桐野夏生「ハピネス」光文社文庫 2012年刊
現代人気作家の「日常の葛藤」を描いた作品。「金曜日の妻たち」というドラマが一時期話題を席巻したが、多分そんな系列にある小説だ。ウオーターフロントに聳えるタワーマンション、そこに居住する3才児を抱える5組(正確には3組)のママ友たち。
この5組にも微妙な階層差があり、それを巡って様々な葛藤が生まれ、回避しようとするあがきが生ずる。45年前、団地族と言われ小さなことを競い合ったり、序列を付けたことが我々の世代にもあったが、舞台がタワーマンションに変わっただけで本質は同じだ。
このママ友たちは小さな幸せを享受してはいるが、それを守ったり、小出しにひけらかすことに幸せを感じている。だがそれぞれにはそれぞれの事情があり、少しずつ破綻してゆく。それを守ってゆこうとする努力に息が詰まる。
当代の人気作家だけあり、そのへんの処理は手慣れたものだが、最後のどんでん返し的な辻褄合わせにはちょっと無理があるような気もする。でもママ友たちの生態を見事に描いている。午後の昼メロを見るような気分で読めるというのだろうか。