自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆小さなコーブ(入り江)の話

2020年11月19日 | ⇒メディア時評

         久しぶりにこの人の名前が目に留まった。リチャード・オバリー氏、和歌山県太地町でのイルカ保護活動家だ。報道によると、最高裁は、オバリー氏が退去強制処分の取り消しを求めた訴訟で、国の上告を受理しない決定(11月17日付)を下した。オバリー氏は2016年1月、成田空港から観光目的で入国しようとしたが、上陸手続きで「活動内容が不明」として認められず、異議申し立ても退けられた。同年2月に退去強制の処分を受け出国。2019年10月の1審で東京地裁は「漁業関係者への嫌がらせを入国目的としていた疑いがあるというのは困難だ」と指摘、2審の東京高裁も支持した(11月18日付・産経新聞Web版)。

   イルカをめぐる保護活動か、漁業者への嫌がらせか。自身は2011年5月5日のゴールデンウイークに家族と和歌山県南紀を観光で訪れた折に太地町に赴き、現場を見に行ったことがある。当時の率直な感想は「嫌がらせ」だ。イルカ保護活動を職業にしている、というイメージだった。そのときの様子を再現してみる。

   訪れたのは5月5日午前10時ごろ。追い込み漁が行われている小さな入り江へ行く=写真・上=。イルカが網にかかっており、翌日市場が再開するので漁業関係者が網からイルカを外して解体処理場に運んでいた。その様子を橋の上からオバリー氏が見ていた=写真・下=。もう一人の外国人が沿岸で漁の様子をカメラ撮影していた。和歌山県警の警官も数人いて、周囲にはちょっとした緊張感があった。

   「嫌がらせ」と感じた場面は近くの漁協の前でのことだ。外国人数人がいて、漁協前で停まった車から漁師風の男性がおりると近寄り、たどたどしい日本語で「イルカ漁をやめてほしい」とお札を数枚差し出していた。男性は無視して漁協に向かった。漁協の前に車が停まるたびにそれが繰り返されていた。物理的な阻止行動ではない。今回の裁判官とすれば、漁師が無視すればよいだけの話で「嫌がらせ」ではないとの印象かもしれない。

   問題はお金をちらつかせながら「イルカ漁をやめろ」という行為だ。「板子一枚、下は地獄」とよく漁師が言うように、漁は危険を伴う職業だ。現実に、1878年(明治11)クジラを追った船団が沖に流され遭難した100人以上が亡くなっている。その慰霊碑が立っていて、今でも慰霊参拝が続けられている。自然への恐れや畏怖の念を抱きながら、それでも太地の人たちは海からの恵みを得ようと歴史を刻んできた。そこにオバリー氏らが突然やってきて、金をやるからイルカ漁を止めろと活動しているのである。地元の漁師たちにとって、迷惑な話で「嫌がらせ」と感じても不思議ではない。

   オバリー氏が主役となって撮影された映画『ザ・コーヴ』は2010年にアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。それ以来、イルカの保護運動の活動家にとって、太地町は悪名をはせ、オバリー氏はヒーローになった。世界の支持者から寄付金が集まり、裁判にも勝った。81歳、まだまだ頑張るつもりだろう。

   和歌山で生まれ、博物学者であり、生物学者(特に菌類学)であり、民俗学者の南方熊楠。その一生を記した著書(神坂次郎著『縛られた巨人 南方熊楠の生涯』)を読んだことがある。熊楠はクジラの塩干しを炭火であぶって、よく酒を飲んだと著書にあった。この塩干しが食べたくなり、太地町の商店から「鯨塩干」を取り寄せたことがある。オーブンで5分間ほどあぶって口にすると、スルメイカの一夜干しのあぶったものと歯触りや味がそっくりだった。

   熊楠が現代に生きていたら、オバリー氏をどう評しただろうか。頭に血が上ると口撃が止まらない悲憤慷慨(こうがい)の性格で徹底して対峙したか、あるいは妙に気が合って酒を酌み交わしたか。

