自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆アメリカ大統領選 「オクトーバーサプライズ」を逃す

2020年11月08日 | ⇒ニュース走査

   CNNニュースWeb版(11月8日付)は「BIDEN WINS」と大見出しで伝えている=写真=。「Pennsylvania's 20 electoral votes put Biden over the 270 electoral votes needed to win.」。僅差で激戦が続いていたペンシルベニア州(選挙人20人)でバイデン氏が勝利し、大統領選で必要な選挙人過半数の270を超えることが確定したと報じている。今回の大統領選で勝敗を分けたのは何だったのか検証してみる。

   CNNは、バイデン氏の勝利についてニューヨーク市の医師のインタビューを紹介してる。「このパンデミックを乗り越えて、やるべきこと、つまり私たちがそれをコントロールできるようにするために、都市や国でやらなければならないことをやろうとしているリーダーだ」と語った。このリーダーとは女性初の副大統領に就任予定のカマラ・ハリス氏のこと。先月15日にハリス氏が遊説中にスタッフ2人の新型コロナウイルス感染が発覚、ハリス氏は念のため18日まで遊説を自粛した。医師はコロナにしっかり向き合うバイデン陣営の姿勢を評価したのだ。

   一方、トランプ氏は対照的だった。投票日を1ヵ月後に控えた先月2日、本人のウイルス感染が判明しワシントンの陸軍病院に入院した。ところが、3日後早々に退院した。選挙遊説でもトランプ氏はコロナ感染を克服したことをアピールするためにあえてマスクを外して強さをアピールした。まさに地で行く「オクトーバーサプライズ(October surprise)」となった。その後、ホワイトハウスの関係者に感染が広がった。

   では、バイデン氏とトランプ氏の対称的なコロナ対応が、有権者にどう影響を与えたのだろか。その際立った違いは「郵便投票」への両陣営の呼びかけだろう。バイデン氏は感染対策として郵便投票や期日前投票を活用するよう促していた。一方、トランプ氏は不正につながるとして郵便投票をしないよう呼びかけていた。トランプ氏が指摘した不正とは、郵便と投票所で「二重投票」が起きるとの主張だ。郵便投票の用紙を申請した直後に期日前投票をすれば、二重投票の可能性は出てくるが、事務的チェックで防げるだろう。

   アメリカのメディアがよく引用するフロリダ大学「US Elections Project(アメリカ選挙プロジェクト)」のサイトをチェックすると、今回の選挙の投票総数は1億5883万人で投票率は66.4%だった(大学独自集計)。期日前投票は1億100万人以上で、うち6450万人超が郵便投票を選んだと推定される。2016年の選挙では1億3900万人が投票し、うち郵便投票は3300万人だったので倍近い数字となる(AFP通信Web版日本語)。トランプ氏が 「 Mail-in ballots are very dangerous」と呼びかけたにもかかわらず大幅に増えたということは、それだけ投票所での「3密(密集、密接、密閉)」を避けたいとの有権者の意識の表れだろう。

   トランプ氏はコロナ禍での国民の心情・心理を読み誤った。自らが回復したからと強気に出るのではなく、あの時に「コロナを経験して怖さを知った。郵便投票でOKだ。ワクチン開発を急ぐ、国民は安心してほしい」と言えば、それで選挙情勢は変わっていたかもしれない。自らの「オクトーバーサプライズ」のチャンスを逃した大統領になった。バイデン氏の大統領就任式は2021年1月20日だ。

⇒8日(日)朝・金沢の天気      くもり

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★ズワイガニ解禁 初物求めて市場へ

2020年11月07日 | ⇒ドキュメント回廊

   日本海のズワイガニ漁が今月6日に解禁となった。ズワイガニにはご当地の呼び方があって、山陰地方では「松葉ガニ」、福井県では「越前ガニ」、そして石川県では「加能(かのう)ガニ」と呼ぶ。加能とは、加賀と能登のこと。初競りが6日夜、金沢で行われ、能登半島の珠洲市で水揚げされた1匹が去年の最高額を10万円上回る40万円で競り落とされた。いよいよカニのシーズン到来だ。

