分かれる
・問題は政治エリートが経済主義の影響で短期的に何かを決めること

質問 ドイツの危うさは何か
・リスクはドイツ人の精神的な不安定さ
・メルケル首相は合理的なバランスを重視する態度で経済政策を進める
・一方、難民問題でドイツは、大陸欧州の不安定の要因となる

質問 英国は今後、どうなるか。
・英国の影響が及ぶ米、加、豪は、人口では欧州よりも大きい
・英国がリーダーとして頭角を現す
・ロンドンは欧州の金融の首都であり、破壊的反応はお互いにとって脅威

質問 米国の状況をどうみるか
・米国の中間層に強い痛みを受けるが、米支配層が状況を把握できない
・本当の謎はなぜ支配層の目に現実が映らなくなったか
・エリートの孤立によるもの
・米国ではマイノリティの人口の増加で問題が複雑
・民主党にマイノリティの支持が集まり、白人は徐々に共和党に投票
・有権者がトランプ氏を選ぶのは合理的

「“支配層の目に現実が映らない”ことを本当の謎という指摘は鋭い」

質問 2017年仏大統領選、極右政党・国民戦線マリーヌ・ルペン氏は当選?
・次の選挙では難しい、仏中間層はグローバル化の影響を受けていない
・収入の水準は変わらず、富の分配は最も裕福な1%を除いてほぼ平等
・フランスで重要なのは教育の分野で国家を利用できること
・仏中間層は子どもをつくることによる経済的な不安を感じないこと

質問 ロシアや中国などが世界を不安定にするか?
・EUの断裂は西側世界の断裂、冷戦の本当の終わりだ
・世界を不安定にするのはドイツと中国
・西側世界の内部で対立が激しくなり、ロシアとの対立は二次的になる
・ロシアは権威主義的な民主国家、国土に対して十分な人口を持たない
・ロシアの最も重要な計画は生き残り、国土や天然資源を守ること
・中国は民主国家ではなく、安定でもない、しかし、攻撃的な姿勢
・世界の安定に寄与するのはロシア、米英、日本

「世界は米英の海洋国家、独仏の大陸欧州、中国の勢力争いとの見方は新鮮な見解だ。この中で、ロシアと日本が挟撃されるのか?
「議論が混乱する部分もあるが、歴史的視野を大胆に将来へ投射する思考は、新鮮な見解を生む源泉と思われる」


 
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英国EU離脱、国民の支配層への拒絶~イアン・ブレマーを手懸りに

2016年07月02日 | 国際政治
タイミング良く、日経が国際政治学・イアン・ブレマーのインタビュー記事を載せている(7/2朝刊)。離脱の基本的な手続きを見ながら世界的な背景と今後の進展、影響をブレマーに沿って理解してみる(「 」内は筆者のコメント)。
   
 リスボン条約第50条(日経6/29)

質問 欧州問題を今年のトップリスクに予想した理由
・EU離脱を問う英国民投票は事前予想が拮抗、大きなリスク。
・テロ、ギリシャ危機、難民問題、大衆迎合主義の台頭等、明らかに不安定
・背景は、移民、主権問題以上に、下記のことが大
・国から大切に扱われず<社会契約>が途絶えたと感じる人々の抗議
・結果として、EUへの拒絶と同時に、支配階級層に対する拒絶も意味

「権力と社会における政策の循環が途絶え、権威的決定ができない状態」

質問 EUに対する懐疑的な見方が他のEU加盟国にも広がるか
・シェンゲン協定、単一通貨を強化する国と、それ以外の国とに分断は広がる
・共通の価値観で、難民、中間層空洞化を解決する力はリーダーに乏しい
・超国家的アイデンティティを持つというEUの野心的な実験は失敗に終わる

「少なくともEUには悲観的である。理念は立派だが、現実の動きについていくには、力が及ばないということか。国家レベルに戻ると巧くいく?」

質問 米国でのポピュリズムの台頭はどうか
・米国は多文化・多民族な国家、大統領選への影響は小さい
・米国の課題はトランプあるいはクリントンの選択
・米国でも支配階級層と国民層との対立は強まっている

「やや楽観的、米国には余裕があるとみているのか」

質問 欧米以外の大国への政治的、経済的な影響
・英国EU離脱での勝者はロシア、EU弱体化でウクライナ問題が緩和
・個別の国々とエネルギー、防衛の関係を築き易くなる
・中国は貿易や安全保障で悪影響を被る
・世界の秩序が乱れるため、英国のEU離脱を歓迎していない
・中国の持続的な経済成長には、強い米国と強い欧州が必要不可欠