⇒19日(木)夜・金沢の天気     はれ

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★数字の裏読み、深読み、独り歩き

2020年11月18日 | ⇒メディア時評

    数字には納得できるものと納得できないものがある。さらに納得できたとしても、「さらに裏の潜むもっと大きな数字もあるだろう」と思わせるものもある。日本と中国の相互意識を探る第16回日中共同世論調査(実施=言論NPO、中国国際出版集団)の結果だった。17日付のNHKニュースWeb版の記事を引用しながら数字を読んでみる。

    調査は9月と10月に18歳以上を対象に行われ、日本は全国で1000人、中国は北京や上海など10都市で1571人からの回答をもとにしている。記事によると、中国に「良くない」という印象を持つ日本人は前回に比べ5ポイント増の89.7%に上った。その理由として、中国公船などによる「尖閣諸島周辺の日本領海や領空の侵犯」が同6ポイント増の57.4%で最も多く、以下、「国際的なルールと異なる行動」49.2%、「南シナ海などで行動が強引・違和感」47.3%で、中国による一方的な海洋活動が対中感情を悪化させている。設問はメディアで報道される内容に沿っている。

   一方、中国人で日本に対する印象が「良くない」と答えたのは52.9%で前回と横ばいだった。「良くない」理由は、「侵略の歴史 きちんと謝罪・反省せず」74.1%、「魚釣島・周辺諸島『国有化』で対立」53.3%、「米国と連携し包囲しようとしている」19.7%となっている。良くない印象の理由の設問はおそらく中国側が独自に作成したものだろう。その設問の内容は国内での反日教育をベ-スにしたものや、2012年9月に日本が尖閣諸島を国有化したこと、経済圏構想「一帯一路」のシーレーンをめぐる動きなど、いわゆる国策をベースにしたものだ。

   以下は深読み、裏読み、憶測である。「89.7%」をどう読むか。率直に中国で独り歩きをする危険な数字ではないだろうか。その大前提には中国人と日本人ではまったく情報は共有されないという事情がある。たとえば、日本人が「良くない」とする一番の理由である中国公船の尖閣周辺での航行について、日本で大きな問題となっていることは中国では報じられていないだろう。つまり、なぜ「良くない」のか理解されない。

   今回のアンケート調査の数字は中国でどのように報じられるのだろうか。憶測だが、「中国嫌いの日本人は89.7%」「日本嫌いの中国人は52.9%」の表現だろか。すると、「なぜ中国嫌いの日本人が多いのだ」と、今度は数字が独り歩きをして、逆に中国での反日感情を煽る可能性も出てくる。あるいは、数字は政治的に利用されることもあるだろう。

   折しも、「自由で開かれたインド太平洋」のもと日本、アメリカ、インド、オーストラリアの4ヵ国の海軍と海上自衛隊がインド近海での共同訓練を行っている。中国とすれば、格好の「口撃」材料だろう。「中国嫌いの日本人89.7%が敵に回っている」とプロバガンダにされる、かもしれない。

⇒18日(水)朝・金沢の天気     はれ

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☆数字は踊る、気になる、「一番」に弱い

2020年11月17日 | ⇒ニュース走査

   あさ起きると数字が踊っていた。16日のニューヨーク株式市場で、ダウ平均株価の終値が前週末比で470㌦高の2万9950㌦となり、今年2月につけた終値としての最高値2万9551㌦を更新し、初の3万㌦突破も迫っているとメディア各社が報じている。アメリカの株高を好感して、きょう17日の東京株式市場で日経平均株価が前日比100円を超える上昇、一時、2万6000円台をつけた(午前9時10分現在)。2万6000円台の回復は終値ベースで1991年5月以来29年ぶりととか。

