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歴史の検証

2017-04-23 11:29:10 | 


原田伊織「大西郷という虚像」悟空出版 2016年刊

維新3部作の完結編。我々の中にある明治維新像の見直しを迫る最後の著作。日本人に最も人気のある人物、西郷隆盛について検証を加えている。著者によれば、この男は勝海舟や坂本龍馬が言うほどの大人物ではなく、精々薩摩の青年団=郷中のリーダーに過ぎない。同僚からの評価も度量が狭い、好き嫌いが激しい、好戦的で策謀好きなどという我々のイメージとはかけ離れたものであった。

有名な江戸城無血開城も談判は一対一ではないし、場所もどの薩摩屋敷家が確定していない。もともと幕府は戦うつもりはなかった。むしろ幕府を挑発して戦うように仕向けたのは、赤報隊に江戸市中で狼藉を働くよう支持した西郷であると断じている。

奥羽戦争で、恭順の意思を示す会津藩を始めとする各藩を苛烈に攻めるのは彼の粘着性のある恨みの感情から来ていると推論している。確かに我々のイメージにある明治維新は、明治後期に実権を完全に掌握した、薩摩,長州の編纂によるもので、かなり彼らに都合よく語られていることは推測できる。欧米歴訪に向かった岩倉使節団についても、散々な浪費と失敗だったことが当時の政権内にいた人達の口からも語られている。

現在の安倍政権も長州の流れを汲むが確かにこの政権は長期展望を持たないし、森友問題を揚げるまでもなく国費を浪費している。長州にはこんな風潮があるのだろうか。三部作のこの作品を読んでみて、前二作とちょっと違うのは、それでも西郷は人気があったのはなぜか、という疑問だ。没落武士階級の不満があったのは事実としてそれが何故西郷のもとに結集したのかという疑問である。

この三部作を読み終えて、確かに薩長新政府の目線で作られた明治維新像は改めて検証され泣けばならないと思った。桶狭間の戦いを研究している地方史家の話を聞いたり、明智光秀の子孫の書いた本能寺の変の見直しをした本を読んだ時と同じように感じた。先入観を捨てるには面白い本である。

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