自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆メディアのツボ-16-

2006年09月22日 | ⇒メディア時評

 前回の「メディアのツボ」で取り上げた、18日午後9時放送の番組「小泉純一郎を知っているか?」(日本テレビ)を視聴していて、違和感を感じた点があった。番組が始まって1時間、時計が10時を回ったころから途端に消費者金融(いわゆるサラ金)のCMが多く出だしたことだ。

         「背に腹は…」のサラ金CM

  これには訳がある。サラ金の大手6社は①7時-9時、17時-22時はCM放送をしない②22時-24時は1エリア内で1社のCMの総量を15秒スポットに換算して100本とする-という内容の「放送自粛」をしている。だから時計の針が22時00分を超えるとどっとサラ金CMが流れ出すことになる。

  サラ金業界が放送や活字メディアに突っ込んでいる広告費は年間700億円ともいわれる。日本のリーディングカンパニーであるトヨタ自動車の年間広告費は800億円なので、それに次ぐくらいの規模なのだ。サラ金の広告費のうちテレビへの投下額はざっと500億円と見積もられている。

  これだけのお金をテレビに突っ込んでいるだけあって、効果は抜群だ。昨年12月8日に開催された金融庁の「貸金業制度に関する懇談会」に提出された利用者へのアンケート調査によると、「消費者金融の会社の存在を知ったきっかけ」としてテレビのCMとした人が61.3%、次いで新聞で37.7%と、テレビCMの効果が高いことが分かる。さらに「最初に利用する店を選んだ理由」もテレビCMが33.4%と新聞広告の20.8%を離している。つまり、サラ金の存在を知るのも利用するのもテレビCMが一番なのである。

  そのようなことを念頭に置いて、この記事を読むと「何と罪つくりな」と思ってしまう。大手消費者金融5社が借り手の自殺によって2005年度に3649件の生命保険金の支払いを受けていた(9月7日付の各紙)。つまり、消費者金融が借り手に生命保険をかけ、死亡した場合の「担保」に取っているのである。さらに大手5社を含む業界全体では実に39880件に及ぶという。サラ金側とすれば、「金を借りるだけ借りて挙句の果ての自殺では回収のしようがない。だからリスクヘッジとして保険をかけている」との言い分だろう。個人が生命保険に入るのは分かるが、消費者金融が個人に生命保険をかける、「命を担保」にしたこんな商品があることは知られていない。「消費者信用団体生命保険」という。

 サラ金の口座は一説に1500万といわれる。重複もあるだろうが、巨大マーケットが形成されている。サラ金に銀行が元金を貸し付け、テレビが宣伝し、生命保険会社が「命を担保」にした商品を提供する。そして、その業界のどれも最高の収益を上げている。身震いするほど完成度の高いビジネスモデルである。

  利息制限法の上限金利(年15-20%)と、罰則規定がある出資法の上限金利(29.2%)の中間の金利はグレーゾーン金利といわれる。このグレーゾーン金利に関して、最高裁は去年12月15日とことし1月13日、消費者金融を利用した場合、利息制限法の上限を超える「グレーゾ-ン」の金利は事実上認めないという判断を示した。最高裁の判断を受けて、グレーゾーン金利をどのように扱うか政府レベルで論議がおこなわれている。その間もサラ金業者はグレーゾーンの金利をうたってCMを打ち続けている。

  いや、テレビ局が流し続けていると言った方がよいのかもしれない。テレビへの広告需要が頭打ちの中、「地上波デジタルへの投資が続く中、背に腹はかえられない」とテレビ局の経営者は言うだろう。とももとマスメディアの意味は「広告媒体」である。これが放送メディアの「あるべき姿」なのだろうか。 そして新聞メディアが最近よく記事で使っている「格差社会」とは、このすさまじいほどにシステム化された「金融商品」に手を出し、グレーゾーンの金利で収奪されている1500万口座の社会層のことではないのだろうか。

⇒21日(木)夜・金沢の天気   はれ     


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