   「一番」という数字には目が向く。理化学研究所と富士通が開発したスーパーコンピューター「富岳」が、17日に公表された計算速度を競う世界ランキングで首位を維持した。富岳が世界一になるのは今年6月に続いて2期連続(11月17日付・日経新聞Web版)。世界ランキングは毎年6月と11月に公表され、富岳は1秒あたり44.2京(京は1兆の1万倍)回の計算速度を達成した。2位のアメリカの「サミット」(同14.8京回)をさらに引き離した(同)。「富岳」を製造している富士通ITプロダクツは石川県かほく市にあり、地元の多くの人たちが製造に関わり、地域の誇りでもある。

   ここで思い出す。2009年11月、民主党政権下に内閣府が設置した事業仕分け(行政刷新会議)で蓮舫議員が、次世代スーパーコンピューター開発の要求予算の妥当性について説明を求めた発言。「(コンピューターが)世界一になる理由は何があるんでしょうか。2位じゃダメなんでしょうか」だった。科学者やスポーツ選手では当たり前と思われてきた世界一(金メダル、ノーベル賞)への道だが、政治家にはこの目標がない、正確に言えば「政治の世界ナンバー1」という尺度がないのだ。その尺度がない政治家が「世界一になる理由は何があるんでしょうか」と言う資格は本来ないだろう。ひょっとして政治家の多くは「オリンピックは参加することに意義がある」と今でも思っているのかもしれない。

   世論調査の数字も気になる。朝日新聞が今月11月14、15日に行った世論調査によると、「菅内閣を支持しますか。支持しませんか」の問いでは、「支持する」が56%で前回(10月17、18日)より3ポイントアップ。「支持しない」は20%で前回より2ポイント下げた。国会で論戦にもなった「日本学術会議」問題で、菅総理が学術会議が推薦した学者の一部を任命しなかったことについて、「あなたはこのことは妥当だと思いますか。妥当ではないと思いますか」の問い。「妥当だ」34%(前回31%)、「妥当ではない」36%(同36%)、「その他・答えない」30%(同33%)だった。三つ巴の様相だが、「菅総理の国会での説明に納得できますか。納得できませんか」の問いでは、「納得できる」が22%、「納得できない」49%となる。

    民意はどこにあるのだろうか。「菅さん、国会答弁は口下手だけど、やっていることはそう間違ってはいない。東京オリ・パラもあるのでなんとか頑張って」ということだろうか。

⇒17日(火)午前・金沢の天気    はれ

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★「困難に負けない」 ツワブキの花言葉

2020年11月15日 | ⇒ニュース走査

   晩秋の気配を紅葉と落ち葉で感じるきょうこの頃だ。庭先の日陰でツワブキが黄色い花を咲かせていた。日陰ながら葉を茂らせ、花を咲かせることから「謙譲」「謙遜」「愛よ甦れ」「困難に負けない」と花言葉がある。そのツワブキを床の間に生けてみた=写真=。

   花もさることながら、葉はハスのように丸く、表面には艶がある。とても床の間に映える。ツワブキには「石蕗」と漢字が充てられている。確かに、石垣のすき間の中からささやかに花を咲かせ、つやつやとした葉を見せてくれるツワブキもある。日陰や石垣といった、ある意味での逆境にありながらも、植物の個性を見事に表現している。その日一日を粛々と生きる。ただひたすらに、ありのままに前向きな心境になれば、別の風景も見えてくるものだ。

   掛け軸には『閑坐聴松風』を出してみた。「かんざして しょうふうをきく」と読む。静かに心落ち着けて坐り、松林を通り抜ける風の音を聴く。茶席によくこの軸物が掛かる。釜の湯がシュン、シュンとたぎる音を「松風」と称したりする。日曜日の静かな午前のひとときを花と掛け軸で楽しんだ。

   午後からはまるで爆音のようなメディアの騒ぎだ。IOCのバッハ会長が来日した。延期された東京オリ・パラ開催に向けて、現地・日本の様子を確認する狙いだろうが、本人の新型コロナウイルス対策はどうか最初に気になった。何しろ、ヨーロッパは新型コロナウイルスの感染拡大が猛烈な勢いだ。ニュースでは、訪日に備えてバッハ氏を含めてIOC関係者は事前に自主隔離し、さらに少人数でチャーター機を使って来日したというから気遣いを察した。