   きょう初物を求めて金沢の近江町市場に行ってきた。ズワイカニが水産の各店舗でずらりと並んでいた。ご祝儀相場が立って、一匹1万数千円から2万円と少々高値だった。金沢の庶民は初日は小ぶりながら身が詰まっているメスのコウバコガニを食する。オスのズワイガニに比べれば安い。一匹1000円前後だ。ズワイガニは高値だが、初物食いの習性でつい買ってしまった。きょうは「かぶら寿し」も知人からいただいたので夕食で堪能した。

   カニを食するのは簡単ではない。一匹丸ごとなので、脚を関節近くで折り、身を吸って出す。その音はパキパキ、ズーズー、その食べる姿はまるでカニとの格闘だ。日本酒を飲みながらだが、一匹を15分ほどで。何しろ、食べ出したら寡黙となり、手と口が休むことがない。カニ食い選手権大会のように真剣になる。

   仕上げにかぶら寿しを食する。青カブにブリの切り身をはさんで漬け込んだもの。かぶら寿しを食べなければ、金沢の冬は越せない、と言われるほど地域に密着した食材ではある。とっておきの九谷焼の皿にかぶら寿しを盛る。これを地酒の辛口吟醸酒で味わう。カニもかぶら寿しも地酒とのマリアージュである。

⇒7日(土)夜・金沢の天気     くもり

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☆アメリカ大統領選 往生際の悪さ

2020年11月06日 | ⇒ニュース走査

   新型コロナウイルスの感染拡大が止まない。ジョンズ・ホプキンス大学のコロナ・ダッシュボード(一覧表)によると、アメリカの感染が最も多く958万人、インド836万人と続く。亡くなった人もアメリカが23万人、ブラジル16万人と続く。アメリカでは今月4日(現地時間)に新規感染者は10万2831人と1日当たりの感染者が初めて10万人を超えた(11月5日付・CNNニュースWeb版日本語)。

   これが社会不安にもつながっているのだろうか。ニューヨーク市警が公表した犯罪統計によると、ことし年初から10月までの間に発生した発砲事件は1299件で、前年同期に比べ93.9%も増加している(同)。ニューヨーク市では毎日4.3回の発砲音が聞こえていることになる。コロナ禍に加えて、アメリカ大統領選がデスマッチの様相だ。

   開票作業が長引いているペンシルベニア州(選挙人20人)のフィラデルフィアでは、トランプ、バイデンの両候補の支持者らによるデモが繰り広げられた。トランプ氏の支持者らは「投票は選挙日まで」「投票所は閉まりました」と書かれたプラカードを掲げた一方で、バイデン氏の支持者らはバリケード内でダンスする姿が見られた(11月6日付・ロイター通信Web版日本語)。

   SNSも大混乱だ。フェイスブックは5日、誤情報などを投稿し「民主党が選挙を盗んでいる」と根拠のない主張を続けているトランプ支持者のグループ「STOP THE STEAL(盗みを阻止しろ)」をプラットフォーム上から削除した。フェイスブックは声明で「同グループは選挙プロセスの非合法化を目的に組織され、一部メンバーは懸念を誘う暴力行為を呼び掛けていた」と説明した(同)。

            アメリカでは、SNS各社は通信品位法(CDA:the Communications Decency Act )230条に基づき、利用者の投稿内容について免責されるという法的保護を受けている。つまり、SNSは基本的に違法な投稿を掲載したことの責任を問われない。その一方で、ヘイトスピーチなどのコンテンツは独自にファクトチェックの規定を設けて規制しているのだ。むしろ、SNS各社はそのファクトチェックの作業で大混乱しているのではないだろうか。差別や相手を圧迫するようなヘイトスピーチは分かりやすいが、ファクトチェックとなると独自に事実関係を収集・構築した上での判断となるので簡単ではないだろう。

          SNSを政治の舞台として活用したのは、ある意味でトランプ氏だった。2017年1月の大統領就任前からゼネラル・モーターズ社やロッキード社、ボーイング社などに対し、ツイッターで雇用創出のために自国で製造を行えと攻撃的な「つぶやき」を連発した。ホワイトハウスでの記者会見ではなく、140文字で企業に一方的な要望を伝えるという前代未聞のやり方だった。

