散歩から探検へ~個人・住民・市民

副題を「政治を動かすもの」から「個人・住民・市民」へと変更、地域住民/世界市民として複眼的思考で政治的事象を捉える。

キッシンジャーの懸念が的中~南シナ海、米国の秩序観と中国の挑戦1

2015年11月01日 | 国際政治
2014年5月にフィリピン外務省が、南シナ海のジョンソン南礁(赤瓜礁)を中国が埋め立てている時系列の写真を公開し、全世界にショックを巻き起こした。フィリピンの抗議に対して、中国は、自国領での行為、主権の範囲内と拒否し、その態度は一貫している。


  読売新聞2015/04/13

先の9/25、訪米した習近平主席とオバマ大統領が会談。しかし、中国の岩礁埋め立てにより軍事拠点化が進む南シナ海問題での進展はなかった。その直後、オバマは、米海軍のイージス駆逐艦「ラッセン」をスビ礁から12海里内の海域に進入航行させ、航行の自由を行動で示す作戦を実施した。
 
米国内での沸騰する議論の中で、Foreign Affairs は2012/3掲載のH.キッシンジャー論文「アジアにおけるアメリカと中国~相互イメージと米中関係の未来」を再度掲載し、彼が既に当時、米中双方に強硬論があり、それらが共鳴し合って台頭することを警告したことを示した。その中で、彼は、一方の国が他方の国をイメージする濃縮言語として、「権威主義国家」(米→中)対「手負いの超大国」(中→米)を鋭く指摘する。

米国側の強硬論における概念は「非民主的な世界との抗争」だ。従って、懸念が増幅される。
「中国の様な権威主義体制の基盤は本質的に脆く、このためにナショナリズムや拡大主義のレトリックを用いることで、国内的な支持を確保しようとする」、「国内の左派と右派の一部が共に受け入るこの理論によれば、中国との緊張と紛争のリスクは、その国内構造にある」、「その結果、協調の模索ではなく、民主主義の世界的な勝利が、普遍的な平和が実現する」との主張になる。

一方、中国側の米中対立論は全く逆の論理になる。
「米国が中国を含む台頭するライバルを抑え込もうととみなす」、従って、「中国が積極的に協調路線を模索しても、米国は軍事力の配備と条約上の係わりを通じて、中国パワーの強大化を抑え込み、歴史的な中華帝国の役割の再来を阻止だろう」、故に、「アメリカと長期的に協調路線をとるのは、アメリカの中国抑え込みを助けるだけで、自滅的だ」。

キッシンジャーの見方は以下だ。
「必要なのは冷静な相互理解だ」。
中国が周辺地域において大きな影響力をもつことは避けられない。しかし、影響力の限界は中国の地域政策に左右される」、「アジア諸国はアメリカが地域的な役割を果たすことを望む」、しかし、「中国との均衡保持のためで、十字軍的役割、中国との対決は望んでいない」。

「強固な中国が経済、文化、政治、軍事領域で大きな影響力をもつのは、世界秩序に対する不自然な挑戦ではなく、正常への復帰だ」、
むしろ、「アメリカは、現状の問題を想像上の敵のせいにしてはならない」、「米中はともに相手の行動を、国際関係における日常として受け入れるだけの懐の深さをもつ必要がある」。

キッシンジャーの指摘は彼のヨーロッパ的な勢力均衡の国際政治観からすれば当然であろう。彼の博士論文(1954)は、処女作「復興された世界」として出版され、その中に、トインビー、シュペングラーらによる影響を受けた安定体系と革命体系が繰り返される歴史観が展開されている。
 (『キッシンジャー外交の構造』(「多極世界の構造」所収、1972/6初出)。

中国は毛沢東による共産主義革命への傾斜から小平路線以降の開放経済体制へ移り、国力の増大と共に伝統的な国家主義に戻ってきたとの見方をキッシンジャーは指摘しているように思われる。しかし、その中国の発想は、毛沢東のチベット侵略で顕わにされた中華思想で有り、「勢力均衡」というよりは「力の政治」による駆け引きの国際政治観のように思われる。

      
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