   ただ、年末になってもコロナウイルスは衰えるどころか変異してさらにパワーアップしているようだ。ことし3月25日に当時の安倍総理とIOCのバッハ会長の電話会談で東京オリンピックを1年ほど延期すると表明があった時点で、大会の出場枠は全体の43%が確定していなかった。これから各国が予選を行い、代表選手を決めるとなると選手のモチベーションそのものが高まるだろうか。各種ランキングを用いて出場選手を決めることも検討されているようだ(11月12日付・時事通信Web版)。

   逆境のただ中で東京オリ・パラ開催できるのかどうか。このリスクは日本にとって重過ぎるのではないだろうか。だからと言って菅政権は「諸事情に鑑みて中止」とは政治的には絶対に言えないだろう。世界史に刻まれる日本の難題がこれから始まる。ツワブキの花を眺めながらふとそんなことを考えた。

⇒15日(日)夜・金沢の天気    くもり

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☆アメリカ大統領選から見えたメディアの有り様

2020年11月14日 | ⇒メディア時評

    それにしても「長い長い戦い」とはこのことを言うのだろう。アメリカ大統領選挙は、投票日(今月3日)から10日が経ちようやく、トランプ氏とバイデン氏の選挙人の獲得数が確定した。50州と首都ワシントンでの選挙人538人のうち獲得したのはバイデン氏が306人、トランプ氏が232人だったとメディア各社が報じている。

   フロリダ大学「選挙プロジェクト」サイトでの推計によると、今回の大統領選の投票数は1億5883万票で、アメリカの18歳以上の有権者数2億3925万人に対する投票率は66.4%だった。二者択一の投票率は高いものだが、たとえば、大阪市を廃止して4つの特別区に再編する「大阪都構想」の住民投票(今月1日)は今回62.4%だった。大阪より熱いアメリカだったとも言える。

   アメリカ大統領選について動画やサイトをチェックしていたが、アメリカのメディア、とくにテレビは日本の選挙報道と少し趣(おもむき)が異なる。現地時間12日付のCNNは「Trump fails to address election loss」(トランプ氏、選挙敗北への対応に失敗)とトランプ氏に対しては皮肉たっぷりに伝えている=写真=。選挙期間中を問わず、CNNはいつもトランプ氏には対して厳しい論調だ。

   日本では新聞やテレビに選挙報道の公正さを求める(公選法148-1)、テレビ放送に政治的な公平性を求める(放送法4)、テレビ放送に候補者の平等条件での放送を求める(放送法13)などだ。この法律に従って、マスメディアの選挙報道は公示・告示の日から投票時終了まで、候補者の公平的な扱いを原則守っている。

   アメリカでもかつてテレビ局に「The Fairness Doctrine」(フェアネスネドクトリン)、つまり選挙報道などでの政治的公平が課せられ、連邦通信委員会(FCC)が監督していた。ところが、CATV(ケーブルテレビ)などマルチメディアの広がりで言論の多様性こそが確保されなければならないと世論の流れが変わる。1987年、連邦最高裁は「フェアネス性を義務づけることの方がむしろ言論の自由に反する」と判決を下し、フェアネスドクトリンは撤廃された。このころから、テレビ局に政治色がつき始め、たとえば、FOXは共和党系、CNN、NBCは民主党系として知られるようになった。

   アメリカではむしろこの傾向が「テレビ離れ」に拍車をかけているのかもしれない。確かに、アメリカでは、ヘイトスピーチもフェイクニュースも表現の自由であり、むしろ、誰かが言う権利を否定することこそが忌まわしいという風潮は今もある。ただ、メディアの公平性というのは、フェイクやヘイトがネットで蔓延する社会だからこそ求められる報道スタンスであり、それが今、信頼性として評価される時代ではないだいろうか。FOXもCNNも脱共和、脱民主を追求してみてはどうか。