   そのSNSが今回の大統領選でトランプ氏の書き込みに目を光らせている。ツイッターは「誤解を招く可能性がある」として警告ラベルを付けて閲覧者に注意を促している。その数は尋常ではない=写真=。一国の大統領のツイッターにここまでするのかとも思うくらいだ。一方で、追い詰められたトランプ氏がこの場におよんで無茶ぶりのコメントを連発しているのだろう。往生際の悪さか。

⇒6日(金)午後・金沢の天気     くもり時々あめ

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★アメリカ大統領選 ドロ沼化のプロセス

2020年11月05日 | ⇒ニュース走査

   昨夜は「トランプの再選もありかな」と思いながら就寝した。朝起きてテレビやネットをチェックすると、前回(2016年)トランプが勝ったウィスコンシン州とミシガン州がバイデン氏に流れていて、一夜で情勢が変わったと気がついた。  

   アメリカ大統領選での郵便投票がかなりの「混乱」を招いている。当事者であるトランプ氏のツイッターをチェックすると随所にその混乱ぶりがうかがえる。

「We are winning Pennsylvania big, but the PA Secretary of State just announced that there are “Millions of ballots left to be counted.”」(意訳:我々はペンシルベニア州で大きな勝利を収めているが、州務長官は「数百万の投票が残っている」と発表した)。ペンシルベニア州(選挙人20人)の郵便投票は3日の消印有効で6日までに到着すれば受け付ける。同州では約900万人の有権者の3分の1が郵便投票を申請している(11月4日付・時事通信Web版)。民主党支持者は新型コロナウイルスの感染を恐れて郵便投票が多いとされる。逆に、共和党支持者は当日投票が多い傾向にあり、当日投票の先行開票でリードしていても、郵便投票の開票で逆転もある。

   しかし、トランプ氏はそのような理解をしていないようだ。「
How come every time they count Mail-In ballot dumps they are so devastating in their percentage and power of destruction?」(意訳:郵便投票の束を集計するたびに票差が変化し、なぜこれほど破壊力があるのか)。トランプ氏は郵便投票に不正があると見ていて、おそらく納得がいかないのだろう。

   バイデン優勢から激戦、そして郵便投票による逆転劇などドロ沼化しているアメリカ大統領選の開票がこれほど長引くとは思っていなかった。ついでに、ニューヨークダウをチェックすると、前日に比べて367㌦高い2万7847㌦で終えている。一時800㌦の上げ幅もあった。選挙結果が見通せない中でも買い注文が連日続く。東証だったらしばらく様子見だろうか。選挙も投資もアメリカらしく実にダイナミックではある。

⇒5日(木)朝・金沢の天気     はれ

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☆アメリカ大統領選 メディア観察記

2020年11月04日 | ⇒メディア時評

   きょう朝からアメリカ大統領選の開票の成り行きを観察している。日本時間で午前6時にニューヨーク証券取引所は取引を終えた。ダウは554㌦高い、2万7480㌦と大幅上昇。一時700㌦超えも。世論調査では、民主党候補のバイデン前副大統領が支持率で全国的にトランプ大統領をリードしており、選挙で明確な勝敗が決まり、バイデン氏が約束するインフラ支出を盛り込んだ刺激策が選挙後に実施されることへの期待につながっている(ロイター通信Web版日本語)。いわゆる「思惑買い」だ。

   アメリカのほとんどの州で有権者の得票数で1票でも多かった候補者がその州のすべての選挙人を独占する「勝者総取り」方式をとっていて、全米で538人の過半数の270人を獲得した候補者が勝者となる。CNNニュースWeb版でも「THE RACE TO 270」と題して速報値を伝えている。ちなみに、カリフォルニアの選挙人がもっとも多く55人、テキサス38人、フロリダとニューヨークが29人となっている。

