能登半島の尖端に位置する石川県珠洲(すず)市でことし9月に開催される「奥能登国際芸術祭2020+」の市の担当者から先日、パンフレットを手渡しでいただいた。本来は昨年2020年の秋に開催だったが、新型コロナウイルスの感染拡大で1年間延期となっていた。パンフに会期が9月4日から10月24日と記されていたので、「開催まで50日を切り、いよいよですね。前回(2017年)は『最涯(さいはて)』がテーマでしたが、今回は何ですか」と尋ねると、担当者は「大蔵ざらえなんですよ」と。「大蔵ざらえって、店仕舞いのセールスのときに使う言葉ですよね」と確かめると、「そうです。大蔵ざらえがアートになるんです」とにやりと笑った。
パンフのメインの写真は、風でうなだれた海辺の松の木の下に六曲屏風や木桶、旧式のテレビ、壺などが置かれたものだ=写真=。よく見ると、「塩」と書かれた看板がある。珠洲は揚げ浜式塩田が栄えた土地なので、この家はかつてその塩を販売していた家なのかと想像した。不思議なもので、古い家具や道具などを見ると、つい、それを使っていた人々や生業、日常というもの思い浮かべてしまうものだ。では、それをどのようにアートにするのか。
市内の廃校となった小学校体育館に家庭の蔵や納屋、押し入れやなどに眠っている古道具などのモノを集められ、それをもとにアーティストたちがいくつかの作品に仕上げていく。これに市民もサポーターとして参加し、古道具の搬入や、作品づくり欠かせない紐(ひも)を古着や古い布を材料につくるなど協力している。これまで市内の65軒から1500点を超える民具を収集したそうだ。
これを「大蔵ざらえプロジェクト」と名付けて発案したのは芸術祭の総合ディレクター、北川フラム氏のひらめきだという。パンフはこう解説がある。
「陸や海の交易などにより珠洲にもたらされた文物は、時代とともに使われる機会が減り、その多くが家の蔵に保管されています。過疎、高齢化が進む珠洲では『家じまい』も進んでいます。江戸、明治、大正、昭和、平成、各時代の文物を珠洲じゅうから集め、アーティストと専門家が関わり、モノが主役の博物館と劇場が一体化した『スズ・シアター・ミュージアム』が誕生します」
珠洲市は高齢化率が50%を超え、空き家や高齢世帯の増加が深刻な問題になっている。その中から、これまでになかった新たなアートの可能性を見出していく。北川フラム氏がよく使う言葉は、「失われゆくモノから新たな社会共通資本をつくろう」だ。そして、「大蔵ざらえプロジェックト」と銘打って、古道具アートの展示場を、劇場型民俗博物館「スズ・シアター・ミュージアム」と名付けた。
奥能登国際芸術祭は「最涯(さいはて)の芸術祭、美術の最先端。」のキャッチで、16の国と地域から53組のアーティストが参加する。現場ではすでにアーチスト・イン・レジデンスによる作品づくりで、市民も巻き込んで盛り上がっているようだ。
ちなみに、同市の人口は1万3400人で、石川県19市町のトップを切って4月13日に新型コロナウイルスのワクチン接種をスタートとさせ、8月中には中学生以上の希望者全員の接種を終える予定だ。感染者の累計は4人と県内でもっとも少ない。9月4日に始まる芸術祭を意識してコロナ対策の先手を打ってきたことが奏功している。
⇒21日(水)午後・金沢の天気 はれ
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