⇒14日(土)朝・金沢の天気     はれ

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★動物たちの反乱

2020年11月13日 | ⇒ニュース走査

   前回のブログで霊長類学者、河合雅雄氏の講演について述べた。河合氏らの共著に『動物たちの反乱』がある。タイトルが面白い。今まさにその時代が到来しているのかもしれない。街中に出没するツキノワクマ、農作物を食い荒らすニホンザル、市内でゴミをあさるイノシシなど、動物たちがヒトに「反乱」を起こしているのか。ここからは空想の世界が入り混じる。

   動物たちの反乱は身近に起きている。きょう大学から一斉メールが届いた。「高病原性鳥インフルエンザに対する対策について」との文科省からの通知の転送だ。添付ファイルに「野鳥との接し方」がある。以下引用。「野鳥の糞が靴の裏や車両に付くことにより、鳥インフルエンザウイルスが他の地域へ運ばれるおそれがありますので、野鳥に近づきすぎないようにしてください。 特に、靴で糞を踏まないよう十分注意して、必要に応じて消毒を行ってください」。自家用車を駐車場に停めておくと、鳥のフンがフロントガラスについていることがある。これまでテッシュペーパーで拭いて、水をかけて洗っていたが、触れないようさらに用心が必要だ。鳥たちの「フン爆撃」か。処置としては、ガソリンスタンドの洗車機で洗うのベストだろう。1回450円だ。

   動物たちの「敵陣突破」作戦も顕著になってきた。環境省は今年4-9月のクマの出没件数が全国で1万3670件に上り、2016年度以降の同時期で最多だったことを明らかにした(10月26日付・共同通信Web版)。石川県では687件(ことし1月-11月10日現在)に上り、9月11日には「ツキノワグマの出没注意情報」を発令した。さらに、クマとの遭遇に備えて「ヘルメットの着用やクマ撃退スプレーの携行」、さらに、「林道での人身被害を防止するため、自動車から降りる際にはクラクションを数回鳴らしてから降りる」ことを勧めている。 まさに、戦闘態勢だ。

   動物たちの「兵糧攻め」も続いている。農水省公式ホームページの統計によると、平成30年度の野生鳥獣による農作物の被害額は158億円に上った。種別の被害金額は、シカが54億円、イノシシが47億円、サルが8億円だ。被害の
7割をこの3種が占めた。被害面積ではシカによるものがおよそ4分の3だ。被害額としては6億円の減少(前年比4%減)だが、被害量が49万6千㌧で前年に比べ2万1千㌧も増加(対前年4%増)している。

   海外では「人心のかく乱」「新兵器」も繰り出している。
デンマークでは、毛皮を採取するための家畜のミンクから変異した新型コロナウイルスが見つかり、人への感染が確認されたとして、政府は国内の農場で飼育されるミンク1700万匹を殺処分にする方針を明らかにした(11月7日付・NHKニュースWeb版)。その後、デンマーク政府は国内で飼育されている全ミンクの殺処分を義務付けるとした命令を撤回した(同11日付・CNNニュースWeb版日本語)。一方、イギリスの保健大臣は、変異種が世界中に広まれば「重大な結果」がもたらされると警告、毛皮用のミンク飼育を国際的に禁じる必要があると示唆した(同・時事通信Web版)。エレガントなミンクの毛皮とコロナ禍の間で揺れる人々の心を嗤うように「かく乱」が続く。

   中国では動物たちが「新兵器」を繰り出した。NHKの報道によると、中国甘粛省の蘭州市当局は記者会見(今月5日)で、去年7月から8月にかけて「ブルセラ症」の動物用のワクチンを製造する地元の製薬工場から菌が漏れ出し、周辺住民など6620人が感染したことを明らかにした(11月6日付・NHKニュースWeb版)。ブルセラ症は犬や牛、豚、ヤギなどが細菌に感染して引き起こされる病気で、人が感染すると発熱や関節の痛みなどの症状が出る(同)。