          日本時間で午後3時ごろ、ABCテレビが速報で、「Florida-D. Trump, projected winner」と激戦地フロリダ州での勝利を確実にしたと伝えた。前後して、トランプ氏はツイッターで「I will be making a statement tonight. A big WIN!」と述べた。さらに、「We are up BIG, but they are trying to STEAL the Election.」とツートしたため、ツイッター社は「誤解を招く可能性がある」として警告ラベルを付けて閲覧者に注意を促している。

   日本時間の午後4時ごろ、ABCテレビが速報で、「Minnesota-J. Biden, projected winner」とミネソタ州での勝利を伝えた。ことし5月、黒人男性が白人警官から首を圧迫されて亡くなった事件をきっかけに、「Black Lives Matter (黒人の命は大切)」の人種差別への抗議デモが広がったところでもある。

   日本時間の午後5時現在、CNNニュースWeb版の「THE RACE TO 270」ではバイデン氏が220人の選挙人を確保、トランプ氏は213人となっている。

   アメリカのメディア各社が行った出口調査をNHKがまとめている。「大統領に求める最も重要な資質は」について、「強い指導者であること」32%、「判断力がある」24%、「自分のような人のことを配慮する」21%、「国を団結させる」19%。ペンシルベニア州の男女別の支持では、男性の「トランプ支持」54%、「バイデン支持」44%、女性の「トランプ支持」42%、「バイデン支持」56%。人種別では、白人(回答者の81%)の「トランプ支持」55%、「バイデン支持」43%、黒人(回答者の11%)の「トランプ支持」6%、「バイデン支持」92%だった。

   「ヤフー・ジャパン・ニュース」の「みんなの意見」で、「米大統領選トランプ氏とバイデン氏、勝つのはどっちだと思う?」のアンケ-トがあり、「トンラプ」59%、「バイデン」34%と答えている(4日午後10時現在で投票数54万546)。中国に圧力をかけるトランプ氏を日本人は頼りにしているのかもしれない。

   日本時間で午後10時40分現在で、 CNNニュースWeb版の「THE RACE TO 270」ではバイデン氏が224人の選挙人を確保、トランプ氏は213人となっている=図表=。6時間前からほとんど数字が動かない。

⇒4日(水)夜・金沢の天気    くもり

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★大阪都構想 票に滲むコロナ禍と報道と共感と

2020年11月03日 | ⇒ニュース走査

    「反対50.6%、賛成49.4%」の僅差で否決された大阪都構想。その後の新聞・テレビ各社の報じる論評を読めば読むほど分からないことが増えてくる。同時に票にはさまざま思いや時のタイミングが滲んでいると思えてくる。

   大阪・朝日放送(ABC)の世論調査によると、10月24-25日調査では賛成46.9%、反対41.2%だった。ABCは9月19-20日から世論調査を始めているが、それまでの賛成が6回続けてリードしていた。7回目となる10月30-31日の調査で初めて反対46.6%、賛成45.0%と逆転した。これまで「未定・不明」と答えた人の割合が、3.5ポイント減って反対側に流れたようだ。そして、この7回目の調査結果がそのまま11月1日の住民投票の結果に反映されたかっこうだ。

   ABC調査で気になったデータがある。「新型コロナの拡大下でも住民投票を行うべきか」(10月3-4日調査)の問い。年代でもバラツキがあるが、全年代通しでは「予定通り行うべき」37.8%を「中止もしくは延期するべき」42.0%が上回っている。大阪市では、10月は第3波ともいえる新規感染者数が増加を始めたころだった。とくに終盤の27日から11月1日の投票日にかけては連日50人から70人の新規陽性者が出ていた(大阪市役所公式ホームページ)。

   実際にコロナ禍は投票行動に影響を与えたのではないだろうか。投票率が66.8%だった前回(2015年)より世論の関心度も高く盛り上がったにもかかわらず、今回投票率が62.4%と4.4ポイントもダウンしたのも、コロナ禍で投票場へ行くのを控えた人も多かったせいだろう。期日前投票が前回35万9千、今回41万8千と率にして16%も増えているのも、「3密」を避けた投票行動と読めるのではないか。

