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気骨ある官僚像

2017-04-15 04:16:14 | 


原田伊織「姦賊と幕臣たち」~列強の日本侵略を防いだ徳川テクノクラート~(株)毎日ワンズ刊2016年

前掲の「明治維新という過ち」3部作の第2巻である。我々が刷り込まれている、ないしは誤解している幕末の歴史が、薩長土肥の都合の良いように描かれていることを論破している。徳川幕府の鎖国制度の実態、戦場での人狩り、切支丹による人買い人売り、列強の日本交易競争、幕府の体外協調路線、幕末の通貨戦争、薩摩長州の同盟成立の背景など、我々の目に触れなかったことも多々出てくる。

例えば「鎖国」ということについても、この言葉自体明治になってから普及した。また鎖国令といった法律が存在したわけでもない。この政策は家康、秀忠、家光の3代に渉って順次強化されていったものであり、その方向は外国との交流を断つというより、幕府が管理するという貿易独占政策である。現に薩摩、松前、対馬、平戸の4箇所を窓口として交易を認めていた。

切支丹禁止令も彼らが人身売買を頻繁に行っていたことを秀吉は知り、これを止めたのであり、宗教の危険性を予知したものなどではなかったという。従って徳川幕府が黒船の来訪に驚き慌てて右往左往し、大砲の圧力で開国を余儀なくされ、無知世間知らずのまま、列強と不平等条約を結び、維新後の新政府が正常化に向けて奮闘した。というストーリーは史実に反するもので、徳川幕府は外国に関しかなりの情報を得ており、幕府の交渉担当官は、モラルも高くかなりの交渉胆力をもっていた。岩瀬忠震、水野忠徳、小栗忠順、川路聖謨などの幕府の俊英は高い国家観を持ち、胆力をもって交渉に当たった。

相手方をも一目置くというこれらの官僚は、城山三郎「官僚たちの夏」に登場する、倫理観、使命感をもった官僚を彷彿とさせる。それに比べ先の国会答弁に登場する佐川某という局長の狭量は目を覆うばかりである。確かに此処に至って長州(山口〙閥の悪弊がでてきたとのことか。

とにあれ、歴史は後世の権力者によって作られる。というのは厳然たる事実で、その伝で言えば坂本龍馬、高杉晋作などは作家が作り上げた徒花であろう。第3巻は西郷隆盛についてである。近代史に今までとは違った歴史観をもたらす、この本は知的好奇心を刺激する。