   問題は感染経路だ。厚労省公式ホームページによると、人から人への感染は極めてまれで、感染動物の乳製品や肉を食べた場合での感染が一般的という。コロナウイルスでは、武漢市の細菌研究所の近くに市場があり、動物実験で廃棄されたものが市場に出回ったと当時うわさされた。今回も同じ展開か。動物たちの策略に人はうまく乗せられたのか。

⇒13日(金)朝・金沢の天気    はれ

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☆『森の学校』河合雅雄氏から学んだこと

2020年11月12日 | ⇒ドキュメント回廊

           このニュースを知って、7月に亡くなった俳優の三浦春馬氏(享年30)とのちょっとした「縁」というものを感じた。彼が18年前、12歳のときに初主演した映画『森の学校』が来月12月から再び全国公開されるという。この映画は京都大学名誉教授の霊長類学者、河合雅雄氏が自らの少年期を綴った『少年動物誌』を映画化したものだ。2005年12月に河合氏を金沢大学に招いて講演をいただいた。そのときに映画についても述べておられた。

   映画では、三浦春馬氏が演じる雅雄少年が兵庫県の丹波篠山で、病弱で学校を休みがちな小学生のころ、昆虫や動物に興味を抱き、裏庭に小さな動物園をつくり始める。昭和10年の時代設定だ。父親の戦死で東京から転校して来た女の子が、雅雄に森での遊び方を教わるうちに笑顔を取り戻していく。そして、雅雄は肉親の死で命の大切さを知る。篠山の森には相変わらず泥だらけになって遊ぶ子どもたちの姿があり、壮大な自然と命、子どもの好奇心がテーマだ。

   河合氏の金沢大学での講演テーマは「森あそびのすすめ」だった。映画で描かれた人生の延長戦線上の話として、京都大学に入り、芋を洗うサル、あいさつをするサルを発見する。定年後でも、子どもたちをボルネオのジャングルに連れて行き、いっしょにキャンプをしながら、人が自然の中で学んだことを事例として話をされた。

   講演で印象的だったのは、今の日本人の「自然離れ」についてだった。「日本人は木材や山菜などを利用する資源の場として、また、保水など環境保全の場として森を利用してきたが、文化資源としての利用が欠けている」と話し、「川遊びのように森を利用して遊んでほしい」と訴えた。子どもの「自然離れ」を心配し、「本来、子どもは自然が大好き。それを大人が取り上げていませんか」と問いかけた。確かに、子どもたちを学習塾や「勉強、テスト」と追い立て、野山に入れない現状は変わっていない。映画で訴えたかったことはまさにこの点だったのかもしれない。

   人里へ出るクマや増えすぎるシカ、イノシシ、サルが問題についても述べられた。「動物社会に異変が起こっている」と。その大きな要因は、里山の崩壊にあるとの指摘があった。燃料革命(薪や炭からガス、石油へ)や中山間地の過疎化で人がいなくなり、野生動物たちは山から下りてきて作物を狙い始めた。動物ごとの習性や分布の実態をふまえた向き合い方でないと、十分な対応できない、と

   最近、人里に出てくる動物は殺してもよいという論調が出始めている。一律の殺処分では解決しないだろう。森に集い学ぶ発想は現代こそ必要なのではないだろうか。河合氏から学んだことである。

⇒12日(木)夜・金沢の天気     くもり

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★バイデン風の融和的なラーメン味

2020年11月11日 | ⇒ドキュメント回廊

    先日金沢市内のあるラーメン屋に入ると、金沢弁丸出しのおっさん二人が客席カウンターで楽しそうに話していた。まるで、落語に出てくる熊五郎(熊さん)と八五郎(ハつあん)のようだった。

