mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

ワタシの次元

2024-04-16 08:38:09 | 日記
 昨日(4/15)の記事に続ける。生命体史の流れに位置づけてヒトの死を見つめた専門家も、現代のAIと向き合ったとき、《私たち「人」とはどういう存在なのでしょう》と自問しています。
 もう30年余前、バブル期の日本でも「自分さがし」が流行しました。『ソフィーの世界』という表題の哲学啓蒙的な小説がちょっとした話題になっています。当時私は(一億総中流という)人として分に過ぎた暮らしをすることへの忸怩たる思いがこうした自問につながっていると、我が身の経験的な感触に照らして考えていました。人の多様性に戸惑って「わたしってなあに」と考えていたのでしょう。そして今は、AIの出現によって、あらためて「人とは何か」と自問するところにいると思っています。
 橘玲の『スピリチュアルズ――「わたし」の謎』(幻冬舎、2021年)が目に止まり手に取りました。この著者の本にしては珍しくハードカバー、しおりも付いている、400頁ほどの本です。
 自己啓発本が流行ってこともありましたね。毎日がお祭り騒ぎの資本家社会の賑わいのなかで、「わたし」が何か探し求めて、とどのつまりパーソナリティとか性格とか、人と対面するときの向き合い方とかを、自ら開いていこうとする、或る種ベクトルが「外向的」「共感的」「安定的」「同調的」かつ「堅実」と定まった、お祭り好きに見合った人柄推奨のセミナーまで開催されていました。私は人間工学に適応しようとする、これまたひとつの自己家畜化の道だと思っていましたから、手に触れたことはありませんでした。ただこの著者(に後になる方)をちょっとばかり縁があって知っていましたから、手に取ったわけです。
 出版されたのがCOVID-19が蔓延していた盛りの時期。「わたし」を問うことよりも人類を問うことが主要と思われたのに、どうしてと思わないでもなかったのですが、読んでみると、前年までアメリカのトランプが大統領であり、この本の出た年は議会襲撃事件の主役として掉尾を飾ったのですから、なるほどアメリカ共和党支持者のスピリチュアルを解析してみようという動機も、籠められていたかも知れませんね。予想に違わず、アメリカの脳神経科学や心理学実験を読み取って、手際よく整理して、私たち市井の庶民がもってきた「常識」を覆してみせるオモシロイ内容になっています。
 一つ我田引水的に興味を引いたのは、共感性を取り扱った節。「共感パーソナリティ」が「相手の”気持ち”を感じる能力のばらつき」とすると、「メンタライジング」は「相手の”こころ”を理解する能力」と分節化している。
 私はつねづね、五感で感受した感覚を統合してセカイの中に自らを位置づけるマッピング・センサーの役を果たしているのが「こころ」だと、ヒトの受信装置の作用を二段階に分けて考えてきた。それと同時に、さらに、ココロの作用を通じて意識化した意味付けが思考であり、それをベースにどの方向に向かって歩み出そうとするかという志向が働くと、ヒトの「しこう(嗜好・思考・志向)」のメカニズムをイメージしている。
 その最初の二段階を橘玲が、心理実験などを紹介して科学的な知見という。それを好ましく思った。自己啓発という意味合いのでスピリチュアルというよりも、自らの内面を見つめた経験的なイメージが、こうして科学的な実験と地続きになるってことが、いっそうワタシの自己承認に力を授けるような感触である。
 著者を見知っているということが、いっそう好ましく思えて、読み進めた。
 この著者がスタート地点の手がかりとしている「ビッグファイブの検査」と呼ぶ「パーソナリティの判定基準」を《より詳しい性格判定基準との一致率は84%でじゅうぶん実用に堪ママえるとされる》と「附録」につけている。本書のイメージを摑むのに適当と考え、長いが引用しておく。

《以下の性格を表す文①から⑩に、1から5の点数をつけて下さい。1点=強く反対する、2点=少し反対する、③=賛成でも反対でもない、4点=少し賛成する、5点=強く賛成する。/①能動的な想像力をもちあわせている、②芸術への関心はほとんどもちあわせていない、③ていねいな仕事をする、④なまけがちだ、⑤一般的に信頼できる、⑥他人の欠点を探しがちだ、⑦ゆったりしていて、ストレスにうまく対処できる、⑧すぐにくよくよする、⑨外に出かけるのが好きで、社交的だ、⑩遠慮がち》

 という検査だ。

《①と②は経験への開放性、③と④は堅実性、⑤と⑥は協調性、⑦と⑧は情動の安定性、⑨と⑩は外向性にかかわる」。それぞれのペアごとに奇数番号のスコアから偶数番号のスコアを引き算し、ビッグファイブに対応するスコアを計算する。》

 そして、こう判定する。

《スコアは「マイナス4」(とても低い)から「プラス4」までの幅がある。①と②の計算結果がプラス4なら「経験への開放性が高い」、マイナス4なら「経験への開放性が低い」となる(以下同)》

 そして橘玲は、こうコメントをつける。

《余りに簡単だと思うかも知れないが、他人はあなたに対してこの程度のことしか気にしていないのだ》

 加えて、こう言う。

《こんな「検査」をしなくても……自分がどのようなキャラで、まわりからどのようにみられているかは、社会のなかで生きていくのにものすごく重要なので、誰もが自分のことをかなり正確に理解している》

 と、時代を生きている人たちの心裡の不安を感じている「メンタライジング」を披瀝している。スピリチュアルにはそれほどの関心をもたないが、この著者の位置づけ方には好感をもつのは、こういう余白があるからだ。