mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

かしましい大連

2016-10-30 14:45:29 | 日記
 
 大連空港に降り立ってすぐに、間違えたところに来たと思った、と先週記した。林立する超高層ビルと上下12車線の道路にあふれんばかりの車とクラクション、そして煙霧が出迎えたからだ。もちろんこれは、私自身の身体的選好が作用している。私たちが過ごしてきた産業社会時代の反省も含まれている。なによりも、清岡卓行が《かつての日本の植民地の中でおそらく最も美しい都会であったにちがいない大連……》と『アカシアの大連』で記していたような、しっとりとした趣をイメージしていたこともあったが、それを微塵も感じさせないことに落胆したのであった。身勝手な言い分ではあるが。
 
 現地ガイドが滞りなく案内をしてくれ、まず超高層38階建ての宿に着き、30階にある日本語の通じるフロントへ赴いて、手続きをする。部屋は20階。眼下の広い4車線の通りが細く見える。周りのやはり超高層ビルが立ち並ぶ。その隙間に10階建てほどの高層ビルもあり、はばかるように3、4階建ての背の低い建物が雑多に並ぶのが、みえる。北向きにしつらえられたエレベータからは、間近に大連駅が見おろせる。上野駅を模して建てられたとガイドが言う。そう言われてみると、昔の上野駅に周囲のざわめきも似ているように感じたのは、電車に乗り降りをした翌々日以降であった。ホテルの最上階、38階のレストランには朝食のときだけ上がったのだが、ゆっくりと回る回転レストラン。周囲の眺望を楽しみながらお食事をお愉しみくださいという趣向であったが、残念ながら曇りか霧かはたまた煙霧か、遠望は利かない。だが、このホテルの倍以上はあろうという高さの超超高層ビルも、屋上にヘリポートを設えて取り囲んでいる。外を歩きながらみると、最上階が丸く設計された特徴的な我がホテルが、ビルの谷間に小さく身をかがめているように見える。
 
 近くの超高層の商店街を通り抜けて、南の方に見えた緑の公園に足を向ける。「労働公園」。にぎやかな音曲が響く。向こうの方で社交ダンスふうに、2人が踊っている。その脇にも一人で踊っている人がいるから、取り巻きをふくめて、なんだろう、このグループは。さらに向こうの木立の間では、一人カラオケと言おうか、テープの曲を鳴らし声を張り上げて歌っている年寄りがいる。人の手が行き届いて、大きな龍の形につくられた植栽など、かえってつまらなくなっている公園の植物たちの間を、しかし、散策するという雰囲気ではない。今日は金曜日、夕方。中国でも、週末なのであろうか。人の数は多い。広い公園のあちらこちらに屯している。ある一角では、50人ほどの人が輪をつくり、その中に5,6人の胡弓をもったりバイオリン様の楽器をもった人が椅子に座って、合奏している。これはこれで、一人カラオケとは違って、本格的な音曲。週末野外コンサートというわけか。皆さんその演奏を聴くために集まっているようだ。
 
 街中へ引き返す。公園から引き返すときに、広い道路は渡れないから、地下道を通る。中にはお店もあるのだが、シャッターが下りていたりして、暗い。通路は四方へ通じている。はて困った。通りかかったオバサンに尋ねると、ついておいでという。暗い通路を通って空の明るいところに出ると、エスカレータが動いている。それを上がると、宿近くの街路に出た。ちょっと中国語のできるNさんが歩きながら話を聞くと、私たちの泊まっている宿の9階でマッサージをしている、「寄っておいで」という。「あとでね」とお礼も言って、別れる。くたびれた。ビールでも飲もうと小さな食堂に入る。ちょっとしたおつまみも注文して四人で、まずは旅の始まりの乾杯をする。出るときに清算すると、全部で41元。650円ほど。う~ん、安い。
 
 宿近くのにぎやかな屋台のような出店の連なる通りを抜ける。「海鮮」と看板もあり、貝やエビ、魚の生きたまんまが水槽を泳いでいる。注文すると、「焼」「煮」の調理をしてくれる。店の中にテーブルと調理場が用意されてある。お兄さんが店先に出て声をかけ、袖を引っ張る。値段は「斤」という単位で表示してある。500gらしい。アワビらしいのが68元/500g、メバルのような魚が65元/500gとあるから1000円余か、高いかどうか、わからない。翌日ガイドの話では、衛生状態がわからないから「あの出店」(で食べるの)は敬遠した方がよいという。木のが実や豆類も売っている。リンゴやバナナも並んでいる。肉まん、餡マンらしいのもある。夜になると、立ち食いをしている人で通りがあふれかえっている。上野のアメ横が小さくなったようだ。ぶらぶらと歩いて宿近くなって、先ほど道案内をしてくれたマッサージのオバサンに出逢った。夕食をとるのに「ギョウザのおいしいところ」をNさんが尋ねている。中国語を話すのは得意な彼にも、なんといっているか聴き取れない。私が用意していた紙切れとペンを出すと、店の名を書いて、道を指さしてくれる。これなら簡体字が混ざっていても、わかる。見に行く。その途中に「盲人按摩」とある。おっ、座頭市だ、といいながらNさんが関心を示す。夕食の「(水)ギョウザ」はほんとうに大盛りであった。二人分というが、四人で二皿が食べきれなかった。山東省産「赤ワイン」もボトルで頼んだ。味はまずまず、1000円ほどであった。
 
 大連のやかましさに辟易したのには、中国語のピンシャンと跳ねるような抑揚のことば遣いにあるのかもしれない。街中で話しているのを聞いても、まるで喧嘩をしているようなのだ。女の人の高い音が入るとますます、耳にひっかかるように触る。乾燥した土地だからなのか、人が多いからなのか、怒鳴り散らすように声をあげないと伝わらないとでもいうように、口角泡を飛ばすように声を張り上げて話す。いやはや、まいったね、これは。
 
 大連の広さは1万平方キロメートルとガイドが話していた。人口は700万人ほどというから、埼玉県と同じほどだ。帰ってきてから調べてみると、埼玉県の広さは3700平方キロほどだから、埼玉県の2.5倍の広さ。とすると、人口密度は逆に埼玉県の方が高い。埼玉の面積のおそらく1/4ほど、北西部には秩父山地がある。大連はというと、これまた結構、山地でおおわれている。私が見てきた観光地図ではまるでそれがわからないのだが、ホテルでもらった「WELCOME TO DAIREN」という地図では、山地に緑の色をつけていて、市街地と区別している。緑色のところにまったく人が棲いないわけはないが、それをみると、だいたい半分が山地である。もっとも山地といっても、標高は2,300メートル程度。海沿いの山地には「棒種島景区」とか「秀月峰景区」と名がつけられ、「景勝観光地」であることを示している。あるいは、広大な緑色の区域が「大連森林動物園」「野生動物放養園」「白云山景区」と分けられ、自然保護区になっている。
 
 とは言え要するに、大連の方が人口密度は埼玉県よりも低い。にもかかわらず、あれだけの超高層住宅が林立しているということは、大連政府の住宅政策もあるだろうが、大多数の人たちを超高層住宅に住まわせる「集約居住」をしているのかもしれない。その事情は分からないが、やかましいというよりは、かしましい大連に、まずは疲れてしまったのであった