<熊さん>
コロナいつまで続くんかな。おかげで景気が悪いさかい、歯もガタガタになってきた。そっちはどうや。
<ハつあん>
久しぶりに会ったがに、のっけから景気の話かいや。はよ、歯医者に行けや。
<熊さん>そやけど、ここのラーメン屋、年寄りの客が多いな。
<ハつあん>おれらも年寄りやろ。ここは、薄味のラーメンなんや。まあ、バイデン風のラーメンやな。自然の調味料がいろいろ入っとるらしい。融和的な味やな。
<熊さん>なんやそれ、おれはトランプ風の濃い味がいいけどな。切れ味がいい。

   二人が話しているとラ-メンが出てきて、二人は黙々と食べて店を出て行った。さまざまな食味を追求したラーメン店が巷(ちまた)に看板を競っているが、この店は「自然派らーめん」と称している。無化調(無化学調味料のこと)を売りに、鶏をベースに鰹節、煮干、コンブの海産物からとった薄味のスープ。インパクトはなく優しい味わいで美味。ちじれ麺は足踏みだから腰がある。ちじれ麺にスープが絡んでいるのでのど越しがいい。

   この店の自慢はチャーシューだ。燻煙の風味のする炭火焼きのチャーシューで、地元産の豚モモ肉を使っている。炭火焼きチャーシュー麺を注文すると、麺鉢とチャーシュー皿が別々に盆に乗って出てくる。炭火焼きチャーシューと麺鉢を分離するこでチャーシューの風味を守る。

    この店は時折、臨時休業の貼り紙が出る。「土佐の煮干が入荷しない」などの理由だ。客もそこは心得ていて、「納得いく中華そばがつくれないのであれば仕方ない」と文句は言わない。調理人が満足しないのに、食べる人が満足する訳がない。休業する理由も不思議なことに、顧客満足度を高めている。

   熊さんと八つあんが話していたように、10数人にしか入れない小さなこの店にお年寄りが多いというのは凛(りん)とした店の雰囲気と清潔感、薄味といった、まるで「ラーメン界の料亭」といった趣きを醸し出しているからかもしれない。値段もそこそこ高い。でも、客がレジでお金を払って、「ありがとうございました」とお礼を言っているのは、なんと客の方なのだ。

   それにしても、八つあんが言っていて「バイデン風の融和的な味」とはなかなか言い得て妙な表現かもしれない。

⇒11日(水)夜・金沢の天気    くもり

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☆WHOに巻きつくヘビ

2020年11月10日 | ⇒ニュース走査

    WHOのテドロス事務長は信頼を得ることがさらに難しくなったのではないだろうか。新型コロナウイルスへの対応などを議論するWHOの年次総会が9日、テレビ会議形式で始まり、テドロス氏は、アメリカのトランプ大統領がWHOの脱退を通知していたものの、脱退を撤回すると表明していたバイデン氏が大統領選で勝利宣言をしたことを受けて、「緊密に連携していくことを楽しみにしている」と述べたと報じられている(11月10日付・NHKニュースWeb版)。

     トランプ氏が脱退を表明した理由は、テドロス氏の「中国寄り」の露骨な振る舞いがコロナ禍の拡大を招いたからだ。そもそも、WHOと中国の関係性が疑われたのは今年1月23日だった。中国の春節の大移動で日本を含めフランスやオーストラリアなど各国で感染者が出ていたにもかかわらず、この日のWHO会合で「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」宣言を時期尚早と見送った。同月30日になってようやく緊急事態宣言を出したが、テドロス氏は「宣言する主な理由は、中国での発生ではなく、他の国々で発生していることだ」と述べた(1月31日付・BBCニュースWeb版日本語)。日本やアメリカ、フランスなど各国政府は武漢から自国民をチャーター機で帰国させていたころだった。

   中国でヒトからヒトへの感染を示す情報をWHOが世界に共有しなかったのはなぜか。トンラプ氏でなくとも疑問に思う。アメリカ政府は7月6日に国連に対し、来年7月6日付でWHOから脱退すると正式に通告した。アメリカは1948年にWHOに加盟し、最大の資金拠出国となっており、脱退による活動への影響が懸念されていた(7月8日付・共同通信Web版)。

