mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

組織社会の変更は、組織犯罪のどういう症状に現れるか

2015-07-16 08:57:47 | 日記

 一転して雨。朝3時半ころには、ぽつり、ぽつりとしていた音が、4時ころには、ぽっ、ぽっ、ぽっ、ぽっと小さく音が続き、5時ころには、ざざざざあ~と大雨になった。夜半の暑気を払うために目が覚めてから開けていた硝子戸を締めて雨が入るのを防ぐ。そうして読んでいたレイモンド・チャンドラー『ロング・グッドバイThe Long Goodbye』(村上春樹訳、早川書房、2007年)を読み終わる。

 

 長かった。579ページ。主人公の私立探偵マーロウの目を通してみたアメリカ西海岸の人と風俗と社会関係とそれへの批評が、滲み出てくる。どこに目を留めて、読んでいる自分との距離を測るかも、自由自在。面白かった。マーロウの金銭に向ける感覚が、ちょうど私のそれに見合っているのも、好感を持つ理由かもしれない。なくては困るが、あればいいというものでもない。人とのかんけいを金銭に置き換える(換算する)のはごめん蒙る、というところ。ところどころに、村上春樹だからこのように訳したのかと思われる(日本人向けの)サービスと思われる個所もあったが、もともとチャンドラー自身がそう書いていたのかもしれない。図書館の書棚にあったから手に取ったのではあるが、やはり翻訳者の名前が作用したのかな。

 

 暑苦しい西海岸の警察・マフィア・上流階級のからむ社会の出来事が、マーロウの目に集約されて緩やかに涼しくなってくる気配は、昨日から今日への天気の移り変わりのようであった。チャンドラーの「教養」がひけらかされる部分も、いかにもとってつけたような感じにおかれているのが、現在社会の「知性」のありようを示しているようで、面白かった。

 

 そうそう、その中でひとつ、マーロウの知り合いの警察官、バーニー・オールズとやりとりする賭博論が面白かった。

 

 「(賭博は)人間の病癖につけこんで商売している……州政府が上がりの一部をとって、それを税金と称するとき、連中は結局のところやくざたちが商売を続ける手助けをしているんだよ」とバーニーが吠える。それに対してマーロウ「……ギャングや犯罪組織ややくざ連中がこうしてのさばっているのは、何も悪徳に染まった政治家がいて、そいつらの手先が市役所や議会に散らばっているからじゃない。犯罪は病気そのものじゃない。ただの症状なんだ。……アメリカ人はデカくて、荒っぽくて、金があって、向こう見ずな国民だし、犯罪というのは我々がその見返りとして支払わなくちゃならない代価なんだ。そして組織犯罪は、組織社会というものの見返りにわれわれが支払わなくちゃならない代価なんだ。」

 

 税金は国家による略奪であることも踏まえているし、現下日本の暴力団対策が国家の独占・略奪権を侵犯するものへの攻撃であることも踏まえているし、犯罪が症状であって代価であるという診たては、なかなかうがっている。ひょっとすると、会社組織の商業活動だって、組織犯罪(同様)に組み込まれて考えられているのかもしれない。

 

 昨日の、安保法案の審議も強行採決も、組織社会の規範(国家はリバイアサンになるので、それを抑えるために憲法が優位に立つ)を一つぶち壊して、「情況対応」的に処していこうとする「組織社会」の変更である。それが組織犯罪に与える「症状」がどのようになるか。どのような「代価」を支払わねばならないのか。安倍さんも考えてはおるまい。激しく屋根を叩く雨の音を聞きながら、移り行く世の中のことを考えるともなく思っているのでした。