   ABC調査のデータが現実になったともいえる。「中止もしくは延期するべき」が声が上がっていたにもかかわらず、それを実施したことに対する、松井市長、大阪維新の会への批判が「反対」票となって表れたのではないだろうか。大阪都構想を推進する側にとっては、コロナ禍はタイミングが悪かった。

           さらにもう一つ「反対」票につながったと思われる数字がある。大阪市を4つの特別区に分割した場合、標準的な行政サービスを実施するために毎年必要なコスト「基準財政需要額」の合計が、現在よりも約218億円増えることが市財政局の試算で明らかになったと報道された(10月26日付・毎日新聞Web版)。市財政局の担当者は29日に緊急記者会見で、この試算を撤回した(10月29日付・同)。が、この数字が都構想のデメリットとして独り歩きを始めたのではないだろうか。

   きょう大阪維新の会のツイッターをチェックすると、吉村知事の囲み会見(11月2日)が動画で紹介されている。支持者のコメントが出ていた。「
燃え尽き症候群のようになってしまわないか心配です。今はなかなか切り替えができないと思いますけど、違うやり方で少しづつ改革を進めることはできます。60万人以上の市民が賛成したのも事実です、これで都構想を諦めるなんて言わないでください!まずは一休みして」。やさしい励ましの言葉だ。都構想はある意味で市民の共感を得ていた政策だったのだ、と理解もできた。

⇒3日(祝)朝・金沢の天気     はれ

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☆大阪都構想 僅差で「あかん」

2020年11月02日 | ⇒ニュース走査

   「大阪都構想」という言葉はおそらく日本の多くの人が知っていただろう、そして住民投票で可決されると思っていたのではないだろうか。何しろ都構想を推進する松井一郎大阪市長と吉村洋文大阪府知事はテレビにもよく顔出しして、はっきりとした物言いでリ-ダーとして頼りになると誰しもが印象を持っていたのではないだろうか。一夜明けてニュースを見れば、この投票結果だ=写真=。「なぜ」と首をかしげる。

   都構想は、政令指定都市の大阪市を廃止して4つの特別区(北区、天王寺区、中央区、淀川区)に再編する構想で、特別区が教育や福祉といった住民サービスを提供して、道路や水道などのインフラ整備などは大阪府に一元化するという内容だと理解している。

   去年2019年4月の大阪市長選をテレビで見て、松井氏が「府と市の二重行政は効率が悪く弊害も大きい、これは不幸せ(府市合わせ)です」とマイクで叫んでいたのを覚えている。この選挙では自民推薦の候補に圧勝。同日選挙だった府知事選も吉村氏が自民推薦の候補に勝利した。なのになぜ、前回(2015年5月)と同様に都構想は否決されたのか。その民意は何だろう。

   敗因を数字で読んでみる。投票率は62%で反対50.6%、賛成49.4%だ。前回は投票率66%で反対50.4%、賛成49.6%と、今回も前回もまさに拮抗した数字だ(11月2日付・NHKニュースWeb版)。NHKが投票当日の出口調査の数字を公表している。それによると、10代と20代は賛成と反対が並んでいるが、30代は賛成が60%、反対が40%となっている。40代は賛成が50%台半ば、反対が40%台半ば。50代は賛成と反対が拮抗し、60代と70歳以上はそれぞれ賛成が40%台前半、反対が50%台後半となっている。いわゆるシニア世代に反対票が多い。性別では、男性では50%台前半の人が賛成に、女性は50%台半ばの人が反対したと答えている。

  シニア世代に反対が多いということは、「現状でよい」という意向だと読める。政令指定都市を廃止してまで改革をやって、どのようなメリットがあるのか見えない、ということだろう。もう一歩踏み込んで考えると、大阪市で上場する企業は339社と集中しており、市税収入の総額に占める法人税の割合は17%と、名古屋市(12%)や横浜市(7%)より高い(「大阪市役所公式ホームページ」平成31年度統計)。こうした財源の一部がインフラ整備などで府に移行する計画なので、住民サービスが低下するので「あかん」と意識した人もいたのだろう。