   さらにWHOが中国寄りの姿勢を露わにしたのは今回の年次総会だった。WHOに加盟していない台湾がオブザーバーとしての参加を目指し、中南米の国も参加を求める提案をしていたが、総会の議長は非公開での協議で提案の議論は行わなかった。台湾の参加は認められなかった。台湾のオブザーバー参加はアメリカや日本などが支持した一方、中国が強硬に反対していた(11月10日付・NHKニュースWeb版)。

          台湾は中国・武漢で去年12月、コロナの感染拡大をSNS上で把握し迅速な対応策を発動して波及を防いだことは国際的にも知られる。人口2350万人の台湾での感染者の累計は578人(死者7人)=今月10日付・ジョンズ・ホプキンス大学コロナ・ダッシュボード=で、うち地元に原因がある発症は55件にとどめている。コロナ対策では国際的な評価を得ている台湾をオブザーバーとして参加させない理由はなぜか。テドロス事務局長による中国への配慮そのものではないのか。WHO脱退を撤回するにしても、バイデン氏にはその矛盾点をぜひテドロス氏に向けてほしい。

   WHOのシンボルの旗には杖に巻きつくヘビが描かれている。ギリシャ神話で医の守護神となったとされる名医アスクレピオスはヘビが巻きついた杖をいつも持っていた。それが、欧米では医療のシンボルとして知られるようになった。(※写真はことし8月21日のWHOの記者ブリーフィング=WHO公式ホームページ) 

⇒10日(火)朝・金沢の天気      はれ

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★一喜一憂「合理性のパラドックス」

2020年11月09日 | ⇒トレンド探査

   それにしても「なぜ」だ。週明けの9日の東京株式市場、日経平均株価は2万4839円、前日比で514円高く、29年ぶりの高値だとか。29年前は日本のバブル景気の末期。アメリカ大統領選で民主党のバイデン氏が事実上の勝利宣言を出し、選挙後を見据えた投資だろうか。

   一方で、欧米では新型コロナウイルスの感染が再拡大している。 世界での感染者は累計5040万人、国別でもっとも多いのはアメリカの997万人だ。亡くなった人も世界で累計125万人、うちアメリカは23万人だ(11月9日付・ジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード)。これが経済に及ぼす影響は計り知れないだろう。世界的にコロナの第2波、第3波が来ているという印象だ。人類はコロナ禍に打ち勝つことができるのだろうか。と、やや悲観的に考えていたところに来て、この株高だ。おそらく、世界中で巨額の金融緩和や財政出動が行われ、来年になればワクチン開発によってコロナ禍も収束に向かうという読みなのだろうか。

   ミクロの合理性の追求がマクロの非合理性をうみだしてしまうという「合理性のパラドックス」を学生時代に学んだ。株価が上がると予想されると、大量の買いが入り株価が高騰する。バブルである。逆に株価が下がると予想されると、売り浴びせが起こり、急落してパニックが起こる。バブルもパニックもマクロ的にはまったく非合理的な動きではあるが、株価の上昇が予想されるときに買い、下落が予想されるときに売る投機家のミクロ的行動には合理的だ。株式市場だけでなく、投票行動などでも起こるパラドックス現象だ。

           コロナ禍が世界にもたらしている景気後退の影響はシビアだ。8月17日に内閣府が発表した四半期(4-6月) のGDP速報値は、前期比マイナス7.8%で年率換算はマイナス27.8%、3期連続のマイナス成長だった。 アメリカも年率換算でマイナス32.9%だった。リーマンショック後の2009年の1-3月のGDPはマイナス17.8%だったので、それを大幅に超えたことになる。

   実体経済がともなっていないのに株価だけが上がるこの現象は「合理性のパラドックス」化をさらに鮮明にするのではないだろうか。内閣府が次に発表する四半期(7-9月)のGDP速報値は今月16日午前8時50分だ。

⇒9日(月)夜・金沢の天気     くもり

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