伊坂幸太郎「モダンタイムス」講談社 2008年刊
この書名からすぐに思い浮かべるのは、チャップリンの映画ではなかろうか。大きな歯車の間に挟まってぐるぐる回るチャプリンの姿は、当時の資本主義経済と人間の関係を象徴的に表していた。
資本主義の勃興期、産業資本が全盛のころ、鋭くその暴力性を予見し映像化した力は大したものである。今は産業資本に変わって力のあるものは何か。金融でもなく、武力でもなく、ネットの力、或いは情報の力である。
検索ワードから逆に個人を絞り出し、排除するというCIAさながらの発想でこの物語は進展する。既にスノーデン氏は警告している。フェイスブックやグーグルには近づかないほうが個人情報は守れる。この本で取り上げられているの、ある種の検索ワードが重なると自動的に謎の組織が動き出し、検索者を攻撃する。その謎を調べるにはかなりハードルの高い作業を繰り返さねばならない。
確かにこのようなシステムは国家レベルで(例えば公安が)持ちそうな予感がする。テロの防止策と云いながら、ほとんどすべての市民のプライバシーを監視するようになる。
この本は物語性を示すため、わざと煩雑な手続きを踏んだり、登場人物に彩をつけたりしているが、冷静に考えると「ゾッと」することを語っている