「ロシア対EU、中国対日本の政治・経済・軍事的な対立が深まる可能性も」
「米国の政治情勢の行方と政策の方向が大きなポイント」
「クリントンの圧勝を期待したい処」→当面の結論

質問 世界のパワーバランスは変わるか
・同時テロ、金融危機を経て米国が世界を引っ張る構図が弱まる
・世界はリーダー役を欠く『Gゼロ』の状態
・グローバル化の影響に対する人々の怒りをおさめる指導者は不在
・一段と不安定な状況になる

「ハンナ・アーレントが50年前に、その『暴力論』(みすず書房)において、現代の管理社会を<ruled by nobody>と呼んだ。
金融・経済のグローバル化、巨大な官僚機構の増殖、更にEU機構あるいは国連機構も各国の官僚機構に屋上屋を重ねているようなものだ。
その中で権力者・指導者たちも巨大な“情報の壁”によって現実世界から疎外されているようだ」

      
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欧州におけるポピュリズムの影響~EU離脱後の国家像の行方

2016年06月29日 | 国際政治
ティパーティ運動からトランプ現象へ向かった米国の政治変動は、改めてポピュリズムの二面性を明るみに出した。それは、元来、政府、大企業などの権力機構に対する民衆の反感・不信感・反抗心を示す政治的反応・行動を指している。

しかし、近年は上から大衆のエネルギーを操作するという特徴をもつ。大衆のエネルギーを自分の権力のために上から利用するという側面が特徴的なのだ。そのレトリックの中心は「敵」を明示する処にある。

『Foreign Affairs Japan Newsletter(2016/6/29)』では「ポピュリズムの台頭」、その影響としての「英国民投票」、その政治状況の中で欧州の盟主的地位に就いた独の変貌に関し、論文を掲載している。それぞれのさわりの部分を紹介する。

『欧州におけるポピュリズムの台頭~主流派政党はなぜ力を失ったか』
2016年7月号 マイケル・ブローニング F・エーベルト財団 国際政策部長

<何がポピュリズムを台頭させているか>
「英独立党」、「仏国民戦線」、「独のための選択肢」など、政権を取っていない右派政党も躍進を遂げている。中道右派と中道左派が共により中道寄りの政策へと立場を見直したために、伝統的な右派勢力と左派勢力を党から離叛させ、いまやポピュリストがこれらの勢力を取り込んでいる。

厄介なのは、欧州が直面する問題はEUの統合と協調を深化させることでしか解決できないにも関わらず、ヨーロッパの有権者たちが今までより多く、ブリュセルに主権を移譲するのを拒絶していることだ。

「コメント」 難民問題は、EUの権限が有権者の生活を直撃する事象と捉えられている。巨大な官僚機構による支配を有権者に感じさせる処が問題だ。

『変貌した独外交~「保護する責任」と「自制する責任」のバランス』
2016年7月号 フランク=ヴァルター・シュタインマイアー 独外相
<変化への適応と自制の間>
独が国際舞台で新たな役割を果たすことを望んだのではなく、世界が大きく変化するなか、安定を保ち続けた独が中心に浮上しただけだ。いまや独は欧州最大の経済国家に見合う国際的責任を果たそうと試みている。

コソボとアフガンへの軍事的関与は「戦争」という言葉が禁句だった国にとって、歴史的な一歩を刻むものだ。独が既定路線を見直したのは、欧州の安定と米国との同盟を真剣に受け止めたからだ。それでも独は過去を踏まえて慎重に考える。

変化に適応しながらも、自制や配慮を重視する信条と外交を重視することに変わりはない。過去を必要以上に償おうとするのではない。むしろ、過去を踏まえて慎重に考える国家として、独は歴史の教訓を現在の課題へのアプローチに生かそうとしている。

「コメント」 慎重な言い方の中にも独が自らの位置を自覚し、責任を果たそうとする姿勢が良くわかる。

『EUの存続と解体を左右する英国の今後~EU離脱の余波を考える』
2016年8月号予定 ジョン・マコーミック インディアナ大学教授
<予期せぬ結末>
6月24日、イギリス市民は国民投票を通じて52%対48%の僅差ながらも、大方の予想を覆してEUからの離脱を選択した。たった一度のパワフルな投票が、欧州P/Jを解体へ向かわせる動きを誘発するかもしれない。

