mukan's blog

つれづれなるままに ひぐらしPCにむかいて

とんでもない教訓を残した苗場山

2015-07-14 09:00:29 | 日記

 全国百二十何カ所で酷暑日を記録、中でも新潟の上越市は38度を記録したとラジオが繰り返していた昨日、こともあろうにその新潟の山に登っていた。8月の月例登山の下見。

 

 5時半に家を出て8時15分に苗場山登山口の駐車場に車を止めた。すでに20台くらいとまっている。神楽スキー場の下部に当たる。私が装備を整えている間にも2台やってきて、やはり登山の用意をしている。20分ほど舗装路を歩いて和田小屋に着く。スキー場中段にある山小屋、雪のときはリフトで上がれる。宿泊客はここまで車を入れてもいいと、下の駐車場のゲートのところに書いてあった。タクシーも入れるようだ。


 
 腰が安定しない。私は椎間板が二つつぶれている。かろうじて腹筋と背筋で崩れないように保っているのだが、長時間車の運転をしたり山を歩いたりすると、通常筋力ではもたないから、筋力補助のためのベルトを締めている。いつもならベルトを締めるとシャキッとするのだが、今日は背筋が伸びない。身体が、腰が崩れないように用心している感じが残る。このところ毎日曇り空が続き、家にこもって本ばかり読んでいた。寝転がっている時間が長かったから、そのせいかなあと思いながら登山路に入る。

 

 スキー場は草付きの広い斜面が上部へとつづくのだが、登山路はその脇の樹林の間を縫うように上がっている。これは助かる。この山は上部へ抜けると樹林がなくなり、厚い陽ざしをもろに受けて歩くようになる。帽子は欠かせない。ここを1時間も歩くと腰の方も安定してきた。これこれ、これで行けると思う。下の芝と名づけられた湿地の手前で60歳前後の登山者が二人休んでいる。冬場は何度も来ているが夏は初めて。「こんなに歩くのがしんどいとは思わなかった。雪の方が楽だね」と笑っている。中の芝という湿地で、樹林を抜ける。休憩ベンチも設えられていて、先行する登山者が休んでいる。ここまで出発してから2時間、コースタイムで歩いている。

 

 降りてきた若い人に「ずいぶん早いですね」と声をかけると、上の小屋で連泊したという。「天気が良くて良かった」と満足げであった。午前中に降りてくる人たちが多いのに驚いた。ほぼ山頂の山小屋で泊まっていた人たち。広い湿原にのんびり身を浸して東側に広がる谷川岳や越後の山々を眺めていたのであろう。「2000mの山で暑いなんて思ったのは初めて」と汗を拭いていた方もいた。上の芝までの湿原には、コバイケイソウが花をつけて涼しげだ。ワタスゲがちょうど花頃というか、満開の白い穂をつけて見事な景観をつくっている。そう言えば、下の登山路にもゴゼンタチバナやイワカガミ、ツマトリソウ、イワイチョウが咲き誇っていた。名前のわからないのがあったが帰って聞いてみると、ウラジロヨウラクとアカモノ。似たような可愛い小さな花を下に向けている。オオカメノキの花は、大きな葉の上にその名残をつけて、枯れ落ちる寸前。ガマズミもナナカマドも白い花を咲かせている。カラマツソウが清楚に花をつけている。雪解け後の花と夏の花が一緒に顔を出すのもこの山ならではの姿であろう。

 

 神楽峰の分岐に11時10分。出発してから2時間50分、順調。ところがこの先で、急に身体が疲れを覚える。水を飲み過ぎただろうか。ここまでで500ccが一本半空いた。ここから標高で150m降り、250m登って苗場山の山頂に達する。コースタイムは1時間。途中、雷清水という名の水場がある。下山の人に「早いですね」と声をかけたら、「いや、水場から引き返してきた」という。「飲める水か」と聞くと、「結構おいしいですよ。でもその先がきつい登りだったのでね」と教えてくれた。そこまでもてば、水を補給できる。そう思って、水は遠慮なく飲む。それが悪いのか、体が重くなる。

 

