池波正太郎著 角川文庫刊 平成12年発行
どうも一種の中毒症状に似ている。前に佐伯泰英の「吉原裏同心シリーズ」を読んだ時にもそうなったが、どうも読み終えないとなにかやり残したような気持ちになり、ついつい読んでしまう。終わるとまたなにか次が読みたくなる。そんな繰り返しである。
本書は昭和47年から48年にかけて報知新聞に連載されたものだ。池波正太郎といえば、鬼平犯科帳、剣客商売、仕掛け人・藤枝梅安、のシリーズがあまりにも有名だ。この3シリーズの要素をすべて盛り込んだような作品だ。ひょっとすると原点かもしれない。
盗賊の跡目争い、お家騒動、香具師の縄張り争いに、記憶喪失の凄腕剣士:笹尾平三郎と、盗賊、雲津の弥平次が巻き込まれてゆく。という物語だが、随所に池波人生観が盛り込まれる。
「人とという生きものはね、良し悪しは別としても、どうしたって、昔のことを
背負って生きてゆかなくてはならないものですぜ」
「いずれにしろ俺たちは一緒に、なんでも、ちからを合わせてやってゆこうとし
ている。まあこれだけは、人という生き物のいいところだと思いますよ」
「人の一生なんてものは食べて寝て、たまには女を抱いて、くらしてゆくだけの
ことさ・・・。」
「この世の中なんてものは、上は将軍さんから下は俺達に至るまで、みんな同じ
さ。人間の世の中はな、みんな泥棒と乞食から成り立っているのだよ」
単純に聞こえるが奥は深い。これだから池波中毒になってしまうのか。