自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆病める森林に希望が

2008年11月15日 | ⇒キャンパス見聞
 昨日(11月14日)聴講した森林をテーマにした講義に思わずのめり込んだ。「面白い。山にも希望がある」。金沢大学が主催する「能登里山マイスター」養成プログラムの「地域づくり支援講座」(能登空港ターミナルビル)。地域の再生をテーマに各界のスペシャリストを呼んで講義を聴く。今回、15シリーズの13回目は「環境に配慮し地域に密着した組合を目指して」と題しての有川光造氏の講義だった。

 有川氏が組合長を務める「かが森林組合」は日本海側で唯一FSC認証を取得している。FSC(Forest Stewardship Council=森林管理協議会)は国際的な森林認証制度を行なう第三者機関。この機関の認証を取得するには4000万円ほどの経費がかかり、毎年、環境や経営面での厳しい査察を受ける。林業をめぐる経営環境そのものが厳しいのにさらに環境面でのチェックを受けるは、普通だったら資金的にも精神的にも体力は持たない、と思う。ところが、その「逆境」こそがバネになるというのが今回の講義のポイントなのだ。

 初めて聞く言葉をいくつか紹介すると。「渓流バッファゾーン」。谷川に沿って植林がされると樹木の枝葉が茂り、谷川には光が差し込まなくなる。すると、渓流の生態系が壊れるので、川べりから5㍍は枝打ちや間伐を行い光を入れる。FSC基準ではそのバッファゾーンの毎年植生の変化を確認するという継続調査を行う。かが森林組合でも小松市や加賀市の4カ所で林内照度や植生変化の調査を行っている。次に、「境界管理」。森林には私的所有権が設定されているが、実のところオーナーが健在である場合、その隣地との境界は代々からの言い伝えで分かるが、代を重ねるごとにあいまいになり、分からなくなる。これが日本の山林の大きな問題となっている。そこで有川氏らは、GIS(地理情報システム)を導入して、GPS(人口衛星)測量を行っている。全体の図面は引けなくても、所有地の入り口だけでも何点か分かれば、あとは植林の樹齢などによってだいたいの境界の検討がつくという。これを組合が一括管理していれば、集団間伐や出荷のための伐採にはオーナーにもメリットがある。

 ロシア産の外材など海外の安価な木材の輸入で国内の林業はここ30年で低迷し疲弊した。スギ花粉などアレルギー源として都会人から森林は嫌われた。山に一歩入れば家電ゴミの不法投棄。さらに、最近のクマの出没で森林は一気に危険、暗闇の心象が広がった。こんな所には若者も来ない。経済価値もどん底。そんな病める山林、負のスパイラルが起きていた。ところが、いったん落ちた森林の価値が国際的な資源の争奪戦(経済)の中で再び起き上がってきた。ロシアが丸太の輸出に高い関税をかけ、加えて、丸太のままでは輸出しないといい始めてきた。また、インドと中国を巻き込んで、資源としての木材争奪戦が繰り広げられている。そこで、国内の木材価格がじわりと上昇している。柱となるA材はもちろんのこと、少々曲がりのあるB材でも引き合いが来るようになり、C材でもチップ化すれば製紙会社が引き取るようになった。不安定な外材より、安定供給が見込めるならば国内産のものを確保しておきたいという意識が働くようになった。

 さらに、有川氏の話で興味深かったのは、「使い物にならず野積みされている木の皮にも引き合いがくるようになってきた」と。石炭と混ぜて燃焼させることによって燃焼効率が高くることに国内の火力発電所などが注目し始めているのだ。「今後、この木の皮も市場取引される時代がくるかもしれない」と。そして、有川氏は「山には捨てるものがない。そんな時代がきたのです」と締めた。山に風が吹き始めている。

⇒15日(土)午前・珠洲の天気  はれ

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