   さらに住んでいる地名にこだわる人たちもいただろう。特別区で消えてしまう「阿倍野区」や「住吉区」など。地名に愛着を持っている人は多い。そして、意外と市役所の関係者が反対に回ったかもしれない。都構想が実現して、特別区に分割されれば、市役所職員は「区役所」職員になってしまう。「格下げ」だと感じているのではないだろうか。

   大阪府と大阪市の不都合な関係性は、金沢市に住んでいて理解できなくもない。府における市は人口で3割を占める。金沢市も石川県では4割だ。県と市の二重行政は無駄、特別区を設けて、首長を市長ではなく、県知事に任せるとの構想が出てきたら、金沢市民にどのような反応が起きるだろうか。賛成する人もいるだろう。一方で「金沢をなくせば、都市力や住民サービスの低下につながる」と反対する人も多いだろう。行政の無駄では片付けられない、独自の歴史やプライドが地域にはあるものだ。

   大阪都構想の敗北。「維新の会」にとってはまさに一丁目一番地の政策だっただけに、松井市長も吉村知事も今期限りで辞任すると表明した。維新の会そのものの存在意義が問われ、大阪では政治の迷走が始まるだろう。来年に予想される総選挙はどうなるのか。2025年万博への影響はないのか。

⇒2日(月)朝・金沢の天気     あめ

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★「領域外」に立ち入るということ

2020年11月01日 | ⇒ニュース走査

   先日金沢市内の卯辰山公園近くの道路の入り口に看板がかかっていたので乗用車を停めると、「園内でクマが出没しました!」との注意書きだった=写真=。「7月22日」と記されているが、1ヵ月余り前の6月3日にも卯辰山山ろくの人家密集地にクマが出没し、7時間にわたる「大捕物劇」がニュースになっていた。いつまたクマが出没するかもしれないと考えると、金沢の紅葉の名所の一つでもあるものの、市民は敬遠するだろう。いつもならこの季節、バーベキューでにぎわうのだが。

   クマの暴走が止まらない。先月10月29日朝、小松市の小学校のグラウンドに1頭が入り、隣りにある高校の敷地内に逃げ込んだ。午前9時前に猟友会のメンバーが猟銃で駆除した。高校では15分遅れで授業を開始した。現場は市街地だ。小松市ではきょう1日に同市で実施される全国高校駅伝競走大会県予選について、一般道路を走るルートから陸上競技場のトラックを周回する方式に急きょ変更した。発着点付近でクマ出没が相次いだためだ。石川県自然環境課のまとめによると、ことしに入ってクマの目撃情報は502件(10月27日現在)で、うち小松市が133件ともっとも多く、次いで金沢市の118件だ。

   本来入るはずのないところに入る、本来入るべきところでないのに入る、それが問題だ。何もクマの話だけではない。菅内閣の総理補佐官に共同通信社の論説副委員長だった人物が10月1日付で就任したことが議論を呼んだ。いわゆる、権力をチェックする側のジャーナリストが一転して政権内部に入ってよいのか、と。政治部時代に菅総理と知り合い、また、同郷(秋田県)でもあった。総理からの要請を受けての就任で、政策の評価・検証をするポジションのようだ。

   ジャーナリストとして政権側に入ってよいものかどうか、本人が苦悶したであろうことは想像に難くない。以下は憶測だが、現在59歳、来年60歳という年齢が決断のきっかけだったかもしれない。ジャーナリストであっても、政治家であっても、経営者であっても、年齢というものを区切りに辞す、転職するなど別の世界を選択する。それを「人生の転機」と考えるものだ。ましてや、今回のように声がかかれば、「ご縁」、あるいは「運命」と位置付けてその道に入るだろう。

   今回、「ジャーナリストが政権側に身を売るのか」「それまでの政権批判は一体何だったのか」などとの手厳しい意見が身内からもあっただろう。ただ、ジャーナリストは多様である。菅総理に共感を持ちながら政権の有り様を質すジャーナリストもいる(「田原総一朗公式サイト」9月25日付コメント)。批判を覚悟しての政権入りであり、それも人生の貴重な選択肢だ。ただ、菅総理は人使いが荒そうなので、本人が問われるのはむしろこの先だろう。

⇒1日(日)朝・金沢の天気    はれ

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