 ニッコウキスゲやハクサンチドリが咲いたばかりという花をつけて自己主張しているのが、気分を紛らわせてくれるが、身体への負担は強く感じる。山頂まで20分という登りの途中で階段に腰かけて、野菜ジュースを飲みおにぎりを一つ食べた。もう一つのおにぎりは口に入らなかった。駐車場で、私の車の横に着けた夫婦者が追いついてきた。先に行ってもらおうかと思ったが、ここでくじけたら上まで行けないのではないかと自分を励まして、一歩一歩ゆっくりと運んだ。これは苦しかった。上から降りてくる人が「あと二曲がりで木道に出ますよ」と励ましてくれる。さらに山頂まで広い湿原帯を歩く。チングルマやハクサンフウロが咲いている。シャジンの仲間が紫色の花をつりさげている。ハハコグサの仲間が頭頂部の葉白く染めて花をつけている。木道に出てから結局山頂まで1時間半かかってしまった。12時50分。

 

 東側には谷川岳、西の方には浅間山がひときわぬきんでた山頂をみせている。遠くかすむ山なみが、遠方へ行けばいくほど紫霞む色を見せて、一幅の絵をみているようだ。池塘にはそれほどの花がない。山頂近くのベンチは広くつくられ、団体さんが横並びに並んで、東の方をみている。私は、もう少し上の山頂標識があるところまで行って、その近くのベンチに腰を下ろす。すっかりへばっている。塩が足りないのかなと思って、もってきたインスタントラーメンを取り出す。お湯を注ぎ、しばらく待って食べ始めるが、喉を通らない。汁を全部飲んで中身は半分ほどを残してゴミ袋にパックしてしまった。こんなことは、最近はないことだ。途中追いつきそうであった夫婦者が、到着した。

 

 13時5分、山頂の三角点に触って、山頂小屋の方へ一回りして、下山にかかる。下山は体力は使わない、技術だといってきた。身体はそれなりに楽なのだが、ストックをついて慎重に下る。ベンチに座っていた団体さんも、私の後について下りはじめる。雷清水の手前で、すれ違った人が「おや、山頂へ行ってきたんですか。早いですね」と声をかけてくる。「……?」「下の芝でお会いしたでしょう」というので思い出した。時刻は1時半。これからの往復では大変だなあと思っていたら、「上に泊まるんです」という。「天気が良くて、いいでしょうね」と話す。このころから登ってくる人とすれ違う。この方たちは、皆さん山頂小屋に泊まる人たちだ。苗場山というのは、上で一泊する山なのかもしれない。雷清水で水をいっぱいにし、上りを一歩一歩踏み出す。山頂を一緒に下山しはじめた団体さんは、下の方で休憩している。ヘリコプターが旋回している。小屋に荷物でも運ぶのだろうかと思ったが、そうでもないらしい。神楽峰の分岐で一休みしていると、3人の女性登山者が、話しているのが聞こえた。足が攣って歩けなくなった方がいて、ヘリを呼んだらしい。どこで救出できるかと言っていた。下の芝辺りが広いからいいのではと話していた、と。そうか、私も足が攣りそうだ。大きな岩を乗っ越すのに、膝を手で持ち上げて岩の足掛かりに右足先を乗せ、両手で上の岩をつかんでヨイショと力を入れたら、右足の太ももが攣りそうになった。こりゃいかん、と姿勢を整えて、手のひらでさすって、攣る手前でおさめたが、危ないところだった。

 

 下山のタイムは、ほぼコースタイムで降っている。脚も恢復してきているようだ。水は飲んだ。飲んだ橋から汗になって噴き出てしまっているように思う。体力は落ちるが、下山にかかっているから、怖くはない。何組かの下山者を追い越して、3時40分に和田小屋に着いた。5分余計にかかっている。そこからの舗装路は、快調であった。駐車場からの時間を考えると、7時間半の行動時間。6時間とみていたことからすると、よほどへばったのだと思った。

 

 家に帰って、今日は疲れた、予想以上に時間もかかったとカミサンに話すと、「熱中症になったんじゃない」と言われた。それでふと考えてみると、腕が真っ赤、首回りも真っ赤になっている。今日は一日、半そでシャツで歩いていた。日焼けするはずだ。水分も奪う。水を飲むから、体力は消耗する。むかし若いころの山歩きの注意事項、水を飲み過ぎるなを、すっかり忘れていた。腰が安定しないということは別として、今日の山頂直下の登りでへばったのは、たしかに「熱中症」であった。こんなこともあるのだ。とんでもない「教訓」であった。