先日金沢市内のあるラーメン屋に入ると、金沢弁丸出しのおっさん二人が客席カウンターで楽しそうに話していた。まるで、落語に出てくる熊五郎(熊さん)と八五郎(ハつあん)のようだった。
<熊さん>
コロナいつまで続くんかな。おかげで景気が悪いさかい、歯もガタガタになってきた。そっちはどうや。
<ハつあん>
久しぶりに会ったがに、のっけから景気の話かいや。はよ、歯医者に行けや。
<熊さん>そやけど、ここのラーメン屋、年寄りの客が多いな。
<ハつあん>おれらも年寄りやろ。ここは、薄味のラーメンなんや。まあ、バイデン風のラーメンやな。自然の調味料がいろいろ入っとるらしい。融和的な味やな。
<熊さん>なんやそれ、おれはトランプ風の濃い味がいいけどな。切れ味がいい。
二人が話しているとラ-メンが出てきて、二人は黙々と食べて店を出て行った。さまざまな食味を追求したラーメン店が巷(ちまた)に看板を競っているが、この店は「自然派らーめん」と称している。無化調(無化学調味料のこと)を売りに、鶏をベースに鰹節、煮干、コンブの海産物からとった薄味のスープ。インパクトはなく優しい味わいで美味。ちじれ麺は足踏みだから腰がある。ちじれ麺にスープが絡んでいるのでのど越しがいい。
この店の自慢はチャーシューだ。燻煙の風味のする炭火焼きのチャーシューで、地元産の豚モモ肉を使っている。炭火焼きチャーシュー麺を注文すると、麺鉢とチャーシュー皿が別々に盆に乗って出てくる。炭火焼きチャーシューと麺鉢を分離するこでチャーシューの風味を守る。
この店は時折、臨時休業の貼り紙が出る。「土佐の煮干が入荷しない」などの理由だ。客もそこは心得ていて、「納得いく中華そばがつくれないのであれば仕方ない」と文句は言わない。調理人が満足しないのに、食べる人が満足する訳がない。休業する理由も不思議なことに、顧客満足度を高めている。
熊さんと八つあんが話していたように、10数人にしか入れない小さなこの店にお年寄りが多いというのは凛(りん)とした店の雰囲気と清潔感、薄味といった、まるで「ラーメン界の料亭」といった趣きを醸し出しているからかもしれない。値段もそこそこ高い。でも、客がレジでお金を払って、「ありがとうございました」とお礼を言っているのは、なんと客の方なのだ。
それにしても、八つあんが言っていて「バイデン風の融和的な味」とはなかなか言い得て妙な表現かもしれない。
⇒11日(水)夜・金沢の天気 くもり
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