自在コラム

⇒ 日常での観察や大学キャンパスでの見聞、環境や時事問題、メディアとネットの考察などを紹介する宇野文夫のコラム

☆世界農業遺産と持続可能な社会-上

2018年08月27日 | ⇒トピック往来

   きょう(27日)から和歌山県みなべ町で「第5回東アジア農業遺産学会(ERAHS=East Aisa Reserch Association for Agricultural Heritage Systems)が開催されている。2011年6月に「能登の里山里海」が世界農業遺産(GIAHS)に認定され以来さまざまな場面で関わっているが、今回は中国、韓国、日本の行政のGIAHS担当者や実践者、研究者を交えた学術学会に参加している。
    
       伝統的な知識とサイエンスをいかに統合していくか

   GIAHSは農業の大規模化や品種改良、肥料や農薬の使用などの近代化で失われつつある世界各地の伝統的な農業や農村の文化や景観、生物多様性に富む生態系を次世代に継承すること目的に、国連食糧農業機関(FAO、本部・ローマ)が2002年に始めた認定制度だ。現在21ヵ国52の認定地(サイト)がある。

   開催地のみなべ町は2015年に認定された「みなべ・田辺の梅システム」のサイト。養分に乏しい斜面の梅林周辺に薪炭林を残し、水源涵養や崩落を防止しながら薪炭林を活用した紀州備長炭の生産と、ミツバチを受粉に利用した梅栽培を行うことで評価されてる。400年の歴史があり、梅栽培は国内50%の生産量を誇る産地でもある。開会挨拶で和歌山県知事の仁坂吉伸氏は「梅の養分の機能性が世界で見直されつつある。これはGIAHS認定の効果ではないか」と。

   基調講演でFAOのGIAHS事務局長の遠藤芳英氏が「GIAHSをめぐる最近の動向」と題して3つポイントを述べた。一つは、ヨーロッパで初めて2017年にスペインの「アクサルキアのレーズン生産システム」と「アナーニャの塩生産システム」が認定されたのをきっかけに、イタリアやポルトガルでもエントリーが相次ぎ、GIAHSの地理的な拡大になっている。二つ目は、国連教育科学文化機関(UNESCO)の世界遺産とGIAHSの連携を図るため共同会議や連携作業を進めていく。三つ目は、GIAHSの次なるステップとして学術分野との連携。千年、2千年と続くGIAHSサイトには地球規模の気候変動に耐え、農法や伝統知識を伝承した知恵がある。科学的、経済的、社会的な分析を施すことで価値を共有したい。

   国連大学サステイナビリティ高等研究所上席客員教授でERAS名誉議長の武内和彦氏は「GIAHSとパートナーシップ」というテーマで、国連の持続可能な開発目標(SDGs)と足並みをそろえることの重要性を訴えた=写真=。SDGs目標 17「パートナーシップ」の意義は、「GIAHSのリソース(経営資源)は限られているものの、多様なパートナーシップを形成することで広がり、持続可能性が担保される」と述べた。

   GIAHSサイトにはそれぞれの歴史や伝承の知恵が詰まっているがゆえに、パートナーシップと言っても簡単ではない。ただ、共通価値を互いに見出すことでそれは国際的に広がり(ネットワーク)を形成できる可能性がある。武内氏のスライドには面白い提案があった。GIAHS「能登の里山里海」(FAO)、金沢の文化創造都市(UNESCO)、岐阜・白川の世界文化遺産(UNESCO)、GIAHS「岐阜・長良川」(FAO)を結ぶ「文化回廊(コリド-)」だ。広域でパートナシップを結ぶことで、新たなツーリズムルートが開発できるのではないか。ERAHSには行政担当者や地域の実践者、研究者が集まる。ごちゃ混ぜにして、伝統的な知識とサイエンスをいかに統合していくか、学会の狙いでもある。

⇒27日(月)午後・和歌山県みなべ町の天気    はれ

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