キャメロンが国民投票の実施を求めた意図は、保守党内部での政治抗争を終わらせ、ナショナリスト政党であるイギリス独立党の台頭を抑え込むことにあった。そして国民投票を通じてイギリスとEUの関係をどのように改革していくかを有権者に描かせることもその狙いだった。

その結果は、英国のEU懐疑論者が想定した以上だった。今や英国の有権者の多くが割り切れぬ思いを抱いている。だが、英国の離脱は疑問視もされている。国民投票は政治的助言であり、英国議会の法制化によって、離脱は現実になる。

今回の国民投票が欧州P/Jを解体の動きへ誘発する可能性はある。一方、ブレグジットの政治・経済・社会コストが英国にとって非常に大きく、他国がEUからの離脱を問う国民投票の実施を躊躇する可能性もある。

「コメント」 政党間での意見調整がなされないままに、国民投票をしても、有権者がその将来を思い描くことはできない相談だ。

      
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EU離脱後の英国シナリオ10種~欧州マスメディアの眼

2016年06月27日 | 国際政治
今後の交渉の行方を、洒脱な方法でロイターの記者が予測する(6/27記事)。
グローバルに展開される様々な事象をウィットに富む欧州マスメディアらしい表現が面白い。以下、カッコ内は寸評だ。

(1)規則通り(話うますぎ、EUは軟な相手ではない)
(2)ごめん、本気じゃなかった(民主主義の限界を超える)
(3)本気だけど、ちょっと待って(妥協はEUのお家芸、排除できない)
(4)本気だった、けど間違ったかな((2)参照、但し過去を忘れる)
(5)少し手を加えたい((4)参照、排除できない案(欧州は妥協の地))
(6)ノルウェー、スウェーデン型(英国民が望んでいる形ではない)
(7)EUは一からやり直し(近い将来では確率低)
(8)EUに再加盟(メリット極小、遠大なシナリオ)
(9)スコットランドが独立(EU加盟は近い将来ではなく、いずれは…)
(10)喧嘩別れ(「相互確証破壊」をちらつかせた後に緊張緩和の類)

記事では各シナリオの後に説明が付く。しかし、シナリオと寸評を並べてみれば、今後の“論理的可能性(possibility)”の中から“現実的可能性(probability)”を引き出すことができる。それは(3)―(5)である。極端なシナリオの(1)、(2)、(10)の中間であって、“直ぐに予測はできない”ということだ。
そのキーワードは“妥協の欧州”であるからだ。

EU非加盟国の例として、ノルウェーとスイスがある。日経欧州総局長で欧州の構造問題を取材している大林尚氏か“小国の知恵”(6/27)を報告する。

ノルウェーは総人口510万ほどの小国。北大西洋条約機構には49年発足時に参加、しかし、EUへの加盟は72年と94年に国民投票で共に否決。以降、EU加盟は国政の課題に浮上していない。

その理由のひとつは、欧州域内の他国に比べた経済の優位性にある。北海油田を擁し、その収益を元手にした政府系ファンドの恩恵を国民が享受する。主要産業である農漁業への規制を避けたいという思いも強い。
しかし、欧州経済地域(EEA)に入り、国境審査を経ずに人が行き来できる欧州のシェンゲン圏にも加わる。結果としてEU法に沿った国内制度を整え、実質的にはEU加盟国と同じ処遇だ。

一方、スイスはノルウェーよりEUに距離を置き、自国の産業界、中小企業がEUの単一市場と自由に取引する。EUとの間で個別に自由貿易協定を結ぶ。
スイスがEU加盟を望まないのは主権の問題からだ。有権者の多くがスイスの主権を保つことにこだわる。EUは欧州委員会が置かれるブリュッセルを核に強力な中央集権体制を敷く。スイスの統治構造は地方分権体制を基本にする。ドイツ、フランス、イタリアという欧州大陸の3つの経済大国に包囲される小国が主権を保つには、独自の道を歩む選択をせざるを得ない。

スイスは国政の課題について頻繁に国民投票をする国。
2014年2月には、移民の受け入れに上限を設ける案を僅差で可決した。そのとき、今回の英国民投票で離脱派の先頭に立った英独立党のファラージュ党首が歓迎の意を表し、フランスの極右政党、国民戦線も評価する声明を出した。EU非加盟のスイスでさえ、移民の受け入れに後向きになったのは、人の自由な移動を保障する欧州の基本理念の揺らぎを意味する。

英国は国内に意見の分裂を囲込み、その一方で、スコットランド、北アイルランドの独立心にも火をつけた。
ともあれ、周りは静観するしかないだろう。

      
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